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見えてきた突破口


「む、起きたのか!顔色が悪そうだが、大丈夫なんかのう?」


ネレアンとハクアに手助けされながら体を起こすヨスミの姿があった。


「ああ。ただ愛する者の抱擁に思わず僕の幸福が限界突破したみたいでね。」


そう幸せいっぱいな表情で話すヨスミではあったが、ふと視線をレイラへと向けると顔を真っ赤にしながら俯き、プルプル震えているレイラの姿に気が付いた。


それを見てデュガスノフ王は大体を察した。


「そうかそうか・・・。それで、頼む相手はお主じゃと申したようじゃが・・・」

「そうだ。僕なら、お前たちを一瞬で安全な場所まで送り届けられるよ。なんなら王族だけじゃなく4階層にいる住民たち全員纏めて送ることだって・・・」

「あなた・・・っ!どうか自身の体に掛かる負担についてもお考えくださいまし・・・!」


そういって、先ほどまで顔を真っ赤にしていたレイラは違う意味で真っ赤にしながら、すぐにでも泣きそうな表情を浮かべてヨスミの元に寄る。


その姿は心の底からヨスミという人物を心配しているようにも見える。

つまり、ヨスミが豪語しているそれは紛れもない事実を告げているのと同じだ。


本当にそんなことは可能なのか?


この階層にいる住民全員だって?

一体何人いると思っているんじゃ?


元老院の老害どもに交易のために訪れていた商人たち。

他にも王室お抱えの鍛冶屋に努める職人たちもおる。


また5階層から逃げるように撤退してきた我が兵士らに加え、また元々4階層で警備に着いた兵士らたちもおるし、5階層からまるで湧き上がる水のように溢れ出てくる魔物たちとの戦闘で負傷した冒険者たちだっておる。


更にはアーマルやサラマンダーらも加えるとなると・・・、ざっと考えるだけでも300人程度はいるんじゃ。


この数を送り届けることができるじゃと?


一体どうやって?

もしかして<転移石>でも使用するつもりか?


もしそうだとしても無理じゃ。

<転移門>で送り届けられる人数だって、一度に送る最大人数は30人が限度じゃ。


<転移石>なんて3~5人が限度なんじゃぞ?

・・・なーんて考えてる顔だな、ありゃあ。


まあ無理もない。


「信じられん。」

「まああんたは王という立場、不確かな情報で守るべき大事な民らを危険に晒したくないわけだしね。無理もないよ。でも、その辺りは僕を信じるしかない。もし信じてくれれば確実に避難させることを約束するよ」

「・・・ふぅむ。」


ヨスミ殿を心配するレイラ嬢の様子からしてこういったことは過去にもあったのじゃろう。

そこで同じように民を助け、その負担故に倒れたんじゃろうな。


「・・・対価はなんじゃ?」

「話が助かる。なに、無理な事を御願いするつもりはないよ。でもまずは僕の血を対価に得るはずの情報を聞いてから、この話の続きを始めようじゃないか。」

「ふぅむ、抜け目ないヤツじゃな。まあ、よいじゃろうて。」


そういってデュガスノフ王は懐から何かを取り出した。

それは小瓶に入れられた黒い液体。


だがその黒い液体はまるで脈を打つかのように蠢きだした。


「これは地下深くに封印されている封印の祠、そこから漏れ出た物質じゃ。見てわかるようにまるで生き物のように蠢き、心臓のように脈を打っておる。これは恐らくヤツの体液か何かじゃろう。奴を知れば、自ずと弱点も見えてくるものじゃ。故に、ワシはこれを調べた。長い年月を掛け、そして分かったのは一つだけじゃった。少なくとも、ワシの知る限りでは見たことがない属性の魔素で構成されているということじゃった。」

「見たことのない・・・」

「属性の魔素・・・ですの?」


ヨスミとレイラの疑問に小さく頷き、テーブルに様々な属性の魔石を並べ始める。


「これは<属性共鳴石>という魔石で、これは対象がどの属性に属するのかを見分けるための物じゃ。そしてここに<火>、<水>、<土>、<風>、<雷>、<光>、<闇>、7種類の<属性共鳴石>がある。」


小瓶を魔法陣が掛かれた紙の上に置き、小瓶を囲むように一定間隔で<属性共鳴石>を置いていく。

そしてデュガスノフ王は小さく魔術を唱えると、神に掛かれた魔法陣が光り始める。


それに共鳴するように7つの<属性共鳴石>もガタガタと震え始めるが少し経つと光も収まり、震えていた<属性共鳴石>も元に戻る。


「ここで本来ならばどれかしらの共鳴石が反応し、光輝くといった様子を見せる。じゃが見ての通り、どの共鳴石も何の反応も見せぬ。一番可能性がありそうな<闇属性共鳴石>でさえ無反応と来た。そればかりか、忌み嫌うかのように先ほどよりもこの小瓶と距離を取るように離れておる。」

「振動で動いただけ・・・にしてもバラバラにばらけるのではなく、まっすぐ距離を引いているな。まあそれぞれ開いた距離はある程度別れてはいるが、さすがにこの現象についての証明は難しいな。」

「その通りじゃ!振動で動いたという説明で片づけるにはあまりにもこの結果は無視できぬ。故にワシはこれを用意した。」


そしてデュガスノフ王は懐からもう一つの共鳴石のようなものを取り出した。


それは他の共鳴石とは違って、禍々しい雰囲気を醸し出していた。

赤、紫、黒の3色の煙が蠢き合うかのように混ざり合い、耳をすませば人とも獣とも取れる悲鳴のようなものが聞こえるような気さえしてくる。


「な、なんなんですのそれ・・・」

「なんかそれ、すっごく嫌な臭いがするんだけどー・・・」

「おとーちゃま、それすっごく怖い石・・・!」


レイラは思わずつぶやき、ハルネは若干冷や汗をかく程度。

ミミアンは鼻を摘まみながらマティーラを抱き抱えて距離を置いた。


・・・ただ、ハクアとディアネスは強い警戒心を向け、フィリオラとネレアンに至っては今にもその石を壊すのではないかと思うほどの憤慨した様子を見せていた。


ヨスミが必死にハクアとネレアンを宥めるように背中を摩り、レイラがフィリオラの頭を撫でながら必死に抑えていた。


「すまない、デュガスノフ王。その石を下げてくれ、うちの子らがどうもその石に対して非常に強い警戒心を向けている。」

「ふむ、そうじゃろうな。じゃがこれはヨスミ、ドラゴンを愛するのならばお主も知るべきものじゃ。」

「・・・どういうことだ?」


そういって、その禍々しい共鳴石を一か所、明らかに空白な部分へと置くともう一度魔法陣が光り出す。


先ほどと同様に各属性の共鳴石はガタガタと震え出し、そして先ほどと同じように魔法陣の光は消え、共鳴石は離れた位置へと移動していた。


―――ただ一つの共鳴石を除いて。


「・・・なるほど、その禍々しい共鳴石がその属性に当てはめられるというわけか。それで、その共鳴石の属性はなんだ?」

「知らん。」


ヨスミはデュガスノフ王へ問い、それを一蹴するように否定した。


「・・・は?」

「ワシも初めて見る属性でのう。どういった性質なのか見当もつかん。」

「だがその禍々しい共鳴石と反応しているぞ?その共鳴石を持っているということは何かしら情報を掴んでいるわけじゃないのか?」

「ふはははは!すまんが、この共鳴石を作るにあたって使用したのは、レイラ嬢らが戦った【眷属】の体の一部なのじゃよ。」

「【魂喰らいの黒液(グラトニー)】の一部・・・?」

「【魂喰らいの黒液】と申すのか」

「毎回【眷属】って名前だけじゃ面倒だし、個別化して分かりやすいように勝手に僕がそう呼んでいるだけだ。」

「いや、ワシもその名を使わせてもらおう。ちなみに【火の化身】についてはなんと呼ぶか?」

「【火の化身(アグナス)】だ。」

「ふむ・・・。先も申したがこの共鳴石には【魂喰らいの黒液】の一部が使用されておる。ワシは最初、【火の化身】は火属性共鳴石が反応するかと思ったが全然そんな事はなく、共鳴したのは【魂喰らいの黒液】から作られた属性共鳴石じゃった。その時、ワシはとある違和感を感じたのじゃ。これを見てくれ」


そういってデュガスノフ王はどこからか巻物を取り出し、それを広げる。

それはかつてレイラとお手合わせしていた際に、彼女から見せられた各属性の相関図だった。


ダイヤモンドと星が重なったようなこの相関図は先ほど共鳴石を置いた際に浮かび上がる魔法陣と同じものだ。


これには各属性のマークのようなものが掛かれており、一番上には魔物のようなマークが掛かれている。


魔物には必ずどれかの属性に染まっており、その魔物に取って弱点となる属性が必ずある。

そういった魔物の弱点に関する弱点属性を現すために一番上に魔物のマークが表記されているのだろう。


「これは冒険者ギルドに所属している冒険者であれば、一度は目にしたことのある表記図じゃ。掲示板にも必ず張られておるし、ギルドから無料でもらえる初心者ガイドの一番最初にも書かれておるものじゃ。故に誰にでもなじみのある者のはずじゃ。」

「ああ。僕もレイラに教えてもらった。<火>は<土>に強く、<土>は<雷>に、<雷>は<水>に、<水>は<風>に、<風>は<火>に強い。そして<光>と<闇>は相互に効果を及ぼすと。」


あの時、レイラに教えてもらった事を思い出しながらそう話す。

それを聞きながらデュガスノフ王は頷いていた。


「その通りじゃ。それがこの世界の常識で、この世の理じゃ。じゃがワシはここに違和感を感じたんじゃ。」

「違和感?」

「<光>と<闇>は互いに弱点属性となる。この部分にワシは強い引っ掛かりを覚えた。理由は実際に各属性魔石を用いての武器、防具を作っていた時に強く感じた。例えば<火>と<土>の属性魔石を用いて武器を作る場合、相性は最悪な為に反発し合い、組み込むことが出来ぬ。じゃが<光>と<闇>の属性魔石は反発し合うどころか相性が良いのじゃよ。」

「その2属性が特別だからなんじゃないんですの?」

「最初はそう考えておった。じゃがそれにしても不可解な点が多いんじゃ。互いが互いに弱点属性であるならば、それぞれの武器と防具で攻撃をした際にその消耗率は大きく変動する。<火>属性の武器で、<土>属性の鎧を攻撃した時、簡単に貫かれ、切り裂かれる。その逆じゃと、貫くどころか弾かれてしまうんじゃ。それを<光>と<闇>に置き換えて検証した結果、<光>から<闇>に対してのみ弱点属性を付くほどの破損率を発揮し、<闇>から<光>に対しては弾かれることはなかったものの、ごく普通の破損率じゃった。そして考えた。<光>は<闇>に強く、そして<闇>は<光>ではなく別の属性に弱点を付く事ができ、またその属性は<光>に対して弱点が付けるのではないかとな。」

「・・・つまりその属性が【眷属】が持ち合わせている、ということか?」


ヨスミがそう言うと、デュガスノフ王は強く頷く。


「この火と風の間、三角形の一番上に掛かれた魔物の表記じゃが・・・、これまで魔物に対しての弱点属性に関する相関図じゃから、分かりやすいようにそう書いてあるだけじゃと思っておった。じゃが、このマークに使われた魔物の姿はどこにもおらんかった。どこにも居らぬ魔物をどうやって描き、こんな場所に書き記したのか・・・。」


そこまで聞いて、ヨスミはようやく彼が何を言いたいのかを理解した。

それはレイラも同様だったようで、気が付けば口に出していた。


「つまり陛下は、この魔物の表記は単純に魔物の弱点図ではなく・・・、これは【眷属】だと仰りたいんですのね?」

「ワシはそう睨んでおる。それを裏付けたのが、竜王国で聞いた大災厄よりはるか前の神話の話じゃ。」


その話は確かエレオノーラが話していたな。


【怪物】とかいう存在が突如として出現し、世界を滅亡へと追いやろうとしてきた。

それを阻止するべく白の神と黒の神が己の作り出した子らと共に立ち向かい、白の神はその戦いで深手を負い、それを見た黒の神が己の身をもって【怪物】を奈落の底へと封じ込めたという・・・


・・・なるほど、白の神を<光>、黒の神を<闇>だとするならば、弱点を突かれた白の神は不利であるがために深手を負う事となり、逆に弱点を付ける黒の神だから奴を封じ込めることができる。


このデュガスノフ王はそう言う風に解釈したわけだ。

それならば確かに辻褄は合うな。


「つまり【眷属】には<闇属性>が有効ということか。」

「そういうことじゃ。ワシはこの混ざりそうで混ざらないこの均衡した色合いの共鳴石、その属性をその神話に習って<(マガツ)>と名付け、調査を続けながら奴らに対抗する武器、<闇属性>に特化した武器と防具を作り続けたんじゃよ。おかげで【火の化身】らが生み出した魔物らの撃退できたんじゃ。・・・ただそれを解明するのが遅くなったため、5階層にまで配備しきれなかった結果、あそこは地獄と化してしもうたがな・・・。」


そういったデュガスノフ王の背中からは哀愁が漂っており、その表情には暗い影が差していた。


「だがそれを解明できただけでも凄いと僕は思う。実際にそれで成果が出ているのならば猶更だ。」

「・・・はは、そういってもらえて光栄じゃよ。さて、お主からいただいたこの血の対価はこれで全部じゃ。」


そういってデュガスノフ王はヨスミの血が入った小瓶を机に置く。

ふとマティーラが机に置いてあるお菓子を取ろうと手を伸ばして椅子から落ちそうになり、慌ててミミアンが彼女を支えようとして腕が机にぶつかった。


その拍子に机に置いたヨスミの血が入れられた小瓶がドンッというテーブル全体に伝わる衝撃を受けて転がり、【火の化身】の体液が入った小瓶とぶつかった途端に二つの小瓶が割れ合った。


「ああ、やってしもうた・・・ん?こ、これは・・・!?」


だがその時、信じられない出来事が起こった・・・――――――。




今回登場した相関図についてです。

マウスで描いているので色々と荒くなってますがご了承ください。


挿絵(By みてみん)

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