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私と彼女のお忍び旅行・・・違いますっ!


コツンッコツンッコツンッ・・・


皇宮の廊下に響く、ヒールの音。


1人のメイドを従えた容顔美麗なる1人の令嬢、いや令嬢というには彼女が着ているドレスの装飾された華麗さがそこらの令嬢とは一線を画すほどの目立ちようだった。


そのドレスこそまさに彼女の為に作り出されたといっても過言ではないほど。

しいていう成れば、そのドレスは彼女の美貌、一切無駄のない優雅な体付きに若干劣っているという所だろうか。


まるで人形かと見間違うほど、彼女の表情に一切の揺らぎはなく。

ただただ無表情を貫き、その優雅な足取りで廊下を進んでいく。


すると向こうから、何人もの令嬢を侍らせている一人の男がやってきた。

彼は彼女に気が付くと、ニタリと口角を大きく歪ませ、早足で彼女の元にやってきた。


「おぉ~、これはこれは我が愛しの妹オリヴィアではないかぁ!」

「・・・ごきげんよう、麗しのフォッカスお兄様。」


とても悠長な口調で話すフォッカスと呼ばれた男は大袈裟な身振りを取りながら、オリヴィアと呼ぶ容姿端麗な彼女の元へと現れた。


そして肩に腕を回し、もう片方の腕でオリヴィアの顎を掴み、クイッと持ち上げる。

だがそれでも彼女の表情は一切変わらない。


「・・・つまらんなぁ、お前は。だがその分、お前が被っているその仮面を引き剥がし、愉悦に歪む表情を拝める日が待ち遠しいものだぁ・・・。」

「・・・お戯れが過ぎます、フォッカスお兄様。私たちは皇族であり、血が繋がった兄妹でもあります。そんな身内相手に欲情するなんて、下品の極みです。」

「所かまわず女を部屋に入れては乱れた行為をし続けたユトシス兄さんのことはいいのかぁ?それに俺は欲情しているわけではないのだよぉ・・・。ただ、美しいモノが好きなだけだ。欲情真っ盛りな猿同然のユトシス兄さんと一緒にしないでほしいなぁ・・・?故にぃ?俺はお前がほしいのだよぉ・・・。なんならぁ、別に生きていなくても構わない。・・・むしろ死んで剝製に・・・おっとっと。」


オリヴィアに付き従っていたメイドが溜まらずオリヴィアとフォッカスの間に割って入る。


「そんなに睨むなよぉ、ビビアン。」

「フォッカス第二皇子殿下、これ以上はオリヴィア皇女殿下への侮辱と捉え、実力行使に出る必要があります。」

「お前のその美しい剣舞は俺も非常に高く買っていたんだがなぁ?なぁぜ俺の誘いを断って” 人形皇女 ”なんかに付いてしまったのやら・・・。まあいい。ではな、我が愛しの妹オリヴィア。」


そういってフォッカスは後方で待機している令嬢たちの元へ戻り、彼女らを侍らせながらその場を去っていった。


残されたオリヴィアは表情こそ一切変化はしていなかったが、よく見ると彼女は強く拳を握っており、ワナワナと震えていた。


そんな彼女の手を優しく取り、落ち着かせるように彼女の前にしゃがみ込む。


「オリヴィア皇女殿下、大丈夫ですか?」

「・・・ええ。私なら、大丈夫・・・。ありがとう、ビビアン。」

「いいえ、礼を言われるようなことはしておりません・・・。」


ビビアンはそっと手を離す。

先ほどまで震えていた拳は落ち着きを取り戻していたようだった。


そしてまた何事もなく、ヒールの音を鳴り響かせながら廊下を歩いていく。



・・・・ユトシスお兄様、一体どこに消えてしまったのですか。

なぜ、帰ってきてくれないのですか・・・。


どうして、あんなにも変わられてしまったのですか。

あんなに優しかったユトシスお兄様に、一体何があったのですか・・・。



目的地などはない。

ただ、自身の心に渦巻く感情の波を抑えるために、ただ、気を紛らわすために・・・。






「見えてきたな。<ムルンコール港町>・・・」

「あれが・・・」


ユトシスとユリアを乗せた船は、海を渡り続けてはや数日。

目的地である<ムルンコール港町>へとたどり着いていた。


最初、レイラたちを援助するために<獣帝国タイレンペラー>へ向かう際、<ヴァレンタイン公国>に設置されている<長距離移動型転移門>を使い、同盟者であるフォートリア公爵家に直接移動したのだ。


だが<長距離移動型転移門>を使用する際、要求される魔力量はAランク冒険者ほどの魔術師の平均魔力量から、10~20人は必要とされるほどだ。


それをグスタフ公爵たった一人で何とかしてしまうわけだから、あの人の強さは計り知れない。

正に【Sランク冒険者】の名に恥じぬ実力の持ち主・・・。


彼の剣技は決して見えない。

その赤き刀身を抜いたかと思えば、すでに体中は切り刻まれており、死を迎えているという。


それは彼の振るう剣舞は決して人の目には見えぬもの。

深淵の中で振るわれていると言われており、目に見える彼の姿は幻影とされ、実際の彼は人智には決してその目に映さぬ【深淵】という空間を渡り、相手を切り刻むとされている。


そんな彼に畏怖の念を込め、何時しかこう呼ぶようになった。


【深淵渡りの剣聖】、と・・・―――。


【Sランク冒険者】にはグスタフ公爵のように、人々から畏怖や敬意、賞賛などを込められた別称が付けられている。


最年少で【Sランク】になったグスタフ・フォン・ヴァレンタイン公爵は先に述べた通り。


そしてダーウィンヘルド皇国にいるとされる4大公爵が一つ、ヴェラウス公爵家現当主であるアーカム・ワン・ヴェラウス公爵。


彼の放つ一撃必殺の拳はありとあらゆる敵を粉砕し、敵だけではなく城さえも吹き飛ばすとされる。

そんな彼に付いた別称は―――【一撃破魂の神拳】。


最後の1人は存在こそ確認されてはいるが、放浪癖があるのか一か所に留まることは決してない。


故にこれといった情報は出回らないのだが、幾つか判明している情報だとまず” 絶世の美女 ”であること、” 天才的頭脳 ”を持ち合わせていること。


そして” 不老不死 ”とさえ囁かれている。

理由は、彼女が目撃されたのが勇魔大戦のとき、そして何世紀にもわたって彼女を目撃した者らは口をそろえてこう言った。


「歳を取らず、決して変わらぬ容姿を持つ、うら若き美女だった、」と。

また彼女は一貫して<火魔法>のみを使っていると言われ、彼女の放つ火はまさに太陽が如く・・・


故に付けられた名が、【原初の火を紡ぐ魔女】とされている。


その称号を受け継いでいるのではなく、彼女ただ1人を指すその名は、何時しか恐怖に変わりつつある。


・・・私も、その噂を聞いて国中を探し回ったことがある。

だが結局お目に掛かれることはなく、その足取りさえ掴めなかった。


彼女を探し続けて数年が経ち、最終的には断念した・・・そのような記憶がある。

彼女を見つけ出したら何をしていたのかだって?


・・・そんなもの、聞かないでくれるとありがたいな。


フィリオラ様に浄化される前の私は女性に狂っていたんだ。

その狂いっぷりは異常を期すほど、毎日3~5人は自室に呼び込んで己の欲望のために痛めつけたり、欲情のまま嬲ったり・・・。


・・・ああ、今思い出すだけでも吐き気が。


「・・・うぉえっ」

「ゆ、ユトシス皇子殿下・・・!?大丈夫ですか?」

「ああ・・・、私なら大丈夫だ。少し前の事を思い出して自己嫌悪しているだけさ・・・」

「あー・・・」


ユーリア公女も何かを察したのか、これ以上何も言わず、ただユトシス皇子の背中を摩り続けた。


それから数時間後、ようやく<ムルンコール港町>へとたどり着いた船。

ここまで運んでくれたフォートリア公爵家の従者に礼を告げ、お礼として賃金のいくらかを差し出すが彼は首を横に振り、「そのお金でお隣にいる方を射止める努力をなさってください」と返され、呆気に取られている内に船は<ムルンコール港町>から遠ざかっていった。


「ユトシス皇子殿下?」

「・・・え?あ、ああ・・・。それよりもここからは慎重に行動しないといけない。」

「はい。ヨスミお兄様が” この町は危ないから気を付けるように ”と言ってましたね。確かこの町を牛耳る裏組織の・・・」

「【灰かぶりの無法者(デスペラード)】。彼らの非情さはダーウィンヘルド皇国にも耳にするほどだったね。」


だが、あの身内贔屓の塊といってもいいと言われるヨスミ殿がこの町を壊滅させていないところを見ると・・・温情でも掛けたのか?(いいえ、無理やり気絶させられて強引に船を出向させました。)


あのヨスミ殿にも身内以外を思いやる心があったなんて驚きだ。(いいえ、気絶していなければ<ムルンコール港町>は地図上から跡形もなく消えてました。)


しかし、レイラ嬢とフィリオラ様は念を押す様にこの町の危険性について話してくれた。


故に、私たちは船を降りる前に<闇属性>である<隠蔽魔法>を掛け、お互いの髪色、目の色、頭には何かしら獣人の耳を幻影で映し、私は犬獣人の耳でユーリア公女は兎獣人の耳が見えていた。


そしてその上から分かりにくい様に深めのローブを羽織り、体格が分かりにくい様にしている。

ここまで徹底的にやれば、さすがに怪しまれることはないだろう。


「おい、あんたら。その深くかぶっているローブをさっさと脱いで顔を見せろ」


町中に入ろうと港を歩いてすぐガタイの良い獣人の1人に呼び止められた。

彼の目は鋭く、明らかに不審者を見るような警戒を向けていた。


・・・なぜだ!

ここまで完璧に変装したのに、なぜ警戒されるんだ・・・!


「あ、はいです。」


そういって、ユリア公女は何の迷いもなくフードを取った。

中から窮屈そうにしていた兎の特徴である細長い白い耳が現れた。


「ほら、何しているんです?ユート様。早くフードを取ってくださいです。」

「・・・へ?あ、ああ・・・リア。すまない。すぐに取る。」


ユートとリア。

これも事前に決めた偽名だ。


ユートはフードを取り、犬獣人の耳がひょこっと姿を現した。


「なんだ、同士じゃねえか。そんなフード被ってるからてっきりあの人間たちかと思ったぜ」


警戒された原因はすぐさまわかった。


「いやあ、すまないな。僕たちは駆け落ちしてきた身でね。あまり姿を見られるわけにはいかなかったんだ。」

「ユトシ・・・!?ユート様・・・!」

「へぇ~、お熱いこって。ま、気を付けろよ。」


そういって彼は2人に手を振ると別の場所に止められた船の元へと向かっていった。

すると咄嗟に2人の間に<消音魔法>の結界が張られた。


そして顔を真っ赤にしたユーリア公女はユトシス皇子に抗議する。


「ユトシス皇子殿下・・・!さっきのは一体なんなんですか・・・!わ、私たちが駆け落ちって・・・」

「ああ、その方が理由付けにもピッタリだと思ってな。そうすれば深くフードを被っている理由としては妥当だろう?いつどこで【灰かぶりの無法者】の者らに見られているかわからないからな。」

「そ、それはそうだけど・・・。」


・・・まあ、私のことを少しでも意識してもらいたいという策も無きにしも非ずなわけだけどね。

2人に掛かっていた<消音魔法>の結界が解けた。


「さて、リア。夜も遅いし、まずは宿を取って明日の朝早くにこの町を出ようか。」

「・・・はいです、ユート様。」


そして2人は夕陽を背に、<ムルンコール港町>の町へ向けて歩き出した。

だがその背に当てられているのは夕陽の光だけじゃなく、1人の視線も向けられていることに2人は気が付くことはなかった・・・―――――。



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