この時代だからこそできた友、とでもいうのか?
いや、本当に誰だよお前らは・・・
「いや、本当に誰だよお前らは・・・」
「はははっ!心の声がそのまま口に出ているぞ!」
むっちゃ暑苦しい。
大学の時に見た、まさに体育系のやつそっくりだな。
いや、そっくりじゃなくそのものなのか。
「それで、一体僕たちに何の用だ?」
「はははっ!俺はただ強い者との闘争を求むのみだ!故に男!俺と勝負してくれ!」
そう言いながら肩をがっしりと掴んでくる。
だが僕の勘は、こいつからは一切の悪意は感じ取れない。
それに嫌だよ、めんどくさい・・・
「嫌だよ、めんどくさい・・・。」
「はははっ!男!またもや心の声がそのまま口に出ているぞ!」
苦手だ、こういうタイプは心の底から苦手だ。
なんでもかんでも筋肉に任せて強靭な精神を纏わせることが出来れば不可能など何もないと信じ切っている。
同族嫌悪とかいう奴だろうな。
僕だって、ドラゴンという非現実的な幻想生物を生み出せるなんて不可能を覆すために、ただただ出来ると信じ貫いてきたおかげであの子たちを生み出せたんだ。
ただ僕とこいつの立つ道が違うというだけで、ほぼ隣にいて共にまだ真っすぐな道を迷いもなく突き進む。
決定的に違うのは僕は人の道を外れ、こいつは人としての道を歩んだという所だ。
「それにどうして僕だけに言うんだ?この場には僕の他にも実力者がいるんだ。特に僕の隣にいる嫁なんか圧倒的だぞ」
「あ、あなた・・・!」
「はははっ!確かに女の実力は素晴らしい!俺のこの体にもヒシヒシとその強さが感じ取れるぞっ!」
「なら・・・」
「だがダメだ!その女は俺に勝てないだろう!俺が圧勝してしまうぞ!」
男がそう言った瞬間、ヨスミとハルネが同時に武器を抜き、男の首元へと迫る。
「貴様・・・僕の嫁を侮辱するならば容赦はせんぞ・・・?」
「レイラお嬢様を侮辱した罪・・・万死に値します・・・!!」
「はははっ!すまぬが俺が間違った事を言ったつもりはないぞ!女の太刀筋、その出で立ち、目配り、体の動かし方、呼吸の間隔、足の運び方、どれをとっても真っすぐ過ぎるのだ!確かに女は強い!が、その全てにおいて正直すぎる立ち回りだけじゃダメなのだ!おそらく今まではそういった部分を力と機敏さで補ってきたのだろうな!故に!俺には勝てん!」
その瞬間、レイラはまるで図星を付かれたかのようなばつの悪い表情を浮かべる。
そしてハルネまでもがその男の言葉に心当たりがあるのか斧を持つ手が微かに震え、表情も若干苦しそうに見える。
恐らく、僕がレイラから離れていた時に何かしらあったのだろう。
・・・僕自身も、レイラの精密過ぎる剣術の太刀筋には些か疑問を感じていた。
何よりもこの男はレイラの実力を認めたうえでその欠点を言葉にし、自分に勝てない理由を明確に言い放った。
見る目だけはあるな。
ハルネとヨスミはそっと武器を収める。
「・・・そうですの。以前にも同じような事を言われましたわ。わたくしの正確な剣術の型だからこそ見切られやすい・・・と。まさかあなたにまで言われるとは思いませんでしたわ、リオンハルト公子様。」
「・・・ん?レイラ、知り合いなのか?」
「ええ・・・、デビュタントの際に挨拶を交わした程度ですわ。彼はリオンハルト・ワン・ヴェラウス公子。皇帝陛下に仕える公爵家の1つ、ヴァラウス公爵家の一人息子ですわ。ちなみに歳はわたくしと同じですの」
「!?!?」
ば、馬鹿な・・・!?
この成で、レイラと同じ歳だと・・・!
「25歳前後にしか見えん・・・」
「はははっ!よく言われるぞ!」
だが皇帝に仕える公爵家の1人、あのユトシスの父ってことだよな?
どれぐらい歪んだ皇帝なのやら・・・。
それにそんな皇帝に仕えている公爵家なんだよな・・・?
「ちなみにヴェラウス公爵家は皇帝陛下とは血縁関係で、弟君になるのですわ。ただ、ヴェラウス公爵様は誠実な御方ですの。ダーウィンヘルド皇国唯一の良心とも囁かれておりますわ。」
ぼそっとレイラが耳打ちで教えてくれた。
レイラがそう言うならば恐らく大丈夫だろう・・・。
しかし・・・、
「なぜリオンハルト公子はレイラの事を覚えていなかったんだ?」
「はははっ!別に覚えていなかったわけじゃないぞ!ただ強き者にしか興味がなかっただけだ!」
あー、なるほど。
デビュタントしたばかりの頃のレイラは恐らく、グスタフ公爵によって閉ざされた心の扉を開けられるようになって間もないころだったのだろう。
故に、まだレイラの実力はそこまで高くなったからこいつに覚えられていなかったのは仕方がないと。
「ふざけるな・・・、こんな可愛くて美しいレイラと一度でも会えば忘れるわけねえだろうが!」
「あ、あなた・・・っ!」
思わずブチギレてしまった。
事実、初めて会った時からレイラを忘れたことは一度もない・・・!
「はははっ!それはすまなかったな!当時の俺は俺より弱いヤツには一切興味がなくてな!それに女にうつつを抜かしている余裕があるならば鍛錬あるのみだ!」
「・・・はあ、お前がどういう人間なのか理解できた気がする。それで、隣のお前は?」
「おぉ~、ようやく俺様に触れる気になったかぁ~!」
そういいつつもどこか気怠そうにしている彼は細めていた目をそっと開け、ヨスミ達を一瞥する。
「でも俺様には名前がないからさ~、君たちに名乗るようなことができないんだよねぇ~。だからごめんねぇ~?」
・・・こいつはこいつでなんだかむかつく奴だな。
だがその時、ハルネがそっと耳打ちで教えてくれた。
「彼は確か【戦争屋】と呼ばれているAランクの冒険者です。彼は元々捨て子のため、誰も彼の名前を知らないとされ、彼の戦いぶりからはそう呼ばれるようになったのを期に自分でもそう名乗るようになったとか。そして彼は4人目の【Sランク】の冒険者と噂されているほどの実力を持っているとされています。」
捨て子・・・、孤児ってことか。
そういった子供らは孤児院などに入れられていることが多いイメージではあったが・・・。
まあ孤児院にすら入れずに生きざるを得ない哀れな子供たちも少なからずいる。
そういった子等には決してハイライトされず、誰も知らずに死んでしまうことが多い。
それなのに彼はそんな境遇の中でも息抜き、そこまでの地位を己の力で勝ち取ったのであれば彼の努力は血が滲むどころじゃなかっただろう。
正に己の生存を掛けた戦いを子供の頃から繰り広げ、己の魂をすり減らしてでものし上がった。
「ならば、レギオンと呼べばいいか?」
「そういうこと~。まあ、ここについてすぐに俺様の相棒がどーしてもあんたと戦いたいって聞かなくてなー。」
・・・ん?
ということは今朝、ドヴァが言っていた2人はまさかこの2人か!?
「ちなみにここにはどうやってきた?」
「はははっ!もちろん泳いできた!」
「俺様は子分に乗ってきたぜ~?」
間違いない、頭がイカれた移動をしてきたのはこの2人だ。
「この町に着いた瞬間に、”強き者の気配がするぞっ!”なんて騒ぎ始めてよぉ~。仕方なく空を偵察させてあんたを見つけたってわけ。すまないけど、一度だけで良いから相手してやってくれねぇかな?」
そう頼みこんできたレギオンの表情からは一切悪びれていない様子だった。
「ちなみにどうして僕なんだ?」
「はははっ!決まっているだろう!お前に勝つ想像が見えなかったからだ!見えなければ実際に戦ってみればいい!そういうことだ!」
「どういうことだよっ!?」
「はははっ!ちなみにお前以外だとその隣にいる白いドラゴンにはギリギリ勝てる!が、その頭に乗っているドラゴン!お前、強いなんてものじゃないな!無理だ!勝てん!!どーやっても勝てんな!」
『むー・・・、わたしもそう思うのー。多分わたしが負けるのー・・・悔しい!』
『大丈夫だよ、ハクアちゃん・・・!私と一緒に、強くなろ・・・?』
・・・ドラゴンを見ても嫌な顔をするどころか、どこか尊敬の眼差しを向けている?
「人間なのに、ドラゴンへの偏見はないみたいだな?」
「はははっ!それは当たり前だろう!強き者は尊敬せなばならない!ドラゴンは総じて強い!強すぎる!そんな幼体であっても俺は瀕死の重傷を負ってやっと勝てるのだ!故に!俺はドラゴンをリスペクトするのだ!」
「・・・リオンハルト公子。」
ヨスミはそっと手を差し出した。
リオンハルトはその意図を組み、ヨスミの手をがっしりと握り返す。
この瞬間、2人の間に熱い絆が結ばれたのは言うまでもないだろう。
「僕は君と言う人間を誤解していた。どうか許してほしい。」
「はははっ!その謝罪、受け入れよう!」
「わたくしも、あなたと言う人間を誤解しておりましたわ。ドラゴンは我が子、我が子らをリスペクトするあなたをヴァレンタイン公爵家は良き隣人として迎い入れますわ・・・!」
「はははっ!光栄なことだな!これからもよろしく頼む!」
もう片方の手でレイラとも熱い握手を交わす。
この瞬間、ヴェラウス公爵家とヴァレンタイン公爵家の間に決して切れぬ熱い友好関係が築かれたのは言うまでもないだろう。
その後、場所を移して近くのカフェテラスにやってきていた。
そこで軽く親睦会のようなものを始めていた。
まさかリオンハルト公子がここまでマナーに徹底しているとは思わなかった。
あの体付きからして、全てが豪快な振舞いをするものだと思っていたから、逆に礼儀正しくする彼の姿に驚きを隠せずにいた。
本当に人は見かけによらないんだな・・・。
「はははっ!ヨスミ殿、例え口に出さなくとも心の声が聞こえてくるようだ!」
「そりゃあすまない・・・。」
「はははっ!別に構わないさ!こんな成りだ、勘違いされるのには慣れている!だがそれよりもなぜその子は影の中に隠れたままなのだ!」
そういってレイラの影を差す。
レイラはヨスミの方を向き、ヨスミもまたレイラの視線に頷きを持って返した。
「・・・ルーシィ、出てきていいわよ。」
「*****・・・。」
そういってレイラの影からルーシィが姿を現した。
一応深いローブを被り、顔を隠してはいるがその背中に生えている翼と尻尾、また隠したフードから見える2本の角は誤魔化しきれない。
「はははっ!悪魔族の子か!通りで女の影から強き者の気配が感じられたわけだ!」
「****・・・?」
「大丈夫ですわ、ルーシィ。彼はあなたを悪魔族だからと好奇な視線を向けたりはしませんですわ。」
そういってレギオンの方を見てみるが、依然と変わらぬ反応を見せていた。
「ん?俺様は別に何とも思わんぜ?なんせ俺の子分たちは悪魔なんかよりも醜い容姿をしているからなぁ?だが驚きはするぜぇ?悪魔なんかに初めてお目に掛かれたわけだしなぁ。」
「まさか今朝、空を飛んでいた肉片のようなものは・・・」
「ああ、それ俺様の子分。遠くでもわかるほど気持ち悪いだろ?」
「いや、ああいったモノは見慣れている。別に気持ち悪いなんて思わないよ。」
「へぇ~・・・。」
そういってレギオンはそっぷを向き、お茶を飲む。
「はははっ!強き者の気配を感じ、更には容姿まで美しいときたか!今はまだ幼子のようだから俺が勝てるな!」
「*****//////」
「その言い方だと、数年後には負けるなんて言い方だな?」
「はははっ!その通りだ!さすが悪魔だ!どれほど肉体を鍛えようと!精神を鍛えようと!己の限界に達しようと!壊せぬ壁はあるものだ!」
「そんなことはない。」
「なぬ!」
この時、いつものように笑いから入るリオンハルト公子は口調を変えてヨスミの方を見る。
彼の瞳からは確かな覚悟と決意が全身を貫くように感じられる。
「リオンハルト公子、どんな時も諦めなければ壊せない壁なんて存在しないんだ。最後の最後まで諦めずただひたすらに己を信じ続け、己を支えてくれた物を信じ貫いて殴れば例えそれが神の作った巨壁だろうと砕くことができる。僕がそうだったように、な。」
「ヨスミ殿・・・」
『そーだよ?パパはすごいんだから・・・!』
ヨスミを掩護するようにネレアンがそう呟き、嬉しそうにヨスミに抱き着く。
そんなネレアンを優しき撫でるヨスミの姿を、リオンハルトはただじっと静かに見つめていた。
「・・・そうか。そういうものか。」
「ああ。だからリオンハルト公子、何事もまずは己は出来ると自分を信じることから初めて見ると言い。そしたら見えてくるはずだ、自分を支えてくれる誰かの存在がいることに。そして今度は彼らを信じる。そうすれば、その足は決して折れず、止まりはしないだろう。そしたら後はそれらを歪めず、信じ貫けばいい。」
「その集大成が、ヨスミ殿・・・なのだな。」
「まあそういうことだ。」
リオンハルトはただじっとヨスミを見続け、そして豪快に笑う。
「はははっ!そうかそうか!では猶更ヨスミ殿と手合わせしたくなってきた!まだ時間はあるのだろう!」
「ああ。この近くに冒険者ギルドが管理する演習場があるみたいだ。そこで。」
「はははっ!さっそく行こうか!」
そしてヨスミは全員を連れて冒険者ギルドの演習場へと<転移>した――――――。