なんだか世界の一端を知った気がするのですわ・・・
「・・・それで、ベアトリーチェ、でしたかしら?」
『あら、かか様?わらわのことはヴィーチェ、とお呼びくださいな』
「ならヴィーちゃん。あなたはどうしてあそこにいたんですの?」
そう聞くとヴィーチェは少し考え事をするかのように首をひねり、そして顔をレイラへ一気に近づけた。
『ん~、一言で言えばかか様に会いに?』
「わたくしに?でもこの辺りの気候からしてこの近くに住んでいるというわけじゃないですわ。きっと雪が降りしきる遠い北の方・・・ですの?」
『少なからずとも遠からず、かしらね。』
ヴィーチェはとある方向を見つめる。
レイラはヴィーチェが見ている方向に覚えがあった。
「・・・この方向は確か、白銀の大陸<ヴァイターナル>ですわ。」
『<ヴァイターナル>・・・、なるほど。人間たちはそう呼んでいるのね。そう、我らの主であるティアガトゥルーマ様が収めている白銀に輝く美しい大陸****からやってきたの。』
「え?ヴィっちったら今なんて?」
『その呼び名はおよしっ!!!』
「ぶっふぅ!?」
パアンッとミミアンの顔面にどこからか氷塊が飛んできて砕け散る。
そのままミミアンは吹き飛んでいき、凍った地面に頭から突っ込んだ。
「あら?可愛らしいではないですの。ヴィッチ。」
『いやよ。”アバズレ”なんて侮蔑な言葉と同じような意味を持つ古代語があるんですの。まあ語録がかなり近いだけで同じ言葉ではないですけど。』
「古代語をご存知・・・なのですの?」
『ええ。といってもその<ヴァイターナル>?って場所に伝わっている古代語だけだけど。まあそこからわらわはかか様に会いに来たってわけ。でもそうしたらこんなことに・・・。』
ヴィーチェは深くため息を吐いた。
翼に空いた穴を見せつけるように軽く羽ばたかせる。
「それは・・・申し訳ないですの。」
『それはかか様の責任ではないわ。油断していたわらわもわらわよ。でもまさかあのくそフ**クゴーレムに傷を付けられるなんて・・・。ああ、わらわの美しいこの翼にこんな穴が開くなんて・・・』
「ふぁ、ファウク・・・?」
『ああ、なんでもないわ。これも古代語なの。意味は知らなくていいわ。それよりもかか様はなぜあんなところに?』
「えと・・・」
そこでレイラはヴィーチェにこれまでの経緯を話した。
最後まで聞き終えたヴィーチェは「ふ~ん」と返事を返し、王都タイレンペラーの方を見つめる。
だがその瞳には怒りの感情が渦巻いていた。
「だからといって報復とかはダメですわよ?」
『もちろんよ。そんな野蛮なこと、わらわがするはずないわ。』
そういってヴィーチェは自らの尾を差し出した。
その意味をレイラはすぐに察し、その意を問う。
「・・・いいんですの?」
『ええ。そのためにわらわは<ヴァイターナル>からやってきたの。まあわらわ以外にもかか様やとと様に会いに向かっている子は大勢いるけど。ま、その中でもわらわは結構早くたどり着けたみたいね。』
「そうですの。なら、我が子になっていただけるかしら?ベアトリーチェ。」
『仰せのままに、我らが偉大なるかか様・・・。』
頭を垂れ、レイラに自らの額を差し出す。
レイラはその額に触れると淡く光り、ヴァレンタイン公国の紋章が刻まれた。
その瞬間、ベアトリーチェの体に走るレイラの魔力。
それに混じって【フェアリーマナ】が流れてくると自身の【ドラゴンマナ】と反応し合い、融合していく。
その瞬間、彼女の背中に生えていた穴だらけの翼は一瞬にして修復し、更にはその翼はより透き通り、さらに美しさに磨きがかかったかのようにその見た目は以前見た妖精の女王から生えた羽根のように変貌した。
『これ、が・・・。かか様の恩寵・・・。美しいわらわの新たなる姿・・・!』
「・・・まさかこんなことになるなんて。」
どうしてこんなことが起きたんですの?
ドミニクを我が子に迎い入れた時はこんなことは起きなかったはずですのに・・・。
もしかして、わたくしの魔力が妖精の女王によって【フェアリーマナ】に変質したことによる影響・・・ですの?
今のヴィーちゃんからは2枚から4枚の美翼に増え、更に二股の尻尾は尻尾・・・というよりもまるで天女の羽衣のように薄く、ひらひらと靡いている。
明らかに、進化を迎えた・・・?
『・・・今ならベオ爺にも勝てる気がするわ。』
『ほほう、ならばやってみるか?』
とそこにベオルグがゆっくりとやってきた。
「ベオちゃん、みんなは大丈夫ですの?」
『うむ。あの者らならば問題ない。故に母上殿の様子を見に来たのだが・・・』
そういってベオルグはベアトリーチェをじっと見つめる。
以前とは違う姿と化した彼女の容姿に困惑していた。
『あら、ベオ爺。どう?わらわの更に美しくなったこの姿・・・。』
『確かに見た目は変わったようだが、所詮は見た目だけだ。中身は全然変わっておらぬようだな。ならば結局我の相手としては力不足だ。』
『い、言うじゃない・・・。見た目だけかどうか、その身で味わってもらってもいいのよ??この****!』
『ふっ、ならば試してみるといい。小娘。』
一触即発状態となっているベオルグとベアトリーチェ。
「ちょっと2人ともやめるんですの!」
『かか様・・・』
『母上殿・・・』
「わたくしの大事な我が子らが争い合う姿なんて見たくありませんですの。もし傷ついてしまったらわたくし・・・わたくしぃ・・・!!」
『ああー!ベオ爺がかか様を泣かせたぁー!』
『は、はあ・・・!?我が泣かせただと!?それを言うなら小娘、お主もそうじゃないか!』
なんてレイラが泣き真似している前で巨大なドラゴンが2頭慌てふためく姿をミミアンは突き刺さっていた地面から抜け出し、横になりながら見ていた。
「ほんっと、性格が悪い【完璧な淑女】だこと。」
「あ、ミミア~ン!」
とそこにジェシカたちがやってきた。
その傍にはルーシィやディアネスを<鎖蛇>で抱き上げているハルネの姿があり、その他の<鎖蛇>は周囲の警戒を続けていた。
「あら、皆もきたのね~。」
「それよりこの状況は一体なんですか?」
「なんかベオっちとヴィッ・・・ひぃっ!?」
とミミアンがその名を呼ぼうとした瞬間、ミミアンのすぐ真横を氷塊が通り過ぎた。
『そこの犬っころ?その名でわらわを呼ぶなと申したはずよ・・・?』
「・・・ごめんちゃい。」
「わぁ・・・すごく綺麗・・・!」
『・・・あら。』
ジェシカは思わず目の前に突然現れたベアトリーチェの姿を見て思わず息を飲んだ。
その純粋な瞳を向けられ、ベアトリーチェはジェシカをじぃ~っと見つめる。
ジェシカの体に流れる異質な混血を見て目を細める。
『・・・なるほどねえ。お前、その身に【ドラゴンマナ】だけじゃなく、魔物のマナを宿している。それに珍しい狐のマナまで・・・。』
「え?あ、えと・・・」
『特異な子だねぇ・・・、本来、その身に1つしかマナを宿すことはできない。2つとなればそれは過去に一人だけ。かつて我らの友と相対した【勇者】と呼ばれる<化け物>のみ。なのにお前ときたら3つとは・・・あの【勇者】を超えた存在とはね・・・なんて美しい子。』
そういってジェシカの頭を優しく撫でる。
『お前、わらわの姉妹としてはふさわしい・・・。あの忌まわしい【勇者】を超える存在なんて初めて見たわ・・・!』
「あ、えと・・・」
『お前、名はなんという・・・?』
「えと・・じぇ、ジェシカです。」
『ジェシカ・・・ああ、ジェシカ。わらわの可愛い妹・・・。』
ベアトリーチェは嬉しそうにジェシカを自らの手に乗せ、持ち上げるとその容姿をよく見ようと顔に近づける。
見れば見るほど、そのジェシカの可愛い妹という認識はベアトリーチェに更なる拍車を掛けて行く。
『ジェシカ、お前はそこで静かに見ていらっしゃい?今からあなたの美しい姉はベオ爺を叩きのめすその姿を・・・!』
『ふぅむ、言ってくれる。小娘ごときの実力で我に勝つなど、まだまだ・・・』
「我が子で争い合うなんてわたくし・・・わたくしぃ・・・」
『ああ、かか様ぁ・・・!?』
『泣き止んでくれ、母上殿ぉ・・・!?我らが悪かった・・・!』
「・・・。」
先ほどと同じ展開を迎え、そんな姿をジェシカは茫然とした目線を送っていた。
「レイラお嬢様の涙に勝てる者なんて誰一人としておりません!さすがですわ、レイラお嬢様・・・!」
「あー、はいはい。さすが【完璧な淑女】ね~。泣く演技もさすがだわ~」
『こほんっ、とりあえずわらわは無事やりたい事をやり終えたので一度****・・・<ヴァイターナル>に戻るわ。その後また戻ってきますわね。』
「ヴィーちゃん・・・。すぐにまた会えますわよね?」
『もちろんですわ、かか様。ベオ爺、あなたとの決着はお預けよ。それまで絶対にアイツらにやられるんじゃないわよ・・・?』
『・・・誰に言うておる。』
何か2人で意味深な会話を繰り広げ、その後レイラへ頭を下げるとその4枚の美翼を広げると交互に羽ばたかせる。
宙に浮かび、そのまま<ヴァイターナル>の方へと飛んでいった。
空に浮かぶベアトリーチェの姿は太陽光に当てられより一層輝き、美しさを増す。
ベアトリーチェの周囲を舞う冷気は光り輝き、そして蜃気楼となってその姿は霧と化し、霧散していった。
「・・・なんだか嵐のようなお姉様でした。」
『では我も元の鞘へと戻りましょうか。』
そういってベオルグの姿は光に包まれ、小さくなっていくとレイラの黒妖刀の鞘へ巻き付いていく。
そしていつもの鞘の装飾品と化した。
「なんだかいつもの調子に戻った気分ですわ。」
「それで、これからどうするの?」
「そうね・・・、まずはルーシィがきちんと休めるための場所を探さないといけませんですわ。ミミアン、この辺りにどこか近くに村はありませんですの?」
「あったにはあったんだけどね~・・・。」
そこで思い出されたのは<メナストフ港町>に向かう途中に見た廃墟と化し、そこを籠城していた野盗たちの姿だった。
つまり、今この近くには真面に休める場所はない。
「・・・もう一泊あの古代遺跡で休むしかないですわね。」
「あ、それ気になってた!すっごく美味しいのがあるんでしょ?うちも食べてみたかったんだー!」
「それじゃあ向かうのですわ。」
そうしてレイラたちはもう一日ほどあの古代遺跡で休むこととなった―――――。
~ 今回現れたモンスター ~
竜種:妖雹龍
脅威度:??????
生態:レイラの子としての契約を結んだことで、彼女の【フェアリーマナ】が体内に流れてきたことで自身の体内に流れている【ドラゴンマナ】と反応し、調和させた結果新たな存在として生まれ変わった姿。
オーロラのような美翼は4枚に増え、2又に別れていた尾もまるで天女の羽衣のように胴体に纏わりついていた。
また竜鱗も以前のような透き通った青白い花弁のようなものではなく、羽衣の切れ端のように揺らめき、よく見れば一枚一枚に何かしらの花のような刻印が刻まれていた。
全身から漏れ出ている冷気は霧状と化し、より広い範囲に漂わせられるようになり、それを吹雪のように周囲に降らすこともできる様になったり、またそれを自身に集中させて蜃気楼のようにさせて姿を晦ますことも可能になった。
そして氷角は更に美しく輝き、微かに冷気のような霜を漂わせ、煌いていた。
まるで氷の妖精をその身に体現したかのような美しさに思わず自分自身もうっとりとしてしまうほどだった。
だがその戦闘能力は未だに不明で底が見えない。