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わたくしの速さはまだ、届きませんですの・・・!?


レイラとヨスミの戦いが始まった。

そして、フィリオラが恐れていたことも起きた。


「・・・ねえ、リオラっち。2人の戦いがまっっっっっったく見えないんだけど。」


そう、見えないのだ。


<転移>を使って、瞬間移動しまくるヨスミ。

限界を超えた速度を追い求め続け、<神速>というスキルを手に入れたレイラ。


導き出される答えは、”お互いが早すぎて常人の目に留まらない” だった。

故に、ミミアンは必死に目を凝らして見ていたようだが、2人が全力で戦い合う姿は一切見えていない。


「ねー、見えないんだけどー!」

「そんなこと言われても、私には何もできないわよ。」

「す、すごいです・・・!お婆様のあの速さを持ってしてもお爺様の姿を捉えることが出来ていません・・・!!それにお爺様は病み上がりのはずなのに、まだまだ余裕が見受けられます・・・!」


だがジェシカは2人の戦いが見えているようで、興奮しながら実況し始めた。


「え、ジェシカ・・・あなた2人の戦いが見えてるの?」

「はい。といってもはっきりとは見れているわけではありませんが・・・。」

「へ~・・・、すごいじゃん!うちなんて全然見えないわ。」

「私にも見えない・・・。でも、凄まじいことだけは、理解できる・・・。」

『そっか。パパの凄さがわからないのが、残念・・・。』

「ぱぁぱ、まぁま、すごい!すごい!」

「*******・・・」

「・・・ルーシィちゃんも見えてないんですね。」


どうやら2人の戦いが見えているのはジェシカ以外にもバハムトイリア、そしてディアネスにも見えているようだ。


話すバハムトイリアたちの口調に微かな興奮が感じ取れる。


「・・・でもね、ヨスミと戦ううえで少しでも対等な勝負が出来ていると思っている時点で、ヨスミから完全に手加減されている状態なのよね。だからどれだけお母様が本気で手合わせを願っても、ヨスミが本気になることは決してないわ。」

「え、そうなの・・・?そんなにヨスミの実力ってヤバいの?」

「ええ。言ったでしょ?ヨスミが本気を出せばここにいる全員を一瞬にして殺せるって。それこそ、試合開始のカウントダウンがあるのならば、開始と同時に死ぬわ。」

「ヨスミってただひたすら<転移>で逃げ回っているだけでしょ?それがそんなにも強いの?」

「恐ろしいのは<転移>を逃げるために使っているところじゃないわ。それを攻撃に転じさせた時が一番恐ろしいのよ。わかるかしら?」

「・・・だめ、強いイメージが湧かない。だから教えて、リオラっち。ヨスミのどこが強いのか。<転移>を攻撃に転じるといっても、うちの黒曜毛なら一撃は耐えられると思うんだけど・・・」

「・・・その一撃すら耐えられないのよ。」

「私も聞きたいです、お爺様の強さの秘訣・・・!」

『私も、パパがこうして戦う所初めて見る・・・。フィリオラちゃん、あなたが一番パパの傍で見てきたんでしょ?だから教えてほしい・・・』


どうやらリヴィアメリアとディアネスも聞きたいようで好奇心旺盛な目線を向けていた。

フィリオラは深い深呼吸の後、どこからか突然黒板が出現し、懐から眼鏡を取り出したフィリオラは静かな動作で眼鏡をかけると指揮棒を伸ばし、そして言葉を選ぶように語り始めた。


「・・・まず、ヨスミが使うスキルはたった一つ。」

「<転移>ですよね?」

「その通りよ。何をするにしても、<転移>というスキルだけを扱うわ。」

「でもリオラっち。うちはこれでも【百獣の王牙】の称号を貰った冒険者っしょ。<転移>を使う相手とは何回か相手をしたけど、あまり強いと感じたことはないんだけど。」

「それは<転移>というスキルを逃げることだけに使っているからそう感じるのよ。そもそも<転移>というスキルは自身が知っている場所、目線の先に<転移>するというのが主な使い方ね。しかし、戦闘中に<転移>先をイメージする悠長な時間なんてまずないわ。0.1秒という時間さえ無駄に出来ない死闘の中、<転移>する先の場所をイメージして飛ぶというリスクはまず犯せない。戦っている最中にイメージが固まっていない状態で<転移>した結果、地面に埋まって死んだなんてケースは少なくないもの」

「そうそう。何人かが<転移>で逃げようと失敗して下半身が半分埋まったことが何回かあったわ。」

「故に、白兵戦を繰り広げている中、<転移>を自由に扱えるという時点でまず場の状況を冷静に判断、分析できるほど頭の回転率が高いわ。でもそんな人物ほど<転移>ではなく、別のスキルを使った方がより戦いに生かせることが多いから<転移>は逃げる手段として考えることが多い。またもう一つの使い方としては、各地に設置された<転移門>へ移動するという方法。これはイメージというよりも各<転移門>から発せられるそれぞれの特徴的な魔力の波長に合わせるだけで手軽に長距離移動できるからダンジョンの探索を終えた後に重宝されるスキルとして活躍しているわね。でもその分・・・」

「魔力消費が激しいんだっけ」

「そうね。<転移門>に触れ、その魔力の波長さえ覚えてしまえばどこからでもその<転移門>へ飛べる代わりに膨大な魔力の消費を求められるわ。まあそれでも卓越した魔法使いならば問題はないんでしょうけどね。」


そこまでフィリオラが説明したが、ミミアンは首をかしげている。


「・・・うーん、なおさらわからない。ただ逃げるだけか長距離の移動に使えるだけでどうしてそこまで強いのさ?」

「ならここでヨスミの<転移>の扱い方についての核心をついていくわ。<転移>はさっきも言ったけど、一度行ったことのある場所で尚且つその場所のイメージを強く念じること、自身の視界の範囲内、そして<転移門>の魔力の波長、この3つが主に移動するための限定条件としてされてきたわ。でもヨスミが使う<転移>は移動手段として使っていないのよ。」

「移動手段として・・・」

「使っていない、ですか?」

『・・・うっわ!?もしそれならパパ、本当にえげつない・・・』

「・・・******。」

「なるほど・・・。」


どうやらバハムトイリアとリヴィアメリア。そしてルーシィは何かに気付いたようだ。

未だにはてなマークを浮かべるミミアンとジェシカにわかるように説明を加える。


「つまり、対象を『自身』から『他者』へと変えているのよ。」

「自分から、相手・・・」

「・・・え??それって可能なのですか!?」

「ジェシカっちもわかったの?!つまりどういうこと?」

「つまりですね、お爺様は<転移>で移動させているのは自分じゃなく相手を移動させているってことです。」

「・・・それのどこがヤバいって話なの?」

「さっきフィリオラ様は仰っていました。カウントダウンが終わると同時に相手を殺すことができると。つまり、相手を地面の奥深くに<転移>させて窒息死、または圧死させたり、<飛行魔法>を扱えない相手ならば超高度の位置に<転移>させて落下死を狙ったり・・・いえ、違いますね。同時に相手を殺すことができる・・・、相手の、・・・『急所』を<転移>させられる??」

「正解。」

「・・・は?」


ついにはミミアンは理解不能といった感じに聞き返し、意味を理解した瞬間一気に青ざめていく。


「・・・えと、つまりうちらだったら心臓を直接<転移>で抜き取られるって、こと・・・?」

「そういうことよ。だからミミアン、いくらあなたの黒曜毛がどれほど硬くても意味がないの」

「ちょっとそれってアリなの!?」

「実際初めて旅を始めた時、狼たちに襲われたことがあったのよ。でも襲い掛かる前に突然狼たちはその場で倒れ、絶命した。その時同行していた商人が素材を剥ぎに行ったところ・・・―――脳みそだけがなかったそうよ。」

「うえっっ・・・!?」

「ひっ・・・」

『あちゃー・・・』

「・・・・ガクッ」

「ぱぁぱすごーい!」


それぞれの反応は違うが、共通して悍ましいモノを聞いたとでも言わんばかりの反応を示した。


「それにヨスミは複数の作業を同時にこなすことができるみたいだから、戦いながら状況の把握や<転移>先、相手の動きを見ながら分析もこなしたりとそれらを平気でこなせるのよ。そんで極めつけは【王騎竜オウシュフェル】から授かった魔眼<千里眼>で辺り一帯の地形把握はもちろん、相手の弱点看破なんかも出来るわけだから・・・」

「・・・相手が例え初めて出会う猛者だったとしても、<千里眼>で弱点看破され・・・」

「<千里眼>で看破した弱点を防御不能、回避不能の一撃必殺の<転移>という直接攻撃を叩き込める・・・あー、確かにそれは無理。目くらましで煙幕張ったり、<隠密術>で姿隠しても<千里眼>で見抜かれるわけだし・・・どーしろっての。」


フィリオラの話を受けたミミアンは完全に匙を投げた。


「少し前は色々と制約みたいなものは課されていたみたいだったんだけど、今のヨスミからはそういった感じは全然出てないから、おそらくスキルが上達して進化した可能性があるわ。」

「す、すごいです・・・!<転移>をそんな風に使うだなんて・・・!で、でも<転移>を使う際には魔力がかなり消費されるはずですよね?でもお爺様からは膨大な魔力は感じられないんですけど・・・」

「そこは私も気になっていたの。んで、出た結論はヨスミが使う<転移>は私たちの世界にある<転移>とは別物だということ。」

「別物、ですか・・・?」

「じゃなきゃ、奴隷の首輪を掛けられた時点でヨスミの<転移>は封じられるはずなのに使うことができたわ。まあただで、とはいかないみたいだけど。それを聞いて確信したわ。<転移>であって、私たちの知る<転移>ではないってことが。じゃなきゃ、あんな風に何十回も、それこそ何百回も連続して<転移>がノータイムで使えるはずないじゃない・・・。」


そう話すフィリオラの表情はどこか恐怖を感じているように思えた。


「だから怖いのよ・・・。私たちの知らない<転移>を使うパパに、一体どんな代償が課せられているのか・・・。<転移>で魔力の消費という代償でなければ、一体何をもって<転移>を使っているのか・・・。その幅寄せが、いつしか恐ろしい形で来るんじゃないかって。」

「フィリオラ様・・・。」


フィリオラの表情は恐怖から悲しみへと変わっていく。

自分たちの知らない未知なる力に恐れを抱くというよりも、それによって犠牲となってしまうことへの恐れ。


過去に一度、ディアネスを救うために<千里眼>と併用しながら<転移>を使用し、倒れてしまっているのだからなお拍車がかかっているのだろう。


それを聞いたジェシカは心配そうな瞳を激しい音が響き合う、()()()()()()広場へと向けたのだった―――――。



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