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プロローグ 後編


それから僕たちはドラゴンを生み出す研究 龍誕計画(プロジェクトドラゴン)と名称し、自分の持ち得る知識をフル稼働させ、ありとあらゆる人脈を行使し、ドラゴンを生み出すという研究に今まで以上に人生を費やし始めた。


度々、ドラゴンの方向性で僕たちは何度も衝突し合い、喧嘩したりもした。

当然のようにうまくいくはずもなく、何十年も進捗もなく停滞し続けていた。


ありとあらゆる文献を漁り、遺跡を調べ、少しでも龍誕計画を進めていった。

だが、古代遺跡を調べている最中、不幸な事故に遭い、妻の優里を失ってしまった。


その出来事は僕にとって想像以上にショックだったようだ。

ドラゴンだけを愛していると思っていたが、それと同等に、僕は妻の優里を愛していた。


「失って初めて気づくことが、僕にもあるなんてな。・・・はは。」


何度も、何度も後悔し、無気力になり、全てを投げだしそうになった。

そんな僕を同じように何度も何度も繋ぎ止めてくれたのが、彼女と立ち上げた他でもない龍誕計画だった。


優里と一緒に始めたものだったために、彼女が残してくれた大切なもの、ある意味では僕にとってそれは子供のような存在でそれを投げ出すという事は優里の心を無下にするも同然だった。


「・・・そんなこと、僕がするわけがない。できるわけがない! 僕は諦めない・・・、絶対に!」


無気力になっている場合ではない。悲しみにふけっている場合ではない。

嘆いている場合でもない。全てを投げ出している場合でもない。


進まないといけない。止まってはいけない。

それだけが、僕が彼女に報いるための、人生を掛けた彼女への鎮魂歌であると。


それから僕は20年もの月日を費やし、そしてついに…


―キャウッ!


「・・・う、生まれた。ああ・・・とうとう生まれてきてくれたんだな。」


目の前に置かれた巨大な卵から孵る、一匹の小さな翼が生えた白い蜥蜴…。

いや、それは蜥蜴ではない。


そう、この存在こそ、僕が、いや、僕たち夫婦が追い求めてきたたった一つの幻想体ファンタジーモンスター

夢であり、ロマンであり、誰もが憧れた全ての生物の頂点的存在。


「おめでとう・・・、そしてありがとう・・・! 生まれてきてくれて、本当にありがとう・・・!」


僕は生まれてきた白い幼竜を手に取り、ここに居ない妻の分まで、愛を持って、優しさを持って、慈愛の心を持って、優しく微笑みかけ、まるで我が子のようにそっと頭を撫でる。


幼竜はその思いを感じ取ったのか、僕に優しい鳴き声を上げながら、頭を擦りつけてきた。

その姿さえも愛しく感じる。


「ああ、愛しい我が子よ・・・。ああ、我が愛しいアナスタシア・・・。」

「キャウ!キャウ!」


妻と決めていた、この子の名前。

その名を自分の名前だと理解したのか、名を聞き、喜びを表すかのように何度も鳴き声を上げた。


優里、見ているか?

天国で、今の僕たちの奇跡を、見守っていてくれているか・・・?


ああ、優里・・・。僕たちは、とうとう成し遂げたんだ。

僕たちの夢を、ロマンを・・・人生を・・・!


アナスタシアが生まれ、まるで猫の様にゴロゴロと喉を鳴らしているかのように甘い声を鳴らしながら、その頭を擦りつける。

そんな姿を眺め、気が付けば自然と涙が零れでていた。


「ああ優里・・・、僕たちは・・・僕たちは・・・。」

「きゃう?きゃう!きゃう!」


まるで慰めてくれているかのように、頬を伝う涙を舌で舐めとり、その頬に頭をスリスリしてくる。


「アナスタシア・・・、僕を、慰めてくれているのかい?はは、ありがとう・・・アナスタシア。」

「キャウ!キャウ!」




それから10年が経ち、僕は更に年老い、またアナスタシアの家族として、更に別の竜を3体家族として生み出した。

4体の竜を住まう場所に困り、僕は世界の果てにあるとされている誰も知らない孤島に居住を移した。


白き竜のアナスタシア(長女)、黒き竜のメラウス(次女)、赤き竜のヘリスティア(長男)、青き竜のネレアン(三女)。


この4体の竜が僕の家族として、この世界で、生き続けてくれた。

そして5体目の我が子は卵のまま孵化することはなかったが、僕にとってとても幸せな日々が続いていた。


だが、そんな平和な日々はある日突然引き裂かれてしまった。





『お父様・・・!』

『父様、ご無事で御座いますか!?』

『・・・そんな、親父!』

『だめだよ、パパ・・・!!』


白竜(アナスタシア)黒竜(メラウス)が僕を庇うように翼を広げ、空から降りてくる。

赤竜(ヘリスティア)青竜(ネレアン)は敵からの攻撃を守るように敵軍の前に立ち塞がった。


腹部が熱い。

さっきの銃撃を避けきれなかったか・・・、やはり僕も年を取ったものだな。


まさか、全国の軍が共同して攻めてくるとは思わなかったな。

戦車だの戦艦だの戦闘機だの、このままでは我が子たちが危ない・・・。


「お前たち・・・、今すぐここから・・・」


逃げる・・・、どこへ・・・?

この世界にこの子たちの逃げる場所はあるのか・・・?


この子たちを受け入れてくれるところなんて、どこにもあるはずがない。

なのに僕は、こんな残酷な世界に、こんな愛しい子らを生み出してしまった・・・。


僕は・・・、僕たちは・・・


「ガハッ・・、ゴホッ・・・」

『お父様しっかりしてください・・・!』


・・・そうだ。無ければ、作ればいい。

この子らが、平和に過ごす・・・場所を・・・。


「・・・アナスタシア、皆を、連れて・・・、ここから、離れろ・・・」

『できません・・・!お父様を置いて逃げるだなんて・・・!』

『そうです、父様!我らであれば、奴らなんて敵でもありません!』

「だめ、・・だ。昔、から・・・言ったで、あろう・・・? こういう時の、ために・・・」


僕の言葉に反抗的なアナスタシア、メラウスも悔しそうなその瞳。

怒りに満ちた表情のヘリスティア、今にも泣きそうなネレアン。


ああ・・・、なんて愛しいのだろう。

僕の愛しい我が子、我が宝、我が人生。


僕の、最後の、仕事を、始めよう。


「頼む・・・、アナスタシア。」

『・・・ッ! お前たち・・・、お父様の命に従い、私と一緒に来なさい・・・!』

『アナスタシア姉さま!?』

『だめだ、親父を見捨てる気か!』

『パパぁ・・・!』

『お父様の、最後の言葉を無視すること、その意味を、重みを、理解しなさい・・・!!!』

「すまない、な・・・。ありがとう、お前たち・・・。心から、愛しているよ・・・。」


僕のその言葉で、アナスタシアは歯を食いしばる。

その言葉で、アナスタシアは理解してしまった。


これが、偉大なる父との別れであると。

これが、最期なのだと。


理解したくなかった。分かりたくもなかった。

自分たちが今よりももっと強ければ、父を、愛しの我が父を、こんな目に合わせることなんてなかった。


我が身の弱さで、守れるはずの存在を守ることができないほどの、この無念を、悔しさを。

アナスタシアだけじゃない、その場にいる誰もが感じていた。


父が向けてくる愛に満ちた瞳が、その後悔を、負の感情を、強く、もっと強く高めていった。


『私も、愛しています・・・。お父様・・・!』


その言葉を聞いて安堵したのか、僕の口元は自然とほころんでいた。

そしてそれが、僕が最後に見たアナスタシアたちの姿だった。


「さあ・・・、始めようか。優里の、知らない・・・・、僕の、もう一つ、の・・・計画を・・・。」


懐から取り出した、小さな装置。

突如、肩と足、装置を持っていないもう片方の腕に銃弾が当たり、細切れになって消し飛ぶ。


「残念、だった、な・・・。こ、の・・・装置、を、撃てば・・・僕の、負け・・・だったぞ・・。」


目の前まで迫ってきた敵軍や、戦闘兵器。

だが、小さな装置に備え付けられていたボタンを押したことにより、全てが真白に染まった。


眩い光に包まれ、今まで過ごしてきた思い出が走馬灯のように過ぎ去っていく。

そして・・・。






―――目を覚ましたか、人の子よ。


・・・誰だ、こいつ。



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