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わたくしのことを母と認めてくれるか疑問ですの。


レイラとエレオノーラはジャステス公爵が眠る寝室へと訪れ、案の定中でジャステス公爵の看病をメイドと共に行っていたユティス公爵夫人の姿があった。


そこでレイラはエレオノーラと共に先ほど話していた【青皇龍】が目覚め、【古獣の王】が眠る<メナストフ港町>へと向かっていることを簡潔に説明する。


最後まで一言も喋らず、反応も見せず、ただ黙って聞いていただけだったユティス公爵夫人だったが、しばらくした後に立ち上がり、ジャステス公爵が眠るベッドへと腰掛ける。


「・・・あなたぁ~、起きてくださいなぁ~。」


眠るジャステス公爵を起こすと、彼はユティス公爵夫人の手を借りて上半身をゆっくり起こし、彼女から事の経由を聞かされているようだ。


「なるほど・・・、【青皇龍】が。」

「どうしましょうかぁ~?」

「・・・なにも。何もするな。行動も起こすな。【青皇龍】の怒りに触れてはならん。この町のみなにも伝えておけ。家の中に閉じこもり、事が済むまで決して外に出るな、と。」

「わかりましたわぁ~。それじゃあみんなぁ~、また後でねぇ~。」


そういってユティス公爵夫人はメイドらを引き連れて寝室を出ていった。

残されたジャステス公爵は深いため息を吐いた後、ベッドから起き上がる。


「ジャステス公爵、まだベッドで横になっていないと・・・」

「それならば問題ない。」


そういうと、部屋に飾ってあった鎧がカタカタと動き出すとジャステス公爵の両肩へと装着された。


両腕を切り落とされ、肩から先がないが故に本来鎧は装着できないはずだが、まるであたかもそこには腕があるかのように腕を覆う鎧は自由に動く。


「そんな・・・腕はないはずなのです・・・!?」

「まさかそれって・・・」

「ああ。レイラ嬢も知っていたか。これは<魔糸(まし)>と呼ばれる古代魔法の1つだ。これで鎧を繋ぎ合わせ、まるであたかも自分の腕の様に鎧を動かすことができる。それにただ動かすだけじゃない。魔力の伝達率が高いものであればなんだって扱うことができる。」


そういうと右腕の鎧が外れ、部屋に飾ってあった無数の武器へ青白く光る薄い魔力の糸が瞬時に伸びて絡むとラックから外し、それを自由自在に振り回す。


「こんな風にな。どういった風に扱うのかは己の想像力次第であるが故に汎用性が非常に高い。だが欠点としてはこれをしている間は常に魔力が消費され続ける。それゆえに長期間の運用に向かない。」


そしてすぐに<魔糸>で操っていた物らが突然ガランカランと音を立てて地面に落ちた。

それに連動して左腕に装着されていた鎧も同様に地面へ落ちる。


ジャステス公爵はフラっと体が揺れ、レイラとエレオノーラが急いで彼のふら付く体を支える。


「だ、大丈夫ですの!?」

「はわわわ・・・」

「問題ない・・、軽い魔力欠乏症のようなものだ。しばらくすれば治る・・・。」


ジャステス公爵をソファへと座らせ、一息つく。

レイラはそのまま紅茶の入ったポットを手に取ってコップへ注ぎ入れ、それをジャステス公爵の前に置いた。


「全く・・・、一国の公爵令嬢がするような物じゃないぞ?」

「仕方ありませんの。奴隷時代にこの身に染み付いたものですの。使用人たちのするような雑用なら完璧にこなせる自信がありますわっ!」

「だったら私がするなのです・・・!」

「胸を張って自慢する内容でもないんだがなあ・・・。まあいい、我々に残された道はただただ【青皇龍】から身を潜み、ただじっと通り過ぎるのを待つしかない。ただもし戦うことになれば、この力を使って対処するしかないが、今度こそ死ぬだろう。」

「・・・そうならないようにわたくしとあの人がいるのですわ。」

「我はまだあの者について知らないことが多い。それゆえ判断材料が不足しすぎているためにレイラ嬢のその言葉の信憑性について未だに信じ切れないが・・・まあ、レイラ嬢がそこまで信頼しているなら任せてもいいのだろう。」

「タタニーグ号に乗ったつもりでドーンと任せてくれていいのですわ!」

「・・・タタニーグ号?」

「あの人が好きなエーガ?に出てくるとても大きな箱舟らしいですわ!」

「なるほど、巨大な箱舟か・・・。」


そういって無理やり納得させ、話を進めていった。

ジャステス公爵としての方針は先ほども言っていた通り、嵐が通り過ぎるのを身を潜めて待つスタンスのようだ。


もうすでに獣帝国内で<レスウィードの町>と<メナストフ港町>の2つが滅んでおり、住民たちは全員死亡しているという最悪な結果を迎えている。


これ以上、獣帝国側としては犠牲を出したくないというのが本音なのだろう。

そのために更なる被害で出てしまった場合、様々な面で立て直しが出来なくなる可能性が高いとジャステス公爵は危惧していた。


ゲセドラ王子の暴走、先帝の死続き、王家への信頼は地に墜ち、その座を受け継いだガヴェルド王子も【血濡れた狂牙】として恐れられているために民衆からの支持はないに等しい。


そんな状況で【青皇龍】が目を覚まし、獣帝国へと来ているなんて噂が広まってしまえば国の崩壊待ったなしとなる可能性が非常に高い。


更に正義の象徴とも言えるジャステス公爵の両腕欠損という重傷。


「この国に響く不運の重なりは、獣帝国タイレンペラーの滅亡へのカウントダウンかもしれないな・・・」


ジャステス公爵が初めてぼそりと弱音を吐いた。

だがすぐに表情を変え、意を決したかのように立ち上がる。


「こんな事をしている暇などないな。我も動こうとしようか。」

「ジャステス公爵はこれからどうするんですの?」

「我はガヴェルド王子・・・今は帝王か。彼に進言するために向かうつもりだ。」

「それならすでにヨスミがメリアと共に向かっておりますわ。少し前にはもう付いているかと。先日、町の治療院に訪れていらっしゃったみたいですの。」

「なに?我が町に来ているだと?そんな報告は受けていないが・・・。とりあえずわかった。」


そしてジャステス公爵は使用人を呼び、出かける準備をするとレイラたちを退室させた。

一応自分たちのやるべきことを終えたので、ディアたちが待つ自分の寝室へと戻ることにする。


部屋に戻ると、そこには楽しそうに遊ぶディアネスとジェシカ、ハクアとミラの姿があった。

レイラたちの姿を見たディアネスとジェシカは嬉しそうに立ち上がり、レイラの元へとやってきた。


「おかえりなさい、お婆様!それでいかがでしたか?」

「ええ、ジャステス公爵は民衆へ注意喚起をし、家から出ないように呼び掛けるらしいですわ。」

「そんなに【青皇龍】って恐ろしいんですか?」

「・・・わからないわ。わからないから恐ろしんですのよ。」


勇魔大戦の際、唯一その戦いに参加していなかったのが【青皇龍】だった。

その理由として【青皇龍】は勇魔大戦ではなく、その前に起きた【怪物】との戦いで重傷を負い、回復のために海底の奥深くへ眠りに付いていたからだ。


それゆえ、【青皇龍】の戦いぶりは伝えられておらず、どういった攻撃をするのか、どういった性能を持っているのか誰一人として伝わっていない。


唯一、レイラたちの知らない伝承を知るエレオノーラでもその戦闘能力に関しての情報は一切なかった。


ただ一つだけわかっている。

【青皇龍】は他の四皇龍に比べて自然回復能力と防御力が桁違いに高いということだけだ。


だからこそレイラは、防御方面に特化しているが故に破壊力は乏しいはずだと予想はしているがそういった希望的観測は毎回裏切られている。


そして情報を持っていそうな人物がもう一人、この部屋で寝ていることに気が付いた。


「フィーちゃん、青皇龍について何か知らないんですの?」


そう、フィリオラだ。

彼女は四皇龍たちの末っ子だということを自ら伝えていた。


またハクアもフィリオラの事を慕っているためにその話の信憑性は高いだろう。


「青お姉様のこと?そうね~・・・。私もあまり知らないのよ、青お姉様のこと。私が生まれた時にはもう瀕死状態になってて、眠りに付こうとしてたみたいなの。他のお姉様たちが言うには・・・」


” 青お姉様?あの子は、そうですね・・・。しいて言うなら<高速機動してくる不落要塞>かな? ”

” む、あの子のことかのう?そうじゃな・・・、わっちの戦闘スタイルからして近づこうにも近づけないくせに近づいて攻撃すれば余裕で避けるしのう・・・。さらにアヤツは容赦なく遠距離から攻撃を飛ばしてくるもんじゃから絶対に相手にしたくないのう・・・。 ”

” ん?アイツか?アイツはすげぇぞ!なんせ俺様の一撃を何発も余裕で耐えてくる上に反撃まで飛んでくるんだ。俺様の攻撃力はこの中で一番高いからな。そんでくっそ生意気な癖に一番の寂しがり屋だから可愛い妹だぜ・・・ ”


「・・・らしいわよ?」


白お姉様の言った、<高速機動してくる不落要塞>という言葉がきっと一番の的を得ているのだろう。

そして黒お姉様の、遠距離から攻撃を飛ばす・・・ということは、【青皇龍】は遠距離からの攻撃に特化しており、赤お兄様の攻撃を余裕で何発も耐える防御力・・・。


一番そうあってほしくない希望的観測がまたもや裏切られた形となった。


「はあ・・・、大体わかりましたわ。あまり考えたくはないですけど、おそらく勇魔大戦で【青皇龍】が参戦していたら人類側は滅亡していた可能性が高いですわ・・・。」

「青お姉様がいなきゃ、【怪物】を倒せたところで世界中に溢れかえった【眷属】たちによって滅亡していた可能性が高かったと白お姉様も仰ってたわ。その点も踏まえると、青お姉様は広範囲攻撃に特化している可能性が高いから、お母様のその仮説は正しいと思うわよ。」

「そんな・・・」

「・・・でもわたくしは貴方たちの母なのですわ。一度その子に会いに行ってもいいかもしれませんわね。」

「・・・私も会いに行きたい。青お姉様だけ、私あまり交流がないんだもの。」


と寂しそうに話す布団に包まれたフィリオラ。


「・・・無茶はしないってわたくしと約束できるなら一緒に行きましょ。」

「お母様・・・!」

「あ、あの・・・」

「・・・ジェシカにとっても特別な存在になりえるはずよ。だからわたくしたちと一緒に会いに行きましょう。」

「っ、はいです!」

「エレオノーラは・・・」

「あ、私はメリア様と行動を共にするのです!だから・・・」

「・・・そうね。今回はみんなで一緒に行きましょう。別に【青皇龍】はわたくしたちの敵というわけではないですわ。ディアも大人しくしててくださいまし?」

「あい!」


そしてレイラたちは<メナストフ港町>へ向けて出発の準備をすることとなった―――――。



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