バケモンにはバケモンをぶつけただけだよ。
「そんな、ほんの少し瘴気が漏れただけなのよ・・・?」
「飛んだ強敵だな・・・。」
全体が蜃気楼のように揺らいでおり、辛うじて虎のような姿を取っているが、そう見えているだけで実際はもっともっと禍々しい何か。
「おまえ、が・・・おまえがぁぁぁあああ・・・!!!」
怨念精霊は傷ついた体で禍鬼虎へと距離を詰め、黒い鎌を作り出し、そのまま大きく振りかぶる。
だがそれは禍鬼虎の身体をすり抜け、虚空を切り裂いた。
大きな隙を作ってしまった怨念精霊をひと睨みすると黒い電撃が禍鬼虎を包み、そして怨念精霊へと放たれ、それが直撃・・・したかのように思えたが予想を外してその電撃は大きく外した。
「え、どう・・して・・・?なんで、当たって・・・???」
「それは僕が助けたからだよ。」
「・・・え?どうして、あなた、が・・・横に?」
気が付けばすぐ横にヨスミが立っていた。
どうしてヨスミがここにいるのだろう?いや、違う。ヨスミがここにいるのではなく、自分がヨスミの横に”移動”させられたのだと。
「どうやらあいつには武器による物理攻撃があまり?ほとんど?全然?全く?効いていないようだ。」
「それなら・・・!!」
そういうとフィリオラの口を大きく裂け、魔力を一気に溜め、白桃色の炎を放射する。
先ほどとは違い、炎に包まれ、大きく怯んでいるように見えた。
「なら・・・!!」
怨念精霊は両手で黒いエネルギー体を作り、溜め、一気に解き放った。
黒光線となり、禍鬼虎へと直撃した。
悲鳴に似た金切り音を上げ、その場から大きく飛び上がり、黒い帯電を放ち、広範囲へ無差別に雷撃を落としていく。
よく見ると黒い雷撃が落とされた場所は腐り、酷く溶けていた。
フィリオラは両翼を顕現させて自らの身体を覆って防ごうとしていたため、ヨスミの転移によって攻撃を免れた。
また怨念精霊は魔法障壁を作って攻撃を防ぐが、障壁がドロりと溶けるように腐り、その身に直撃する前に転移によって難を逃れた。
はぁー・・・。
物理攻撃がほとんど効かない相手には僕の周囲にある物を転移させての物理攻撃は聞かないし、実体がないんじゃ心臓や急所になるモノを別の所に転移させて倒すなんてこともできないし。
かといって禍鬼虎事態を飛ばすにしても倒せそうな場所なんて見当たらないし。
それにあいつの攻撃を防ごうとしたら溶かされるし、当たったら当たったら酷いことになりそうだし。
色々と考えていたところ、禍鬼虎からまた無数の黒い雷撃が飛んでくる。
転移で全て避けながら、必死に思考を巡らせていく。
物理は効かない、魔法は効くがそんなダメージが入っている様には見えない。
それに黒い雷撃は腐食のような属性を持ってるみたいだし、真面に防御できないとなると・・・。
「宇宙にでも飛ばして霧散させるか?」
「う、ちゅうってなによ??」
「いや、なんでもない。」
「わたし、が・・・あいつを、取り込、んで・・・」
「やめろ。そんなことしたって何かが変わるわけじゃない。むしろ悪化する可能性がある。」
「・・・・・うう。」
・・・いや、1つだけ。不確かな方法だが、1つだけ可能性がある。
「・・・なあ、フィリオラ。」
「どうしたの?」
「アイツを倒せる可能性が一つだけあるんだけど。」
「・・・何かしらデメリットがあるってことね。」
「ああ。」
「私を誰だと思ってるの。これでも竜母って呼ばれているドラゴン様よ。」
「・・・わかった。」
そう言い残してヨスミは姿を消した。
それと同時にどこからか上空から大量の魔喰蟲が禍鬼虎へと降ってきた。
禍鬼虎は降ってくる魔喰蟲へ向けて黒い雷撃を放つが、それら全てが魔喰いによって吸収されていく。
そして禍鬼虎事態もその魔喰いによって徐々に吸収され、魔喰蟲に群がられていた。
そこで初めて禍鬼虎が大きくたじろぎ、悲鳴の金切り声を上げていた。
魔喰蟲たちは吸収しきれずに破裂し、逆に溶けたりしていった。
そんな様子を唖然として見ていたら後ろからガークたちがやってきた。
「竜母様!残っていた魔喰蟲を狩っていたら突然、ヨスミ殿が現れ、生き残っていた100匹以上もの魔喰蟲全てと共に消えてしまった、ので・・すが。」
「あー・・・。その、見ての通りよ。」
フィリオラは引き攣った笑顔をガークに向けながら、親指を立てて後方へ指し、あの惨状を見せた。
「あれは、一体・・・」
「封印の結界の一部に亀裂が生じ、そこからほんの少しだけ瘴気が漏れてしまったの・・・。ヨスミが臨時的にその亀裂を埋めたけど、漏れた瘴気が魔物として顕現して手を拱いていたのよ。そしたらヨスミが打開策があるって言った後にやってるのが、地獄絵図。」
「禍鬼虎に魔喰蟲をぶつけただけだよ。」
いつの間にか戻ってきたヨスミは何かしら誇ったかのようにそう言い放つ。
「なあ、ヨスミ殿。本当にこれでよかったのか?なんか何匹かの魔喰蟲の様子がおかしいのだが・・・」
「禍鬼虎よりかはよっぽどいいでしょう?。」
「・・・まあ、確かに禍鬼虎よりかはマシ、だとは思うけど。少し、ほんの少しだけ・・・。」
読み通り、禍鬼虎の存在は魔力そのもの。ならば魔喰蟲の魔喰いが一番の弱点になる。
まあ、デメリットとしたら完全に禍鬼虎を倒し切るまでにかなりの数の魔喰蟲に喰わせないといけないってのと、それによって強化された魔喰蟲たちを倒さないといけない事。
まあ物理攻撃が利くようになればこっちのものだけど。
そして金切り声が聞こえなくなり、禍鬼虎を喰らい尽くした魔喰蟲は最終的に5体となり、それらは自らの身体を脱ぎ捨てて新たなる魔物へとその姿を次々に変えていった。
「暴喰蟲・・・。ワシでさえ1体1でも重傷を負いかねぬ相手・・・。それが、それが・・・5体となれば・・・。」
「ガーク、あなたはみんなを下がらせて避難して。ここは私たちで何とかする。」
「・・・すみませぬ、竜母様。皆を下がらせたらすぐに戻ります!」
そういって、ガークたちは皆を下がらせていく。
「それでヨスミ。これがそのデメリットってことでいいの?」
「一応な。まあこれで物理攻撃が効くようになったからまだやりやすいだろ。」
「まあそうなんだけど・・・、はあ~・・・。まあいいわ。あの攻撃が飛んでこないだけマシね。」
「・・・わたし、も、いくわ、・・・!!」
ローブの少女は黒鎌を構え、フィリオラは飛び上がった。
「僕が3体相手するから2人はそれぞれ1体ずつ相手してくれ。」
「ちょっと、大丈夫なの?!魔喰蟲よりもかなり強力な個体になっているのよ?それを3体も同時に相手だなんて・・・」
「禍鬼虎よりも、こっちの方が都合がいいんだ。僕は大丈夫だからフィリオラ。君は奴らの攻撃を受けないように。いいかい?絶対に、どんなことがあろうと、全力で避けるんだ。」
「すごく心配してくれるのは嬉しいんだけどなあ・・・。とりあえずこっちも片づけ次第、そっちに合流するから、死なないでね。」
「わかってる。君は・・・」
「・・・アリス。」
「アリス、君も無理して倒そうとしなくていい。僕が来るまでどうか持ち堪えててくれ。」
「・・・わ、かった・・!」
アリスは頷き、フィリオラは困り顔を浮かべながら笑顔を返し、それを見たヨスミは3体を連れてその場から”移動”した。
~ 今回現れたモンスター ~
魔物:禍鬼虎
脅威度:Aランク
生態:Aランクとはあるが、実質的にはSランクに近い。
飢饉などの災害を、その身に顕現した存在で実体を持たないため、物理的攻撃を一切受け付けない。
全ての攻撃には腐食が付随しており、その身体に触れたり、攻撃を受けたりすると腐食に侵されてしまうため、完全に攻撃を避ける他対処法がない。
またその姿は魔力体であるがため、周囲の魔力を常に吸収し続けているため、魔力が枯渇することはなく、縦横無尽に魔法を放つことができる。