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あー、なるほど。そういう感じなのか。


「おはよう」

「・・・へ?ひぃ!?」


門番の前に何の前触れもなく突如として現れたヨスミに吃驚し、尻餅を付く。


「ああ、驚かせて済まない。怪しいモノではない・・・本当に大丈夫か?」


幽霊でも見たかのように足をガクガクさせながら指を差して立ち上がれずにいた。

そんな門番に近づいて手を貸し、なんとか立たせた。


「いやあ・・・すまないな。君がヨスミ殿か。話はすでに聞いているが、少しだけ待っててもらえるか?」

「ああ、大丈夫だ。」


そういうと、門番は手に持っていた槍を地面に2回、トントンと叩く。

鈴のような音が広がり、その後、奥の玄関の扉から執事と思われる老人が現れ、門がゆっくりと自動で開いていく。


「ヨスミ様・・・でございますね?」

「ああ。」

「中でグスタフ公爵様がお待ちで御座います。どうぞこちらへ・・・」


執事に案内され、通された部屋の窓際に体格が良く、威厳漂う軍服に似た黒い礼服を身に纏う男が立っていた。

顔を微かにこちらに向け、目線だけで入ってきたヨスミを見やり、目を細める。


「・・・きたか。」

「はい。改めてグスタフ公爵閣下にご挨拶申し上げます。僕はヨスミと言います。どうぞ宜しくお願い致します。」

「ほう・・・。話は色々と聞いておる。貴殿がヨスミか。」

「先日は助かりました。おかげでこうして無事生き延びることが出来ました。」

「よい、民を守るのは我ら公爵家の者の勤めよ。気にするでない。」


オーラ、圧がすごいな・・・。話し方にも一つ一つ重みを感じるし、全身から漂うその貫禄がまたその人の貴族たらしめる上品さを持っている。

そして何よりあの鋭い眼光・・・、あの時にも感じたがその瞳に睨まれただけで心臓が止まりそうなほど冷たいな。


促されるように、目の前に置かれたソファーに座る。

グスタフ公爵は向かい側の椅子に静かに座り、足を組む。


「今日、我が娘・・・レイラに会いにきたと聞いたが。」

「はい、今日はレイラ公女様と出かける用事がありまして、それのお迎えに。」

「そうか。昨日も夜遅くまで共に、送ってくれたと聞いた。娘を気遣ってくれた事、感謝する。」

「いえ、男として当然のことをしたまでです。して、僕をこの部屋に通したのは挨拶だけではありませんよね?」

「・・・ああ。貴殿に一つ、頼みがあってな。」


そう言いながら手を組み、その圧に負けそうになるほど瞳は先ほどよりも更に鋭くなり、息を飲む。


「貴殿は冒険者になったと聞く。故に、この世界を旅するのだろう。この村、首都カーインデルトを超え、ヴァレンタイン公国も出ていくはずだ。そんな貴殿に、どうか娘を連れて行ってもらえないか?」

「・・・はい?」


突然の申し出に吃驚した。

まさか娘にちょっかい出しやがって~の展開かと思っていただけに、まさかの旅に娘を連れていけとは・・・。


「どうした?我の頼みは聞いてはもらえぬのだろうか?」

「い、いえ・・・、ちょっと予想外な返答が来たもので・・・。その理由をお伺いしても?」

「・・・そうだな。」


その場にゆっくり立ち上がり、窓の傍に向かって歩いていく。

外の風景を眺めながら、その瞳は先ほどの冷酷なモノとは打って変わり、優しい父の瞳に見える。


「我が娘、レイラは冒険者であることは知っておるな?」

「ええ。しかもBランクと、あの歳ではかなりの実力を秘めていると思います。」

「・・・だが、Bランクで止まっているのだ。レイラもそれについて悩んでおってな・・・。先日、貴殿と手合わせをしたと聞いた。結果はレイラの完敗であると。それからあの子の表情は以前とは打って変わり、とても晴れた顔をしておった。我ではできなかった、あの子の悩みを解決できなかった。だからこそ、貴殿に頼みたいのだ。あの子に、世界を見せてほしいのだ。」


・・・なるほどな。

あの子は伸び悩んでいたのか。それが僕との手合わせで解消できたと。

まあ確かに、手合わせの際に軽いアドバイスを伝えはしたが・・・それが悩みの解決に繋がったと。


「・・・レイラにはお伝えしましたか?」

「ああ。昨日帰ってきたときにな。後は貴殿の返答次第だけだ。」


本人にはすでに話済みか。


こういうときは本人には話さずに、勝手に話を進めることが多いが・・・。

きちんとしている父親なんだな。


「僕で大丈夫なのですか?これでも成人を迎え、1人の男なのです。」

「竜母 フィリオラ様がお付きなのだろう? 貴殿1人ならば話は違っていたかもしれんが、あの御方が共にいるのであれば、安心して任せられる。それに、貴殿の実力も先日の戦いで拝見した。そして・・・、貴殿の胸にはすでに1人の想い人、いや・・・生涯を共にした者がいるのだろう?故に、貴殿に託す。どうか、娘をよろしく頼む・・・。」


そういって頭を深々と下げる。

公爵の位を持つ者が冒険者に頭を下げてお願いしている・・・。


そして僕の胸の内をそこまで気付かれるか・・・。


「・・・わかりました。グスタフ公爵閣下の宝をこの身を挺して守り、必ずや旅を終えた時にお返し致します。」

「うむ、よろしく頼むぞ。じゃが・・・」

「・・・?」

「別に、レイラを娶ってもよいのだぞ?」


・・・は?


「貴殿の胸には生涯に決めた者がいるのは知ってはおるが、レイラは気が利く良き娘だ。良き妻としての能力は全て備えておる。」

「へ?いや、しかし・・・」

「なんだ、うちのレイラは嫌と申すか・・・?」


ちょっと待て、今まで以上に圧が、威圧が・・・!

なんでだよ・・・さっき僕の胸の内を察しただろう・・・!?


確かにこういった貴族社会では一夫多妻制は当たり前なところが多い。

なんなら、多妻ではないと貴族としての気品が損なわれ、能力不足として没落してしまうなんて話も聞いたことがある。


だが僕は貴族ではない。

ただの平民で、ただの冒険者だ。


「いやいやいや、僕は貴族ではありません。そんな者に嫁げなどと・・・」

「我がヴァレンタイン公爵家は軍事を担当しておる。故に、求められるは貴族などの身分などではない。己の持つ力、知力、そして精神力。それら全てを兼ね備えた存在・・・英雄たる資質を持つ者よ。貴殿は先日の戦いで無数の魔喰蟲を殲滅し、暴喰蟲を倒した実力、禍鬼虎を倒すために魔喰蟲をぶつけ、被害を抑えて倒した戦略、そして仲間を守るために3体の禍鬼虎に立ち向かおうとしたその強い意志。どれをとっても申し分ない男よ。故に、貴殿はレイラに相応しい男と判断した。ヨスミ、どうかレイラをよろしくたのぐあぁぁぁぁあああ!!」

「何を言ってるんですのお父様ぁぁぁぁあああああああああああーーー!!!」


と扉を勢いよく開け、その勢いで頭を下げようとしていたグスタフ公爵の顔面を強く蹴り飛ばした。

突然何が起きたのか理解できずに開いた口が塞がらないまま、レイラの方を見る。


「よよよよ、ヨスミ様に、いいい、一体なななな、なにを仰ってるんですのおおお!!」

「ああ、我が愛しのレイラよ。ああ、その蹴り・・・威力も強くなったなあ・・・!」


・・・あー、なるほど。親バカ公爵(そういう感じ)なのか。



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