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うふふ・・・わたくし、やったのですわ・・・!


また、避けられましたわ・・・!

また、距離が開きましたわ・・・!!


あと一歩、一歩の距離であるはずですのに・・・!


色々なフェイントを織り交ぜても全てを見切られますわ・・・!

複雑な動作を組み入れても、全てを読み切ってきますわ・・・!


以前、あの人が言っていた一度に複数の動作を同時にこなすことができるという<複数同時処理(マルチタスク)>とかいう技術・・・。


わたくしの動きを読みながら、次に転移する先の確保、自身の体力やスタミナの管理をしながら次のわたくしの一手を読んでその対処を幾つも練っている・・・。


それらの処理を同時に、それも一瞬でこなしてくるから、一度あの人の頭を割って中身を見てみたいものですわ・・・。


でも、確実にあの人との距離は詰められている・・・!


「はぁぁぁあああっっっ!」

「っ!」


―――ガキィィンっ!


レイラの振りかぶった黒妖刀がヨスミの手に持つ青白い魔棒―――ブラックリリーに止められる。


と、届きましたわ・・・!!

ならばこのまま一気に、押し込む・・・!!


レイラのその一撃を皮切りに、ヨスミへ連撃が繰り出される。

それらをブラックリリーで受け止められながらも、<転移>でうまく躱されていく。


それでもヨスミが<転移>で逃げる度に全力で喰らいつき、完全にレイラを離せなくなっていた。

そしてとうとうレイラは、次にヨスミが<転移>する先を読んで移動し、全力で蹴りを繰り出していた。


それは見事に的中し、レイラの空を切っていた蹴りは<転移>で現れたヨスミの腹部を完全に捉えていたはずだった。


・・・だが、それさえもヨスミは読み切り、ブラックリリーで防ぎながらもそのまま吹き飛ばされる。

すぐさま<転移>で一気に距離を離しながら態勢を立て直していた。


「はあ・・・はあ・・・!」

「・・・ふう」


息は上がり、足にもそろそろ限界が来ていた。

・・・だが確かにレイラの攻撃はヨスミに届いた。


つまり、彼女の<神速>はヨスミに追いついたのだ。


たとえそれが手加減されている状態だとしても、だ。

あんな小刻みに<転移>で移動なんてせず、一気に距離を開くように<転移>で逃げればいいだけ。


それなのにヨスミはあえてわたくしの攻撃が当たるかどうか、攻撃範囲に入るかどうかの瀬戸際を常に維持しながら<転移>で一定の距離を保ちながら逃げていた。


改めて考えるとあの人の脳の処理速度、状況判断力、間合いの見極め、そういった諸々の状況を見切る能力は頭一つ、いや、二つ・・・それ以上なまでに飛び抜けている。


本来ならわたくしが動くと同時に急所を<転移>で抜き取ればいいだけの話でしかない。

だがあの人はわたくしにこうして付き合ってくれた。


攻撃ではなく、防御に徹してわたくしと対等になろうとしてくれた。

あの人の気遣い、心遣いがとても温かく感じられる・・・。


でもわたくしはその上で、あの人の瞳を向けられながら、その上でわたくしの攻撃が届いたのだ。

そして限界を迎え、倒れそうになるもいつの間にか傍に居たヨスミに抱き抱えられる。


「はあはあ・・・はあ・・・。」

「やられたよ、レイラ。君の動きを見切ることができなかった・・・。あの蹴りは凄く重かったよ・・・。」


よく見ると、ヨスミの右腕が震えていた。

その瞬間、レイラの心に大きな高揚感が沸き上がってきた。


わたくしの確かに一撃が、ヨスミに届いたことに興奮を抑えられない・・・。


「その場の戦況を見るんじゃなく、冷静にその先の戦況を読んで行動に移すなんてね。未来を読んでくる相手にはさすがの僕にもお手上げだ。しかも・・・その目、使っていない状態で先を読んだのだろう?」

「えへへ・・・。よく、わかりましたのね・・・。この瞳で・・・未来を、数秒先の、未来を視る様になって・・・そしたら、この目を使わずとも、自ずと、見えてきたんですの・・・はあ・・・。それでも1秒・・・もっと少ないですけど。」

「いい兆候だよ。この力は僕たち人間の体には身に余る能力だ。使い過ぎると体が先に壊れてしまうからね。さすがだ・・・。」

「えへへ・・・もっと褒めてほしいですの・・・。」

「レイラお嬢様・・・!」


そこへハルネが血相を変えてやってきた。

フィリオラもやってきて、レイラのガクガクと震える足に<氷魔法>で冷やしていく。


「ったくもー、お母様ったら無茶しすぎ!」

「でも・・・そのおかげで、わたくしの攻撃が、早さが・・・この人に届きましたわ・・・!」

「はあ~・・・。でもまあ、おめでとう。ようやくね。」

「ありがとう、フィーちゃん・・・。」

「それじゃあハルネ。君とレイラを部屋に移動させるから後は頼む。」

「かしこまりました。」


ハルネにそう告げると、2人を<転移>で部屋へと送り届けた。


もちろん、レイラの転移先はベッドの上である。

ついでにハルネの傍には今のレイラに必要な治療用の道具も一緒に<転移>で送り届けた。


これで大丈夫かな、と思っていたところ、ミミアンがヨスミの元へとやってきた。


「ねえ、ヨスミっち。」

「ん?どうした?」

「・・・うちとも戦ってもらってもいい?」

「君とか?僕は別に構わないが・・・」

「一つ、条件があるの。<転移>で対象に出来るのはうちと、あなた以外で。それでどういう風に戦うのか気になるの。」

「僕と、君以外にしか<転移>が出来ない状況で?問題ないよ。」

「ふーん・・・。それじゃ、お願い。」


そう話す彼女の口調と視線は真剣だった。


僕自身が<転移>の対象に出来ない。

つまり<転移>で逃げることも、距離を取ることも出来ない。


彼女に<転移>の対象に出来ない。

つまり<転移>で彼女と無理やり距離を取ることもできず、致命傷となる攻撃は出来ない。


「それじゃ、いくよっ!!」


ミミアンは離れた場所で爪を振り下ろすと、それが衝撃波となって飛んでくる。

しかもそれはただの衝撃波じゃなく、避けた空間がそのまま衝撃波となって飛んできているのだ。


それに一体どんな意味があるのかはわからないが、あれに触れたらまず間違いなくヤバいという事だけはわかる。


本来なら<転移>で逃げて避けてしまえばいいだけ。

でも今回の手合わせの条件では、僕とミミアンに<転移>の対象を取ることができない。


その状態になった場合、どうやって戦うのか・・・。

正解は・・・――――


「・・・え?うっそ!?なんでこっちに飛んでくるの!?」


ヨスミに向かっていく空間斬撃波が何故か反転してミミアンの方へと向かっていく。

つまり、彼女の攻撃の軌道を僕からミミアンに向かう様に<転移>で移動させたのだ。


ミミアンは全力で回避し、すぐさま四足歩行で距離を詰めようと駆け出すも自分に落ちる影に気が付き、ふと上を向くと巨大な岩が降ってくるのが見えた。


「ひいいぃい!?」


ミミアンは急いで反転し、回避行動を取る。

もしあのままヨスミと距離を詰めようものなら、あの大岩に押し潰されていたところだ。


別にあの大岩に押し潰されたところで黒曜毛のおかげで致命傷にはならないが、身動きが取れなくなってしまうのはわかった。


「これで・・・、え?」


だが大岩だけでは止まらず、今度は無数の木々たちがミミアンに向けて降ってきた。


「ああ、くそっ!」


ミミアンは回避行動を取るのをやめ、黒曜爪を使って降ってきた木々たちを切り裂いていく。

落ちてくる木を空間ごと切り裂いていく。


全ての木々を防ぎきり、ついでに切り裂いた空間を黒曜爪へ引っ掛けるとそれをヨスミへと飛ばそうとするが、切り裂いたはずの空間は元通りになっており、代わりにミミアンの動きを封じるように切り裂かれた空間がミミアンの周囲を取り囲んでいた。


「うちが切り裂いた空間を逆に<転移>で利用されたってわけ?」

「そういうこと。少しでも動こうとしたら君が作り出した<空間の裂け目>に触れてしまうから気を付けた方がいい。後はそこに大岩でもなんでも君の上に降らせればいいだけだけど・・・どうかな?」

「・・・・はああああああ、無理!こーさん!うちの負けー!」


その一言と同時にミミアンの周囲を囲んでいた<空間の裂け目>は全て一瞬にして消え去った。

それと同時にミミアンはその場に座り込む。


「もー、あの条件だったら行けるかなー?と思ってたのにー。まさか一歩もその場から動かさずにうちのこと負かせるなんて・・・。」

「戦いとは常にイメージが大事なんだ。柔軟な思考で物事を見極められれば、どんな苦境でも逆転できる。一つアドバイスすれば、君のその爪・・・」


そういって、ヨスミはミミアンの手を取り、爪を見つめる。


「この爪の鋭さは確かに強力な武器だ。まさか何もない空間を切り裂けるなんて、初めて見たよ。」


・・・それにすごく肉球も柔らかいしモフモフしている。


「しかも閉じるまで暫くその場に残っているみたいだし、目にも見えにくいから何も気づかずにこの裂け目に触れて切り裂かれてしまうんだろうね。それを利用した見事な立ち回りだと僕は思う。」

「そりゃどーも。それで、アドバイスってなに?」

「防御無視の貫通攻撃である君の攻撃、近距離も遠距離も自由自在。でもそのタネがわかってしまえば、避けることに専念しながら遠距離でひたすら対処されたらいくら防御力の高い君でもやられてしまうだろう。」

「はっ・・・?そんなもん、わかってるし!だからこっちがやられる前に一気に距離を詰めて暴れればいんでしょーが。」

「そうしようとして僕にやられたこと、もう忘れたのかい?」

「・・・・・。」


いじけるように顔を背けるミミアンの頭を優しく撫でる。

まるで飼い犬の頭を撫でるように優しく。


「へ・・・?」

「だからいっただろう?イメージが大事だと。まさか<空間の裂け目>を飛ばそうとしてくるなんて思わなかったけど、それだけじゃダメだ。いいかい、裂けた空間というのは何も触れた部分を切り裂くわけじゃない。裂けてしまった部分に触れた場所がその空間内へ取り込まれるから、実質切り裂かれたように見えるだけなんだ。裂けた空間に干渉できる術を君は持っている。爪に引っ掛けて飛ばそうとしてきただろう?ならば、逆にそれを利用するんだ。」

「利用するって・・・飛ばす以外にどーしろって言うの?」

「それはね、引き裂いた空間を思いっきり広げるんだよ。」

「・・・はっ?」


ヨスミの話を受けたミミアンは理解できないと言った表情で首を傾げた―――――。



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