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ブラックリリー・・・それがこの武器の名前だ。


それにしてもやはりここは剣や魔法の世界。

転生した時に神からもらった能力は”転移”、剣術Sやら魔法Sやらそういった能力は選択してないし、何より必要がないと感じたからだ。


まあ確かにそれらの能力があれば戦いに見栄えは出るし、何より戦っているという感じが出る。

派手だし、強者感も漂わせられるし、色々なムーブもできる。


だが僕はそんなものに興味はないし、急にそんな能力を持たされても振り回されたり、何より戦う際の思考能力の停止・・・つまり脳死で戦うようになるから向上心が見込めなくなる。


そして何よりも危険視(イレギュラー)判定され、魔物だけじゃなく全人類からも敵視されるようになる。


未知の力を持つ存在に対して、人類の抱く感情を嫌というほど知っているし、その者が辿る末路を・・・


「僕は知っているからな。」

「ヨスミ様・・・?いかがなさいましたか?すごく悲しそうで、怖い顔をしておりますが・・・」


一度、目を閉じてため息を吐き、気持ちを落ち着かせる。


「少し昔のことを思い出してね。大丈夫だよ。さて、次はどこに行こうか?」

「そうですわね・・・、なら鍛冶屋でもいかがでしょう?そこでヨスミ様の武器を見繕いたいですわ!」

「僕の武器・・・、か。そうだね。では行ってみようか。」





「おお、レイラ公女様!今日はどういったご用件できたんですかな?」

「ごきげんよう、ダン様。今日はヨスミ様の武器を見繕ってほしくてきたんですの!」

「初めまして、ヨスミだ。冒険者になったばかりだから、とりあえず武器が見たくてな」


ダンと紹介された鍛冶屋の人物は、身長が低く、濃い髭、筋肉質の身体・・・ドワーフかな?

確かに鍛冶屋とドワーフは因縁深い関わり合いのあるイメージだからな、この世界でもそうか。


「わしはダンってんだ!種族はドワーフだ。よろしくのう。んで、ヨスミは一体どんな武器をご所望じゃ?ナイフ、小剣、長剣、大剣、レイピア、曲剣、なんでもござれだ。要望があればそれに沿った武器を特注で作ってやるぞ。」

「・・・なら、こんな感じの物は作れますか?」





「これでよいのか?」


目の前に並べられた何十本もの先がとがった細い円柱状の筒を一本一本見て確認していく。


「・・・うむ、良い感じだ。」

「まったく、奇特な奴じゃな。長剣でもレイピアでもないそんな細長い円柱を何十本と。しかも魔力伝導率がもっとも高いミスリル鉱石を望んだ逸品を・・・。一体何に使うんじゃ?」


そう。武器を作る際の鉱石を選びも許可をもらったので、色々な鉱石を見せてもらった際に魔力伝導率が高いミスリル鉱石を選んだ。


一般的な<銅鉱石>、<銀鉱石>、<鉄鉱石>は組み合わせ次第で質を変化させられる特性がある。

一番硬度が高く、仕上げた際の切れ味が一番高く仕上がるが魔力伝導率が最も低い<黒鉱石>。

各属性や魔法が乗りやすいが硬度が弱い魔鉱石、魔鉱石よりも高い魔力伝導率をもち、硬度も鋼鉄製並みの性能を持つ希少な<ミスリル鉱石>。

そして全ての性能値が飛び抜けている、この世界での最高峰の伝説的な<オリハルコン鉱石>。


まだ他にも様々な鉱石はあるが、一般的に武具に使われる鉱石は今あげられた物とされている。

今回選んだのはミスリル鉱石。そんな希少な鉱石がなぜあるのかというと、レイラ公女が融通してくれたのだ。


故に・・・僕は、以前見た妻の持つ小説の中のとある設定をヒントに、この能力に似合う武器を、この世界に転移してからずっと考えていた。


「僕の能力と一番相性が良い武器がこれなんだ。」

「投擲用・・・でもなさそうじゃな。一体どう扱うか見せてもらってもよいかの?」

「ああ、いいよ。何かしら的のようなものはあるか?」

「なら、あそこに掛けられた鎧のマネキンなら良いぞ。」


とダンが指を差したマネキンが次の瞬間、頭と心臓に1本。また両肩の関節部、股関節、膝、肘に交差するかのように2本ほどミスリルネイルが突き刺さっていた。


「なっ・・・!?」

「これは一体・・・」

「各関節にあのように交差してねじ込めば関節を破壊することで行動不能にさせられる。心臓や頭に至っては1本突き刺すだけで即死だろう。」

「お、お前という奴は・・・」


その時、初めてダンからは若干の恐怖が入り混じった視線を感じた。


「これでもあの鎧は鋼鉄製で出来た鎧なのじゃぞ・・・、それをいとも簡単に貫通させられるとは。」

「しかも狙いがあんなに精確なんて・・・。襲撃者をバラバラに切り刻んだ事といい、訓練場で見せたあの素早い動きといい、そして各急所へ一瞬にして投擲して突き刺したことといい・・・どれほどの風魔法の修練を積めばこのように・・・すごいですわヨスミ様!」


別に修練なんて積んだわけじゃない。それに風魔法なんて使ったわけでもない。

僕はただ、望んだ場所に望んだ物を転移させただけだ。


だがそう勘違いしてくれれば、僕としても助かるな。

今後の偽装のために風魔法を覚えておくか。


「でもヨスミ、こうして投擲するのであればより堅い黒鉱石で作った方が良かったのではないか?」

「この前戦った時に思ったんだ。実体のない魔物に対する対処法を増やした方が戦術の幅も広がるし、戦いやすくなる。」

「確かに・・・亡霊(ゴースト)系に対しては物理攻撃はほとんど効きませんわ。ですがヨスミ様?ここまでの風魔法を使えるならそのまま風魔法で直接攻撃はなさらないのですか?」

「・・・そうだね。僕の風魔法は少し特異で、攻撃力はほとんどないんだよ。だからこうしてミスリルネイルに魔法を乗せて攻撃すれば実体のない敵にも攻撃が通じる様になればってね。」

「そうだったんですの・・・。」


だって本当に魔法を使っているわけじゃないし、投擲して突き刺しているわけでもないからね。


「だから属性魔法が乗りやすいミスリルを譲ってくれた事にはとても感謝しているよ、レイラ。」

「そそそそ、そんなな!よ、ヨスミ様のためなら・・・なな、なんだってあげちゃいますわ・・・!!」

「ほぉ~・・・レイラ公女様はヨスミ殿の事を・・・」

「へあぁ!?」キュゥ~


突然顔が真っ赤になったかと思えば、頭から湯気を出しながらへたり込んだ。


「がーはっはっはっはっ!お主も悪い男じゃのう!ヨスミ殿」

「あはは・・・。こうしてレイラ様に好意をいただいていることはとても光栄だ。」

「ううう・・・、あまりからかわないでくださいまし・・・。」


へたり込んだレイラ公女に手を差し伸べ、潤んだ目で見上げてくるレイラ公女に微笑み返し、手を取ってきたレイラを優しく起き上がらせる。


「いい物を見せてもらった礼だ。それはワシからのプレゼントじゃ。」

「いや、そんな・・・」

「あんな使い方もあったのだとワシも今まで武器を作ってきて初めて知ったからのう。まだまだワシの知らぬことがあるのだと教えてもらっただけでも十分じゃ。ヨスミ殿、本当に感謝する。」

「・・・なら、お言葉に甘えていただくよ。また何かあったら寄らせてもらう。」

「うむ、いつでもこい!お主の望む武器をなんでも作ってやるぞ!まあ、次からはお金はいただくがの。」


ダンは手を差し出し、ヨスミはその手を握り返す。


「ああ、その時は頼むよ。」

「うむ!・・・して、この武器の名はなんというのだ?」

「武器の名?」

「そうですわ!こういった武器を扱うお方はヨスミ様が初めてだと思いますの。ミスリルネイルも良いと思いますけど、せっかくですし扱いやすい名前にしてみたらどうかしら?」


・・・名前か。

別にミスリルネイルでもいいとは思うが、そうだな・・・。


・・・。


最愛の花(ブラックリリー)・・・、それがこの武器の名前だ。」



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