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人の数だけ物語は無数に存在する。例外はない。


「待たせたのーう!・・・って、なんじゃ。一体これはどういう状況じゃ?」


ドアを勢いよく開けて入ってきたのは現王とドヴァ、そしてそこに見慣れぬ2人の姿。

それはまさに現王の王妃と王女だった。


部屋に入ってくるや否や、先ほどよりも顔が青ざめた様子でベッドに横になるヨスミの姿を見て唖然としている。


「・・・なんでもないわ。そ、それよりもそこの2人って王妃と王女よね?」

「ん?ああ、そうじゃ!ワシ自慢のな!紹介しよう!」

「あなたは黙っていてください。コホンッ、ごきげんよう。私は―――」

「わぁ~・・・本当にドラゴンさんだぁ・・・!!」

「―――ちょっと、マティーラ!」


マティーラと呼ばれた元気ハツラツとしている小さな姫は一目散に部屋に入るとハクアやネレアンを見て興味津々の様子だった。


『・・・だぁーれ?』

「あたち、マティーラ!このくにのおひめさま!すきなものはね~、火とおにくとドラゴン!きらいなのはみどりのおやさいなんだ~!」

『マティーラ・・・。私は、そうね、イリアって呼んで。』

『わたしはハクアなのー!よろしくなの~!』

「イリアちゃん・・・!!ハクアちゃん・・・!!よろちくね!」


舌足らずで話しながら、とても嬉しそうにしているマティーラ。


『ちなみにね、緑の野菜を食べないと・・・大きくなれないよ・・・?』

「そ、そんなことないもん!おとーちゃまだっておやさいたべてるところみたことないのに、こんなにりっぱなおーさまやってるもん!」

「おお、マティーラ・・・!我が娘よぉ・・・!」

『確かに権威は大きくなってるけど・・・ほら見た目は小さいままでしょ・・・?』

「・・・っっっ?!!?」

「なんとぅ・・・!?」


ネレアンがそう言いながら現王をヒレで差し、マティーラはまるで衝撃的な事実を目の辺りにしたような驚愕した表情をし、ワナワナと体を震わした後・・・


「お、おやさいたべてくるぅ~!!」


そう言い残し、部屋を出ていった。

現王はショックを受けたかのように体が塊り、それを横で見ていたドヴァと王妃は酷く頭を抱える。


「・・・えと、王妃様?あなた様のご紹介をしてもらってもよろしいですの?」

「え、ええ・・・そうね。コホンッ、私は―――」

「おかーちゃまあ!みどりのやさいってどこなのぉー!!」

「―――いい加減になさい!マティーラ!!」


王妃の言葉を遮りながら、戻ってきたマティーラは涙目になりながら王妃へ縋り付く。

毎回自身の紹介を妨害された王妃は堪らずマティーラへと声を荒げてしまった。






それからしばらくしてマティーラの興奮は収まり、ヨスミが眠る客間のソファに座り、ミミアンと一緒にお菓子を食べていた。


ミミアンはどうやら子供のあやし方を心得ているようで、マティーラと楽しそうに雑談を交わしている。


王妃はそんなマティーラの様子を安堵した表情で眺め、一息つくと向かいのソファに座るレイラたちに改めて目線を向き直る。


「改めて、私はラティメラ・ダイヤモンド・アクスフェルと言います。レイラ王女、あなたの名前はすでに存じ上げているので挨拶は不要です。」

「わかりましたわ。それで、こちらにはどのような理由があってお越しになられたんですの?」


レイラはラフィメラ王妃へ問いかけると、どこか暗い面持ちで返事を返す。


「外の様子が、・・・知りたくて来ました。私が事の事態に気がついたころにはすでに対魔物用遮断壁が展開されており、外の状況を知る手段も持ち合わせておりません。故に陛下に何度も説明を求めましたが、「大丈夫だ。お前たちは心配せずともよい」との一点張りで・・・」


そう言いながら、隣に座るデュガスノフ王をギロリと睨む。

突然睨まれたデュガスノフ王は顔を背けながら冷や汗を流す。


「だ、だってぇ・・・妻と娘の心労を増やしたくなかったんだもぉん・・・」

「だもぉん、じゃありません!これでも私はこの国の王妃です!この4階層には民の住む区画はないとはいえ、王家に仕えしメイドや使用人たち、またそれらの家族が住む区画があるのはご存知のはず!彼らの安全と魔物たちからの脅威から守る義務が我ら王室にはあるのですよ!?なのに私だけ状況を把握できず、そんな状態でかの者らを安堵させられる言葉を掛けてあげることなんて出来るとお思いで???」


ラティメラ王妃に詰め寄られるたびにどんどん肩身が狭く、いや彼の姿そのものがどんどん小さくなっていく。


そして最後には一言、「すまんのう・・・」と一言呟き、それを聞いたラティメラ王妃は深いため息を吐く。


「はあ、もうこの人は私たちのことを思って事ですからこれ以上は言いません。なので、外から来たあなた達に話をお伺いたいのです。」

「・・・それなら、わたくしと共に来た同じドワーフのドヴァへお聞きになられてはどうなんですの?」

「ええ、聞きました。聞いた上で、その説明に全く理解が示すことができなかったのであなた達の元に来たのです。」

「どういうこと?理解が出来ないって・・・」


そういってレイラとフィリオラはドヴァの方を向いた。

突然向けられた視線に罰の悪そうな顔をしながら咳払いする。


「・・・すまねえ。俺の説明じゃあうまく伝わらなかったみてぇで・・・」

「あんな説明でどう理解しろというのですか騎士ドヴァ!部隊がバーン!となって、ドーン!と魔獣がガオー!とシュンシュンやってきたかと思ったら、ドガァーンだのなんだの!そんな擬音だらけの説明で理解できるのはあなただけです!」

「ああー・・・」


今度はドヴァへと詰め寄っていき、だんだんと小さくなっていくドヴァは一言、「すまねぇ・・・」と呟き、それを聞いたラティメラ王妃はまたもや深いため息をついた。


「・・・苦労されているんですのね。ハルネ、王妃様の気分を落ち着かせるための紅茶を入れて差し上げて。」

「かしこまりました。ラティメラ王妃様、こちらアールグレイティーで御座います。怒り、イライラ、ストレスなどを軽減させる効果がございます。」

「・・・助かります。」


完璧な所作でラティメラ王妃に紅茶を注ぎ入れ、夕暮れを映し出しているかのような綺麗なオレンジ色の輝きにラフィメラ王妃は思わずうっとりと、ティーカップの中で揺れる水面を眺める。


音を立てずにカップを手に取って口元へと運び、一口飲むと先ほどの荒れたような雰囲気は静まり、王妃らしい威厳ある姿を取り戻した。


「美味しいわ・・・、さすがレイラ王女の専属メイドね。どれをとっても申し分ないわ。」

「お褒めに与かり、光栄に御座います。」

「でしょう?わたくしのハルネはヴァレンタイン公爵家にとっての自慢のメイドなんですのよ!」

「レイラお嬢様・・・!」

「うふふ、あなた達の仲もとてもよろしそうですし、羨ましい限りです。」

「所で、ラフィメラ王妃様?お付きのメイドが見えないみたいですが・・・」


レイラがそう告げた時、先ほどのように暗い影が顔に掛かったかのような表情になった。


「・・・マティーラの乳母、そして私のメイドは数週間後に控えている炎天祭のために商業地区へ向かわせていたの。」

「あ、だから外の状況が知りたい・・・そういうことですの?」

「・・・。」


ラティメラ王妃はレイラの言葉に沈黙で肯定する。

外の状況は正直、あまり良くはない。


いや、酷いと言っても差し支えないだろう。

建物のほとんどは倒壊し、黒い液だまりによって溶かされ、燃やされ、炎煙としていた。


ただし・・・


「わたくしたちが通ってきた道に、亡骸は一つもありませんでしたわ。砕かれた剣や折れて使えなくなった槍、破損したボウガンこそ多数見かけはしましたけど、その中で誰かの死体だけは確認できませんでしたの。だから安心してくださいまし。」

「ああ・・・!」


それを聞いたラティメラ王妃は両手で顔を覆いながら泣き崩れる。

突然そんな姿を見せた彼女の変貌にデュガスノフ王とマティーラ王女は慌てて駆け寄る。


「ラティメラ・・・。」

「おかーちゃま?なんでないているの?だれかにいじめられたの!?」

「ちがうの・・・ちがうのです・・・。ううっ・・・、ゼラ姉さま・・・よかった・・・よかっ・・・」


マティーラが泣き崩れるラティメラ王妃を宥めようと背中を摩り、デュガスノフ王はハンカチを取り出して彼女の涙を拭う。


きっと、ラティメラ王妃とそのメイドたちは親しい仲なのだろう。

それも、王妃とメイドなんて枠組みを超えた強い絆を結ぶほどの、深い間柄。






ドヴァとエルディンにラフィメラ王妃を部屋に送り届けた後、部屋に残ったデュガスノフ王は彼女の後姿を見送った後、ぽつりと語り始める。


「乳母は王家に代々仕える由緒正しい大貴族の出身でのう。王、そして王妃となったワシらは右も左もわからない石ころのようなもんじゃった。そんなワシらを導いてくれた乳母で、ワシらにとって恩師のような存在なんじゃ。そしてラティメラ王妃の世話をするメイドは、言わば姉のような存在なんじゃ。血は繋がっては折らんようじゃがな。王が鍛冶の技術力で決まるのならば、王妃はアクセサリーの技術力で決まるのじゃ。故にもともと孤児院で育ったラフィメラは、その圧倒的な技術力を見せたために王妃として見出されたんじゃ。そして一人残されたゼラナは血の滲むような努力の末、王室のメイドまで上り詰めたんじゃよ。その後、彼女のひたむきに努力する姿に打たれた乳母は彼女を養子として迎え、貴族の位を授けた後に次期メイド長としての教育を受けさせながら、彼女はとうとうラフィメラ王妃の専属メイドという地位を掴んだのじゃ。それも大事な妹を守るために、じゃな。」

「大事な妹のために、そこまで努力をなされたのですわね・・・。」


そう言いながら、ハルネが入れてくれた紅茶を躊躇なくグイッと流し込む。


「ありがとう、レイラ王女よ。ラフィメラに気休めでもあのような言葉を掛けてくれて・・・。ワシも外の様子を知るために『鳥の眼』を使って捜索はしたが、魔獣らの妨害もあって難航しておった。おかげでワシも外の詳しい状況を知れてよかったわい・・・。」

「・・・それで、これからどうするんですの?」

「ワシはここに残って奴らに対抗できる武器を仕上げるつもりじゃ。・・・そこで、ワシの妻と娘を安全な3階層へと避難させてはくれまいか?ワシの家族だけじゃない。この階層にいる者ら全員を助けてほしいんじゃ・・・!確かにここは対魔物用遮断壁によって守られてはおる。じゃが、あくまでこれは魔物に対してのみじゃ。【眷属(ヤツ)】がもしここまでやってくるようなら、あの壁はただの紙同然となるじゃろう・・・。そうなればワシらはあっという間に殺されてしまう・・・、じゃから頼む、レイラ王女!」


そういってデュガスノフ王はレイラの前で頭を下げる。

彼の突然の行動に驚きを隠せない。


一国の王が他国の王女に頭を下げてまで頼みごとをしているのだ。


「デュガスノフ王、どうか頭をお上げくださいですの。そう簡単に王冠を被る者が首を垂れるものではありませんわ。」

「そうは言うても、ワシは元々ただのしがない鍛冶屋だったんじゃよ?それなのにワシの打った武器があの王の眼に止まったせいでワシが次期王へと祀り上げられたんじゃ。それに、これはワシらのような立場ある者のみが出来る重要な仕事の1つじゃよ。ワシがこうして頭を下げることで大事な民らを、家族を救ってくれるのならば、喜んで頭を垂れよう。」


そういってデュガスノフ王はもう一度、レイラに向かって頭を下げた。


「ならば、頼む相手を間違えているよ・・・。」


レイラがどうすべきかアタフタしていると、ベッドの方から声が聞こえてきた―――――。



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