興味深い話をしている・・・みたいですわ
「【竜誕計画】・・・?」
なじみのない言葉に、リヴィアメリアは首をかしげる。
『なんで・・・それはパパがフィリオラちゃんを生み出してすぐに破棄したはず・・・!』
だがバハムトイリアは何か恐ろしいモノを見るような感じではあるが、恐れよりも怒りを露わにしていた。
「私も詳しい事はわからない。その時は生まれてもなかったから。でもそれは本当なの?青お姉様。」
『うん・・・。私以外にもお姉ちゃんたち全員と一緒に・・・【竜誕計画】に関するモノは全て燃やし尽くしたもん・・・!でもなんで・・・フィリオラちゃんは・・・【竜誕計画】を知ってるの・・・?』
「すこ~し前に【竜神教】が騒ぎを起こしたことがあるのよ。それを収めるために人類と亜人たちが一丸となって収めた事件があったのよ。その時に偶然知ることになったわけ。」
「フィリオラ様・・・、私にはよくわからないんだけどその騒ぎって数百年前に起きたあの事件のこと・・・だよね。でもそれは【竜神教】の奴らが魔王様を復活させようとしていたからって聞いたけど・・・」
「表向きはね。でも実際はちょっと違うのよね・・・。今回誰かが手に入れた情報にこれに関することがあるみたいなのよね・・・。」
そういってフィリオラは懐から何かを取り出した。
古代語のような何かの文字が掛かれた赤黒い布切れに包まれている何か。
フィリオラはそれをリヴィアメリアへと差し出し、それを受け取った瞬間、その何かからあふれ出す未知なるエネルギーが全身を突き抜けるような感覚に襲われ、その場に立つ事すらままならなくなり、その場に座り込んでしまう。
ただただ恐怖と絶望の感情が心を支配し、体がぶるぶると震え始める。
そんなリヴィアメリアの手の平から石を取り上げる。
「な・・・なんなの・・・。その石・・・、ただの、石じゃない・・・」
「ん~・・・【賢者の石】なんて大層な名前が付いてるけどね。」
『フィリオラちゃん・・・なんで、それをあなたが持っているの・・・!?』
バハムトイリアは絶望と怒りに満ちた表情でフィリオラへと詰め寄る。
それがわかっていたかのようにフィリオラはバハムトイリアを必死に宥め、言葉を続けた。
「【竜神教】の最高司祭が杖の先端に嵌めていたのよ。明らかに異質な存在だと感じたから白お姉様に見せに行ったら、初めて白お姉様の殺気が見れたのよね。」
『当たり前だよ・・・!』
「・・・あの、詳しく教えて欲しいんだけど。」
「この話を聞いたら、もう後には戻れない・・・なんて脅し文句があったりするんだけど、まあリヴィアメリアなら話しても問題なさそうね。」
『私の作った子だもん・・・!だから信用しても大丈夫だよ・・・!』
そしてフィリオラはメリアに向き直ると静かに語り始める。
「まず私も全部を知っているわけじゃないからもし疑問とかあったりしても答えられないから。」
「う、うん・・・。」
「まずこれは【賢者の石】。【竜誕計画】によって生み出された神器の1つよ。これがあれば”ありとあらゆる物質を好きなモノに変換することができる”なんて言ってたわね。」
「あらゆる物質を・・・好きなモノに、変換・・・!?」
「そ。例えば、そこらへんに転がっている只の石を黄金に変えたり、ただの水をワインに変えるのなんて朝飯前。なんならそこら辺の空気を魔素に変換することだってできる。」
『え・・・?それは違うよ・・・?確かパパは”外気に含まれる未知なるエネルギーを収集し、それを人体に流すことで自身のエネルギー量を増やしつつ、体への定着率を高めることで自由に扱えるようになる”・・・って言ってたよ?』
「ええ。それが本来のこの【賢者の石】の能力だったわ。でもお姉様たちがパパと一緒に【竜誕計画】に関わった全ての物を処分したはずの物を、誰かがこっそりと回収して、改造を施したみたいなのよ。」
『・・・は?』
その瞬間、バハムトイリアは強い嫌悪感と怒りが湧きだっているのが目に見えて分かった。
「じゃなきゃ【魔王】、それと白お姉様たち相手に対等に戦うことができる【勇者】なんて存在は人間たちには絶対に作り出せないもの。」
『どういうこと?【勇者】ってなにそれ・・・、私知らない・・・。』
これはバハムトイリアが深手を負い、治療のために深い眠りに付いた後の話なので彼女自身もその後に何が起きたのかは知っていないのだ。
リヴィアメリアはそんなバハムトイリアに簡単にその後に起きた出来事を話し始める。
「あ、えと・・・バハムトイリア様がお眠りになられた後、白皇龍様たちは人間たちを殲滅しようと攻撃し始めたの。その時、【魔王】様は白皇龍様たちを止めようとし、でもなぜか途中から一緒になって人類側を滅ぼそうとした。でも人間たちは【勇者】と呼ばれる大いなる存在を作り出し、【魔王】勢力に対抗したみたい。その戦いで【勇者】は死んだけど【魔王】は深手を負うことになって、三皇龍たちは【魔王】を連れてそれぞれの大陸へ逃げた・・・というのが勇魔大戦と呼ばれる遥か昔に起きた歴史的大戦のお話。」
『確かにあの時・・・人間たちに襲われてパパを失ったから・・・私たちは人間に対して強い怒りを抱いていたけど・・・でもだからって滅ぼそうとしていただなんて・・・何があったの・・・?』
「それは私にもわからないわ。一番最初に人間たちに襲い掛かった白お姉様に事情を聞いても決して教えてくれなかったし。」
『・・・そう、しろねえが一番最初に・・・。』
バハムトイリアは何かを考えるかのように黙った後、フィリオラへ視線を送る。
どうやら話の続きを催促しているようだ。
「話を戻すわ。誰かに回収された【賢者の石】は自分たちの都合のいいようにその効能を無理やり変化させられたみたいなの。結果としては大成功したみたいね。ただ、厄介な代償が一緒になってくっ付いてしまった。」
『厄介な、代償・・・?』
「その効果を使うために、代償として何かしらの魂を捧げなければならなくなった。」
魂と言う言葉を聞いてリヴィアメリアはビクッと反応する。
少し前に魂関連でレイラたちが【眷属】と戦い合っていたのを思い出した。
もしかしてその【眷属】と何かしら関係があるのだろうか・・・?
なんて考えているとバハムトイリアがふと感じた疑問をフィリオラへ投げかける。
『・・・それで、その【賢者の石】は使われたの?』
「ええ。数百万という人間たちの魂を捧げ、【勇者】を動かすための心臓として。」
「じゃ、じゃああの時私の体を突き抜けていったのは・・・」
「この【賢者の石】に捧げられた数百万という人間たちの怨念かしらね。白お姉様に話した時に納得していたわ。自分たちが手を掛ける前にはすでに大勢の人間たちが死んでいたから不思議だったって。」
衝撃的な事実を打ち明けられ、リヴィアメリアは酷く怯える。
『・・・フィリオラちゃん、なぜそんなことを知っているの?』
「もちろん、問い詰めたからよ。この石を持っていた最高司祭さまがその【竜誕計画】について知ってたみたいでね。色々と聞かせてもらったわ。その時にその最高司祭の正体もわかったわけだけど。」
『まさか・・・』
「そ、青お姉様の考えている通り。最高司祭はこの【賢者の石】を用いて何千年という時間を生き長らえてきた古代人だったわ。どっかの国のお偉~い研究員だったんだって。パパの命を奪った【楽園襲撃作戦】の後、あの島で見つけ、その時に回収したみたいなのよ。そこからこの【賢者の石】に関しての研究を重ねて今の【賢者の石】の出来上がりってわけ。それからはパパの【竜誕計画】にも興味を持ったみたいで少しずつ、密かに集めていたみたい。でも何の進展もないまま数千年の月日が流れ、ついに痺れを切らした最高司祭は・・・」
『【魔王】を研究材料にするために蘇らせようとした・・・ってこと?』
「*******。」
「いぐ・・・とり??」
「ああ、古代語のひとつだから気にしないで。そんで最高司祭を殺し、【賢者の石】を手に入れた私は白お姉様に相談し、破壊しようとしたけどどうしても破壊することができなくてこうして封印術が施された布を巻いて私が厳重に持ち歩くことになったってわけ。エレオノーラにはかつて【竜神教】が使っていたアジトに最高司祭が生涯集めてきた【竜誕計画】に関する資料を念入りに破壊してもらうために向かってもらってるの。今はあの場所には誰の気配も住んでいる形跡もないから大丈夫なはずよ。」
そう説明するフィリオラ。
だがリヴィアメリアの胸騒ぎは徐々に収まってはいたが、完全に止むことはなかった。
『でもフィリオラちゃん・・・、どうして【竜神教】の奴らとの戦いで・・・もっと詳しく調べたり・・・壊そうとしたりしなかったの・・・?』
「一応壊したわよ。最高司祭がいた部屋、使っていた悪趣味な城、隠された宝物庫とか全部。でも徹底的に破壊していたら、なぜそこまで破壊しているのか?なんて疑問を人間や亜人たちが不信を抱かれ、問い詰められたり、破壊された後にその場所を調査してもし破壊しきれず残った【竜誕計画】に関する何かが渡ったら、第二第三の最高司祭のような存在が出てくるか分かったもんじゃないんだもん。だから徹底的というよりは大きく崩落させて誰も近寄らないようにさせていただけなんだけど・・・。少し前にその区域に誰かが立ち入った形跡があったのよ・・・。」
「でもだからってエレちゃんに向かわせるだなんて・・・」
「私が動くよりも、自分の姿を霧状化させられるエレオノーラに秘密裏に破壊させた方が怪しまれないわ。それもリヴィアメリア、あなたが与えた能力の1つでしょ?」
「・・・本当はもしエレちゃんに危険が及んだ際に安全に逃げて隠れるためにと思って授けたのに・・・そんな使い方されるとは思わなかった。」
なんて言いながら強くフィリオラを睨み、拗ねているリヴィアメリア。
「私が動ければよかったんだけど、もし私自身であそこに行けばすぐに誰かに見つかってあらぬ面倒事を持ち込む羽目になってたわ。」
『すぐに見つかっていた・・・?誰かに監視させているの・・・?』
「ええ。人間、獣人、ドワーフ、エルフの4種族で1周期ごとに交代しながら監視しているわ。今は人間たちが監視しているの。その最中に事が起きているわけだから・・・。今回その禁忌とされた区域に立ち入った者が誰であれ、人間側はそれを黙認した。つまり、裏切者がいるってのが私の考え。」
『・・・やっぱり人類は全員滅ぼすべきだった。私も・・・、しろねえたちの戦いに無理にでも参加すればよかった・・・』
「あはは、もしそうなったら確実に人類側は滅亡していたわね。青お姉様の広範囲攻撃には例え【勇者】だろうが、庇いきれないはずだから。」
『ふふんっ・・・!大津波で全ての人間どもを飲み込ませれば簡単・・・♪』
と言いながら、どや顔しているバハムトイリア。
だがすぐにあっ!と悲しそうな表情を浮かべ始める。
『もしそうなったらあの人間・・・あの女神のようなママと出会うこともなかった。』
「・・・そうね。」
「レイラ様が、ヨスミ様と出会えたことが奇跡といってもいいかも・・・。」
「ところでメリア。一つ聞きたいんだけど。」
「え?なに・・・?」
「どうしてレイラとヨスミのことをママ、パパって呼ばないの?」
「・・・!?」
突然の質問に酷く動揺するリヴィアメリア。
『そうなの・・・?リヴィアメリア・・・どうして・・・?もしかして、2人を認めていないの・・・??????』
明らかにやばい詰め方をしてくるバハムトイリアに怯え始めるリヴィアメリア。
そんな自分の姉を必死に止めていると、リヴィアメリアは恥ずかしそうにぽつりとつぶやいた。
「だ、だって・・・は、恥ずかしい・・・。」
そう呟いて、両手で顔を覆い、今にもゆで上がったカニのようにその頬の鱗は真っ赤に染まっていた。
そんな彼女の姿が可愛かったのか、フィリオラとバハムトイリアは優しくリヴィアメリアの頭を撫でた―――――。