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はあ・・・心が安らぐ、そんな匂いなのですわ・・・。


「あ・・・ぐあ・・・ぐる、じ・・・よ、よずみ・・・ざま・・・」

「まずい・・・!姫様が・・・!」


今まで気配を消し、ずっと離れた所から様子を伺っていた姿が見えない者たちが一斉に着ていたローブを脱ぎ去り、腰に差してあった剣から剣を抜くとヨスミへと斬りかかろうとする。


だが手に持っていたはずの剣は突如として消え、自らの足に突き刺さっていた。


「がぁぁああ・・・!?」

「な、なぜ・・・!?」

「お嬢・・・!!」


その中で一番の老騎士と思わしき人物が全力で斬りかかってくるが、他の騎士と同様に手に握っていたはずの剣が消え、次の瞬間には足から地面に突き刺す様に姿を現していた。


「ぐぬぅ・・・!?わ、ワシの目にも引っ掛かぬ、だと・・・!?」

「邪魔をするな、獣共。」

「ぐ・・・ぁ・・・ぃゃ・・・・・」

「お、お嬢・・・!!!」


老騎士は無理やり剣から足を引き抜き、その足でヨスミに掴みかかろうとするが次の瞬間には今度は地面に寝かせられ、肩の上から自らの剣が地面まで固定されるかのように突き刺さっていた。


「ぐああぁぁ・・・!?」

「邪魔をするなと言ったはずだ。」


とヨスミは躊躇なく、自らの右手に握られていた華奢な首に更に力を込める。


「もう一度聞く。お前は何を知っている?お前の持っている情報を全て話せ。もしそれが形として残っているならば全てを僕に渡せ。了承しなければ、このままお前の首をへし折る。だが素直に渡してくれれば君たちには何もしない。いいね?」

「わ・・・か・・・り、ま・・・した・・・がぁ・・・ら・・・ぉ、ねが・・い・・・」


ヨスミは無表情のままその手に握っていたマリアンヌの首を手放す。


軽く持ち上げられていたこともあり、地面にそのまま崩れ落ちるように倒れ、ゲホゲホと足りなくなっている空気を必死に吸っていた。


その上からいつの間にか奪っていた騎士の剣がマリアンヌの首に当てられた。


「はあはあ・・・はあ、はあ・・・ヒッ・・・!?」

「お前はただ黙ってお前の知る【竜誕計画】に関するものを何一つ漏らすことなく僕に渡すこと。その後は決して詮索はするな。模索もするな。追及するな。疑問を感じるな。記憶にとどめるな。全てを忘れ、静かに過ごすことだ。」

「わ、わか・・・りました・・・。」

「お、お嬢・・・!!」

「ダメです・・・ゲール爺。絶対に、逆らってはいけません・・・。」


マリアンヌはフラフラしながらゆっくりと立ち上がり、ヨスミを案内する。


先ほどまであんなにも好青年に、フレンドリーな態度で接触で来ていたが故に【竜誕計画】という言葉を口に出した途端に豹変した態度に不意を突かれることとなった。


あの瞳の奥から覗く、彼ではない何か。


それも一つや二つではない。

10でも、100でも・・・ましてや1000でもない。


万を、それ以上を越す憎悪が、闇が、視線が、深淵がその瞳からは感じられた。


あの瞳を覗いてからずっと手の震えが、肩の震えが、体の震えが止まらない・・・。

部屋の鍵さえ真面に差し込むことさえ困難なほどまでに、私の手が恐怖で震えている・・・。


私は・・・私は一体何に手を出してしまったのだろう・・・?


まるで、私の真横に黒いローブを纏う死神が私の首に鎌の刃を当てて、今すぐにでも首を切り落とされそうなほどの絶望が全身を包む。


いや、一体の死神だけじゃない。

何百、何千といった死神が私の全てを監視しているみたいで、一体何が彼等の不興を買ってしまうのかさえ分からないが故に、私が起こす行動一つ一つがとても恐ろしく感じられる。


一歩ゆっくり歩くことは?

恐怖で息が小刻みに吸う事は?


視線が定まらず、瞳が震えていることは?

体の震えでまともに歩行がままならないことは・・・?


どれが彼等にとって不快と感じられる?

なにが彼等にとって怒りを感じられる?


わからない。

わからない、わからない、わからないわからないわからないわからないわからない・・・。


私の背後にいるヨスミという人物にとって、その人物の内側に潜む”怪物”たちにとって私の何が彼の不興を買ってしまうのか・・・。


「こ、これで・・・全部、です・・・。」


酷く長い時間が経った気がする。

だが実際は数分も経っていない。


だが今の彼女にとってはその数分が、1時間も10時間にさえ感じられていた。


マリアンヌの手に握られているのは厳重に保管された小さな宝箱のような物を手に取り、それをヨスミへと震える手で差し出していた。


ヨスミはマリアンヌから受け取った小さな宝箱を受け取ると、ゆっくりとその蓋を開けて中身を確認しようとする。


だがその瞬間・・・


―――プシューッ!!!


「へ・・・??」

「なっ、これは・・・!?うぐ・・・!!」

「お嬢・・・!!!お逃げ下せえ・・・!!」


突如として小さな宝箱から煙が噴出し、ヨスミはそれを浴びてしまい、その煙が触れた部分から皮膚が引き裂かれ、血が勢いよく吹き出す。


それに合わせ、地面に固定させられた老騎士たちが体勢を立て直した状態でヨスミへと飛び掛かる。


その煙で大きく怯むヨスミ。

目に見えてヨスミには大きな隙が出来ていた。


なのに・・・


「がはっ・・・!?」

「ぐぁああ・・・!!」

「馬鹿、な・・・!!」

「ゲール爺・・・!!みんな・・・!!」


老騎士含め、飛び掛かった騎士たちは何故か地面に伏せられ、手足の関節部分が蒼白い細長い棒が地面に固定されるかのように突き刺さっており、完全に動けなくなっていた。


致命傷ではないが、だからといって軽傷でもない。

的確に完全なる無力化とさせられ、手足を動かすこともできない。


だがヨスミ自身にも大きな変化はあった。


「うぐ・・・」


首輪の魔道具が付いたままの<転移>の行使、また謎の煙による皮膚の裂傷と爛れ。

その二つが重なり、ヨスミは大きく衰弱状態となっていた。


「お、お嬢・・・!!今すぐ聖遺物を持って逃げるのじゃ・・・!!」

「で、ですが・・・」

「今、お嬢が死んでしまってはいかん・・・!まずはここから生き延びることを・・・・ぐわぁぁあ!?」


ゲール爺と呼ばれていた老騎士はどこからか現れた岩が降ってきてそれに押し潰された。

それにより、ゲール爺はそのまま気を失うことになった。


「くそっ・・・あっ」

「あっ・・・」


とここで一瞬、マリアンヌとヨスミは目が合った。

その瞬間、マリアンヌはフードを被り、姿を消すとそのまま部屋の中にあったボロボロの宝箱を手に取ると窓を開け、身を乗り出した。


「待て・・・!!」

「させない・・・!!<ライトニング・ボルト>!!!」


ヨスミは後を追おうとするが、自身の身を引き千切りながら無理やりブラックリリーの束縛から逃れた騎士の1人が、ヨスミに向かって魔法を放った。


これも完全にヨスミの死角を突いた攻撃のはずだったのに、ヨスミはそれに反応して体を翻す。

だがすでにヨスミの負担は限界に近かったようで体がふらつき、それによってヨスミに直撃はしなかったものの彼の首輪に騎士の魔法が着弾した。


刹那、強烈な電撃が首輪を通じてヨスミを襲い掛かる。


「ぐぅ・・・!!」


ヨスミが限界を迎える前に・・・


―――バリィインッ!


首輪が限界を迎えてしまった。

その瞬間、彼の口角が上がったのを、騎士は見逃さなかった。


「馬鹿、な・・・!?なぜ、首輪が砕け・・・!?あ、銅像に私の雷魔法が・・・!!」


ああ・・・、ようやく外れたよこの首輪・・・。


あのマリアンヌっていう姫さんがこの首輪を外す方法を持っているなんて言っていたから、アジトまで出向いてその屋敷の中にあるであろうその『方法』とやらを<千里眼>で探ってみた所、この部屋にあったあの銅像が反応したんだよね・・・。


後はどうやって外すのか、その手段だけだったけど・・・。

あの銅像の中に見えた魔力回路から、あの銅像に魔力を流せば何かしらが起きる・・・。


そう思ってわざと騎士らの手足を封じ、攻撃手段を<魔法>に限定させてその拘束を微かに弱めた。

後は相手の魔法を避けてその背後にある銅像に当たるように軌道を修正するだけ・・・。


まあ、体がふらついて掠った結果がこれだよ・・・まだビリビリする。

結果としてはアイツが放った魔法は銅像に当たり、何かしらの魔法が発動したようでこうして首輪は破壊されたわけだ・・・。


解除されたわけじゃなく、粉々に砕け散った・・・ということはあれは解除するものではなく、周囲の魔道具の損耗率を著しく低下させるものなのだろう。


恐らく、あのマリアンヌとかいう姫さんがこの銅像に魔力を流し、ゲール爺が力技でぶっ壊す算段だったのかな。


だけどなんとかなったし、別にいいか。

その代償が重傷に近い傷を全身に負う事だったけど、別にいいかぁ!


「ありがとさん・・・!」


先ほどまで魔法を放った騎士は悲鳴を上げることもなく、姿を消した。

その様子を見たゲール爺は息を飲み、だが抵抗しようと無理やり体を起こそうとした。


「おっと・・・、これ以上動かない方がいい。」

「なに、を・・・!?」

「・・・あれ?なぜ私はここに・・・ひっ!?」


先ほど窓から逃げたはずのマリアンヌがヨスミの傍に姿を現すと同時に彼女の周りにブラックリリーが彼女の動きを制限するかのように周囲に設置されていた。


「君も、姫さんも・・・少しでも動いたら大怪我するよ。」

「ぐ、ぐぬぅぅ・・・!!」

「あああ・・・なんで・・・そんな・・・!!」

「くそ・・・、ここまで、か・・・!?」

「・・・はあ、1つ勘違いしないでほしいんだけどさ。僕は本当に君たちを殺すつもりはないんだ。まあ君の持っていた情報で大きく取り乱した事は認めるよ。でも僕は最初に言ったはずだよ。その情報となる物を渡してくれれば何もしないって。なのに君たちはいきなりその言いつけを破ったわけだ。故に騎士の1人にはその見せしめとして犠牲にはなったわけだけど。それで、次に君たちが取るべき行動は?」

「・・・・わかり、ました。」


マリアンヌは観念したかのように項垂れる。

それによって、今回の騒動は無事に収束されることとなった。


だが彼女らには決して悟られてはいけない事がもう一つあった。


(・・・やばい、血を流し過ぎたせいで意識が飛びそう。)


そう、今のヨスミの意識はもはや風前の灯火であった―――――。



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