またもや、引き分け・・・ですの・・・・!
ああ、胸が満たされる。
こんなにも幸福感に満たされたことはあっただろうか・・・?
・・・あるな。
この世界で未知なるドラゴンに出会う度に、子供のような僕の心はいつだって舞い上がってしまう。
本当に僕の心のチョロさには呆れてしまう。
だからといって嫌いになることはない。
この世界にはまだまだ僕の知らぬドラゴンたちがこの世界に存在する。
それだけで、僕はこの世界に転生した甲斐があったというもの。
・・・なのに。
ネレアン、なぜあの子がここにいる?
ここは、異世界じゃないのか?
この世界は現世で見た幻想世界そのものだ。
ゴブリンもいる。
街道を平気で闊歩する狼の群れさえいる。
空を飛ぶ怪鳥もいるし、肉体を持たないくせに生物のように動き回るスライムだっている。
魔法を扱う人々も、動物が人のように生きる獣人たちも。
耳がないエルフやずんぐりむっくりしたドワーフも見かけた。
それに、魔物を統べる【魔王】や人々の希望の象徴である【勇者】という存在だっているのだ。
ここは、現代世界とは異なる全く新しい世界ではないのか・・・?
異世界、ではないのか・・・?
いや、もしかしてあの爆発は僕の予想を遥かに凌駕した爆発が生み出し、ネレアンたちも死んで・・・死ん、で・・・
死・・・・。
だから、僕と同じ、世界に・・・生まれ、変わった・・・?
いや、いや・・・、違う!そんなはずがない・・・!
あの子たちは死んではいない・・・!!
・・・だが、公国で見せてくれた世界地図は、僕の知る世界大陸ではなかった。
だからこそこの世界は異世界であると確信した。
・・・なのにどうして異世界にあの娘たちがいるんだ?
しかも娘たちは皇龍なんて大層な名前で呼ばれ、【魔王】と共に【勇者】や人間たちと大きな戦争を起こしたとされ、忌み嫌われる象徴となっている・・・。
確かエレオノーラの話だと・・・。
巨大な爆発が起き、世界に存在しないはずの4頭のドラゴンが突如として現れ、世界を蝕む怪物と戦いを繰り広げたと・・・言って、いたな。
その後、人間たちに反旗を翻した理由が、僕を失った直接の原因が人間にあるが故にその怒りを抑えることができず、暴走した結果・・・とは考えられないか?
魔脈活性化前のあの娘たちなら無理だが、完全に覚醒したのであればあの娘らを止められるものは居ない。
となるとそんなあの娘たちと共に戦ってくれた【魔王】という存在は、一体・・・??
・・・確証はない。
【魔王】の正体はわからないが、他の部分については色々と辻褄は合う。
巨大爆発で魔脈が活性化し、世界と戦える力を手にしたあの子らが怪物や人間相手に前に臆することなく戦うことができることも・・・。
【魔王】という存在と共に【勇者】と全人類たちと戦えることも・・・。
そして、あのマリアンヌとかいう獣人のお姫様が言っていた【竜誕計画】がこの世界にある理由も・・・。
つまり、僕が引き起こした大爆発で、地球の奥深くに眠る魔脈が活性化し、世界に魔素が満ちた。
さらには本来の力を取り戻したあの子らだけじゃなく、消えゆくだけの存在だった神話の生物たちが息を吹き返し、姿を顕現させられるようになり、共に怪物と戦うだけじゃなく、この世界で繁栄できている理由も説明が付く。
・・・だがこの世界大陸の説明が付かない。
あの爆発でここまでの地殻変動が起きたという事か・・・?
それか、【魔王】と【勇者】の戦いでここまで変わってしまったのか・・・?
・・・わからない。
だが確かにこの異世界にいるあの子はネレアンだ。
僕の、大事な宝物なんだ。
そして、青皇龍はネレアンだとすれば赤皇龍はきっとヘリスティア、黒皇龍はメラウスで・・・
白皇龍は―――――アナスタシア。
あの子が、いるのか・・・?
この、世界に・・・?
また、僕はあの子に、会えるのか・・・??
あの子たちに、会えるのだろうか・・・???
諦めてしまったはずの僕の心の片隅に封印した、小さな希望をもう一度手にしてもいいのだろうか?
またもう一度、あの子たちをこの腕で抱きしめてもいいのだろうか?
もし、もう一度その願いが叶うのならば、なんだってしてやる。
悪魔に魂を売れと言われれば、喜んで売ってやる。
国を亡ぼせと言われれば、喜んで滅ぼしてやる。
だがまずは・・・この世界の認識を変える必要がある。
今、この異世界に存在するドラゴンという子らの立場は忌み嫌う対象とされている。
【魔王】と共に人類へ牙を向き、絶滅寸前まで追い込んだのが原因だとされているが・・・。
正直、人間なんてこれっぽっちも興味はない。
僕の大事な宝物に、欲に目が眩んだ醜い瞳を向けるクズ共など知ったこっちゃない。
・・・そうか、あの世界の生き残りである可能性があるのか。
この異世界に住む生き残り、繁栄してきた人間たちは全員、アイツらと同じ腐った血が流れているのか。
ならば、僕はもう容赦する必要はない。
この異世界が、僕の知る世界であるという確証はない。
だが僕の子らに、嫁に、仲間に、そして大事な宝物に敵意を向ける人間は一人残らず僕の、―――――『敵』だ。
あ、いや・・・待てよ?
待て、待ってくれ・・・
アナスタシア・・・お前、番がいたのか!?
そうだよ、ハクア!
あの子は白皇龍が生んだ幼竜だとフィリオラは言っていた。
つまり、アナスタシアに・・・夫が、いる?
僕の、知らぬ間に・・・愛を育み、ハクアを生んだ・・・ということか??????
娘はやらん!とかい、一度はやってみたかったのに・・・!
どこの竜とも知れぬぼんくらに、アナスタシアが惚れたということか!?!?
そ、そんなの・・・そんなのぉ・・・!!
「お父さんは認めませぇぇぇええええん!!!!!」
「ひうっ!?」
「ひゃっ!」
『パパ!?』
「きゃっきゃっ!」
「おはようございます、ヨスミ様。」
そう叫びながら飛び起きるように体を起こしたヨスミ。
そんな彼に驚き、固まるジェシカとリヴィアメリア。
驚きよりも心配そうな表情を向けるネレアンと起きたことを嬉しそうに喜ぶディアネス。
そしてハルネは至って冷静に挨拶まで返してくれた。
「え?あ、いや・・・ごめ・・・いったぁああ・・・!?」
急に飛び起きたせいか、全身が痛みのあまり悲鳴を上げた。
そのまままたベッドへ倒れ込むヨスミの体を急いで支えるジェシカとネレアン。
完璧に息の合った動きで、2人はそっとヨスミの体を寝かせる。
『パパ、大丈夫?もう起きてても平気・・・?』
「ネレアン・・・、夢ではなかった。もっとお前の顔を僕に見せておくれ。」
『えへへ、私の顔ならいっぱいみていいよ・・・!』
ネレアンはそのままヨスミの首にマフラーのように巻き付き、自分の顔をヨスミの頬に擦り付ける。
「え?バハムトイリア様のお名前ってネレアン・・・というのですか?」
「・・・バハムトイリア?なんだい、その名前は。」
ここで初めてヨスミはネレアンが別の名前で呼ばれていることに気が付いた。
『えとね、パパが付けてくれた私たちの名前って、ものすごく強い力があるんだって。それゆえに、名前を縛って配下に置くような存在から身を守るためにしろねえが私たちにもう一つの名前を付けてくれたの。』
『真名』というものだろうか。
確かそういった話を以前、読んだことがある。
特に有名なのが悪魔祓いに関しての話だろう。
人にとり憑いた悪魔を祓うには、とり憑いた悪魔の名前を聞き出し、それを聖なる言葉で縛り、出ていくように約束させるというものだ。
故に、悪魔たちは本来の名を隠して別の名で過ごすらしい。
それと似たようなものなのだろう。
・・・つまり、それなのに僕はネレアンの名前を連呼してしまったわけだが。
「・・・すまない、そんな事情があるとは思わず、お前の大事な『真名』を何度も読んでしまった。ここにいる家族は信頼できるとはいえ、いつどこで誰がこの話を聞いているか分からない。それゆえになるべくそういった秘密は隠しておくべきものを・・・」
『ううん。私、ずっと寂しかった・・・。私の本当の名前を呼んでくれなくなって・・・何千年という月日が流れたから・・・。私はまだ平気な方・・・、ずっと傷を癒すために、眠っていたから・・・。でもしろねえやくろねえ、あかにいはそうじゃないはず・・・。』
「傷・・・そうだ、傷だ!ネレ・・・バハムトイリア!お前の傷を見せてみろ!」
『ほぇ?!あ、はい!』
とバハムトイリアは自分の体についた傷をヨスミへと見せる。
塞がっているとはいえ、生々しい傷跡が体中に付いていた。
まるでこれは・・・傷だらけのレイラのように。
今にも泣きそうな表情で体に付いた傷痕を優しく撫でるヨスミに、バハムトイリアは大丈夫と言わんばかりにヨスミの手に頭を擦り付ける。
『もう大体治ってるし・・・私なら大丈夫だよ・・・。まあ、後は残っちゃってるけどね・・・。』
「・・・傷痕を治してあげようか?」
『え?それは治せたらいいなとは思う・・・。でも私の回復力でも治せないのに・・・一体どうやって?』
「こうやって、だ。」
ヨスミはジェシカに手伝ってもらいながらなんとか上半身を起こす。
そしてバハムトイリアの傷痕に手をかざすと、そこにあった生々しい傷跡は一瞬にして消え去った。
それと同時に、微かにその傷痕から感じられた痛みも消え去る。
『・・・うそっ』
「そんな・・・傷痕が、消えました・・・!」
「よし、きれいさっぱりなくなったな。」
『そんな・・・!すごい、すごい・・・!パパ、すごい!』
「そうだろう、そうだろう。」
そのために、僕はこの力をあの真っ白な神様にお願いしたんだ。
・・・にしても、かなりきついなこれ。
ネレアンはこんな痛みをずっと抱えていたのか・・・。
「本当にすごいです・・・!お爺様はまさか治癒師だっただなんて・・・!」
「それじゃあ残りの傷痕も治療しようか。」
『はーい!』
そうしてバハムトイリアの傷痕は全て消え去り、傷1つない青色に輝く体となった。
ヒレを羽ばたかせ、嬉しそうにヨスミへと体を絡ませる。
『ありがとう、パパ・・・!大好き・・・!』
「よしよし。辛かったな・・・。」
『・・・あ、パパ!ママの体も私と同じように傷だらけなの。治してあげられないの?』
バハムトイリアにそう言われ、ヨスミはそっと微笑む。
「治したいのは山々なんだけどね・・・。彼女自身がそれを拒んだんだ。」
『ママが・・・?』
「ああ。あの傷全てが彼女を作り上げた証でもある、なんて言ってね。芯が通ったような、心強いような、そんな強い瞳を向けてくれたんだ。だったら、僕に出来ることはこれ以上レイラが心身共に傷つけられないようにこの体を張って守るだけさ」
『・・・そっか。それを聞いたら私も残しておけばよかったかも・・・。』
「だからといってまた新しく傷痕を作ろうとはするんじゃないぞ?」
『・・・うんっ』
「*******・・・・」
とそこへ今まで寝ていたのか、ルーシィがぼんやりしながら部屋に入ってきた。
だが違和感が一つ、彼女は何一つ纏っていなかった。
「・・・へ?」
「・・・・!?」
赤みがかった肌だったとはいえ、それでも普通の人間に近い幼き体。
その背中と尻尾からは悪魔のようなコウモリの翼、ネズミのような細く長い尻尾。
だが何よりも特徴的だったのが、頭から生えた螺旋状になっている羊のような角に、山羊のような横長い動眼だった。
そして爪は少しばかりだけど鋭っており、燃え上がるような赤い長髪でうまく恥部は隠せていたが、それでもダメだったようでルーシィの赤みがかっていた頬は更に赤く染まっていく。
「・・・本当に申し訳ない事をした。」
何かが起きる前に・・・、僕は彼女を<転移>で元居た部屋へと送り返すことにした――――――。