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な、なんであの子はブチギレてるんですの・・・!?


「レイラ!とりあえずハルネに追い出されたから助太刀―――」

「あら、ミミアン。とりあえず追い出されたってなんですの・・・」

「―――に来たん、だけ、ど・・・うわぁ!?容赦なっ!?」


床に転がっている兵士たちの首と胴体、飛び散った血の海の上に立つ返り血を浴びたレイラの姿を見てミミアンは”うわあ・・・”とドン引いたようで、一歩後ずさった。


レイラは助太刀としてやってきたミミアンに気付き、彼女の元へその冷たい表情を向けた。

その瞬間、あまりの冷酷さに思わずミミアンの背筋が凍る。


レイラは自分の体に付いた返り血に気付き、嫌な顔を浮かべていた。

だがその時、また別の場所で爆発が起き、地響きを感じながら爆発した方へ顔を向ける。


「まだいらっしゃるみたいですわね・・・、獣風情が。」

「あの~、レイラさん。うちも一応その獣風情な部類に入ると思うんだけど」

「あら、ミミアンは違うじゃないですの。あなたは誇り高きフォートリア公爵家の一人娘であり、正義の執行人と慕われ、そして黒曜狼の血を受け継ぐ由緒正しき純血の血統の持ち主。・・・そして、わたくしの唯一無二の大切な心の友ではありませんですの。あなたであっても自分自身を卑下することは決して許しませんですわよ?」

「え、えへへ・・・レイラにそう思ってくれてだなんて・・・えへへへへへへ・・・くぅ~ん♪」


レイラにまくし立てられるように褒められ、若干溶け出したアイスかのようにデレェ~ンとし始めるミミアン。


「外には確かフィーちゃんと【青皇龍】のバハちゃん、そしてリヴィアちゃんも居るからもしそっちの方にこの不埒者どもが向かって言ったら・・・さすがにまずいですわね。」

「さ、さすがにみんなが心配だよね・・・!」

「むしろバハちゃんの反感を買って大陸が海に沈む可能性が高いのですわ。」

「あっ、そっちの方・・・」

「それじゃあわたくしは行くのですわ。ミミアン、あなたはどうするのかしら?」

「はあ・・・、うちも行く。あんたが心配だし。」

「・・・そう。」


完全に呆れかえっているミミアンを余所にレイラはふっと笑みを浮かべるとそのまま屋敷を出ると、その後に続くようにミミアンも屋敷を後にした。






爆発音が絶えず響き、一体何をすればこんな連続した爆発が起きているのだろう?だなんて疑問に思いながらレイラは何の迷いもなく町の中を進んでいく。


まるで、その先にみんながいることを確信しているかのように。

それに合わせて、爆発音も大きくなっていく。


どうやらレイラの悪い予感は当たっていたようだ。


「ったく、ほんっとうにめんどくさいわね・・・!」

「貴様ぁ・・・!例え竜母などと慕われていようが、我らの邪魔をするならば国家反逆罪に科して今ここで処断するぞ!」

「やれるもんならやってみなさい!あの子らは私が・・・あっ」


フィリオラはレイラ達の存在に気が付いたようで、こちらと目が合った。

だが、レイラを見た途端、恐怖に駆られているのがわかる。


顔が青ざめていき、体がぶるぶると震わせていた。


「あああおおおおお、お母様ぁ!?」

「なに・・・?お母様?・・・ん、あの雌のこと・・・ひっ!?」


偉そうな兵士が血濡れたままのレイラの姿を見た途端、フィリオラと同じように顔を青ざめ、恐怖で体を震わせていた。


(なぜ、あの雌から仲間たちの臭いが・・・あの血、まさか・・・!?いや、あいつ等は俺と同等・・・いや、それ以上の実力を持っている。それにアイツが率いていた兵士の練度も高かったはずだ・・・!そう簡単に・・・)

「おい、そこの雌!我が同胞らはどうした!」

「同胞・・・?ああ、あなたも<紅牙剣傭兵団(クリムゾンサーベル)>の方々ですの?」

「そうだ!我らは誇り高き<紅牙剣傭兵団>である!ベフォード団長の任を受け、この町に逃げ込んだ大罪人のヨスミという人間の雄を捜索―――」


「待って待って!!」とフィリオラが制止しようとするも、彼が最後まで言葉を発する前にすでに彼含め、その背後にいた兵士ら全員の首が宙を舞っていた。


「―――し、て・・・あれなぜ、我が体・・・が、あそ・・・こ・・・??」

「ああああ・・・・ダメだったわ。」

「はあ・・・。」


がっくりと項垂れるフィリオラ。


さっきまで隣にいたレイラがいつの間にか兵士らの首から吹き出す血の噴水を全身に浴びている彼女の姿を見ながらミミアンは大きくため息をついていた。


「次にあの人を罪人だと罵ったら容赦しないと申し上げたはずですのに・・・やはり獣ですわ。」

「いやいや!それ絶対屋敷にいた奴らに言った事じゃん!その兵士ら絶対知らないじゃん!」

「お、お母様・・・?少しは落ち着いて・・・」

「落ち着いているのですわ?」

『「ガクガクブルブル…」』


明らかに落ち着いていない事だけはわかる。


レイラの態度が明らかに変わっているのを見て、その背後にいたリヴィアメリアとバハムトイリアはお互い抱き合いながら恐怖で体を震わせていた。


「フィーちゃん」

「え?あ、はい!」


ドサドサと倒れ、血の噴水が止んだ中、真っ赤に染まるレイラに突然呼ばれたフィリオラは素っ頓狂な声が上がり、全力でレイラの前にやってくると正座した。


「どうして手加減なんてしていたんですの?」

「あ、えと・・・一応私は竜母なので、なるべくドラゴンに関する事象以外には関われないですし・・・兵士や住民たちを殺すなんて出来ませんし・・・」

「それが身内に危険が及んでいても、ですの?」

「ひうっ!?だ、だって仕方ないじゃん!!これでも私は人類側の・・・」

「・・・・・・・・。」ゴゴゴゴゴ

「・・・すみませんでした。」

「・・・はあ~」

『「ガクガクブルブル…」』


血だらけのレイラ、彼女から発せられる尋常ならざる重圧に押し潰され、土下座で謝るフィリオラの姿を見てミミアンやバハムトイリア、リヴィアメリアは絶対に、決して、どんなことがあろうともレイラだけは怒らせるようなことはしないと心に誓った。


「それで一体何があったんですの?」

「えと、その・・・」

『ママ・・・!私が悪いの・・・!フィリオラちゃんは、悪くない・・・!』


と未だに正座を続けるフィリオラの前に、彼女を庇う様に前に出てきたバハムトイリア。

だが彼女の小さな胸ヒレに見慣れない傷が付いているのが見えた。


「バハちゃん、その傷は・・・?」

『ふえっ!?あ、・・・あっ!』

「・・・・・・・へえ。」


その瞬間、レイラから未だに駄々洩れの重圧がより一層重くなったのを感じた。


そしてその視線が、バハムトイリアの後ろで縮こまっているフィリオラに向けられ、彼女自身も気付いたようでより一層小さくなった。


『あ、いやぁ・・・えぇと・・・』

「・・・はあ。痛みは?」

『ふえっ!?あ、えと・・・それは大丈夫・・・。これくらいならすぐに・・・ほら、もう治った―――』

「だからといって、それを理由に無理な戦いをしたら・・・許さないですわよ?」ゴゴゴゴゴ…

『―――よ・・・、はい。しません。絶対にしません。』


小鹿のように足を震わせながらやってきたリヴィアメリアの胸に飛び込み、2人で恐怖に震えていた。


土下座しながら体を震わすフィリオラの姿を見て、申し訳なさそうにため息をついた後、その場にしゃがみ込むとそっと優しく語り掛ける。


「フィーちゃんも、優先順位を決して間違えてはいけませんですわ。大事な人が傷つけられているのに、自分の立場を理由に後手に回るなんてことは決してあってはなりませんですわ。・・・わたくしは思うのですわ。公国の公子という立場であるわたくしは、せっかくできた友人が公子の立場であるが故に守ることができず、目の前で無残に殺されてしまったとしたら・・・、わたくしは今後、これから一生自分自身のことを悔い続けることになるのですわ。絶対に自分を許すことはしないでしょうね・・・。そんなこと、絶対にあってはなりませんですの。」

「お母様・・・。」


体を起こしレイラの表情を見るとまるで過去にそんなことが実際にあったかのように話す彼女の表情に、フィリオラはその言葉の重みが重圧として両肩にずっしりと乗っかってきた。


実際、青お姉様の元に駆けつけた時にはすでに攻撃されており、リヴィアたちを守るためにこうしてあの兵士たちの前に出てきたはいいものの、殺すなんてことは竜母の立場的にできないがためになんとか傷を負わせて撤退なんて考えでいた。


だがもしこれが青お姉様じゃなくパパで、小さな傷ではなくそれこそ瀕死の重傷を負わせられてしまったら・・・。


それでも治療が間に合わず・・・目の前で、腕の中でパパが・・・死んで・・・。


「何も殺すななんてことは言いませんですわ。守るべきモノの優先順位を決して間違えない事、守るべき対象を間違えない事ですわ。いいですわね、フィーちゃん。」

「・・・はい、お母様。」

「わかればよろしいですわ。」


そういってレイラは正座をしながら項垂れるフィリオラをそっと抱きしめる。


「え?お、お母様・・・?」

「よしよし・・・。よく頑張りましたわ。きちんとあの子等を守ってくれてありがとうですの。とても偉いですわ」

「・・・うう、お母様ぁ・・・血生臭いぃぃ・・・おえっ」


とレイラへ腕を伸ばし、抱擁するがレイラの体についた血の臭いが鼻につく。


「血まみれのままで抱擁とか絶対無理っしょ・・・。傍から見たら絵面やっばぁ・・・」

『ねえ、ミミアン・・・?』

「え?あ、うん。どーしたの?ハムっち。」

『屋敷にも兵士が~って話してたけど・・・パパの方にも襲い掛かったの?』

「あっ」


レイラよりも一番聞かせてはいけない存在に情報が渡っていた。


「え?あ~いや~?」

『ここに来る前には・・・すでにママは血だらけだったよね・・・?もしかして・・・』

「いい、いやいや!ここに来る途中でね?!襲われてね!?」

『・・・じゃあなんでパパのいる屋敷から・・・煙が上がってるの・・・?』

「そ、それはぁ~・・・そうそう!あいつらの攻撃を避けた時にね!?その攻撃が運悪く当たっちゃっただけでぇ・・・」

『ふ~ん・・・』

「・・・あはは・・・」


ちょっとレイラ!

よしよし!とかキャッキャウフフ空間醸してないで、早くこっちにきてよっ!?


そっちでほんわかムード出している横で、こっちじゃ大陸が沈むか沈まないかの恐怖と絶望ムードむんむんだっての!!


無理無理無理無理!

あの【青皇龍】から向けられる重圧に、一般獣人であるうちが耐えられるとでも思ってんの!?


豆腐メンタルなめんなっ!?

ガラスハートなめんなっ!?


あ、胃が・・・心臓が・・・キュッってする・・・!

もしかして・・・これが、(命)乞いの気持ち・・・!


御願い、レイラぁ・・・助けてぇ・・・!!


なんて必死にレイラへSOSとして目線を向けると、その目線に気付いたレイラはこちらを向いた。


まさか、気づいてくれた・・・!?

ああ、さすがうちのズットモ・・・!


だがレイラははにかみ、そっと手を振った。


「ちげぇーってのおお!!!こんのバカレイラぁああ!!!」


ミミアンは渾身の力で叫んだ―――――。



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