しょぼんとしているレイラも可愛いな。
祭りも終わり、周囲にはただ静けさだけがあった。
僕とレイラはただ座っていただけだったが、お互いの指を絡めあうように握りながら、肩を寄せ合うように、2人で共に静かに赤く光る薪をじっと見ていた。
「時間惜しいが、そろそろ送るよ。」
「・・・はい」
ヨスミは立ち上がり、そっと手を差し出す。
照れるように頬を赤らめながらその手を取って立ち上がらせ、手を握ったままその場を後にした。
遠くの方で、馬車が見え、その近くにはハルネが立っている。
ハルネは僕たちの事に気付いて顔を上げたが、その様子を見て何かを察したのか、目を伏せる。
「た、ただいま・・・ハルネ・・・」
「おかえりなさいませ、お嬢様。さあ、お帰り致しましょう。」
「ここから屋敷まではまだ距離もあるし、時間も遅い。僕の能力で送るよ。ほら、みんな馬車に乗って。」
「有難うございます、ヨスミ様。」
レイラが馬車に乗ろうとした時、自然とした流れでヨスミのエスコートを受け、安全に馬車へと乗り込む。
頬を真っ赤にしたレイラを優しく微笑みながら、
「おやすみ、レイラ。」
「お、おやすみなさい・・・あなた様・・・!」
と挨拶を告げ、ハルネも無事乗ったところで、馬車ごと転移させた。
こういう時に、妻が持っていた本が役に立ってよかった・・・。
確か馬車に乗る令嬢へのエスコートはこれでよかったんだよな。
転移窓を使って、無事レイラが到着したのを見届ける。
そこにとても嬉しそうにハルネに抱き着くレイラの姿があった。
転移窓を閉じ、ヨスミも自分の部屋へと転移した。
部屋に来たと同時に扉がノックされ、フィリオラが入ってきた。
「帰ってきたのね、ヨスミ。どう?この村のお祭りは楽しめた?」
「ああ。十二分に楽しめたよ。」
「それはよかったわ!それに~、可愛い恋人もできたみたいじゃない?」
まるで自分も嬉しいような、それでいて若干からかい部分が入り混じった言葉を投げてくる。
「ああ、僕にはもったいないほどの子だよ。」
「うふふ、大事にしなさいよ?」
「ああ。でも、お前たちドラゴンもきちんと大事にするつもりだぞ?」
「・・・自重はしなさいよ、自重は。」
「はははっ、わかっている。冗談だよ。」
「口元だけは笑ってるわね。ったく、レイラちゃんを泣かせるようなことだけはしないでよ?前にも話したけど、あの子はとても苦労してきた子なんだから・・・」
フィリオラから聞いた馬車の落下事故、そして目の前での母の死に、6年間にも及ぶ劣悪な環境での奴隷生活の話。
「わかっているよ。大丈夫、今度は死なせたりしない。この身を代えてでも・・・。それより、明日はどうする?アリスたちの所に行くのか?」
「そのつもり。今日の夜にしろちゃんが目を覚ましたって知らせを貰ったから。それでね?ヨスミ・・・一つ、お願いがあるんだけど・・・」
「アリスたちを旅の同行に加えたいのだろう?別に構わないさ。僕からも一つ言わなきゃならない。」
「わかってるわ。私と同じように、レイラちゃんの旅への同行についての許可でしょ?私は別に構わないし、もともとこれはヨスミが始めた旅なんだから、私がとやかく言うつもりはないから安心してね。」
「そういってくれると助かる。」
旅の同行者が2人と1頭増え、計4人と2頭のパーティーとなったか。
僕の目的が果たされる頃には一体どれほど増えていることやら。
「それじゃあ僕はそろそろ寝るよ。明日は早めの内から依頼をこなしてFランクにでもランクアップしておくつもりだから。」
「気を付けてね、ヨスミ。」
「そうだ、この村を出ていく日にちの目安として2日後の予定だからそれまでに準備とかは終わらせておくようにな。」
はーい!と言い残し、フィリオラは自室へと戻っていった。
とりあえず、明日は宿屋の女将であるネリアに追加料金を払って、それから冒険者ギルドへと向かおう・・・そして・・・・・・・
午前中は外に出て、薬草採取に勤しんでいた。
こういう時、鑑定スキルとかがあれば採取とか楽になったんだろうか。
あいにくそういったスキルは持っていないから薬師の人に教わった薬草の特徴を元に地道に採取し続け、依頼をこなす。
収穫祭の警備という依頼もこなしていたこともあって、すぐさま結晶は淡く光り、Fランクへの試練を受けられるようになり、試練としての課題はゴブリン、コボルトの複数体討伐だった。
基本的にGランクの依頼は採集や門番のような警備が主な内容で、討伐関連の依頼はFランクからのようだ。
遥か上空まで転移し、地上から観察すると遠くの方でゴブリンの小さな集落を見つけ、殲滅。
そして無事にFランクに上がることができた。
「はい、無事Fランクに昇格おめでとうございます。Fランクからは討伐依頼が加わりますので、気を付けてくださいね。小型の魔物だからって油断しちゃだめですよ?」
「ああ、どんな時でも油断は禁物って言うしな。ありがとう」
「そういえばきちんとした自己紹介はまだでしたね。私はチェシリー、どうぞ宜しくお願いしますね!」
「ああ、僕はヨスミ。どうぞよろしく。」
「あなた様ー!」
と背後から声を掛けられ、後ろを振り向くとレイラが走ってヨスミの方へ向かってきていた。
その後ろにはハルネが共に付いて来ていた。
「レイラ!昨日はぐっすり眠れたかい?」
「ええ!とてもいい夢も見られたんですのよ?うふふ!あ、そうだ!本日をもって視察の任は終わり、お父様は一足先に首都”カーインデルト”へと戻られていきましたわ。わたくしはこのままあなた様と共に旅に出てもよいとお父様から許可も頂けましたのよ?」
「そっか。改めてこれからもよろしくね、レイラ。」
「ええ!こちらこそ、よろしくですわ!あなた様!後、ハルネもわたくしの専属メイドとしてあなた様の旅に同行することになったのですが・・・」
まあ、専属のメイドだしな。
それに、ハルネは実力もあるし、なんなら料理もできるし、この旅の料理番を任せてもいいかもしれない。
「もちろん、構わないよ。これからよろしく、ハルネ。」
「こちらこそ、宜しくお願い致します!ヨスミ様。」
よし、ならこのままフィリオラがいるアリスたちが泊まっているっていう来賓の建物へと向かおう。
ついでに旅のことについて色々と話も詰めておきたいし。
「レイラ、この後時間は空いているか?」
「へ?も、もちろんですわ!」
「あはは、すごい期待してくれて申し訳ないがデートの誘いじゃないんだ。ごめんね。」
「そ、そうなんですのね・・・」
しょぼんとしているレイラも可愛いな。
「これからの旅についてみんなで話し合いたいから、アリスたちが泊まっている施設へ行こうと思っててな。それにフィリオラも来ているはずだから、ちょうどいいと思ってな。それが終わったら旅の出需品でも買いに一緒にデートにでも行こう。」
「・・・ッ!! はいですわ!」
浮足立ってるレイラも可愛いなおい。
「ハルネ、アリスたちのいる施設までの道案内をお願いしてもいいか?」
「任せてください。では御2人ともこちらへ。」
受付のチェシリーにお礼を告げた後、ヨスミたちは冒険者ギルドを後にした。




