あなたと踊れる栄光を、どうか僕にいただけませんか?
窓から差し込む光に照らされ、眠りから目が覚めた。
ベッドから体を起こし、枕の傍で蹲るハクアをそっと撫でる。
・・・撫でてばかりだな。
だって、撫で心地はいいんだものなあ、ハクアたん。
「ああ、本当にかわいいでちゅねえ~・・・、あ~、よちよち~・・・」ガラッ
「・・・・・。」
「・・・・・。ここかな~、ここがええのんかなぁ~?」
「おいこら私を無視して再開しないでほしいんだけど。」
「・・・・おはよう、フィリオラ。」
「おはよう、ヨスミさん。」
あれからヨスミは支度を済ませ、下に降りるとフィリオラとハクアが席についていた。
2人が座る席へ寄ると、椅子に座る。
「もう朝食は取ったのかい?」
「いえ、これからよ。ヨスミの分も頼んであるわ。」
『楽しみなのー!』
「ありがとう。」
それから少し経ち、運ばれた料理を食べ終え、軽い談笑の後に外に出ると村人たちが慌ただしくしていた。
今日は収穫祭、黄金畑を刈りが始まる時間帯。
冒険者たちは各警備に当たり、魔物や賊などの襲撃から守る。そして夕方から深夜にかけて、この地を守る神への豊穣の祈りと、この地を守ってくれた者たちへの感謝の礼を振舞う豊穣祭。
とりあえずフィリオラたちと共に、僕は冒険者として外に出て警備にでも出るとしよう。
それが僕の冒険者としての最初の依頼となるだろう。
「ねえ、ヨスミ。はむ・・・もぐもぐ・・・」
「どうした?僕はハクアたんと遊ぶことに忙しい。」
黄金畑を収穫している村人たちを遠目に身ながら、周囲の警戒を続けていた。
フィリオラは空中を浮遊しながらボーっとしており、ヨスミはハクアを背負いながら戯れていた。
手持ちには小さな饅頭のようなものを手に取り、千切ってはハクアへと分け与える。
「グスタフちゃんの活躍のおかげで、この周囲は敵っ子1人いないし、警備している意味もないと思うよ?しかも徹底的に潰しまわったみたいだし・・・。」
「グスタフちゃんって・・・。まあ、それでもな。何が起こるか分からないから、こうして警備しているんだ。」
「うーん・・・、そうなのかなぁ?はむっ・・・」
それに僕だけじゃなく、他の冒険者たちも他の場所で同じように警戒している。
この警戒態勢なら外から襲撃が来ても問題なく対処できるだろう。
そう、”外から”の襲撃ならば・・・。
「ねえ、ちょっとヨスミ?」
「うぉっ・・・!?あれ、俺ぇなんでここに・・・確か俺は小屋に居たはずじゃ・・・」
とフィリオラはヨスミの方を向くと、そこに見知らぬ男性が驚いた様子で周囲をキョロキョロしながらそこにいた。
男自身も自分自身に何が起きているのか理解できていない様子だった。
「・・・あんたが警備の目を盗んで各小屋に入って盗み働いているのが見えたから。証拠は今手元のバックにあるやつね。」
「は?一体何を・・・」
とヨスミへ問いかけようと顔を上げるとそこには銀聖騎士団の騎士が立っていた。
男は即座に騎士たちに捕まり、そのまま連行されていった。
「・・・よくあの男が盗みをしていたって気付いたね、ヨスミ。」
「ああ。僕の能力をちょっと応用して使ってみたんだ。こんなふうに。」
と、フィリオラの前に小さな空間を開ける。
そこには別の景色が広がっていて、よく見るとそこは冒険者ギルドの前の通路が広がっていた。
「これって・・・」
「僕は転移する能力の応用で、これから転移しようとしている転移先の空間を開いただけなんだ。それをこうして・・・幾つか展開すれば、遠距離からでもこうして監視することができる。」
「すごく面白いことするのね、ヨスミは。でもこれはなかなか便利だわ・・・。」
「ここで警備してるけど、実際はほぼほぼこの村全体を見てるんだ。外側は他の冒険者たちに任せるよ。こういうお祭り騒ぎな村は恰好の盗みし放題な状況だからね。一応、騎士団の人たちには話は通してある。」
「徹底しているのね・・・。」
それから収穫祭が終わるまで、村の内で捕まえた泥棒は3人、外からの襲撃は1度だけあったようだったが、予想通り多数の冒険者たちの活躍で迅速に解決した。
もう少し多いかなと思ってはいたが、3人とそこまで多くはなかった。
陽が傾き、収穫祭が終わるころ、冒険者としての依頼も終了した。
あちらこちらで屋台のようなものが建てられ始め、この後に行われる豊穣祭に向けての準備が着々と続いていた。
「もぐもぐ・・・、これおいしい。」
「とても賑やかだね。豊穣祭ってのは最初に守護獣への捧げものと実りの祈りが行われた後に本格的なお祭りが始まるんだよね。」
「そうそう。まあ、今は守護獣のしろちゃんは助け出されて来賓用の施設で休んでるんだけどね。」
「そういえば、アリスとあの黒虎はまだ休んでいるのか?」
「ええ。まだ黒虎が目を覚まさないの。まあ、当分の間封印されてきたわけだし、魂への傷も多かったからね。目を覚ますのはいつになるか分からないってのが正直な話。でも、あの地獄から救い出せたってだけで十分だよ。失うよりもずっと、ね。」
「・・・そうだね。まあ、気長に待てばいいさ。今世の分かれってわけでもないしね。」
そうそう!って言いながら、肉串を美味しそうに頬張っている。
どうやら話を聞く限りだと、アリスたちの元へちょくちょく通っては様子を見ているようだ。
フィリオラが面倒を見るってことは、そこで僕とお別れか、それとも僕との旅に連れて行くのだろうか。
それにグスタフ公爵の頼みで、レイラも連れて行くことになるから、もしかしたらこれからの旅は大所帯になるかもしれない。
「まあ今は深い事考えないで、お祭りでも楽しみますか。」
「そうよ、ヨスミ。初めてなんでしょ? ならじゃんじゃん楽しみましょ!」
豊穣祭が行われ、数人の村娘たちによる巫女のような衣装を来て、収穫物を捧げ、祈る。
その後、音楽が鳴り響き、村人たちはその音楽に合わせて自由気ままに踊り、楽しんでいた。
ヨスミは適当に置いてある切り株に腰を下ろし、人々が楽しそうに踊る様をミード片手にじっくり見ていた。
「ヨスミ様!」
ふと声を掛けられ、そっちの方を見るとレイラが満面の笑みを浮かべたまま腕を後ろに組んで立っていた。
「レイラ。楽しんでいるかい?」
「ええ!舞踏会で踊るようなダンスとはまた違ったダンスがとても楽しいんですのよ?」
「冒険者業ばかりに精を出して、そう言った者には興味がないものだと思っていたよ。」
「これでもダンスや刺繍、ピアノや美術なんかは全て一通りこなせるわ!」
「本当になんでもできるんだね、レイラは。すごいよ。」
「いえ、ただわたくしは貴族として、公爵家の高貴なる令嬢としてあるために。そしてわたくしは、わたくしを救ってくれたお父様のために頑張っただけですわ!」
努力家なんだな。
自分を救ってくれた父親のために、恥ずかしくない存在になるために、頑張っているんだな。
ふと無意識に孫をあやすかのようにレイラの頭を撫でていた。
「はうぅ・・・!」
「よしよし、頑張り屋さんなんだね。」
「そ、その・・・ヨスミ様!」
「どうしたんだい?」
「よ、よろしければ・・・わたくしと・・・その・・・」
・・・ああ、そういうことか。
「レイラ公女様、あなたと踊れる栄光を、どうか僕にいただけませんか?」
「・・・!は、はい・・・!よ、宜しくお願いしますわ・・・!」
顔を真っ赤にするレイラの手を取り、僕とレイラは皆が躍る人たちの中へと消えていった・・・。