そんな登場の仕方はどう見ても正義の味方だよ。
ミミアンの事を忘れ・・・ゲフンゲフン。
彼女の行動について一部抜けている部分があったので追加しておきました。
「3回目の鐘の音・・・、後1回で予定時刻ってところか。」
未だに鳴り響く鐘の音を聞きながら今日の予定を脳内で整理していく。
「あ、いたいた~!ヨスミ~・・・と、あれ?」
そこへ空から降りてきたのは用事があると言って出かけていたフィリオラだった。
降りてくるなり、見かけぬ2人の方をまじまじと見る。
「あんたは確か・・・あの脳筋バカの息子かしら?」
「はははっ!リオンハルトだ!竜母殿、お初にお目に掛かるぞ!」
「そしてあんたは・・・あー、『戦争屋』なんて呼ばれてる冒険者だっけ?」
「ほぉ~、あんたに認知されているとは思わなかったぜぇ?」
「あんた意外にあんなきっしょい・・・生物とさえ定義してもいいのかと思えるほどの醜い召喚獣を支配している召喚士は見たことがないんだもの。」
そう言いながらレギオンへ向ける視線は酷く気持ち悪いモノを見るようなものだった。
どうやらフィリオラはレギオンについて色々と知っているようだ。
彼が操る召喚獣については酷い印象を持っているようだが・・・
そもそも生物と定義してもいいのかどうかなんて疑問を抱くほど、レギオンが召喚する魔物は醜いモノなのだろうか?
僕が知る限りだと、数百人に未知のエネルギーを無理やり注入し、許容限界を超えた場合の反応を観察していた際にそのほとんどが原型を留めないほど肉体が膨張し、手足や指先も破裂寸前まで膨れ上がった結果になったことがある。
他にも個々が持つ未知のエネルギーの保有量を無理やり拡張した際は、それに伴って肉体さえも連動するかのように風船のように大きく膨れ上がっていった。
特に女性にそういった反応が多くみられ、子供たちは体が耐え切れなかったのか一人残らず破裂してしまった。
男は膨張はこそするものの、破裂することはなかった。
だが体の内側は一つ残らず全てが破裂し、見た目は膨張していたが中身はドロドロに溶けてしまっていた。
あれらの姿を『人』として定義していいのかどうか迷ったが、とりあえずは僕は『人』であると定義した。
他者から見ればただの肉塊にしか見えなくとも、僕だけはその肉塊が元々は人であると知っている故にそう結論付けた。
そこから僕は何かを定義する際、そのモノの本質を知っているか否かで有無を決める事とした。
例えばそこらへんに転がっているただの石ころは他人からしたらそこら辺の石ころではあるが、その石ころをご神体の一部が欠けて落ちた『神石』、いわゆるパワーストーンであると知る者はそれをただの石ころだと定義しないだろう。
最も何にもないただの石をパワーストーンだと偽る者はどの時代にもいるわけだが。
「なんでここにいるのよ?」
「はははっ!冒険者ギルドに張られたAランクの依頼を受けてきたのだ!ついでに俺の武器も新調しようと思ってな!ドワーフの作る武器ならば、俺の思う通りの相棒に仕上がるはずだ!」
「こいつのついではさておいて、冒険者ギルドはこの事を重くとらえてるみてぇでよぉ。俺様たちに確認されていない未知なる魔物の出現あり。これらの調査。また危険と判断した場合は即座に討伐のご協力をお願いする!なんて手紙を依頼書と一緒に送ってきたんだぜぇ?証拠に・・・ほら、これだぁ。」
そういってレギオンはフィリオラに一枚の紙を渡し、それを受け取ったフィリオラはじっと見つめる。
確かドヴァがそんなことを話していたな。
第6階層で未知の魔物が出現し始め、それを討伐して名を上げるために冒険者たちが集まるようになってきたとかなんとか。
ここにいる2人もそんな名声を得るためにきたわけか。
「・・・なるほど、冒険者ギルドでは結構危険視しているみたいね。」
「はははっ!そのようだ!なんせこの依頼を受けて無事に戻ってきた者は誰もいないからな!」
「大体廃人になっているか、体の一部が焼け爛れているかだもんなぁ?それでAランクの中でも俺様たちにお声が掛かったってわけよぉ?」
「まあ、あんたたち2人の実力は確かだからね。納得はするけど・・・」
どこか不満げな視線を2人に向け、軽くため息を吐いた後にさっきの様子とは打って変わって真剣な眼差しを向ける。
「わかっているとは思うけど、くれぐれも気を付けなさい。詳しくは言えないけど、未知の魔物はあなた達の想像しているものよりもかなり危険な存在よ。もし危険だと判明したならばすぐに撤退なさい。いいわね?」
「はははっ!それは出来ぬな!他の冒険者たちには手に負えないが故、俺たちに指名が掛かったのだ!それゆえ俺たちまで逃げてしまえば誰がこの依頼を解決できるというのだ!早急に解決できなければ、これによって被害を受けている民は更に苦しい思いをさせるだろう!故に!俺たちに撤退という二文字は―――」
「あいよぉ。命あっての物種だしなぁ。勝てそうにないと判断したらこいつを無理やり引き摺ってでも逃げてやるよぉ」
「ない・・・なんだとぅ!?それはできぬ!」
「あー、はいはい。こいつのことは心配しねえでくれ。俺様の子分たちを使って撤退してやるぜぇ?」
「レギオン!おのれ、貴様!お前には力を持つ者としての義務を果たそうという志は持ち合わせてないのか!」
「あたりめぇだろうが!死んだらそこで本当に終わりなんだよぉ!そんなこともわからんのかこの脳筋がぁ!」
2人は突然言い争いをはじめ、そしてついには互いが互いの得物を抜いて実力行使を取る事となった。
「はははっ!今日こそ貴様に打ち勝ち!俺が正しいと証明してやる!」
「やれるもんならやってみろ!最も、俺様に勝つなんて100年早いがなぁ!」
「・・・とりあえず僕たちはドヴァたちが舞っているところへ向かおうか。もうすぐで4回目の鐘がなるころだろうし。」
「え、ええ・・・そうですわね。それじゃあみんな、ヨスミ様の近くに集まってくださいまし!」
レイラが皆へそう声を掛けると仲間たちはヨスミの傍へ近寄り、ヨスミは必要以上に抱き着いてくるフィリオラやハクア、ネレアンの頭を順々に優しく撫でると、その場から<転移>した。
「おや、ヨスミ。ようやくきたか!」
集合場所から少し離れた場所に<転移>で移動した後、ルーシィをレイラの影へと忍ばせてからみんなで歩いて向かっていく。
すでにそこにはドヴァたちが準備をしている最中だったようで、アーマルたちの装備の調整、荷物等のチェックを行っていた。
そこへヨスミが姿を現した途端、アーマルたち全員が目を輝かせてヨスミの元へと向かっていった。
中でもヨスミらを乗せて移動するアーマルがより嬉しそうにヨスミへと顔を擦り付けてきた。
「ほーらほら、よしよし。待たせてすまないね。ほら、みんなも持ち場に戻りなさい。」
「「「「「キュルルルぅ!」」」」」
順々にアーマル達の頭を優しく撫でていき、撫でられたアーマルは嬉しそうに大人しくドワーフ兵らの元へ戻っていった。
「そろそろ出発するのか?」
「いや、まだだ。でも隊員たちの準備が終わり次第、降りる予定だ。それと・・・―――なんだ!?」
―――ドゴオオオォォォン!!!
ドヴァと話している最中、後方の方でとてつもないほどの爆音が響き渡る。
一瞬、鐘がなったのか?と錯覚に陥ったが、爆音が響いた場所の方面にある建物に気付いてからはその原因が何であるのかはすぐに察しがついた。
「なんだなんだ!?」
「ああ、気にしないでくれ。僕の知り合いの冒険者たちが手合わせしているだけだ。」
「そ、それにしたってこの轟音はいくら何でもおかしいだろう!?」
「あれでも衝撃を緩和させる結界が張られているんだけどね~・・・。ほんとやりすぎよ。」
そうぼやくフィリオラを宥めながら、ドヴァへ出発を早めるよう伝えた。
「・・・わかった。おめぇら!準備を急げぇ!」
そう言ってドヴァは隊員たちの所へと戻っていった。
残されたヨスミたちは、アーマルに荷物を載せていき、その背中へと乗る。
ヨスミを乗せたアーマルは嬉しそうに立ち上がり、それに続くようにフィリオラたちを乗せたアーマルも立ち上がる。
「よし、おめえら!準備はできたな!それじゃあ・・・」
―――ドガァァァアアアアン!!!
「なんだ、まだ・・・」
「いや、違う。これはあの2人の戦いの余波じゃない。」
「はっ!?ならこれは・・・いや、この轟音は俺たちの方がちけぇな・・・まさか!」
そういってドヴァは下層に続く巨大な主柱の穴を見る。
直後、その穴から巨大な火柱が上がると同時に無数の悲鳴が響き渡る。
一体何が起きているのか状況を確かめようとすると、穴から何十人ものドワーフたちがアーマルに乗って次々と出てきた。
だがその大半が酷い火傷を負っており、またアーマルたちはドワーフを送り届けるとそのまま息絶えていく個体が大半だった。
「イリア、あの子たちを回復させてくれ。ハルネはレイラを守ってくれ。フィリオラとハクアは周囲を警戒。特に穴から出てくるであろうその火柱の元凶に注意してくれ。ルーシィは影の中でディアネスを守ってくれ。」
「うちは何すればいいの?」
「君は周囲の警戒を。もし穴から魔物が這い上がってきたら容赦なく殺してくれ」
「はーいよ!」
仲間たちに的確な指示を飛ばし、ヨスミは穴付近にいるドワーフたち全員を安全な場所まで<転移>で移動させ、周囲には無数の<転移窓>を展開し、またその穴の中にも幾つかの<転移窓>を展開させる。
それら全てを目の前に表示させ、すれら全てに目を通す。
そこでわかったのは、穴からは今までに見たことのない何かが這い上がってきている様子だった。
「フィリオラ、ハクア!下層から何かが這い上がってくる!迎撃できるか?」
「任せなさい!」
『まっかせてなのー!』
フィリオラとハクアは翼を広げて飛び上がり、穴へ向かうと何かを目視したようでそれらに向けて強烈な熱線を放つ。
展開させた<転移窓>で確認すると、2人の熱線は下層から這い上がってくる何かに直撃したようで壁を上っていたソレは熱線を受けてそのまま下層へ落下していく。
だがその代わりに別の何かが這い上がってくる様子が見える。
フィリオラとハクアは続けざまに熱線を放射して穴から這い上がってくるソレらを撃墜していくが、その時、下から伸びてきた2本の火柱が上がってくるとそれは一直線にフィリオラとハクアへと伸びていく。
フィリオラとハクアは回避行動を取るが、伸びてくる火柱が突如として避けた先へと機動を変えてくる。
「うそ・・・!?」
『あっ!』
2人は急いで両翼で目の前を覆い、防御態勢を取るが2人が当たる直前に<転移>で別の場所へと移動させて攻撃を回避させた。
「無事か?」
「あ、ありがとう、ヨスミ・・・助かったわ。」
『オジナー・・・ありがとなのー・・・!』
「油断はするな、どうやら4階層から正確に撃ち抜くような奴がいる。」
しかしどうしたものか。
なんとか3階層に上がってこようとする奴らを撃墜できてはいるが、この調子だと・・・。
その時、ヨスミの背後から一人の影が通り過ぎていった。
そして耳に残るような聞き覚えのある豪快な笑い声が周囲に響き渡った。
「はははっ!ようやく会えたな!未知なる魔物たちよ!今よりこの俺、リオンハルト・ワン・ヴェラウス公子が・・・―――――相手になる!!」