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ふえぇぇぇえええええん!!!


「・・・ん。」

「あ、レイラお姉様ぁ!」


暗転した視界の外から聞こえてきたユリアの声が聞こえ、朦朧としていた意識が覚醒するかのように目を覚ます。


「あれ、ユリア・・・?それに、ここは・・・どこですの?」


エレオノーラに体を丁寧に起こされながら、周囲を見渡す。

どうやらふ頭で倒れていたようだった。


すぐ傍には同じく気絶しているフィリオラやミミアン、ジャステス公爵にハルネとベラドンナ卿、そしてルナフォートとカゲロウの姿もあった。


その傍にはジェシカとユティス公爵夫人らが必死になってけがの手当てをしている姿も見える。

全員瀕死ではあるものの、死んでしまった仲間はいなかった。


それだけでも、この戦いは勝利したと言えるだろう。


「あぅー!!」

「あ、お婆様・・・!起きたのですね・・・!」

「ジェシカ・・・。なぜここに・・・?」


目を覚ましたレイラに泣きながら飛び込むディアネス。

そして心配そうに顔を覗くジェシカと目が合った。


ジェシカはユリアを呼び寄せ、現状に関して離し始める。


「それが、ユティス様が私たちの元に来られたあと、状況を説明していたら突然結界が割れて・・・」

「文に書かれてた【狂獣人】が出てくるかもって思って身構えてたんだけど、そういった気配もなくて・・・。だから私たちは港町に入ることになって慎重にレイラお姉様のところに向かってたの。最初は誰の気配とかも感じれなかったんだけど、突然ここに移動させられたと思ったらそこにレイラお姉様たちが瀕死の状態で倒れてて・・・。」

「唯一、意識があったルナフォート様に事の状況を説明してもらっていたんです。」


ジャステス公爵の右腕を切り落とされてミミアンと共に吹き飛ばされた後、自分の部下であるカゲロウも瀕死の重傷で倒れ、彼等を死なせまいと全力で治癒に当たっていた彼女だったが、意気消沈しているらしい。


ユティス公爵夫人が姿を現したと同時に、全てに絶望した表情を浮かべながら謝ってきたらしい。


自分がついていながらジャステス公爵閣下にこのような再起不能となるほどの重傷を負わせてしまったこと、またその娘であるミミアンも瀕死の重傷を負わせてしまい、自分だけは二人ほどの重傷を負うことはなかったことに責任を感じたようで、魔力が明らかに枯渇しているはずなのにそれでも3人に治癒魔法を掛け続けながら、頭を下げてきたとのことだ。


その後、謝りながら気を失い、ある意味ではルナフォートが一番の重傷者となってしまった。

彼女の献身的な治療により、3人は死を免れることができたためにこの戦いで死者を出さなかった一番音功労者はルナフォートといっても過言ではないだろう。


「あらぁ~、レイラちゃあ~ん。起きたのねぇ~。」

「ユティス公爵夫人・・・。」


そこへみんなの治療を終えたであろうユティス公爵夫人がやってきた。


「ユティス公爵夫人・・・その・・・」

「何も言わなくていいわよぉ~。戦いに身を置いているぅ~、あの人がこうなるのはぁ~、覚悟していたんですものぉ~。でもぉ~、皆がねぇ~、生きているだけで私はねぇ~、すっごく安心しているのぉ~・・・。本当にぃ・・・誰一人死んでなくてぇ・・・良かったってぇ・・・心から思うのぉ・・・」


気が付けば、ユティス公爵夫人の目からは大粒の涙がこぼれていた。

そしてゆっくりとレイラを抱き寄せながら、礼を述べる。


「ありがとう・・・、レイラちゃん・・・。心から、感謝するわ・・・。」

「・・・ううっ。」


そこで初めてレイラは安堵したのか、気が付けばレイラも涙を流していた。

その涙につられてユリアとジェシカも泣き始め、全員が抱き合いながら泣き続けた。


その泣き声に起こされるようにフィリオラも目を覚ました。

顔を横に向け、4人が抱き合いながら泣いている姿を見て安堵し、もう一度目を瞑る。


「・・・ありがと、パパ。」


そう呟き、また意識が暗転した。






あれからルナフォートの ”隠” の部隊が駆けつけ、町に生き残りがいないかどうか探索に回った結果、誰一人として確認できなかったそうだ。


だが、ここで一つ問題があったとすれば、死体すら見当たらなかったという事だ。

【狂獣人】らの痕跡何一つなく、そもそも本当に存在していたのか?と疑うほど、何もなかったらしい。


その後、ユティス公爵夫人の命によりもう一度探索を命じられ、今でも生き残りや【狂獣人】の存在を探っているそうだ。


1体でも見逃していた場合、その1体で町はあっけないほど簡単に壊滅状態に落ちってしまうからだ。

またこの町の周囲も探索範囲を広げ、徹底的に捜索しているとのことだ。


それから、重症患者たちは転移石を使用し、フォートリア公爵家の本邸へ戻るとすぐさま本格的な治療を開始した。


ミミアンはその強靭な黒曜毛によって守られているはずだったが、肋骨が数本と手や足の骨は砕け、歩くことも、手を動かすこともままならない状態だった。


また折れた肋骨は一部の臓器に突き刺さっていたようで、見た目よりもかなり重傷だった。


そしてジャステス公爵の場合、切り落とされた右腕は傷口が腐食状態になっていたために接合することはできず、また左腕の傷が適切に処置されていなかったようで膿んでおり、その傷口から感染症を発症してしばらくの間は絶対安静とのことだった。


ハルネは全身に攻撃を受けた痕と思わしき火傷と腐食、それは表面だけでなく臓器にも火傷や腐食に侵されているようでかなり危険な状況だった。


さらに肩と腕の骨が折れていたのだが、これは骨折だけで済んだと言わざるを得ないだろう。

ハルネがぶつかる直前、全力で駆けこんできたベラドンナ卿がハルネを受け止め、そのままクッションになったおかげでこれ以上酷くはならなかった。


もしベラドンナ卿が受け止めてくれなかった場合、頭から突っ込んでいたがために首の骨を折っていた危険性が非常に高かった。


そして受け止めたベラドンナ卿だが、受け止めた際に肋骨と腕の骨にヒビ、もしくは骨折。

また腹部にはハルネを受け止めた際の強い打撃痕と思わしき青い痣が残されていた。


カゲロウはハルネと同じような重傷を負っていたが、ハルネ程重傷ではなかった。


ルナフォートは他の皆よりも傷痕は深くはなかったが、瀕死の重傷を負った3人へ只管治癒魔法を掛け続けてしまい、魔力枯渇症を発症してしばらく目を覚まさなくなった。


フィリオラは無数の傷を負いながらも限界を超えるほどの攻撃を放ったが故に気を失っていたが、他の者たちに比べたらそれほど重傷ではなかった。


そしてレイラは・・・・


「お婆様、ただいま包帯を変えますね。」

「ありがとうですわ、ジェシカ。」


ジェシカは浄化の魔法陣の上に乗せられた皿の中に入った聖水に包帯を浸し、その後レイラの首や体に出来た黒い痣に当てるように包帯を巻いていく。


【眷属】の触手に直接触れられ、縛られた箇所は黒い痣が残っており、医者の話ではこれは単なる黒い痣ではなく、いわゆる<呪い>のようなものらしく、放っておけば全身に広がってそのまま死んでしまう可能性が高いとのことだったので、フィリオラの浄化魔法を定期的に受けつつ、こうして浄化の魔法陣によって清められた水に浸した包帯を巻くことで<呪い>の進行を防ぐことができるらしい。


1日に2回、12時間ごとにフィリオラの浄化魔法を受け、その後4回、6時間経過するたびに包帯を変えている。


「それで、わたくしはいつ動けるようになるんですの?」

「まだしばらくは無理だと思いますよー?」


フォートリア公爵家の本邸に転移石で戻ったとはいえ、すぐさま治療のために町にある医療院にぶち込まれることになり、全員暫くそこに缶詰め状態にされることになった。


そこにぶち込まれてすでに5日ほどが経過していた。


「退屈なんですもの・・・。」

「それなら、またお話を聞かせてください。」

「・・・分かりましたわ。さて今日はどんな話を・・・」

「ここにレイラ嬢たちがいると聞いたのだが・・・」


とそこへ突然姿を現したのはガヴェルド王子だった。

なぜこんなところに彼がやってきたのか理解できず、茫然としているとこちらの存在に気付いたようで彼はその王族らしい衣装を纏いながらやってきた。


「ごきげんよう、レイラ嬢。」

「・・・一体何の用ですの?」


爽やかな感じで呼びかける彼に対し、ツンとした態度で返事を返すレイラの姿を見てジェシカは一瞬にしてガヴェルドは敵だと判断した。


「一体どこの誰かは存じ上げませんか、お婆様はごらんの通り休養の身です。それに身内以外の方は面会拒否しているはずですので、すぐにお引き取りを。」

「まあ、ジェシカちゃん・・・!」

「手厳しいな・・・、まあ無理もないか。すまないが、少し話を聞きたくてな。」


そういってガヴェルドはレイラの方へ近づこうとするが、ジェシカが椅子から立ち上がるとガヴェルドの前に立ちはだかる。


「言ったはずです。身内以外の方は面会拒否だって。」

「なら、君はどうなんだい?君は我々と同じ獣人じゃないか。人間種のレイラ嬢にどんな理由があって身内を名乗っているんだ?そもそも俺のことを知らないなんて君は・・・」


その時、ジェシカの遺された左目が竜眼であることに気が付いた。


「君のその左目は・・・」


その瞬間、ジェシカは彼から感じたドラゴン種への軽蔑のような冷ややかな瞳を感じ、彼女の中で完全にガヴェルド王子は敵認定された。


「あなたのような失礼な雄に用はあったとしても、私とお婆様にはあなたに用なんてありません!さっさと出て行ってください!シャー・・・!」


ジェシカの尻尾の毛が完全に逆立っており、明らかに怒りを露わにしていることがわかった。

その時、自分が彼女へ向けていた感情の中に、彼女の尊厳を傷つけるようなものがあったと我に返る。


「あ、いや・・・すまない。別にそんな風に君を見るつもりは・・・」

「私はこんな成りですし、ちょっと特殊な環境に身を置いていたので私に向けられる感情には敏感なんです。あなたが私を見て一番最初に感じた感情から、あなたは私たちにとっていい関係は築けない人材だと判断できました。どうかお帰り下さい!」

「だが・・・」

「ちょっと!その言い方はなんなんや!」


そこへグレースまでやってきて、一方的にガヴェルドが言い負かされる光景を見て黙っていられなかったのか、部屋に入ってきて彼を庇う様にジェシカの前に出る。


そしてまっすぐにジェシカを見た時、彼女の瞳はまっすぐジェシカの目を見つめていた。


「何度も申し上げていますが、今お婆様は身内の方以外の面会は拒否しているんです。それなのに図々しく入ってきたあなた方がいけないんじゃないですか!」

「図々しくってなんや!でも確かにそれはうちらが悪かったわ。けどな、こっちだって事情があるねん!」

「だからといって面会拒絶を無視してまで入ってくるのはどうなんですか?!どこまで図々しい雄と雌なんですかあなたたちは!」

「お、雄ぅ・・・!? ガヴェルド帝王様のことを知らんていうの!?」

「はっ!そんな雄が帝王?つまり獣人たちの王って事ですか?そんな失礼な雄が帝王様だなんて、この国も終わってますね!」

「さっきから言わせておけばぁ・・・!」

「待て、グレース嬢。今回ばかりは彼女が正しい。とある件について話が聞きたくて無理を言って会わせてもらったが、日を改めることにするよ。」

「そうだ。迷惑な猫たちにはお帰り願おう。」


誰かの声が部屋に響くと同時に、指がパチンッと鳴り響くと同時にガヴェルド王子とグレース嬢は一瞬にして姿が消えた。


「え?あれ・・・?いきなり消え・・・、え?」

「・・・うそっ」


病室の入口にいる人物に視線がいき、レイラは思わず口元を隠した。

そして、彼女の瞳からはとめどなく涙が溢れ出してくる。


痛みで声を上げて泣くことができず、呻くように泣いていたが、突如として彼女の体を蝕んでいた黒い痣である<呪い>が消え去った。


「・・・え?うそ、お婆様の<呪い>が消えた!?な、なんで・・・」


突如、自由に動けるようになったレイラはベッドから降りるとそのまま走り出し、彼の元へと飛び込むように抱きしめた。


「あなた・・・あなたぁ・・・!」

「ああ、レイラ。どうか泣かないでくれ・・・。僕は随分と君に寂しい思いをさせてしまったみたいだな・・・。」

「さ、ざみ、じがっ・・・ふええぇぇぇぇええん!!」


ヨスミは飛び込んできたレイラを丁寧に受け止め、数回ほど回転した後に彼女の頭をそっと撫でる。

それでも泣き止まないレイラを必死に落ち着かせるために強く彼女を抱きしめ続けた。


少ししてレイラも落ち着いてきたころ、ヨスミは緊張した表情を浮かべながら恐る恐るといった感じでヨスミを見るジェシカの存在に気が付いた。


「あ、あなた・・・、紹介しますわ・・・。この子はジェシカ。わたくしたちの孫娘ですわ!」

「ま、孫娘・・・。一体全体何が起きてそうなったんだ・・・。」


明らかに困惑した表情を浮かべるヨスミを見て、ジェシカは悲しそうな表情を浮かべる。

それに気づいたヨスミは困ったような笑みを浮かべ、ジェシカの元までやってくると彼女の前でしゃがみ込み、彼女の視線の高さに合わせた。


「あ、あの・・・あっ」


そこでジェシカは、彼から向けられる慈愛のような温かな視線に気が付いた。

さきほど困っていた様子を見せていたのは、状況を知らぬが故に突然 ”孫娘” が出来た!と言われたがために感じたようだった。


だが今の彼からは家族に向けられるような、とても温かな視線が向けられていた。

先ほどのガヴェルドとは全然違う視線に、ジェシカの心から熱いモノがこみ上げてくるのがわかった。


「やあ、ジェシカ。僕が眠っている間に ”お父さん” を飛び越えて ”お爺ちゃん” になってしまったわけだけど、どうだろう?僕自身も ”お爺ちゃん” として振舞えるかどうかはわからないけど、・・・ってぇぇえ!?だ、大丈夫かい??」

「ふ、ふぇぇ・・・お、お爺様ぁ・・・!!」


とジェシカはヨスミに抱き着いた。

突然抱き着いてきたジェシカに驚きながらも、腕を回して優しく抱きしめ、頭を優しく撫でる。


「よーしよし、ほら泣き止んで・・・。レイラ、僕は一体どうすればいいんだ?」

「ふえぇぇぇええん!!」


そして背後から歓喜極まったレイラが再度泣きながらヨスミに抱き着いてきた。


「・・・どうすればいいんだ。これでよかったのかな・・・?」


なんて不安になりながらも、抱き着いてきた二人の頭をそっと優しく撫でながら困った笑顔を浮かべるヨスミだった―――――。



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