ハルネの手腕、お見事ですわ・・・!
「<転移石>の使用ができない部屋・・・奴ら、本気ですわね。そういった部屋に通す相手というのは本来要人や大事なお客といった方々ではなく、裏の存在や出生がわからない方々・・・まあ相手を決して逃がさない相手・・・よく庶民や孤児、冒険者など相手に通し、無理やりな契約を交わす際に土壇場で逃げられないためにありますわね。わたくしの公爵家にはないのですけど、皇国では何部屋かあると聞いたことがありますわ。特にユトシス皇子がその部屋に女性を軟禁して・・・」
「まあ、今のユトシスなら帰った途端その部屋壊しそうね。まあでもそんな部屋に通されてなお、パパ・・・ヨスミの<転移>は何の問題もなく仕えたのよね?」
「うん。でもあの首輪を嵌められてからは大幅制限掛けられてるみたいだけど。それでも3回は使ってたよ。」
確か使う度にその体に大きな負担が掛けられるはず・・・。
前にわたくしに会うために無理をした時、その表情には見せなくとも体から湧き出る冷や汗と呼吸の乱れ、体の震え・・・。
1回使うだけであんなにも苦しそうなのに、それを3回も・・・。
「・・・大丈夫かしら。」
「ヨスミのこと?あの人ならきっと大丈夫よ。」
未だに<メナストフ港町>にて姿を現さないヨスミ。
そんな彼を思い、黄昏に思いを馳せていた。
『あのぉ~・・・』
その時、レイラたちの話を聞いていたであろうバハムトイリアが声を掛けてくる。
レイラは自分が乗っているバハムトイリアの頭を優しく摩りながら返事を返す。
「な~に?どうしたんですの?」
『わ、私・・・パパの話が聞きたい・・・!』
「パパ・・・?えと・・・ヨスミのことですの?」
『うん・・・っ!』
そういえば【ドラゴンマナ】を宿しているドラゴン種は例外なくヨスミの事を本能で父親だと感じる・・・そういう話でしたわよね。
まさか四皇龍でさえもそのように感じられるとは思いませんでしたわ・・・。
となると、この子も大事な我が子・・・になるんですのね。
・・・わたくしに、背負えるのかしら。
四皇龍という、とてもとても大きな、とっても大きな子供たちを・・・。
・・・いいえ、レイラ。
わたくしは【完璧な淑女】の名を頂き、さらには社交界に咲き誇る【黒き薔薇】と恐れられているんですのよ・・・。
それに、精神力なら子供時代にはもう十分に鍛え切っておりますわ!
・・・まあ少し前に精神崩壊しかけておりましたけれども。
でも今のわたくしにはあの人がいる。
ヨスミが・・・わたくしの愛しの旦那様が・・・!!
たとえどんな子であっても大事な我が子だと受けいれられますわ・・・!!
「そうですわね・・・。久々に目を覚ましたわけですし、ヨスミについて色々とお話致しますわ。」
「あ、それうちも聞きたーい!せっかく目を覚ましたってのに、全然話す機会作ってくれなかったんだもん!」
「わ、私もお爺様のこと、もっと知りたいです・・・!」
「あたしも!ぱぁぱのこと、もっとしぃたい!」
「*******?********。」
「あ、ルーシィちゃん。えとね・・・」
あれやこれやと話をしていると、会話に混ぜてほしいと言わんばかりにミミアンやジェシカたちがやってきた。
どうやらバハムトイリアで遊びつくしたらしい。
それもあって、レイラはフィリオラと共に自分たちの知るヨスミという存在について語り始めた。
ヴィルウッド森での出会い、フォレストゴブリンらの襲撃に盗賊らの隠れアジトに捕まっていたハクアの存在。
ステウラン村での魔喰蟲の大発生から怨念精霊のアリスと大聖樹王虎のシロルティアとの出会い。
ツーリン村での水堕蛇と彼女に託されたもの。
それを聞いた時、ディアネスの出生についても話したが、どこか悲しそうな瞳を浮かべたまま笑顔で返事を返すだけだった。
「でも、ぃまのマァマはマァマだから!ぁたしのぉと、たぃじにしてくれて、あいあとぉ・・・!」
「ディア・・・!ああ、ディア・・・!」
2人でガシッと抱き合い、涙を流すレイラとディアネス。
一応、ディアネスにとってはたった今明かされる大事な出生ではあるはずなんだが・・・。
「まあでも、ディア自身がそう感じているなら別に何も言うことはないわね。」
「結局大事なのは周りの気持ちじゃなく、本人の気持ちですからね。そこを間違えてしまえば、和解できるものも和解できなくなり、それはやがてすれ違いになり、亀裂となって、最終的には決裂してしまいますから。」
「あら、もうこんな時間ですわ。」
気が付けば、赤く染まった夕空はキラキラ輝く満天の星空へと変わっていた。
レイラの傍に突然姿を現したハルネは大きめの布でレイラの体を包んだ。
「レイラお嬢様、お体に触ります。傷ではないとはいえ、傷痕がこうも長時間外気に晒され続けられるといけません。」
「わかったのですわ。それじゃあ、わたくしはひとまず先に上がりますわ。ディア、おいで。」
「はぁ~い!」
「お食事の用意も出来ておりますので、皆様も準備が出来ましたらおいでください。もちろん、バハムトイリア様の分もございます。」
『ふえぇ・・・!?私の分まで・・・!?』
あの巨体相手に一体どんな料理を用意したって言うの・・・!?
なんて言いたげな表情を浮かべながらハルネを見つめているフィリオラを余所に、ディアネスを抱いたレイラを連れてバハムトイリアの頭から降りる。
その後に続くように他のメンバーも次々と降りていき、水着を脱ぐと各々体に付いた砂やら海水の塩などをハルネが用意していたお湯で洗い流していく。
「・・・ルーシィちゃん。意外と胸あるんだね。」
「*****?」
お湯浴びしている最中、ルーシィの体をまじまじ見ながらジェシカは思わずつぶやいてしまった。
それを受けてルーシィはジェシカに聞き返すと、彼女は視線を下に落とし、自身の胸を見る。
「え?あ、ううん違うの。ただ私のって・・・ほら、小さいでしょ?」
「*****、************。」
「・・・えへへ、そう言ってもらえてうれしい。でも小さいのにそんなスタイルがいいなんて、将来どうなっているのか想像が付かないや・・・。」
「*******!」
「傾国の美女?」
「********、**************。***********、*******!」
「へ~、ルーシィちゃんのお母様って美を司る【色欲の悪魔】だったって?何を言っているのかはよくわからないんだけど、でもすごい人だったんだね、お母様って!えへへ、実は私のお母様もね・・・!」
2人で楽しく話しながら和気あいあいと楽しそうにじゃれ合っていた。
そんな様子を隣でじっと見ながらフィリオラはなぜかそこにあった巨大な湯船の湯につかりながら、微笑ましく眺めている。
その隣にはミミアンとリヴィアメリアが気持ち良さそうに浸かっていた。
その時、メリアがフィリオラの傍までやってくると静かに話しかける。
「フィリオラ様、1ついい?」
「ん~?どうしたの?」
「エレちゃん・・・、エレオノーラは?レイラたちと一緒に来ていると思っていたんだけど・・・」
「ああ、あの子ならちょっと個別に頼み事をしているの。まああの子なら大丈夫よ。あなただってわかるでしょ?あの子の実力。」
「・・・そうだけど、でも心配。」
「もうちょっとは信頼してあげなさいな。」
そう助言を言い渡し、フィリオラはにたぁ~っとジェシカとルーシィの姿を見つめていた。
どうやらフィリオラ自身もジェシカの事を痛く気に入っているようで、何かと気に掛けているようだ。
そして今回新たに加わったルーシィという【悪魔】の幼女。
恐らく、いやきっと幼女から養女になりそうだなと頭の中で考えていた時、体を洗い終えたのだろう、ジェシカがルーシィと共にフィリオラたちが浸かっている大きな湯船の中に入ってきた。
「ふわぁぁ・・・とても気持ちいですぅ・・・」
「****~・・・」
「ほら~、肩までしっかり浸かって~!じゃないと体冷やしちゃうよー?」
どうやらジェシカとルーシィも気に入ったようで、とても緩み切った表情を浮かべていた。
そんな2人をミミアンは温かく迎い入れ、一緒になって静かに揺れる白き湯の水面に沈んでいった。
それからしばらく湯浴みを楽しんでいたフィリオラたちはまたハルネに用意されていた服に着替え終え、夕食のテーブルに付いていた。
レイラは専用の薬草が染み込んだ湯舟に浸かっていたので、一緒に浸かりたかったと多少拗ねているジェシカをレイラは謝りながら宥めることになった。
その傍らにはあれより更に小さくなったバハムトイリアの姿があった。
それぞれ出されたハルネの特性料理が次々と並べられ、それを美味しそうに食べていた。
バハムトイリアのために用意された食事もあの巨体が故にかなりの量を用意されそうだったのだが、フィリオラが事前にハルネに伝えており、今の大きさに見合う量となった。
・・・まあそれでも圧倒的に多いわけではあるが。
「長年眠り続けてきたのであれば、おそらくお腹がすっごく空いているはずです。ですからいっぱい用意致しました。」
とかいって物量的に絶対無理であろうあの巨体のためにとんでもない量の食事を用意しようとしていたハルネの根性には多少なりとも畏怖を感じられた。
結果としてはだいぶ量は抑えられたが、それでも常人が用意できる量を遥かに超えていた。
何よりも、
『お、おいしぃいいい・・・!?!?』
とバハムトイリアの舌を唸らせるほどの絶品に、ハルネの口の端が微かに上がっていた。
食事を終え、各々ひと満足しているとほぼ完治したハルネは【八傀螺旋ノ鎖蛇】を使いながら、一瞬にして片づけていく。
そしてジェシカたちに話しの続きをせがまれ、レイラとフィリオラは食後の休憩にと語り始めた。
それからまた1時間ほどが立ち、気が付けばディアネスやルーシィからは可愛らしい寝息が聞こえてきていた。
「あらあら、もうこんな時間ですのね。なら続きはまた明日に致しましょ。」
「そうね~。良い子はねんねの時間よ。」
「うう、楽しみすぎて今夜眠れるか不安になってきました・・・」
「ならわたくしと一緒に寝ましょ。」
「い、いいんですか・・・!?」
「あ、ずるーい!うちもレイラと一緒に寝るー!」
「******・・・!!」
とジェシカたちはレイラに抱き着きながら、ハルネに案内されながら屋敷へと共に入っていった。
レイラたちがいなくなったのを見計らったかのように、メリアはフィリオラへ話しかけた。
「・・・それで、フィリオラ様。エレちゃんには何を頼んだの?」
「あら、大丈夫って言ったはずよ?」
それを受け、なんでもないといった感じで返答を返す。
だがメリアは納得のいかない様な表情を浮かべている。
「なら一つ聞かせて。どうしてエレちゃんの反応が、あの忌まわしい【竜神教】が根城にしていた区域から感じるの・・・?」
「あ、そっか。メリアはエレちゃんと契約を交わしているから互いの位置がわかるんだっけ・・・。」
『【竜神教】・・・?なにそのパパが立ちあげてそうな教団・・・。』
「あー・・・青お姉様、【竜神教】についてはまた今度話すわ。今きっと話したらダメだと思うから。」
なんてバハムトイリアに説明しているフィリオラにリヴィアメリアはぐいぐいと詰め寄る。
「エレちゃんに・・・何させようとしているの・・・!?」
「・・・あー、もういいか。私がヨスミを罠にはめようとした人物らを調査し始めてわかったことがあってね。その中でとある一派が不審な動きをしていることがわかったの。その動きを追っているうちに、その一派はある資料を手に入れてしまったようなのよ。だからあの子にあの場所を念入りに破壊してもらうようにお願いしてたの。」
「とある資料って・・・」
メリアは何かわかったかのように顔を青ざめた。
それを見てフィリオラはそれを肯定するかのように頷いた。
「・・・【竜誕計画】、奴らはその資料の一端を入手した可能性が高いわ。」
『・・・えっ!?』
その言葉に何よりも反応したのがバハムトイリアだった――――――