むちゃくちゃお父様自慢するじゃない、なにこの可愛い娘
疾風の鎧 ルビ変更 修正前)<ウィンドアーマー> → 修正後)<ゲイルアーマー>
「この度はわたくしのお父様が大変失礼致しましたわ・・・」
「いや、気にしなくて大丈夫だよ。それより・・・」
馬子にも衣裳とはこの事だろうか。
身体のラインが象徴されているのか、レイラの綺麗なプロポーションをより際立たせる美しいドレス。
刺繍も、飾り付けられた装飾も、何をとっても・・・
「夜空のような素敵なドレスだね。綺麗な黒髪のレイラにとても似合っているよ。」
「!!!!!ああああ、ありが・・・と・・ぅ・・・・・・・・」
顔を真っ赤にしながら最後まで言えずに俯いてしまった。
「・・・っ! 行きましょう、ヨスミ様!」
「グスタフ公爵閣下はあのままでいいのか?」
「問題ありませんわ! 本当にもう・・・」
「・・・良いお父さんだね。」
「・・・はいっ!」
そう返事する彼女の表情だけで、どれほどグスタフ公爵に愛されてきたのか、どれほどグスタフ公爵を愛しているのかがわかる。
フィリオラからレイラ公女について少しばかり話を聞いたことがあった。
彼女は2歳の頃、母親であるアドリアーヌ公爵夫人と共に皇都へ向かう途中、馬車の落下事故を起こし、拉致され、奴隷として売られてしまった過去がある。
そこから6年間もの間、奴隷としての過酷な環境に身を置かれ、フィリオラと共にグスタフ公爵が救い出した時には、長年に続く暴力と目の前で母親を殺されたことによる精神への大きな過負荷により廃人寸前の状態だったという。
そんな状態のレイラを屈託のない可愛らしい笑顔ができるほどまでに回復させたグスタフ公爵の絶え間なく注ぐ愛情には同じ父親として、尊敬の念を抱かずにはいられない。
僕はあの子たちと別れるときに笑顔にさせることができなかった。
涙を流しながら悔しそうな、それでいて恨みや憎しみを抱いた表情・・・。
あの時のあの子たちの表情を見た時、僕は後悔した。
もっとやれることがあったのではないかと、もっと違う未来を与えられたのではなかったのかと。
・・・僕も、本当はあの子たちと笑顔で別れたかった。
「・・・ヨスミ様?」
「え?ああ、ごめんね。それじゃあ行こうか。」
「はい!」
僕たちは部屋の隅で満足な笑顔で痙攣しているグスタフ公爵を残し、その場を後にした。
「きゃああっ!」
「レイラ! 大丈夫かい?」
あの後、訓練場にやってきた僕たちは昨日と同じように手合わせをしていた。
レイラはあれから色々と考えたのか、やりたいことがあると言ってきたので、僕はそれに付き合う形になった。
ちなみに着てきたドレスはフルアーマードレスとなり、戦闘用服に変形?している。
ほんとなんでもありなんだな・・・。
「昨日のヨスミ様の動きに発想を得て、<身体強化>と風魔法の<疾風の鎧>を合わせてより早く、より俊敏にと思っておりましたが、体が全然ついていきませんわ・・・。」
「発想自体は悪くないね。疾風の鎧は確か自らの体の周りに風を纏うことによってより素早く、そして遠距離からの攻撃の軌道を変えて防ぐことができるんだったよね?」
「そうですわ・・・。さらにその風圧を相手にぶつけることで、剣を弾くことができますの。だから相手が剣の振りに合わせれば相手の剣を弾きつつ、わたくしの剣撃を・・・と思っておりました。」
所謂パリィというやつだろう。
相手の攻撃を防御する防御姿勢を攻撃するチャンスを作り出す攻撃姿勢と運用するのは中々いい発想だ。
防御だけじゃなく、纏う風の鎧により空気抵抗を極限まで抑え、素早く動くことができるという部分に身体強化を合わせることで僕に迫るほどの速度で動くことができる・・・。
「・・・まるで瞬歩だな。」
「しゅん、ぽ?」
「え?ああ。瞬歩とは、瞬間移動したかのような尋常ならざる速さで歩く業の一種だよ。それで相手との距離を一気に詰めるもよし、相手を錯乱させてペースを崩すもよしと、普段から扱えるようになれば戦術の幅も更に広がるし、良い業だと思うよ。」
「瞬歩・・・、瞬歩・・・。」
「ただこれは空中では制止できないから、地上限定だけどね。もし空中でもできるようになったら、僕と同じような動きが出来るようになるかもしれないね。」
「ヨスミ様と、同じ・・・。が、頑張りますわ!!!」
嬉しそうに喜ぶレイラを見て、自然と僕の口は緩んでいた。
あそこまで喜ぶ子を見て、つい老婆心として色々とアドバイスしたくなる・・・。
「・・・なら、その動きに似合う武器を使わないとね。レイラ、君は普段どんな武器を使っているんだい?」
「わたくしの武器ですの? その、お父様に憧れて長剣を使っておりますわ。それにわたくしの持つ魔力とも長剣は相性は悪くないんですの。」
「ふむ、一番得意な魔法属性はなんだい?」
「わたくし・・・というより、ヴァレンタイン公爵家は代々闇の魔力持ちが特徴で、主に闇魔法に特化しておりますわ。わたくしは基本的に全属性を扱うことができますが、それでも一番は闇魔法ですわ。」
「全属性を扱えるのか。それってすごいことじゃないか?」
「えへへ・・・ありがとうですわ。でも全属性を扱えることはそこまで珍しくはないんですのよ。」
異世界転生物の設定だと全属性が扱える人物はほとんどいないために、主人公がそういう設定なことが多いがこの世界ではそうでもないんだな。
「魔法の属性は<火>、<水>、<土>、<風>、<雷>に加え、<光>、<闇>が加わった計7属性が基本ですの。魔力を持つ者は3~5つの属性、魔術師としての資質を持ったモノは5~6つ、少なからず7属性全てもおりますし、初級から中級魔法程度までなら魔力持ち全員が扱えますわ。ただその上の上級、超級は個人の相性が一番良い魔力を持ち、さらに鍛錬を続けた者が扱えます。そして更にその上に存在する神級は、Sランク冒険者ほどの実力がないと習得できませんわ。そして何を隠そうヴァレンタイン公爵家の当主であるわたくしのお父様は神級の闇属性が扱え、またこの世界に3人しかいないSランク冒険者の1人なのですわ!」ドヤァ・・・
むちゃくちゃお父様自慢するじゃない、なにこの可愛い娘。
それにしてもやはりグスタフ公爵はSランク冒険者なのか。
それはそうか・・・。あの風切り音と共に、3体の禍鬼虎をいともたやすく屠る実力の持ち主だものな。
そうか、あれがSランク冒険者の実力・・・、しかもあれはまだ本気でもなかったはず。
「そうだったのか・・・。さすがレイラのお父さんだな。」
「ふふんっ!そしてわたくしの超えるべき壁でもありますの・・・。」
「ははっ、それはとんでもなく大きな巨壁だね。でもレイラ、君ならきっと乗り越えられるはずだ。」
「・・・はいっ!」
「お嬢様ぁ~!そろそろお食事のお時間です~!」
遠くの方でこちらの方に手を振る1人のメイドがいた。
彼女はハルネ、レイラの専属メイドであり、同じ冒険者としての仲間だそうだ。
今まではレイラと共にいたのだが、先の魔喰蟲での戦闘でレイラを庇って負傷し、昨日まで休養していたが、怪我も無事回復し、本日から勤務復帰とのことだった。
「今行きますわー!それじゃあヨスミ様、いきましょう!ハルネの料理もまた絶品なんですのよ?」
「ははっ、それは楽しみだ。」
レイラは無邪気に笑い、ヨスミを先導するように共にハルネの元へ向かった。