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やっぱり僕の推測は正しかったか・・・?


僕は急いで2人を<転移>で送り返した。

だがすでについてしまった炎を消すには、あまりにも盛大に燃え広がってしまった。


「ヨスミ・・・」

「はい」


そう迫りくるミミアンの瞳からは光は失われ、ただただ怒りと呆れた感情が感じられる。

・・・故に、僕は今の彼女に逆らう事なんてできない。


「パパとママを呼んだり、送り返したりできたってことはうちを今すぐ2人の元に送れるなんて造作もないわよね?」

「はい」

「今すぐうちをあの2人の元に送って。」

「はい」

「ちょっとミミアン!」


そこへディアネスを抱いたままレイラが話に割り込んできた。

だが彼女の意図はミミアンもわかっているようだ。


「安心して。そのまま帰るわけじゃないから。ヨスミ、うちを送ったら5分で戻して。」

「はい」


ミミアンの圧に凄まれ、一切逆らうことなく淡々と返事を的確に返し、そしてミミアンの要望通りに2人の元へミミアンを<転移>させた。


「ね、ねえあなた・・・?」

「彼女なら大丈夫だ。様子でも見てみるか?」

「違うわ。あなたのことが心配なんですの・・・。あんな離れた距離の2人を正確に、居場所まで知り得た上で<転移>なんて・・・体、特に頭への負担は大きいんじゃないんですの・・・?」


ああ、そうか。

この子は親友のことは信頼し、そして真っ先に僕の心配をしてくれる・・・。


どこまでも僕の事を大事に思ってくれているんだな。


「・・・ああ、それならば大丈夫だ。ありがとう、レイラ。そしてごめんな、心配かけた。」


そういって僕は彼女をそっと抱き寄せ、頭を優しく撫でる。

ディアネスの頬に指を添わせ、小さな天使の御機嫌も窺うようにそっと指で撫でた。


「ぱぁぱ、むりはだぁめ!」

「そうだな。気を付けよう・・・。」


その後、指定通りの時間が経過したところでヨスミはミミアンをこの場に<転移>させた。

彼女は曇りなき笑顔を顔に浮かべ、何もかもがすっきりしたような表情を浮かべていた。


「あー、すっきりした!さ、レイラ!早く<ドヴェルムンド>に行くっしょ!」

「え、ええ・・・。あ、でもまずはこの宿屋で休憩ですわよ!それじゃああなた、わたくしたちは先に行っておりますわ。」


ミミアンに連れられ、ハルネを共にしてレイラとディアネスはその場を後にした。

ヨスミはそっと<転移窓>にてあの2人がどうなったのかを確認しようとしたが、横からそっと伸びてきたフィリオラの手に遮られる。


「見なくてもいいわよ、ヨスミ。さ、私たちも行くわよ。」

「はい」

「さっきからそれしか言ってないじゃない・・・。どれだけあの子の気迫に圧されたのよ・・・」

「はい」


フィリオラは大きく頭を抱え、竜尾を顕現させるとヨスミの体に巻き付けて持ち上げ、そのままレイラたちの後を追うように宿屋の階段を上がっていった。


レイラとはまた違う気迫に驚いた。

近頃の若い子たちはこうもあんな恐ろしい瞳を持ち合わせているのか、僕にはびっくりだよ。


その後、ヨスミたちは宿屋で一日を終え、時刻は早朝・・・と言えるだろうか。

町を覆う結界は未だに光を遮断している。


僕の体内時計は早朝4時を示しており、未だに隣ではレイラとディアネスが気持ち良さそうに眠っており、フィリオラたちも目を覚ましていない。


「・・・今回は3時間程度か。まあまあ長く眠れた方か。」


研究に没頭していた時、要所要所に短い仮眠を入れることで睡眠をとる必要はなくなった。

ただしその分、仮眠だけで補う際にどうしても体の負担はどうしてもかかる。


故に、15~30分の仮眠を取るつもりが1~2時間ほど眠っていたことが最初の頃にはよくあった。

目覚まし時計やアラームを掛けた所でそこまで効果はなかった。


だが1か月、半年、1年、5年と続けていけば人間は慣れてしまう。

慣れてしまえばこっちのものだ。


そして僕は、アナスタシアを生み出すまでそんな生活を続けてきた。

慣れてしまった習慣というのは中々に抜け出せない。


我が娘たちを生み出した後も、この世界に転移してからも同じだった。


同じようにベッドに横になり、瞼を閉じる。

だが意識はずっと覚醒したままだ。


瞼を閉じれば、その裏に見えてくる景色は幸せだと感じた記憶。


優里と過ごした日々、我が娘たちと過ごした日々。

そして今は、この世界で旅した家族たちの日々・・・。


いつの日からか、僕は安眠できるようになった。

それは、レイラと体を初めて重ねたあの日からだ。


あの日、僕は久々に心休まる眠りを迎えられた。

今は以前のように深い眠りに付く事はなくなったが、代わりにレイラの寝顔をずっと堪能できるわけだからな。


ある意味ではこのような習慣になったことのメリットともいえる。

いや、最大のメリット・・・か。


窓の外からは未だに光は差してこない。

部屋の中は暗闇が支配している中、僕の隣で健やかに眠るレイラの頬にそっと手で触れる。


「うぅん・・・」


彼女は嬉しそうにヨスミの手を握り返し、胸に抱くようにして眠る。


「こりゃあ暫くは離してくれなさそうだ。」


僕はもう一度ベッドに寝そべり、僕の手を抱きしめながら眠るレイラの寝顔をより近くで堪能する。


何時間だって見ていて飽きる事はない。

むしろ、何時間、何週間、何年間だって見続けられる自信がある。


レイラの顔に掛かる前髪を優しく手で払いのける。

彼女の額に口づけをし、そのまま彼女の寝顔を眺めることになった。


それから2時間、僕はずっとレイラの寝顔をいつものように見続けていた。

窓の外が明るくなり、部屋に光が差し込むとレイラの顔に当たると彼女の眉が微かに動き、瞼に力が入る。


「ん・・・っ、あら・・・あなた?」

「おはよう、レイラ。」


瞼が開き、中からコバルトブルーの澄み渡る青空が顔を覗かせる。


「あなた・・・、今日もあまり眠れなかったんですの?」

「いや、そんなことはない。ただ僕が早く起きて君の寝顔を独り占めしたかっただけだ。」

「も、もう・・・!あなたったら、わたくしの寝顔を見て何がそんなにいいんですの・・・?」

「全てさ。君の寝顔は万病に効く。一日1回は必ず見ないと不幸になるほどだ。」

「わたくしの寝顔1つでそんなレベルの効能をもたらすんですの・・・!?」

「もちろんだ。」


驚きを隠せない様子のレイラを見て微笑みながら、未だに夢の中にいるディアネスを起こさぬ様に体を起こすと洗面所の前にはすでにハルネが待機しており、彼女にレイラを託すとヨスミは窓を開けて外の空気を取り込む。


外の様子をじっと眺めているとすでにドワーフたちが活動を開始しているようでパンを買いに出かける夫人たちの姿が目に入る。


この辺りはごく普通の風景なんだな。

ただ種族が違うというだけで結局同じような生活がこうして繰り返されている。


「どこも同じ・・・。種族が違うだけで、根本的には同じ生命体ってわけだ。ん?」


ふと上空に違和感を感じ、目を凝らして見てみる。


「・・・何か、飛んでる?」


はっきりとは見えない。

だが何か肉片のようなものが大きな翼を広げて飛んでいた。


そしてその何かの背中に誰かが乗っている。


「なんだ・・・?」


それは突然と消えた。

いや、見えなくなった・・・?


周囲に<転移窓>を展開し、詳細を確認しようとするがどこにもその姿はなかった。


「あなた?どうしたんですの?」


そこへ身支度をし終えたレイラがハルネと共に洗面所から出てきていた。

すでに服も着替え終えていたようで、いつもの洋風のアーマードレスではなく、東洋の民族衣装・・・あれは浴衣?いや、着物か。


黒い布地に青と紫色のアジサイのような刺繍がされている鮮やかな着物が彼女の黒髪とコバルトブルーの瞳とマッチしており、とても美しく見える。


「今日はドレスではないんだな。とても綺麗だよ、レイラ。」

「ありがとうですわ、あなた。ここで過ごすにはあのドレスはとても着ているものが多くて暑いんですのよ。コルセット、ボリュームパリエ、アンダースカート・・・。」

「通気性抜群な布地であってもそれだけ重ねて着ているんなら確かに限界か。いや、それに加えて装甲まで付けているわけだからすごいよな。その状態であんなにも機敏に動けるのはすごいと思うぞ。努力のたまものってやつだな。」

「うふふ・・・。これでも美しく見せたくて何重にも服を重ねるだけ重ねて、見栄だけを張って・・・。でも、あなたの前ではそんなことしなくても、こうしてわたくしを愛してくれるんですもの。おかげで物理的にも、精神的にも重荷が無くなりましたわ。」


確かに物理的にも重そうだったもんな、あのドレスは。

確か今、公国だと専属のドレスデザイナーであるマダム・マークリンが現在レイラのために最高の衣装を作っているという話だ。


その時、ふと耳元にジェシカの声が聞こえてきた。


『おはようございます、お爺様!』

「おはよう、ジェシカ。」


ジェシカは今、【古獣の王】の体内に残っている。

なんでも【古獣の王】の提案で、ジェシカに<古代魔法>を教えている最中だそうだ。


ネレアンの出された修行内容に加え、【古獣の王】の<古代魔法>を同時に覚えることにジェシカの負担が大きくなってしまうのではないか?と心配していたが、ジェシカ自身もそれを強く望んでいることもあり、そのまま体内に残って<古代魔法>の習得に励むこととなった。


まあ僕の<転移>があれば、ジェシカに何かあってもすぐに僕たちの元に移動させられる。

そしてジェシカの近くに<転移窓>を設置し、僕の耳に同じような<転移窓>を展開させているのでこうしていつでも会話もできる。


「あら、あなた。ジェシカから連絡がきているんですの?」

「ああ、ほら・・・。」


レイラの耳にも同じように<転移窓>を展開させて、ジェシカの連絡を共有させる。


『あ、お婆様!おはようございます!』

「おはようですわ、ジェシカ。こんな朝早くにどうしたんですの?」

『はい!それが、ベヒモスメナス様が教えてくれる<古代魔法>・・・<霊魂魔法>の習得ももう少しです!』


<霊魂魔法>は<闇魔法>と<水魔法>の複合属性というもので、今は失われてしまった。

というのも、この魔法が扱えるのが【古獣の王】だけでそれを扱えるものは誰一人としていなかった。


だが・・・、ジェシカが現れた。

<水属性>の適正に秀でている彼女ではあるが、他の属性にもある程度の適性を持っている。


また彼女の魔力操作の技術はネレアンお墨付きの実力だ。

更には【古獣の王】が、<霊魂魔法>の継承ができると話してくれたのだ。


なので暫くの間、ジェシカは魔力操作の鍛錬に加え、【古獣の王】の体内にて直接<霊魂魔法>の会得に集中することとなった。


「まだ離れて数日しか経ってないのに、もう会得できそうなのか?」

『はい!筋が良いと褒められました!後は師匠の鍛錬に合わせて続ければ後4日で継承できるそうです!』

「まあ!さすがわたくしたちの自慢の孫娘ですわ!」

「それで、途中報告のためだけに連絡を寄越したわけじゃないんだろう?・・・何があったんだい?」

『さすがお爺様です!えと、これは私じゃなくて【古獣の王】様から聞かされたお話なんですが・・・なんでも地下深くで・・・


―――――【眷属】の反応が感じられたそうなんです・・・。』



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