もうすぐで会えるのですわ。
あれから1日が無事経過し、わたくしたちは古代遺跡の中でしっかりと休むことができた。
目を覚まさなかったルーシィも意識を取り戻し、順調に回復している。
回復力が桁違い、さすが【悪魔】だとハルネは感心していた。
【悪魔】は本来、戦いを好む種族であり、戦いに特化した体の構造をしている。
自然回復能力が高いのもそれが理由の一つとなっている。
ただし、突き刺さった矢じりが原因で自慢の高い治癒能力が発動できず、一時危篤状態とはなっていたがそれをすぐに抜いた後、鎮魔薬を投与されたことでメチャクチャだった魔力回路も正常になり、治癒能力も元に戻ったことで一気に傷が回復していった。
それからはすぐにいつものルーシィに戻り、ティガール将軍との戦闘で傷を負った仲間たちも1日過ぎたことで大分回復した。
そんな中、もうそろそろ日が昇るという朝早い時間帯に屋上に水が無限に湧き出てくるという魔道具が設置された場所にやってきて、全員で朝日を浴びながら屋上にて真っ裸になりながら水浴びというおかしなことをしていた。
まあ、初めてわたくしの体を見たルーシィが酷く慌てふためいていた様子がとても可愛らしかったですわ。
「わ~、すっごく気持ちいいです~・・・!」
「きもち~!」
「一晩中走り続けた体が引き締まるぅ~・・・。」
とても楽しそうに水浴びをしているディアネスやジェシカ、ミミアンを見ながら自分の膝上に座っているルーシィの頭を優しく洗いながら眺めていた。
「***~♪」
今ではわたくしの体に自分の体を預けられるぐらいには・・・仲良くなれているのかしら?
この笑顔を見たら、そうであってほしいなとわたくしは思いますわ。
「あ、ルーシィずるいです!お婆様、私もー!」
「あちも~!」
「ならうちも~♪」
「ミミアンは却下よ。あなたまで受け止められる余裕は今はありませんですの」
「うちにだけちょっち厳しくないかなぁ・・・!?」
なんてやり取りを繰り広げながら朝出発する前の水浴びを終え、各々着替え終えると古代遺跡を出る。
「ルルちゃん。」
ルーフェルースはレイラの腹部に展開された魔法陣から出現し、レイラたちを見回す。
そこに今まで見慣れなかった存在に興味を抱いたようだ。
「ママー、その子は?」
「ルーシィですわ。わたくしの新しい家族になる子だから優しくしてあげてくださいまし。」
「ふ~ん・・・。」
そういって顔を近づけ、ルーシィをじっと見つめる。
その後、嬉しそうに笑顔になるとペロンとルーシィの顔を舐めた。
「*****!」
「何言ってるかわからないけど、可愛いね~!」
どうやら気に入ってくれたようですわね。
「今日で<メナストフ港町>に行きますわよ。」
そこにいけば、あの人も・・・ヨスミにまた会えますわ。
せっかく目を覚ましてこれから色んなことを経験し、その・・・あの方にわたくしの体を受け入れてもらえただけじゃなくて・・・つ、繋がることもできたのに・・・。
これからいっぱい・・・いっぱい繋がれると思ってたのにぃ・・・。
・・・は、はしたないかしら?
あの人との相性もすごくよかったみたいで、この体があの人を求めてやまないんですの・・・。
・・・い、いやらしいかしら?
あの人と行為を重ねることが、こんなにも気持ちが良いモノだなんて思わなかったんですの・・・。
今はあの人に会えなくて辛いけど、<メナストフ港町>にさえ付いてしまえばもう一度会える。
そうすれば全てが終わり、またあの人と一緒に旅、そして・・・
「うふ、うふふふふふ、うへへえへへへへえへへへへへへえ」
「ねえ、ミミアン様?お婆様の顔がとんでもなく酷いモノになっているんですけど・・・」
「あの顔さえしなければレイラお嬢様はまさに【完璧な淑女】・・・。」
「まー、レイラは普段【完璧な淑女】なんて呼ばれてるけどねぇ~。ああい見るとレイラだって普通の女の子だって実感させられるんだよね~。」
「*****。」
その場にいた全員がレイラのあられもない顔をしている彼女の表情を見て目を背けながら話していた。
それからレイラたちはルーフェルースの体に跨り、空に飛び上がると<メナストフ港町>に向けて飛行していく。
距離としては折り返し地点。
さすがに馬車よりも圧倒的に早い。
前回は2週間ちょいで到着したというのに、今回は数日も掛かっていない。
・・・もしドラゴンという存在が世界中に認められるようになったら、<竜空艇>・・・なんて事業をお父様に提案してもいいかもしれないですわ。
もしそうなればきっとあの人も喜んでくれるかしら・・・!
「うふふふ、うふふふふふふふふ、うへへへへへへへへへえへへへへへえへへえへへえへへへへ」
「・・・ねえ、またレイラが酷い顔してんだけどー」
「お婆様、今度は一体何を考えているのですか・・・」
「十中八九、ヨスミ様のことでしょう。ただヨスミ様と一体どんな爛れた行為を考えているのかは不明ですが・・・。」
なんて話をしていると、地平線の彼方に海が見えてきた。
その隅には【古獣の王】らしき小さな山が見えた。
つまり<メナストフ港町>まで後もう少しということだ。
・・・だが、その傍には何も見えない。
【青皇龍バハムトイリア】らしき存在の姿は見えない。
この全海域を支配しているというから、どれほど巨大な存在かと思っていたけど・・・。
もしかして逆に普通くらいの大きさ・・・?
「【青皇龍】って古龍ならぬ、小竜・・・だったり?」
「ぶふっ・・・!?」
不意に零したレイラの言葉が耳に入ったミミアンは思わず吹き出してしまった。
「だ、だって・・・もうすぐで<メナストフ港町>だというのに、肝心の【青皇龍】の姿が見えてないんですもの・・・。この全ての海を支配しているならばもっと大きいと思いますでしょ?なのに・・・」
「大きい大竜じゃなく、小さな小竜ということですね。皇だけに大きくない・・・と?」
「ぶっふっ!?げっほげっほ・・・!!」
ハルネの追い打ちにミミアンは止めを刺されたかのように咳き込み始めた。
「・・・あ、なるほど!古龍に小竜って言葉を掛け合わせているんですね!なるほど、そういうことでしたか!確かにお父様の創造主である【青皇龍】様ならきっと大きいですものね!」
「も、もうやめて・・・!お願い、だから・・・もうやめて・・・!」
ジェシカはようやく言葉の意味を理解したようで解説し始め、それを聞き息も絶え絶えとなっているミミアン。
「でも確かにそうですね・・・。過去の伝承にも【青皇龍】に関する話だけはないんですよね。」
「え?【青皇龍】様以外の皇龍様は知られているんですか?」
「そうですわね・・・。といっても勇魔大戦のときの御伽噺に出てくるものだけですけど。【赤皇龍】は火山のように大きく、体の至る所に噴火口のようなくぼみがあるらしく、まるで火山を背負ったような見た目でしたわね・・・。」
「あ、それなら【黒皇龍】様は知ってるよ!」
と復活したであろうミミアンが手を上げながら会話に混ざる。
「確か<黒曜狼>は【黒狼龍】を祖先に持っているって話でしたわね。」
「そそっ!【黒皇龍】様はね、全身が真っ黒に染まっててまるで影のように揺らいでいるんだって!それでガッチガチの武闘派なこともあって黒大陸出身には必ず何かしらの武器をモチーフにしているみたいで、うちらの先祖である【黒狼龍】様は槍がモチーフになってるの。うちはその槍の系統にある『薙刀』・・・の刃だけが受け継がれて形を変えて『爪』になったって言われてるっしょ。んで肝心の【黒皇龍】様の体には全ての武器を変幻自在に使い分けられるって話みたい。『勇魔大戦』の時にはその翼や尻尾、そして爪と角は何十という武器に変わり、【勇者】を追い込んだって話だよ!」
「体が影のように、そして武器へと変えられる・・・。なんだかすごい存在なのですね。」
「でっしょー!?」
ふふんっ!と胸を張るミミアン。
だが実際ミミアン自身が凄いわけではないのだが・・・。
「それで、【白皇龍】様は?」
「・・・そうですわね。【白皇龍】に関しては、少し複雑なんですの。」
「え、どういうこと?」
レイラが言い淀んでいる様子が気がかりとなり、ジェシカはレイラへ質問を問いかけようとする前にハルネが語り出す。
「【白皇龍】はごく普通の白いドラゴンとして描かれております。それ以上でもそれ以下でもなく、特徴があるとすれば・・・、」
「他の皇龍よりも一番凶暴であったと伝えられているのですわ。【白皇龍】を見て生き残った者がいないが故にそのように伝えられているとも言われているんですの。ただ全身は真っ白で、あの戦いで散々返り血を浴びているはずなのにその純白な体には一点の曇りもなかったと言われておりますわ。」
「ど、どういうことですの・・・?」
「所説はありますが、『勇魔大戦』で一番【勇者】側の勢力を皆殺しにしてもなお、その体には彼らの返り血は一滴たりとも浴びなかったとされるほどその白さは目立っていたということです。それ以上の特徴がないがゆえに・・・」
「ただの、白いドラゴン・・・ですか。」
「そういうことであれば、【青皇龍】とあまり変わらないと言えますね。」
一体何をどうすれば他の皇龍のような特徴がなく、『白』という色だけになるのだろう・・・。
でもそれと同時にジェシカには興味が湧いて出てきた。
自らの父であるレスウィードを作り出した【青皇龍】様、その姉妹龍であるとすれば俄然興味が出てきてもおかしくはない。
元々、ドラゴンに対するヘイトがジェシカには一切ないためにドラゴンに対して抱く感情が恐怖や畏怖ではなく、愛に近い感情を抱くのは自然であった。
「お爺様の気持ちが、少しだけわかる気がします。」
・・・でもどうして世界はドラゴンに、ドラゴンは世界に牙を向いたのでしょう?
一体、昔に何が・・・。
そう考えていると気が付けば<メナストフ港町>の入口近くまでやってきた――――――。