これが、家族・・・ですのね。
未だに鳴り響く地響きと爆発音。
後は任せるなんて言ったけど、こうもうるさいと眠るに眠れないじゃないか・・・。
恐らく僕を追ってきた兵士たちなんだろうな。
それなのに、レイラたちに後処理を任せてしまっているのもものすっごく忍びないわけでして・・・。
あー、頭痛もするし、体の倦怠感も凄いし・・・。
それに加えてこの地響きは・・・体に効くなあ・・・
「あら、ヨスミ様、御目覚めですか?まだ休まれてもよいのですよ?」
「そうは、したいんだけど、ね・・・」
「あ、お爺様!」
「ぱぁぱ!!」
ヨスミが目を覚ましたことに気付いたジェシカとディアネスが急いでベッドに駆け寄ってきた。
ベッドに這い上がり、ヨスミの傍までやってくる。
「お爺様、まだ具合は悪そうに見えます・・・。まだ眠られた方が・・・」
「そぅだよ・・・、ぱぁぱ。もっと寝て・・・!」
そう話す2人の表情は、明らかに寝ないでもっと話したい!といった真反対の表情を浮かべていた。
「あはは・・・、目が冴えてしまったみたいでね・・・。僕が、眠れるまで君たちの話を聞かせて・・・くれないかな・・・?」
「私の話でよければいつでもお聞かせします!」
「はぁい!」
そして横たわるヨスミに、ジェシカは自身の話を語り始めた。
その間にも地響きは止むことはない。
一体外では何が起きているのか・・・。
意識がスゥーッと消えかけた瞬間に鳴り響くおかげで目を覚ましてしまう。
気持ち悪い。
眠れそうなのに、眠れないこのジレンマ・・・。
本当に気持ちが悪い。
本当にタイミングよく起こされるから、誰かが意図してやっているのではないかと疑ってしまう。
「・・・鳴りやまないですね。お婆様たちは、大丈夫なんでしょうか?」
「マァマ・・・」
「はあ・・・。なら様子を見てみるかい?」
「え?見れるんですか?どうやって・・・」
「こうやって、だよ。」
すると目の前に四角い風景が映った何かが無数に展開された。
その一つ一つに、この町のどこかが映し出され、その内の1つにレイラたちの姿が合った。
そこには血まみれのままフィリオラを抱きしめ、一方で小さな何かに詰められている黒い狼・・・ミミアンの怒鳴る声が・・・
・・・ん?
あの、小さな生物に見覚えが・・・
いや、見覚えとかそういったものじゃない。
僕は、あの子を知っている。
知っているなんて次元じゃない。
見間違えるはずもない。
なぜ、なぜこの世界にあの子がいるんだ・・・!?
「ネレアン・・・?」
ヨスミがボソッと呟く。
その瞬間、小さな生物はそれに反応するかのようにビクッと震え、まるで何かに呼ばれたかのように周囲を見渡した。
「ネレ、アン・・・?お爺様、その名前・・・ああ、お爺様!ダメです、動いたら!」
「ヨスミ様!どうされたのですか?!」
「い、行かなきゃ・・・あそこに、行かねば・・・!」
間違いない。
あの子はネレアンだ・・・。
あの寂しがり屋で、甘えん坊で、いつもずっと僕の足元にやってきては猫のように体を擦り付けるように絡みついてきた。
いつだって泣いてばかりで、いつだって笑ってばかりで・・・。
何をするにしても後ろに付いてきては私の体に纏わりついて嬉しそうに、楽しそうに笑う。
「ネレアン・・・!ネレ、アン・・・!」
ヨスミがその名を呼ぶたびに、その映像の向こう側に見えるバハムトイリアは必死に何かを探す。
様子がおかしいことに気が付いたレイラは彼女の傍までやってきて、どうしたの?と聞いているかのような仕草をしている。
そして何かを見つけたかのように一直線にどこかへ向けて飛んでいく。
その後を追いかけるかのようにレイラたちも急いで駆け出した。
ハルネは何かを察したのか、部屋の大窓を開く。
ヨスミは体を起こし、開かれた大窓の方を見つめる。
何かが飛んでくる。
ヨスミはその飛んでくる物の正体を見ると涙を流し始めた。
そしてもう一度、その名を大きく叫ぶ。
「ネレアン!!」
『パパぁぁああああああ!!!』
その向こうから全力で飛んできたバハムトイリアはヨスミの胸に飛び込む。
体はボロボロなのに、今にも崩れそうなのに、全力で飛び込んできたバハムトイリアを受け止め、しかとその腕に収める。
その腕の中に納まるバハムトイリアはただひたすらパパと呼びながら泣いていた。
そんな彼女を強く抱きしめ、その場にゆっくりと膝から崩れ落ちる。
『パパぁぁあ・・・パパぁああ・・・!!』
「ネレアン・・・!ああ・・・会いたかった・・・。心から、会いたかった・・・!」
『うううあああ・・・、ううううっ・・・うああああん!』
少ししてレイラたちが部屋に入ってくると、2人が抱き合いながら涙を流しているその光景を見て息を飲んだ。
「ハルネ、これは・・・」
「私にもわかりません・・・。レイラお嬢様たちを心配したジェシカに、ヨスミ様が安心させようと<転移窓>を展開させたところ、【青皇龍】様の御姿を見た途端このように・・・」
「なるほど・・・そうでしたのね。」
後から入ってきたフィリオラがその光景を見た途端、その場に膝から崩れ落ちる。
「やっぱり・・・そうだったんだ・・・。ヨスミが、本当にパパだったんだ・・・。本当の本当に・・・、あはは・・・う、ううっ・・・」
「フィリ、オラ・・・?お前、まさか・・・まさ、か・・・!」
そんなフィリオラの様子に気が付いたヨスミが、何かに気が付いたかのようなハッとした表情を浮かべる。
『うん・・・パパ、フィリオラは私たちの、末っ子・・・あの卵の子だよ・・・』
「あ、ああ・・・そんな・・・そん、な・・・フィリオラ・・・!」
「あっ、パパ!あぶない!」
ヨスミはよろよろと立ち上がろうとするがふらつき、倒れそうになるがフィリオラが急いで駆け寄って抱き支える。
フィリオラの頬に手を添え、その顔をじっくりと見つめる。
「なぜ、気づけなかった・・・。面影は確かに、感じられるのに・・・。」
「仕方、無いわよ・・・。だって私、ずっと卵の中に、いたんだもん・・・」
「そんなのは、言い訳にならない・・・。大事に、大事に育ててきた・・・僕の、大事な宝を・・・どうして・・・!ごめん・・・ごめんよ・・・」
ヨスミの脳内に、フィリオラと出会ってきた今までの思い出がまるで走馬灯のように流れていく。
そして彼女の潤んでより綺麗に輝く宝石のように輝くローズクォーツのような瞳を見て、ヨスミはフィリオラをぎゅっと抱き寄せる。
その一つ一つを思い出しながら涙を流し、フィリオラへ謝罪の言葉を述べる。
ヨスミの愛の言葉を聞くたびに、フィリオラから涙が頬を伝って流れ落ちていき、ヨスミの体をぎゅっと抱きしめた。
「謝らないで、パパ・・・。私はあなたと出会えてずっと、楽しかったから・・・。謝られるようなことは何一つないわ・・・。」
「ああ・・・。そうか・・・、そう、か・・・大きく、なったな・・・。すっごく美人になったな・・・」
「えへへ・・・でもママには敵わないわ。」
「いいや、比べること自体・・・違うぞ・・・。レイラも美しいし、お前も美しい・・・。それに優劣なんてものは・・・付けられんさ・・・」
「パパ・・・」
『あ、あの・・・わ、私は・・・?』
ネレアンが恥ずかしそうにヨスミへ聞いてみた。
「美しいではなく、可愛い・・・だな・・・。」
「ええ、青お姉様はすっごく可愛らしい方よ。」
『ふえぇ・・・』
2人から満面の笑みでそう返答し、顔を真っ赤にするネレアン。
そんなヨスミとバハムトイリア、フィリオラはそれぞれ抱きしめ合いながら笑い合う。
そんな光景を、見守っていたレイラにミミアンはそっと声を掛けた。
「・・・いいの?」
「ええ。今、あの瞬間だけは、わたくしが入る余地なんてありませんですわ。それに・・・。」
「それに・・・?」
「とても美しいですわ・・・。」
そう話すレイラの目からは一筋の涙が零れ落ちた。
そんな彼女の気持ちを汲んで、ミミアンはレイラの傍に立つ。
「・・・だね。家族愛ってやつ?リオラっちのあんな表情、初めて見たし・・・。」
「ええ・・・。あの人のあんな顔も、初めて見ましたわ。」
「ねえ、レイラ。一ついい?」
「なんですの?改まって・・・」
「血、洗い落としてきた方がいいよ・・・。マジで血生臭くて・・・おえっ」
「・・・・・・。(無言で拳骨)」
「きゃあうんっ!?」
そんな会話を交わしながらも、レイラたちは静かにヨスミたちの感動の再会を見守っていた。
「・・・そういえば、ネレアン。なぜ、お前が・・・ここ、に・・・い・・・・・・」
何かを言おうとしてそのまま力が抜けたかのようにフィリオラへ倒れ込む。
『ぱ、パパ・・・!?』
「大丈夫よ、青お姉様。ヨスミはただ眠っただけ・・・。」
そういってフィリオラはヨスミを大事そうに抱き上げ、そのままベッドに横たわらせる。
彼女の瞳はとても温かく、優しいものだった。
だがその横で、もう一人の娘であるネレアンことバハムトイリアの瞳には怒りが宿っていた。
『ねえ・・・どうしてパパ、こんな傷だらけなの?なぜこんなにも命の鼓動が弱いの・・・??』
「それは・・・」
フィリオラが言うべきかどうか言い淀んでいると、レイラがそっと前に出てバハムトイリアの頭を優しく撫でる。
「アナタと出会うために無理をし続けてきたんですの。わたくしたちはその無理を支えながらここまできて、そしてあなたと出会うことができたんですわ。」
『パパ・・・。』
そういってレイラの胸に顔を埋めるバハムトイリアを優しく抱きしめる。
「この人は、家族のためならばどこまでも無理をしますわ。それこそ我が身を捧げてしまうことに何の躊躇もしないほど・・・。」
『うん、知ってる・・・。私たちを助けるために・・・パパは・・・』
レイラは竜滅香での出来事を、ネレアンは島が爆発に呑まれた瞬間を、それぞれ思い浮かべていた。
「だからね、バハちゃん。今はわたくしたちには力がある。守られるだけじゃない、この人を守るための力がこの手にあるんですの。」
『・・・。』
バハムトイリアの顔を優しく覗き込む。
レイラの瞳には確かな覚悟が、バハムトイリアの瞳にはこれまでにない決意が宿っていた。
「今度は、わたくしたちが―――」
『―――パパを守る。絶対に!』
レイラとバハムトイリアはお互いに固い握手を交わした。
そんな様子を見ていたミミアンは深いため息を吐いた。
「な~に、そんな大きなため息なんて吐いて。幸せまで逃げるわよ?」
そう言いながら、フィリオラがミミアンの傍にやってきた。
「だって仕方ないっしょ・・・。もしあそこでヨスミが怪我を負った経緯を知ったらどうなっていたか・・・。」
「まー・・・そうね。お母様ったら本当にうまく誤魔化せたものだわ。」
レイラとバハムトイリアがお互いの決意を確かめ合っているその一方で、大陸が海に沈むことを回避できたことに安堵するミミアンたち。
ハルネはジェシカとディアネスと共にヨスミに<治癒魔法>を掛け、事の成り行きを見守っていた。
「それで、残りはどうするの?多分、まだ兵士たちはいるわよ?」
「もちろん、全てぶっ叩くわ。私も、もう決めたの。今度は間違えないわ。」
「ふ~ん。良い顔になったじゃん。うちも手伝うし、さっさと終わらせよ!」
「・・・ありがと。お母様、青お姉様。ヨスミを・・・パパを御願い。」
「うちらで残りを片付けてくるから安心してね~!」
「2人とも・・・。」
『・・・気を付けてね。』
そしてフィリオラとミミアンは部屋を出ていき、他で暴れている兵士らの元に別れて向かう事となった―――――。