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誰だ、こいつ。いやマジで・・・


「【眷属】・・・ですって?」

『はい。前回の【眷属】・・・えと区別のために【古獣の王】様の体内で戦った【眷属】の名を『魂を刈る者(リーパー)』と勝手に名称させていただきます!』


リーパー、つまりは『死神』ってことか。

確かに魂に固執し、【古獣の王】の性質を利用して獣人たちの魂を弄んだ者の名としては間違いないだろう。


「ああ、それで構わない。それで『魂を刈る者』と今回感じ取った【眷属】についての関係性が何かあるのか?」

『はい。本来【古獣の王】は対眷属用に師匠が作り出した存在だったみたいでそのために彼らの気配を感じることができるらしいんですけど、長らく体内に『リーパー』が居座り続けた結果、その存在を精密に感じられるみたいで、今回お爺様たちがおられるドワーフの国の地下深くに同じような気配を感じられると仰っております。』


なるほど、確かにその話の筋は通る。

となると最近になって活発化している火山活動はもしや・・・


『お爺様が今思考されている通りかと。外からでも火山が今にも噴火しそうな勢いですので、おそらく噴火と同時に【眷属】が目を覚ます可能性が高いと思います!』

「なるほどな・・・。ジェシカ、本当に君は有能な孫娘だよ。」

『えへへ!ありがとうございます!』

「そっちの修行が終わり次第、僕たちと合流しようか。そしたらお前にはなんでも願いを一つ叶えてあげるよ。僕が出来る範囲で、だけど」

『本当にですか!!』

「なんでも願いを一つ!?」


とここでレイラまで声を上げて驚いていた。


「・・・レイラ?」

「わ、わたくしも・・・その、願いを一つ・・・」

『お爺様!私のことは大丈夫なので、お婆様のお願いを叶えてあげてください!』

「だ、だがジェシカ・・・」

『もうお爺様!私の事を大事に思ってくれる気持ちはとても嬉しいです。でも、何よりも優先すべき人がお爺様の隣にいることを忘れないでください!』

「ジェシカ・・・。」


レイラが思わず潤んだ声でそう呟く。


まさかジェシカに説き伏せられるとは。

全く、あの子は良い子過ぎるな。


「わかった。ならば、ジェシカとレイラの2人に・・・」

「ちょっと待ったぁー!」


とそこへどこからか話を聞きつけて起きてきたであろうフィリオラが話に割り込んできた。

この時点で彼女が何を言いたいのかはすでに理解できた。


「・・・わかった。皆の願いを一つ、僕が叶えられる範囲で叶えるよ。」

「話が早いわ!ふふ、盗み聞きしていて正解だったわね・・・。それじゃ私はちょっと出かけてくるわ!」

「え?あ、ああ。」


そういって嵐のようにやってきて嵐のように去っていったフィリオラ。

てっきり僕はこの場で何かを御願いするモノだと思っていたが、どうやら大事に取っておくつもりらしい。


『さすがお爺様、太っ腹ですね!』

「全く・・・。それで他に何か情報はあるかい?」

『いいえ。ただ・・・気を付けてください、お爺様。今回の【眷属】はどうにも嫌な予感がするんです。』

「大丈夫だ。なにせ、今回は僕がいる。」

『あ、そういえばそうでしたね!よーし、私も早く<霊魂魔法>を習得してお爺様たちに会いに行きますね!』


そういってジェシカからの応答は消えた。

一息ついていると大きな足音と共にドアを勢いよく空けてドヴァが部屋に入ってきた。


「おう、ヨスミ!おはようさん!」

「ああ、おはようドヴァ。3層への出立はいつ頃だ?」

「4刻後にしよう。今は3層に繋がる主柱は冒険者たちや商人らでごった返しになっているはずだ。」

「ああ・・・未知なる魔物が出てきたとか言っていたな。」

「そうだ。その魔物を討伐し、名を上げようなんて冒険者たちが後を絶たんでな。今日も新たに2人の冒険者が外から新たにやってきたんだ。専用の船を使わず、1人は召喚獣を利用して、もう一人は泳いできたとかほざきやがる・・・。」


あれを泳いできたって?

いやいや、さすがにそれは無理なんじゃないか?


有毒ガスが漂っていない海域ギリギリまで船で来てそこから海中へと潜り、息継ぎなしで海底洞窟を抜けて<ゴルディオン港町>まで行くとなると人の身じゃ1時間はかかるぞ?


しかも途中には魔物たちの生息区域を通るから、戦闘になるのは確実だ。

短く見積もっても1時間と30分はかかる計算で、それを生身でやってきたとでもいうのか・・・?


もしそれが本当なら脳筋以上のバケモンじゃねえか・・・。

もしかしてそれも魔法で何とかなるものだろうか?


「外の奴らは一体何をどうやったらそんなことが出来るようになるんだ?」

「僕に聞かれても答えようがない・・・。」

「<水魔法>を用いれば、海中でも息ができるようになりますわ。また<闇魔法>の<変異魔法>を使って海中生物に変わって移動すれば問題ありませんですの。」

「ただし、海底洞窟の中は魔物たちの生息地があります。なので<変異魔法>は候補から外れます。また海中で息が出来るようになるといってもせいぜい1時間程度が限度でしょう。私たちは【古獣の王】様を利用して移動したために戦闘は一切行っておりません。なので単純に考えて1時間分の移動の後に海中洞窟で魔物たちと戦闘しながら<ゴルディオン港町>にたどり着くとなると最低でももう1時間ほどは魔法無しの純粋なる身体能力でたどり着く必要があるかと。」

「やっぱりばけもんじゃねーか!」


思わず突っ込んでしまった。

僕がまだ生きていた時、人類が酸素も必要とせずに水中にもぐり続けられた最長時間は35分だったか。


その少し前は24分が限界で、医療等が発達し、人間の身体機能もある程度高まった状態でも35分が限度だった。


しかも体を動かさず、ただじっと耐えている状態でだ。


「・・・やっぱりどう考えても人としては考えられん。」

「あ、もしくは海中での移動がとても速かったとかですの・・・?」

「そうだな・・・、さすがにそうとしか考えられない。」


まあ、もし本当に純粋なる身体能力だけで移動してきたんなら、一度は姿を拝んでみたいものだ。

人間の限界を超えた超人に・・・。


「とりあえず、今から4回目の鐘が鳴り響いたら3層へ向かう主柱前に集合してくれ。1層の時にも話したが、時間を過ぎたら俺たちはそのまま時間通りに降りるからよ。」

「わかっているよ。それじゃ、また後で。」


おう!と返事を返し、ドヴァは部屋を出ていった。

ここには太陽がないため、時間を図ることが難しい。


それ故に各階層には必ず1時間ごとに鳴り響く巨大な鐘の塔が3つ建っている。

しかも中々に正確な作りで7時~21時、きっかり1時間ごとに鳴り響く。


そして未だに鐘が鳴り響いていないので、出発は10時ということになる。

とりあえず3時間ほどは余裕があるからどうしたものか。


「あなた、良かったらわたくしとこの町を散策でもどうかしら?」

「ああ、それもいいな。それじゃあ僕も準備してくるよ。」

『んむ・・・オジナぁ・・・?』


僕のすぐ近くで小さく蹲るハクアを優しく撫でながら起こす。

そしてすぐ隣で寝ているネレアンの体を優しく撫でながら声を掛けて起こすと、洗面所へと向かうと服を脱いで汗を流す。


鏡に映った自身の体を見る。

そこにはレイラやフィリオラ、ハクアにネレアンから引き受けた傷痕があった。


そしてその傷は徐々に小さく、薄くなっていく。

あの白い神にこの健康的な体にしてもらってからというもの、傷の治りが非常に高い。


おかげでこうして傷を受けても数日経てば目立たなくなるから気付かれることもないため、その辺りは感謝していた。


だが、ネレアンが受けたというあの深い傷跡は未だに大きく残ったままだ。


忌々しい・・・。

僕の大事な娘にこんな傷を付けやがって・・・。


この体を持ってしてもなかなか治せないような傷をあの子は抱えていた。

その苦しみが、怒りとなって体の奥底から沸々と湧いてくる。


・・・落ち着け。

このくだりを何度繰り返すつもりだ?


鏡でこの傷を見る度に同じような事を何度繰り返してきたんだ。

そろそろ冷静にならねば・・・。


ヨスミは急いでシャワーを済ませ、タオルで体を拭くとハルネが用意してくれたであろう服を手に取り、着替えていく。


肌に優しい生地で出来ているのか、傷痕に触れてもなんら痛みはない。


恐らくハルネはこのことに気付いているんだろうな・・・。

傷を癒すんじゃなく、傷を引き受けることを。


じゃなきゃこの生地で出来上がった服を用意なんてしないはずだ。

本当にどこまで周りが見えているのやら・・・。


その後、準備を終えたヨスミはネレアンを頭に乗せ、ハクアを傍で共に歩きながらレイラ達と共に外に出た。


このドワーフという国ではドラゴンという存在は親しまれているようで、こうして連れ歩いていても露骨な目線や態度を剥き出しにしてくる者はいなかった。


今まではハクアはローブに姿を変え、ネレアンは念のためにベルトへと姿を変えていた。

だがこうしてありのままの姿で外に出れることは2人にとっても気持ちがいいのだろう。


他の国では厄介事や面倒事を避けるためにハクアには窮屈な思いをさせてしまっていたが、次からは構わない事にしよう。


もし絡んでこようものなら容赦なく叩き潰せばいいだけだ。

我々が下手に出る必要なんかどこにもありはしないのだ。


僕は、僕の道を行く。

それを邪魔するのならば、排除するまでだ。


楽しそうに歩くハクアの表情を見て、ヨスミはそう決意した。


「ハロォ~」


その時、不意にヨスミ達の前に姿を現した2人の姿があった。

1人は目が細目で、まるで狐のように狡猾そうな表情を浮かべている。


そしてもう一人は一言で言えば『脳筋』と言い表せるほどまでにゴツく、ロングコートをまるでマントのように羽織る軍人のような成りをしていた。


彼はまるで張り付けたような笑顔を一切崩さず、


「お前、強者だな!!」

「・・・誰だ、こいつ」


突然大声でヨスミにそう言い放った彼に思わずそう言い返してしまった――――――。





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