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・・・・・・・・・・・。


「リオンハルト公子。状況はどうだ?」


すでに現場に到着していたリオンハルトへ状況の説明を要求する。

豪快に笑いながら事細かに説明してくれた。


「はははっ!俺がすでにここに到着した時には壁の耐久値は限界を迎えていたぞ!だから俺は優先的に壁を攻撃している奴らをぶん殴っていき、俺に注意を引くように立ち回ったぞ!そこへレギオン殿もやってきてあの<レギオンシード>を植えたのち!<巨顎(ポーン)>共を大量に生み出して魔物たちを襲わせてその全てを食い荒らしたな!」


そういってリオンハルトは肉花の方へと視線を向ける。

花弁から見下ろすレギオンと、そのレギオンを仰ぎ見るポーンと呼んだ生物たちがいた。


「うっわ何あれきっも・・・!?」


ミミアンは思わず声に出してしまった。

だがそれも無理もないほど、レギオンが出した召喚獣の容姿はとても醜いモノだった。


大きな顎、その大きさに見合わないほどの体の小ささ。


外装のようなものはなく、筋肉のようなものと骨格がむき出しとなっており、例えるならヴェロキラプトルを半分に縮めた上、頭はワニのような長い顎に変えたようなものだ。


また両肩からは先端に鋭い鉤爪を生やしたもう一つの腕のようなものを生やしていた。


「あれが『戦争屋(レギオン)』の召喚獣か。」

「はははっ!そういうことだ!ちなみにあれでも10分の1にも・・・いや、その1にさえ満たぬほどの群れだな!本来ならばあいつ等は数千の数を平気で生み出してはそれを指揮しているのだ!ちなみに<巨顎>だけじゃなく、その上には<双鎌(ナイト)>がいるぞ!更に<鞭鼻(ビショップ)>なんて存在もいるそうだが俺は<双鎌>までしか見たことがない!まあ奴と行動している間は<巨顎>の大群だけでなんとかなっていたから他を出す意味がないんだろうな!」


ポーン、ナイトにビショップ・・・。

チェスの駒を例えているとなれば、その上にはルークがいてルークたちが守るクイーン、そしてキングがいるはずだ。


つまりアイツ1人で戦争を引き起こせるわけだ。

故に、『戦争屋(レギオン)』というわけか・・・。


「その<双鎌>は強いのか?」

「はははっ!単体ならばまあまあ強かったぞ!だがあの強さの個体を何百、何千と出されたら俺としては勝てないだろうな!ちなみに今回は<巨顎>だけじゃなく、<双鎌>も出していたようだからそこそこ危険度が高かったみたいだな!」


レギオンの隣に2体の<双鎌>と思わしき生物が佇んでいた。


<巨顎>と同じように外皮はなく、筋肉と骨格が剥き出しとなっている。


また足という部位はなく、2本の長い蛇のような尾を足代わりにくねらせており、背中からは棘のような物が計6本生えていて両腕は肘から先が鎌のように湾曲した爪の形状をしていた。


頭は爬虫類のように細長く、下あごはぱっくり割れており、舌がだらんと垂れて揺れていた。

そして目は左右に2つずつあり、4つの瞳が周囲を見渡す様に蠢いていた。


あれが、<双鎌(ナイト)>・・・。


「はははっ!この場は俺とアヤツで制圧したからこのまま5階層に降りようと思う!ヨスミはどうする!」

「・・・僕はこのまま皆を連れて王様にでも挨拶してくるよ。必要とあれば3階層へ全員を非難させるつもりだよ。5階層に向かうのはその後だ。」

「はははっ!了解だ!ではまた後で会おう!」


ヨスミにそう言い残し、リオンハルトは空中を蹴りながらレギオンの元まで向かうと2人は<双鎌>と数十匹の<巨顎>を連れてその場を去っていった。


残された何匹かの<巨顎>は自分を生み出した肉花の周囲を周回するように徘徊し始めた。


ヨスミは周囲を見渡し、ドヴァたちがどこにいるか探してみると、壁の近くで集合している様子が確認できた。


どうやらドワーフたちの何名かがこの戦いで負傷、または死傷者を出していたようだ。

体が半分溶け、焼け焦げた者や腕や脚が焼け落ちた者が幾人か見受けられる。


「ドヴァ!」

「ヨスミ・・・、来てくれたのか。」


彼の表情はどこか暗く、その瞳には確かなる怒りを感じられた。


「この場はあの2人が制圧したと聞いたが・・・なのにこの状況は一体・・・」

「ここに来る途中で奇襲されちまってよ・・・、いわゆる待ち伏せって奴だ。倒壊した建物から突然現れて中央を食い破られた。そっからは陣形を整える暇すらなく、仲間を助けるなんて余裕もない。ただ生き残るためだけの混戦よ・・・。」


ふと見てみると、アーマル達は喉元を食い破られたかのように爛れており、一匹残らず絶命していた。

ヨスミはそんなアーマル達の元へ歩み寄り、その亡骸を優しく撫でる。


「すまねぇ・・・、ヨスミ。俺は、こいつらを守れんかった。俺たちを守るためにその身を盾にしてくれてよ・・・。もしアーマルたちの犠牲がなければ今頃俺たちは全員死んでいたんだ・・・。くそっ!」

「そうか。お前たちは、主人たちを守りきったんだな。そうか、そうか・・・。」

「あなた・・・」


そこへレイラもやってくると、亡骸を撫でるヨスミの手に自らの手を重ねた。

彼女の手から伝わる温もり、そして僕と同じようにアーマルたちの死を悲しんでくれているかのような感情が感じられた。


ディアネスは翼をゆっくりと広げるとレイラの腕から飛び出し、地面に降り立つ。

そしてテチテチと可愛らしい足音を鳴らしながらアーマルたちの亡骸の前にやってくると両手を握り、目を閉じた。


ディアネスからは淡い黄金色の光が生まれ、それらの粒子が亡骸へと降り注いでいく。


「ディア、これは・・・?」

「みんなにやすらぎ・・・あげたの。とてもくるしそうだった・・・。いまはもーだーいじょぶ!」

「見送ってくれたんだな・・・。ありがとう、ディア。」

「えへへ・・・。」


ディアの頭を優しく撫でながらも、その目からは小さな雫が頬を伝って流れ落ちた。

そこへドヴァが動けそうな兵士らを連れてディアの前にやってきた。


ディアが何をしていたのか、ヨスミ達との会話を聞いていたみたいでディアの前にやってくると膝をつき、頭を下げた。


「ディアだったか。俺らの大事なアーマルたちに安らぎを与えてくれて感謝する・・・!」

「本当に、ありがてぇだぁ・・・!」

「あの子らを、見送ってくれて・・・本当に・・・感謝だべぇよお・・・!」

「みんな、いってた。どヴぁたち、だいじなかぞくだって。だから、あーちもみんなにあぃがとーっていいたいの。だぃじにしてくれて・・・。」


そういって顔をクシャクシャにするとレイラの胸へもう一度飛び込んでいった。

レイラの胸の中で泣きじゃくるディアを優しく受け止めながら、落ち着かせるようにあやす。


それをきっかけにドヴァたちはアーマルたちの亡骸へと駆け寄り、抱きしめるように涙を流し始める。

そんな彼らの嘆き悲しむ光景を、ヨスミはただじっと見つめていた。


「ヨスミ、大丈夫・・・?」


そこへフィリオラが心配そうにヨスミへと声を掛ける。


「ああ、大丈夫。」

「変なこと考えているわけじゃないわよね?絶対にダメだからね?」

「・・・わかっているさ。ただ、こうして目の前で自分が大事にしている子らが死に絶える様を見るのは気分が良いモノではないなと感じたまでだ。」

「・・・そうね。ヨスミの目の前で竜種が亡くなったのはエヴラドニグス以降かしら。」

「そうだね・・・。本当に、見ていて気分の良いモノじゃない。」


その後、それぞれの気持ちが落ち着くまで数十分の時間を費やした。

ドヴァたちは己の負った傷で立っているだけでも精一杯なはずなのに、アーマルや部下たちを手厚く埋葬した。


ヨスミは怪我が酷い者は<転移>で3階層へと送り届け、まだ動けそうな者たちと共に防壁の前に立つ。


「それでこの壁をどうやって突破する?なんなら僕がこの壁の向こうへと送ることもできるが・・・」

「それならば大丈夫だ。この印章を壁に押し当てれば・・・。」


ドヴァが懐から何かを取り出し、それを壁に当てると突然光だし、大きな門の輪郭をなぞるように光が走ると轟音と共にその形の通りに扉が開いていく。


左右の壁の中に埋め込まれるように開いたそれはアーマルも入れるほどの大きさの入口となった。


「うわ・・・急に大きな入口ができてるんだけど・・・」

「驚いただろう!さあ、みんな急いで入ってくれ。この入口は長く開いてはくれねえ。」


ドヴァが皆を急いで中に入るように催促し、ヨスミ達はアーマルを引き連れて防壁の通路へと進んでいく。


その後、全員が通路を抜けて防壁の外へと出ると通路となっていた入口はまたもや轟音と共に塞がっていった。


完全に入口が閉ざされ、先へ進もうとすると突如として兵士たちがヨスミを囲う。


「貴様ら!一体どうやってここにきた!」

「待て兄弟!俺だ、ドヴァだ!!」


ドヴァが急いでヨスミ達よりも前に出て兵士の1人に声を掛ける。

するとその兵士もドヴァの存在に気が付いたのか、驚いたような表情を見せるとすぐさま部下たちに武器を下ろす様に指示を出す。


「まさか、本当に救援が来るとは・・・!しかもドヴァ、おめえが来てくれたのか・・・!」

「ああ。だがここに来るまでに6割も失っちまった・・・。すまねえ・・・。」

「いや、無理もねえよ。あの魔物どもは俺たちの手には負えねえ相手だ・・・。俺だって部下のほとんどが奴らの犠牲になっちまった・・・!・・・ともかく、来てくれて感謝する。まずは外の状況が知りたい。奥で陛下が待っている。ついて来てくれ!」


そういって部下をそれぞれ配置に戻し、1人の副官と思わしきドワーフと共に王宮の中へと入っていった。


「ヨスミ、アイツは俺の親友でエルディンだ。頑固な奴だが、炎よりも熱いドワーフよ!さ、いくぞ。」

「ああ、」


エルディンの後を追うようにヨスミたちは歩き出した。

王宮の中は兵士たちが行き交っており、怪我を負った兵士や住民たちを介抱したり、崩れた瓦礫の撤去作業を行っていた。


広場ではドワーフらの炊き出しも行われているようで、皆絶望したような表情で列に並んでいる。

偶に外で聞こえる爆音に酷く怯えた様子を見せていた。


正直、ここはかなり深刻な状態であると見える。

外にはあの魔物たちがまだいると恐れ、いつあの防壁が突破され、中になだれ込んでくるかわからない恐怖に身を竦ませている。


そんな様子を目にしながら、ヨスミ一行は気が付けば現王がいるであろう広間に通じる大きな鉄扉の前にやってきていた・・・――――――。



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