表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
253/517

世界は本当に広い、ということですわ。


「・・・え?」


目の前で起きた異質な光景。

彼等が放った矢はハルネたちを射抜かず、自分たちの背中を射抜いたのだ。


「ば、馬鹿な・・・!?一体、何が・・・」


一体、何が起きたんですの・・・?

確かに彼等はハルネたちに向けて矢を放ちましたわ・・・。


でも、放たれた矢に貫かれている恐ろしい光景とは真逆で、放った射手たちの背中に次々と自分たちの放った矢が刺さっている・・・・。


あの矢に刻まれた刻印はそういった効果でも・・・


と考えている時、射手たちが治癒魔法を掛けようとするも、

「なっ!?魔法を使うな・・・!!」

という叫びも虚しく、魔法を使用した瞬間に射手はまるで爆弾にでもなったかのようにはじけ飛んだ。


それを見てすぐさまあの矢の効果が魔法を起爆剤に突き刺さった対象を爆弾に変えてしまうという効果だと悟った。


なんと悍ましい効果ですの・・・!?

恐らく、突き刺さったときに体内に流れる魔力回路に影響を与えるものなんですのね・・・。


あの爆発も、自身の保有している魔力が矢によって魔力回路が変質しているために反発し合ってああいう風に破裂してしまうみたいですわ。


・・・・なんて呑気に解説している場合ではありませんわ!


レイラは急いで立ち上がり、すぐさま将軍へと斬りかかる。


「ふんっ!」

「くっ・・・!?」


だがさすが将軍の座にいるだけあって実力も相当高いようで、レイラの立ち筋は見切られているかのように簡単に受け流されてしまった。


そのまま距離を取るとすぐさま黒妖刀に自身の魔力を流す。


黒妖刀の刀身に刻まれた蕾が美しい花を咲かせ、花びらが刀身内で舞う。

やがてそれは刀身の外にまであふれ出し、辺り一帯を微かに光る薄ピンク色の花弁が風に吹かれ、宙を舞い始めた。


「<神速>・・・!」


レイラは再度将軍に対して斬りかかった。

それを真っ向から対峙し、レイラの最初の一撃をいなした。


だが今度は別方向からレイラの実態を伴った魔力体が将軍へと斬りかかる。

体を少しずらし、最小限の動きだけで避けると反撃とばかりにその魔力体に膝蹴りを繰り出した。


その直撃を受けた瞬間、魔力体は一瞬にして花びらとなって散る。

そしてまた将軍の死角から別の魔力体となったレイラが黒妖刀の一撃を振りかぶる。


「甘い・・・っ!」


その攻撃さえも簡単にいなし、逆にその魔力体の顔面に拳を叩き込み、頭部を吹き飛ばされた魔力体は力無く花びらと化して激しく散った。


次々と将軍の死角を狙ってのレイラの魔力体による攻撃をいなし、受け流し、そして反撃していく。


猛攻するレイラの一撃を全ていなしきり、レイラの実体による渾身の一撃さえも将軍の手甲によって防がれた。


そして最後の一撃として将軍の背後に姿を現した巨大なレイラの魔力体による巨大な刀の一撃を、腰に携えていた剣で受け止めるとそれぞれ受け止めていた切っ先の軌道をずらすことで受け流し、そのままレイラの後頭部に強烈な蹴りを、レイラの上半身だけの巨大な魔力体には持っていた剣を頭部にぶん投げると見事に突き刺さり、そのまま花弁と化して静かに散っていく。


「ぐぅっ・・・!」

「・・・見事な攻撃だった。どこから飛んでくるかわからぬ斬撃、そして実体と魔力体の双撃。中々に悪くない。だが、あの魔力体の斬撃は令嬢の剣術に比例しているため、一度見切られている相手には意味がないな。まあ奇襲として使うなら効果覿面だろう。」


届かない・・・。

あの者に、わたくしの剣術が・・・力が全く及ばない・・・。


わたくし自身、驕っていたつもりはありませんの。

故に毎日の鍛錬と研鑽は惜しまず、日々怠ることなく積み重ねてきたつもりでしたわ。


でも、あの者はその遥か先にいますわ。

積み重ねてきた年月が歴然としていますの・・・。


・・・だからって、このまま地べたに這いつくばり、諦めるつもりなんて一切ありませんの!


「ま、まだぁ・・・ですわ・・・!」

「ふむ・・・、令嬢はこのような苦難を前に下を向いて絶望するのではなく、諦めずに前を向いてその剣を向けるか。ふっ、よきかな・・・!令嬢、名は?」

「・・・隣国ヴァレンタイン公国を治めし、ヴァレンタイン公爵家令嬢が1人、レイラ・フォン・ヴァレンタインですわ!」


そう叫びながらレイラは震える手で黒妖刀をしっかりと握り、剣先を相手に向ける。


それを受け、将軍は手を横に伸ばした。

すると先ほど投げたはずの剣が飛んでくるとその柄を握り、軽く振り回すとそのままゆっくりと構え直した。


「我が名はティガール。猛闘虎(グラディガ)の血を引く由緒正しき虎の獣人だ。今は故あってガヴェルド王に仕えている騎士の1人で将軍の座を頂いている。レイラ嬢、お前に恨みはないが大人しく捕まって・・・」

「はぁぁぁああああ!!」

「!?」


と突然どこからか斬撃が飛んできて、それを防ごうと剣を構えようとするがすぐさま取りやめると回避行動に移る。


その一瞬の遅れにティガールと名乗った将軍は左足を斬撃によって深く切り裂かれてしまう。

そこへ追い打ちと言わんばかりに黒き狼が飛び掛かり、ティガールの腕に噛み付いた。


「うぐっ・・・!?」


だがその牙はティガールの手甲をいとも簡単に切り裂き、かみ砕く。


噛み付いてきた黒き狼を突き放すために殴り飛ばそうとするがすぐさま口を離し、ティガール将軍を蹴り飛ばして跳躍し、そのままレイラの横へと着地した。


その黒い狼をレイラは知っていた。

その背中にくっきりと見える、大切な親友がその身に背負う傷痕。


「ミミ、アン・・・?」

「ガルルルルルル!!」


その威嚇はティガール将軍だけじゃなく、レイラにも向けられていた。


・・・明らかに怒っている。

ただのおこではない、激おこぷんぷん丸だ。


そしてなぜミミアンが激おこぷんぷん丸なのか、その理由もわかっていた。


「・・・置いていったことは謝りますわ。」

「ガルルルルルルルゥ!!!」


図星を付いたみたいで、先ほどよりも怒りを露わにしていた。

だがすぐさまレイラに向けていた怒りの目線をティガール将軍へと戻す。


どうやら今は連携してティガール将軍を何とかしようといったミミアンの判断だろう。


「・・・わかりましたわ。」

「ガルルルルゥ・・・・!」

「なるほど・・・、黒曜狼。確かにその牙、爪の鋭さたるや・・・。我が防具もこのように簡単に切り裂くほどとはな。そしてさっき飛ばしてきたのは空間斬撃というものだったか。それを扱えるのはジャステス公爵だけだったはずだが・・・」

「ガルルルルルゥ!!ガルルルル!」

「なるほど、その娘も父の業を見事に受け継いだというわけか。」


そういってティガールは怪我をしていない方の腕で剣を構え直す。


「片腕、片足をやられ、レイラ嬢とジャステス公爵の娘の2人が相手か。むしろいいハンデだ。」

「ガルルルゥ!」

「その状態でハンデなんて・・・本当にわたくしたちも舐められたものですわ。」

「年端も行かぬ令嬢らが積み重ねてきた実力なぞたかが知られておる。我と対等に戦いたければ後10ほどは研鑽を積むとよい。では、い」


とここでまたティガール将軍が最後まで言い切る前に突如その姿が消えた。

ティガール将軍だけじゃなく、先ほどまで矢が刺さり、身動きが取れなくなっていた彼の兵士たちの姿全員がいなくなっていた。


「これって・・・」

「ガルルゥ・・・?」


レイラは警戒を解き、状況を確認していると突如として背後から黒い狼(ミミアン)の体当たりをモロに喰らい、そのまま勢いよく吹き飛んでいく。


空中で数回転した後、何とか体勢を立て直すと地面に黒妖刀を突き刺して無理やり着地した。


「い、ったた・・・。」

「・・・。」プイッ


黒い狼は「これでチャラよっ!」とでも言いたげな瞳を向け、舌をペロッと出していた。

そんな彼女の気遣いに感謝しつつも、急いで黒い狼となっているミミアンと共にハルネたちの元へと向かう。


「ハルネ!」

「レイラお嬢様!ご無事でしたか・・・。」

「ルーシィはどうですの??」

「ディアネス様とジェシカ様の渾身的な<治癒魔法>のおかげで今は落ち着いています。ただ突き刺さっていた矢のせいでルーシィ様の魔力回路に異変が生じたようでして・・・」


ルーシィは苦しそうに呻きながら、その小さな体からは魔力が微かに漏れ、所々で弾けていた。


「あの矢じりには突き刺した者の魔力回路に異常をきたし、自身の魔力を体の内で反発させるような効果があるみたいですわ。もし魔法を使うとなれば反発した魔力は体全体に作用し、最後には体が破裂してしまいますわ・・・。」

「そんな・・・!?ど、どうにかする方法はないんですか・・・?!」

「クゥ~ン・・・」


ミミアンは状況がわからずとも、小さな女の子が苦しそうにしている様子を見て心を痛めているようだ。


だがふと何かを思い出したかのように突然人化したミミアンがポーチから何かしらの液体が入った物を差し出し、それを受け取ったハルネは納得したような表情を浮かべ、すぐさまそれをルーシィに無理やり飲ませた。


すると先ほどまで苦しそうな表情を浮かべていたルーシィだったが、その液体を全ての見終えると穏やかな表情に戻った。


「ハルネ?今飲ませたのって・・・」

「鎮魔薬です。この薬は<魔力暴走>を引き起こした者に処方される薬ですね。」

「<魔力暴走>・・・?」

「ええ。子供のうちによく見られる病気の1つで、特に保有魔力が特別高い子供に現れやすいです。自身の保有できる魔力量を大幅に上回るほどの魔力をその身に宿す子が生まれてくることがあり、そのせいで制御しきれない魔力が暴走して爆発してしまうことがあるのです。」

「爆発・・・!そっか、それで・・・」

「一か八かだったけど、効いてよかったよ~・・・。」


と薬を渡したミミアンもホッとしたような表情を浮かべていた。


「でもなんでこの薬なんて持っていたんですの?」

「え?だってそれはジェシっちのために持ってたの。」

「私のために、ですか?」

「うん。まだジェシっちの年齢からして<魔力暴走>が起きやすい年齢で尚且つ、ジェシっちの扱う魔法は多分この獣帝国の中で5本指の中に入るぐらい強いっしょ?それをママに言ったら持ってた方がいいかも?って事になっていざ渡しに行こうとしたらみ~んなうちのこと置いていって言っちゃうし・・・!!ほんとありえない!」

「でもミミアン?あなたの負っていた怪我はどうみても後数日は身動きできないほどの重傷だったんですのよ?なのにどうして・・・」

「あのね~、うちはこれでも黒曜狼の血を引いてんの。それにうちは<先祖返り>しているぐらい色濃くその影響を受けてるっしょ。どんな傷であっても、生き残れば数日で動けるようになんの。レイラたちが行っちゃった時にはもう傷の8割は回復してたんだから。・・・それにさ。」


そこでミミアンは少し悲しそうな表情を浮かべ、レイラの手を握る。


「うちのこと、置いていった理由はそれじゃないっしょ?」

「・・・・。」

「あの戦いでは誰もが死ぬ準備してたじゃん。うちだってそう。なのにうちが死ぬかもしれない状況に臆したから置いてったっしょ?ぜったい。」

「・・・・だ、だって」

「言い訳はマジ無理!絶対聞かないから!それはうちも同じなんだよ、レイラ。あの後、目を覚ましたうちの目に映ったのはあの黒くてキモい触手に縛られたレイラの姿。今のうちは安全な場所にいて、レイラは今にも目の前で殺されそうになってるのを見てさ、悔しいって思ったよ。次は絶対に傍で守るって・・・。だからさ、うちのことも連れて行ってよ・・・。世界がまさかあんな危険でキモすぎる魔物?がいるなんて思わなかったから今までは離れていても大丈夫だって思ってた。でも今のレイラはそんな奴と対峙するような運命(さだめ)にあると感じるわけ。だから今度は傍で守らせてよ・・・。もし死ぬときはうちの傍で死んでよ・・・、何も知らず、うちの存ぜぬ場所で勝手に死なれるとマジで胸糞悪くなるってーの。」

「ミミアン、あなた・・・。ごめんなさい、あなたを置いていってしまって。」


レイラはミミアンへ正式に謝罪した。

それを受け、ミミアンはすごく嬉しそうな表情でレイラの事を抱きしめた―――――。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ