アーマル・・・、いわゆるキモ可愛いって奴だな!
「キュルルルウ・・・」
「これが、アーマルか・・・。」
僕の眼の前にいるのは、昨晩にドヴァから話を聞いた騎獣のアーマルがいる。
というのもドヴァの案内の元、こうして騎獣がいる竜舎へとやってきていたのだ。
昨日にドヴァから聞かされた見た目通りのアーマルがそこにいた。
確かにモグラと蜥蜴を足したような容姿だな・・・。
騎獣・・・、だがその骨格が近い動物を挙げられるとすれば、コモドドラゴンが挙がるだろう。
それを何倍にも大きくし、目は退化しているようでかなり小さめだ。
また鼻の形状は豚のように丸く、可愛らしい形をしている。
眼が退化しているから視覚には頼っていない。
足の裏には小さな穴のようなものが開いているから、おそらく地面の振動と嗅覚、そして聴覚が発達しているのだろう。
また後ろ足に比べて前足の鉤爪と水掻きのような膜が付いている。
これは恐らく地面を潜ったり、外敵を追い払うための武器に違いない。
そしてアーマルにはドワーフ特製騎獣アーマーが装着されているが、その下にある外皮はまさに甲殻や鱗と言っても過言ではない。
ドヴァに許可をもらってその外皮・・・甲殻に触れた時に感じたあの感触はまさに鎧そのものだ。
そしてその体の奥に感じられる温かな力・・・【ドラゴンマナ】と呼ばれるモノか?
「お、おいおい旦那・・・こりゃあ一体どういうことでぇ・・・!?」
「ん・・・?」
ふと振り返ってみるとそこには竜舎にいた全てのアーマルが退化した目をキラキラさせながらヨスミの事を見ていた。
仕方ないので一匹一匹の頭や顎下、首あたりの甲殻辺りを優しく撫でまわすことにした。
「まさかうちのアーマルたちが一瞬にして懐いただなんて・・・」
「隊長、こりゃあ懐いたわけじゃねえです。」
「じゃあなんだ?懐く以外の表現以外にこれをどう説明する?」
「・・・やっと帰ってきた親に甘える子、とでもいえばいいんですかいな。」
「は?なんだそりゃ・・・」
竜舎でアーマルを世話していたドワーフたちは困惑し、その内のリーダーであるギヴォンという名のドワーフがドヴァの元にやってきて、信じられない様なものを見ていると言った感じでそう告げる。
「昨日からずっとアーマルたちの様子がおかしい理由はこれだったんですかいな・・・」
「まあ確かに俺のアーマルもそわそわしていたがよぉ・・・。姐さん、こりゃあ一体どういうことなんです?」
「秘密よ。まあ、その内教えるわ。今は・・・ただ見守ってあげて頂戴。あんな風に楽しそうにしているヨスミの姿は久々に見たの。だから今はそっとしておいてあげたいの。」
「・・・そうですかい。」
ヨスミが楽しそうに【アーマル】たちと触れ合っているところにディアネスを抱いたレイラがやってくると、2人の臭いを嗅ぎ始めたアーマルたちは2人の臭いを認識したようでとても嬉しそうに体を摺り寄せてきた。
3人はとても楽しそうにアーマルたちの触れ合いを堪能していた。
「まったく、本当に旦那は何者なんだか。昨晩での推察といい、今日のアーマルたちの様子といい・・・。こりゃあ、サラマンダーたちに会わせたらとんでもねえことになりそうだなぁ・・・」
「隊長・・・!」
ドヴァの元へ一人の兵士が慌てた様子でやってきた。
「どうした?何があった?」
「これを渡す様にとのことで・・・へい。」
そういって兵士は一枚の手紙を差し出した。
ドヴァはそれを受け取り、封蝋に入れられたエンブレムを見て顔を訝し気た。
恐る恐る封を切り、折り畳まれた手紙を広げていく。
そこに掛かれた文章を静かに読み進め、全てを読み終えたドヴァは再度手紙を折り畳めた。
「はあ・・・、こりゃあ深刻だな。」
「隊長、何が書かれてあったんです?」
「先日俺が送った文書の返答だ。それに加えてサラマンダーたちの様子に異変が出てきたと・・・。それに・・・、おそらくこっちが本命だ。」
「・・・といいますと?」
「招集の命令だ。今すぐに帝国へ集まるように・・・だそうだ。」
そう話すドヴァの表情はどこか険しかった。
昨晩、ヨスミという人間と会話した内容が影響してのことだろうか。
【炎の化身】・・・、伝承で語り継がれる魔物。
俺がまだガキんときから、親父たちに言い聞かせられてきたおとぎ話・・・。
まさか、本当に実在するとでもいうのか?
それを知りえる者は王となられる者と代々王に仕えてきた元老院の者たちのみ。
王となる高貴な血なんてものは俺たちにはない。
己の技術力と実力があれば、誰だって王になれる。
それ故に伝統だのしきたりだのそんなもんは知らねえ。
だからこそ元老院らがいて、彼等から代々受け継がれてきた伝統としきたりなんかを教わる。
そして、王としての役割を教えられる。
何のために王という役割があり、何のためにこの帝国を維持しているのか。
現王であらせられるデュガスノフ・アイアン・アクスフェル王は王座についてからというもの、ある日を境にこうして職人たちやらを集め始め、狂ったように武器や防具の製造に取り掛かり始めた。
あの日とは、現王が元老院に連れられて宮殿の深層へ立ち入り、神聖なる儀式を執り行って以降のことだ。
それから現王は変わられた。
「ここにはこの港町の警備を維持するためだけに数名だけ残し、我らは帝国へ移動する。誰を残すかはお前が決めていい。準備しろ!」
「はっ!」
ドヴァから命令を下された兵士は駆け出していった。
残されたドヴァは天井に流れるマグマの地脈を見る。
その後、竜舎の方へと視線を落とすとそこには今まで見たこともないほどまでにヨスミたちに甘えるアーマルたちの変貌した姿があった。
ヨスミとレイラに全力で甘えており、だが一方ディアネスには平伏しているかのように頭を垂れているように見える。
「本当にあの人間たちは何者なんだか。」
「・・・あなた?どうしたんですの?」
「なんだか騒がしいなと思ってな。あたりの様子を眺めていたんだ。」
アーマルの喉元を優しく摩りながらレイラの問いに答える。
ドヴァがあの兵士から文のようなものを受け取ってから兵士たちの動きが慌ただしくなったように見える。
「確かに・・・どこか兵士たちの動きが慌ただしく見えるのですわ。何かあったのかしら・・・」
「なんだろうね。まあ、僕たちに被害が及ばなければなんでもいいさ。もし僕たちに危険が及ぶようなことならば・・・」
「あなた」
「ア、ハイ」
またもや釘を刺されてしまった。
本当にレイラには逆らえないな・・・、
まあ逆らう気もないし、むしろ彼女のためならばなんでもしてあげるつもりだ。
彼女の望むものは何もかも・・・。
「ヨスミ~?ダメよー、そんな物騒な顔してたら。それに便乗して他の子たちも殺気だっちゃうでしょー?」
突然フィリオラに声を掛けられ、周囲を見渡すとヨスミ達を庇うようにアーマルたちが取り囲み、わずかに殺気立っていた。
「ああ・・・、すまない。ほら、僕らは大丈夫だから。」
「・・・キュルル?」
「ああ、大丈夫だ。」
優しくアーマルの首に手を置くと、アーマルは嬉しそうに喉を鳴らす。
するとそこへドヴァが複数の兵士を連れてやってきた。
「すまねえ、旦那。そろそろ俺たちゃ帝国に行かにゃならんくなった。だからアーマルたちを返してくれねえか?」
「何かあったのか?」
アーマルたちを優しく撫でながら、ドヴァたちの元へ行くように諭す。
アーマルたちはヨスミに頭を擦り付けた後、ドヴァたちの元へと向かっていった。
ドヴァたちは自分の所に来たアーマルらを優しく撫でながらヨスミたちに事の経由を話す。
「帝国から文が届いた。帝国より帰ってこいとな・・・。おそらく、これから何かが起こるのは確かだ・・・。まあ、まずは俺らの装備の一新からだろうな。それでヨスミ。お前たちはどうするよ?俺たちと一緒に帝国までくるか?そしたらサラマンダーには会え―――」
「行こうかっ!」
「―――る・・・・、ほんと迷いがねえな!がーっはははは!ならば、アーマルに乗れ。」
「それじゃあ・・・」
「キュルルルゥー!」
ヨスミがどのアーマルに乗ろうか振り返ると、全てのアーマルがその白い目を輝かせながらこちらを見ていた。
「こりゃあ困ったな・・・」
「あらあら、あなたったらモテモテですわね。」
「あはは・・・。ごめんな、お前たち。1人しか一緒に行けないんだ。きっと恐らく危険な事にも巻き込まれるだろう・・・。それでも僕と共に居てくれる子は・・・」
「「「「「「キュルルルゥー!」」」」」
・・・全員と来たか。
僕と共にならば死も厭わないと・・・。
それは、勘弁願いたい。
死を共に迎えるのではなく、死なぬために生にしがみ付いてもらいたい・・・。
この場にいる誰も死んでもらいたくはないものだ。
「キュルルルゥ・・・」
そこへ一匹のアーマルがやってきた。
僕が一番最初に触れた子、一番最初に目に掛けた子でもある。
「・・・そうか、じゃあ君にお願いしようか。」
「キュルルッ!」
アーマルは嬉しそうに首を持ち上げ、高らかに声を上げて鳴いた。
「あはは!そうかそうか!僕も嬉しいよ!これから暫くは宜しくね!」
「キュルルゥ!」
「そして、僕の大事な家族たちを乗せてくれる子たちもお願いしてもいいかな?」
「キュルル!」
そしてアーマルたちの中でより屈強で戦闘経験が豊富な子たちがそれぞれレイラたちに付いてくれた。
アーマルは頭を垂れ、体を寝かせると鞍に足を引っかけて跨り、しっかり座るとアーマルはゆっくりと立ち上がる。
ヨスミとレイラにディアネス。
そして、ミミアンとハルネにフィリオラ。
ハクアはヨスミのローブと化し、ネレアンはベルトのような装飾品として形を変えている。
「それじゃあ、出発するぞ。目指すは<帝国ドヴェルムンド>へ!」
そしてヨスミたちを乗せたアーマルたちは<ゴルディオン港町>を出立した。