今は・・・ハクアたんといっぱい遊ぶんだい!
それからレイラたちとは昨日と同じように小鳥の止まり木亭にて食事を取り、にぎやかな時間を過ごした後、今度はフィリオラがレイラたちを送っていくことになった。
本来なら僕が行こうとしていたのだが、
「ヨスミ様はこのままお休みになられてくださいまし!」
「そうよ、ヨスミ。レイラちゃんは私に任せて貴方は部屋でゆっくり休んでて。帰ったら私が診てあげるから、それまで大人しくしているのよ?」
「そうでございます、ヨスミ様。鼻血はともかく、血涙を流すなんて異常な事です故、どうか御体をご自愛くださいませ。」
と3人にお灸をすえられるかのように心配されてしまった。
ベッドに横になりながら、色々と思考を巡らせようとするが、未だに続く頭痛に邪魔され、正常な思考ができないと判断し、大人しくそのまま眠ることにした。
・・・父様。
ん?誰かが僕を呼んでいる?
・・お父様・・・!
重い瞼を開けると、そこには心配そうに顔を覗かせる僕の美しい宝がそこに居た。
『お父様・・・! 大丈夫ですか?魘されているように見えましたけど・・・』
「・・・アナスタシア?」
『はい、お父様の娘、アナスタシアはお父様の御傍に。』
純白に染まる龍鱗を纏うまさに芸術品とも言うべき竜体。
薄く輝くその身体は見る者全てを虜にしてしまうほど、美しいという言葉がぴったりである。
「ああ、アナスタシア・・・。」
アナスタシアの頬を優しく撫でる。
目を閉じ、とても嬉しそうに夜澄に撫でられているアナスタシアを見て、自然と口が綻んでしまう。
ああ、愛しの娘・・・。
こうして夢の中でまた、最愛の娘に出会えるとは思わなかった。
そう、これは夢である。
これでも僕は冷静であることに、逆に恨みもした。
冷静でなければ、僕はこっちの夢に依存したいほど、ここでの生活は幸せだった。
『・・・お父様?』
「ああ、なんでもないよ。さあ、おいで。もう少しお前の顔を見せておくれ・・・。」
『?変なお父様ですね。えへへ・・・』
と先ほどよりも顔を近づけ、夜澄は腕全体でアナスタシアの顔を撫でながら抱きしめる。
『・・・お父様?』
「ん、どうした?」
『私たちの罪を、どうかお許しください・・・。』
「ああ、許すよ。お前たちの罪はたとえ世界中が許さなくても、僕だけはお前たちを許すよ・・・」
『・・・即答ですね。何も聞かないのですか?』
「聞いてもらいたいのかい?」
『・・・わかりません。』
「いいかい?大事な我が子が背負う罪を全て許し、変わりにこの身に背負うのが父親というものだ。だから罪を犯したら僕に許しを請わなくてもいいんだよ。僕が代わりにお前の罪を背負おう。」
『お父様・・・おとう、さま・・・!』
その言葉を聞いて、アナスタシアは静かに嗚咽を漏らすかのように静かに泣き始めた。
子をあやす様に、アナスタシアの頭を優しく撫でる。
それから少し経ち、落ち着いたアナスタシアは先ほどよりも夜澄に甘えるように夜澄の身体の上に頭を乗せた。
『お父様?ここは夢の中だという事はご存じで?』
「ああ、もちろんだ。」
『もう・・・、本当ならここで私が意味深なことを言って目を覚ます~・・・なんて展開のはずでしたのに。何かを言う前に即答で許していただけるなんて・・・私の計画が台無しです。』
「そうだったのか?それはすまないことをしたな。」
『・・・いいえ、お父様ならこうなるかなとは思っておりましたから、うふふ。』
撫でられるたびに、その細い尾がゆっくりと揺れる。
これはアナスタシアが嬉しい時によくする行動だ。
『いいですか?お父様が授かったその転移という能力は思った以上に危険な力です。』
「そうだろうな。きっと僕が考えている運用法が出来るのであれば、世界を壊しかねないほどの影響を及ぼす危険がありそうだ。」
『・・・いいえ、お父様。確かにその力の扱い方によっては世界を滅亡にすることは容易いでしょう。ですが、私が申し上げた危険というのは、お父様の御体に及ぼす影響の事です。』
ゆっくりと頭を持ち上げ、夜澄と面と向かって向き合う。
その瞳は真剣そのものだった。
「大丈夫だよ。自分の身体に及ぼす危険について、大体予想は付いている。それがどれほど悍ましく、惨たらしいものになることも。」
『・・・っ!!なら・・・!!』
「それでも、僕はきっと使うだろうね。」
『どうして・・・』
その瞳は徐々に潤み、今にも泣きそうな表情を浮かべる。
そんなアナスタシアの頭を優しく撫でながら、
「そこに、僕の愛するドラゴンがいるから!!」
『・・・。』
一瞬の沈黙。
『・・・プッ、あはははは!本当にお父様は変わらないですね。』
「ああ。僕のこの信念は決して曲がることはない。それのおかげでお前に出会うことができたからね。」
『お父様・・・。』
僕の存在意義であり、僕の存在証明であり、僕の生きる意味であったもの。
”ドラゴンと共に歩むこと。”
『お父様、もうすぐ夢の時間は終わりです。』
「・・・そうか。」
『お父様・・・、そんな悲しい顔をなさらないでください。』
「また・・・!また、お前にこうして夢で会えるのか?」
『わかりません・・・。この夢事態、特異なモノですから。』
ああ、覚めないでくれ。
アナスタシア・・・
『だからお父様には一つだけ、ヒントをお預けいたします。』
「ヒント・・・?」
『はい。詳しくは伝えられませんので比喩表現でお伝えいたします。お父様ならきっと、理解してくれると信じております。』
「・・・わかった。僕はお前たちの父親だ。子供の言う事を理解するためにいるのだ。」
『・・・
”黄金に輝く太陽は、いつからか黒点による陰りを見せ、やがて輝きを失い、それは闇を生み出す黒陽となり、光の環が現れるであろう。その輪は深淵との懸け橋となりてその輪を渡り、邪悪なる災厄がやってくるであろう”。
・・・以上です。』
アナスタシアがそう言い切ると、周囲が真っ白に染まっていく。
その中でこれが夢の終わりであるとすぐにわかった。
「・・・アナスタシア!」
『どうか、お父様・・・どうか、お元気で・・・!お体に気を付けてください・・・!』
「アナスタシア・・・!また、お前に会えて嬉しかった・・・!僕に、またこうして僕に会いに来てくれてありがとう・・・!」
『お父様・・・、愛しております・・・!』
「ああ、僕もだ・・・。僕の大切な宝、最愛の娘よ・・・。」
2人は抱き合い、お互いの身体も透け始め、その時を待った。
『起きて―!』
「・・・ハク、ア?」
『オジナー!遊ぼう!・・・オジナー、泣いてるの?悲しいの?辛いの?大丈夫?』
「・・・ああ、大丈夫だ。ハクアたんのおかげだよ、ありがとうな。」
『えっへへ~!』
頬擦りしてくるハクアの頭を優しく撫でる。
夢の内容は・・・、覚えてるな。
とりあえず、今は・・・ハクアたんといっぱい遊ぶんだい!