あの人の愛を感じるのですわ・・・!
「どうするの?追いかける?」
「・・・ダメですわ。追い打ちかけて仲間に待ち伏せなんてことも考えられますし。今はそのままにしますわ。」
その後、襲い掛かってきた黒布の襲撃者たちを一人残らず縛り上げ、身動きできないようにした。
そして彼らの正体を知るべき、顔を覆う黒布を取り外す。
「・・・うっそ」
「なるほどねぇ~・・・。」
「でもどうして彼らがこの国に・・・」
黒布を取り外して現れた素顔は――――人間だった。
それも、ダーウィンヘルド皇国の諜報員である。
「しかもよく見れば、<暗忍>って恐れられてる皇帝直属の暗部よ。」
「なぜそれをフィーちゃんが知っているのかはともかく・・・。どうしてここにそんな奴らがいるんですの?」
「ねー、レイラ。あんた、何かやらかした?」
「・・・心当たりがありすぎて逆にわかりませんですわ」
「いや、あるんかい」
いや、実際に考えられることとしたら・・・。
「・・・ユトシス皇子に何かあった?」
「いや、すでにユトシスを<浄化>とかけて燃やし上げたでしょ。」
「それじゃん!明らかにそれじゃん!!」
「それからユトシスは全然帰ってないみたいですし・・・、息子に何かあったと勘違いした皇帝が差し向けた刺客という可能性・・・」
「そうなんですの?」
「そうなんですの!明らかにそれなんですのぉ!」
全力でツッコミを入れるミミアンを余所に、後ろから慌ててやってきたハルネはフィリオラとミミアンにバスタオルを差し出し、それを受け取ると体に纏う。
その時、縛られた襲撃者たちの方に目が向けられ、何かを思い出したかのように話し始める。
「いきなり2人が飛び出すから吃驚しました。それで彼等は・・・<暗忍>じゃないですか。」
「トーフ?トーフって?」
「遥か昔、考古学者が太古の時代に存在した<アンニンドーフ>なるものを発見したそうです。だけどそれが何なのかはついぞ突き止めきれず、ただその傍にあった説明っぽい何かによれば、”**国**千年**生**出した最強****”と書かれてあり、それを受けた考古学者がとある国に千年という歴史の間、最強と言われ続けた部隊があったのではないかと仮説を立て、それに感銘を受けた皇帝はその字ずらから<暗忍>という暗部を作り、それを表に決して正体がバレぬ様に<トーフ>なんて言葉で隠すようになったそうです。」
「あー、そうだったのね。だからそんな面白い呼び方してたんだ・・・」
「いや、リオラっち?なんで一番付き合いが長いであろうあなたが知らないわけ!?」
「だって興味がなかったんだもの。仕方ないじゃない」
「・・・・・・。」
そう言いながらフィリオラはしゃがみ込み、気絶する彼らの顔をじっと見つめる。
「・・・まあ、長い付き合いだからこそわかるところはわかるんだけどね。」
「というと?」
「質が悪くなったわ。それも、かなり。私の知っている<暗忍>の奴らだと、こんな風に誰かに捕まるなんてことは決してなかったもの。そもそも存在したかどうかさえもわからない、まさに物語の中にだけ登場する眉唾物とさえ言われるぐらい、彼等の隠密術の精度は恐ろしかったわ。この私でさえあの子たちを追うのは無理だと匙投げたことがあるし。」
「リオラっちにそこまで言わしめるだなんて・・・。そうなるとこいつらは偽物・・・」
「いいえ。こいつらは間違いなく<暗忍>の連中よ。彼らにしか使えない隠密術を使っていたんだもの。でもその精度は酷く落ちぶれているわ。言っちゃ悪いけれど、本物ならばお母様は間違いなくその首を切り落とされてるわよ・・・。だからこそ、こいつらは下の下。なまくら以下よ!」
彼女が一蹴し、気絶した彼等の表情は更にしょんぼりしているように見えた。
「それにしたって、疑問が深まるばかりですわ。なぜ彼らがここに・・・それもわたくしの命なんかを狙って・・・」
「だからさっきそれの理由わかってるじゃん!あのイケメン皇子の報復だって!」
「それで?こいつらをどうするの?お母様の命を狙ったってパパが知ったら恐ら―――」
と目の前で彼らの姿が突如として跡形もなく消え去った。
「―――くやばいこと、に・・・なったわ。目の前で<転移>してったわ。」
いきなり消えた彼らの顛末を想像し、青ざめながら頭を抱えるフィリオラ。
だがその一方、<転移>していったことでレイラはヨスミが眠る部屋の方を見る。
「まさかあの人が目を覚まして・・・!?」
「いいえ、お母様。まだ寝ているわ。ヨスミに付けた<音調魔法>からは寝息しか聞こえてないし、そもそも私の中の【ドラゴンマナ】も反応しないし。」
「え?じゃあなんで<転移>が・・・ん?ちょっと待って、リオラっち。今<音調魔法>って言った?」
「うーん、たぶんお母様に危害が加えようとするもの全員に発動するトラップみたいなものだと思う。」
「でもさっきわたくしが襲われた時には発動しなかったですわよ?」
「ねえ、今<音調魔法>を付けたって言ったよね??ねえ??」
「・・・実力的に敵としてさえみなされていなかったんじゃないかしら。お母様が本当に危ない時に発動する感じかしらね。今回は私たちがこうして口に出したら敵だと判明して<転移>していったんだと思うわ。」
「うちの話を聞けぇえっ!!ストーカーぁあ!!」
全力で叫ぶミミアンを余所に、レイラはそう言いながら【眷属】との戦いを思い出していた。
レイラに笑いながら止めを刺そうとした【眷属】は姿を消してどこかへ消えた。
そしてティガール将軍の時でさえ明らかなる実力の差があり、その殺意からして確実に殺されると思っていたからこそ、突如として目の前で来たことには驚きましたわ・・・。
つまり、そういうことだったのですわね!
「あ、でも恐らく・・・ドラゴンには<転移>は発動しないと思うわ。」
「・・・そう言われると確かに、バハちゃんのブレスを受けようとした時には<転移>が発動しなかったですわ。」
「そういうことよ。」
そうでしたのね・・・。
【眷属】の時も、ティガール将軍の時も・・・。
それにあの人が、わたくしを守るために意識がないにもかかわらず守ってくれるだなんて・・・
そんなにもわたくしの事を・・・わたくしの事をぉ・・・
「それにしても意識がないってのに、レイラの事を守っているだなんてほんとあんたのことを愛して・・・うわっ」
「・・・うへ、うへへへへへえ、えへへへえへへへへへへ―――」
「―――失礼致します、レイラお嬢様。」
と顔が緩みかけた瞬間、ハルネが一瞬にして顔を覆い隠すために布を被せた。
【完璧な淑女】の体現を守る、ハルネの渾身的なる献身に2人は堪らず敬意を表した。
「・・・おお、さすがハルネね。となると逃げたアイツは恐らく・・・」
「あー・・・。」
何かを察し、逃げた方を見る2人はそのまま合掌した。
その後、屋敷の中に戻っていった4人。
フィリオラとミミアンはハルネの<鎖蛇>に捕まり、もう一度お風呂へと引き摺られていった。
レイラはヨスミが眠る部屋に戻ると完全にミノムシ状態となって眠るヨスミの体の上に纏わりつくジェシカたち。
レイラは何の迷いもなく、ジェシカたちの上から覆い被さり、ミノムシの一部となった。
途中、ヨスミの寝顔が苦しいものに変わっていたような気はするが気にしない。
少し時間が経った後、部屋に入ってきたフィリオラたちの表情は見るからに呆れ顔だった。
「思ったんだけどさ。」
あれから少し時間が経ち、部屋の中でちょっとしたお茶会が開催されている中、突如としてミミアンが話し出した。
「どうしたんですの?」
「これ、獣帝国を狙った工作行為じゃないの?だってそうでしょ?あのイケメン皇子が突然消え、ここに刺客を送ったってことはレイラたちがここにいることは明らかバレてるっしょ?」
「・・・そういえばそうですわね。」
「そんで、ここにいるということを知ってるってことは、少なくとも獣帝国の内情を知ってる可能性もあるみたいだし?それに乗じてレイラを殺し、それを獣帝国の責任として擦り付け、レイラのパパを怒らせてヴァレンタイン公国が攻め入るための口実を作って獣帝国と公国の戦争を引き起こし、後は疲弊しきった両国を万全の状態であるダーウィンヘルド皇国が攻め入り、両国を占領・・・とか?」
「・・・。」
ミミアンの仮説を全て聞き終えたレイラはすっと立ち上がり、彼女の前までやってきた。
「え?なに?なんで無言・・・?なんで無表情なの?ねえ、何か言ってよ??怖いから、ねえ怖いからぁ!?」
「あなた、本当にミミアンですの??」
「・・・はっ?」
明らかに怯えているミミアンの頭を優しく撫でながら、本気で心配するレイラに若干イラッときたミミアンだった。
「ねえ、レイラの中でうちはどんぐらい頭悪いと思われてんの?」
「数学は理解していますわよね?」
「・・・よーくわかった。長年続いているうちらの決着をたった今ここで着ける必要があるみたいっしょ!!」
「いいですわよ?このところ、きちんとした手合わせはしておりませんでしたもの。受けて立ちますわ・・・!」
「ちょっと2人とも落ち着いて。」
「あ、なら私も混ぜてくださいお婆様!私ももっと強くなりたいんです!」
どんどんヒートアップする2人を慌てて止めに入ろうとすると、目を輝かせたジェシカがウキウキとした趣で参戦してきた。
「ちょっとジェシカ?あなたまで混ざらなくてもいいのよ?!」
『・・・私も混ざりたい。起きたばかりだから、体すっごくなまってるし・・・』
するとバハムトイリアまで話に乗っかってきて、フィリオラの表情は一気に青ざめる。
「待って!青お姉様はもっとだめだからね!?辺り一帯沈んじゃうからねえ!?ハルネ、あなたも手伝って!?」
「レイラお嬢様、夕食までにはお帰り下さいませ。」
「ハルネぇ!?」
なんてヒートアップする一同をフィリオラは必死に収めようとしていたが結局敵わず、ハルネとリヴィアメリアを部屋に残して一同は屋敷の広場で軽く手合わせすることとなった―――――。