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・・・zzZですわ


「はあ・・・はあ・・・。」


何が起きたのかわからなかった。

でも、良く知る光景が今目の前で起きたことだけはわかった。


お母様とあの忌々しい【竜殺しの瞳】が突如として消え、お母様だけが自分のすぐ横に移動してきた。


あの状況から<神速>を使って目に見えぬ速さで抜け出したのか?

だがあの束縛を<神速>で抜け出せるとは到底思えない。


それにアイツの体にほぼ取り込まれかけていた【竜殺しの瞳】もほぼ同じタイミングで消える理由が見つからない。


故に、思い当たる節は一つしかなかった。

あの人が作ってくれたチャンスを、私は絶対に見逃しはしなかった。


渾身の一撃をアイツに叩き込み、その光に奴が呑まれるのも確認した。


「はあ、はあ・・・。さ、すがに・・・アイツも・・・」

『き、くきき・・・!』

「・・・マジで?」


手足は震え、大きく息も上がり、全身を襲う強烈な倦怠感に呼吸困難による意識力の低下。


視線の焦点さえ真面に定められない中でも、【眷属】はその黒いスライム状のような体を蠢かしながら必死に逃げようとしている姿だけはわかった。


「うそ、でしょ・・・。あれで、倒せてない・・・なんて・・・」

『あ、危なかったぞぉ・・・!あの一撃にはさすがの私も肝を冷やしたがぁ・・・、私の心臓さえ無事ならば、どんな状態だろうと復活できるのだよぉ・・・!くひひひ、ざぁんねん!』

「くっそ、むかつくぅ・・・!!」


・・・だめ、体が言うことを聞かない。


限界を超えて全力を出し切った一撃・・・。

あの一撃は確かに奴の体を全て吹き飛ばした。


だが、弱点の心臓は何らかの方法で私の攻撃から逃れられた・・・。


奴の体は小さく、心臓は白い破片に覆われているがほぼ剥き出しの状態に近い。


今、アイツの心臓に攻撃を叩き込めれば確実に倒せる・・・!

倒せるのに・・・、今動ける者は誰もいない・・・。


お母様は気を失っているし、ベラドンナはあそこでハルネを受け止めた際に共に気を失っている。

今意識があるのは、辛うじて私だけだけど・・・、手足一本、髪の毛1つ動かすことさえできない・・・。


意識を保つだけで精いっぱいだ・・・。

誰か、誰かアイツに最後の一撃を・・・!


お母様を助けてくれたなら、アイツに攻撃だって出来るよね・・・?

御願い、パパ・・・今しかないの・・・!


『くきき・・・、本当にここまで私が追い詰められたのは久々だぞぉ・・・。私をここまで追い込んだお前たちに、私の養分になれる褒美をとらそうかねぇ・・・!』

「そんなの、お断りよ・・・。だぁれが、あんたみたいな・・・気持ち悪いヤツの、養分に・・・なりたいもんですか・・・。」

『負け犬の遠吠えって奴ですかねぇ・・・?くきき、くかかかかか!!』


御願い・・・誰か、誰でもいい・・・。

アイツを・・・アイツに・・・アイツの心臓に・・・とどめを・・・。


【眷属】の心臓を覆う白い破片の隙間から伸びた黒い液体。

それらはゆっくりとフィリオラたちに無慈悲にも伸びていく。


奴の顔を模していた白い破片は、心臓を守る鎧として張り付いているため、今の奴の表情は見えていなかったが十中八九勝ち誇った笑みを浮かべているだろう。


そしてフィリオラはそこで初めて心から敗北に喫したかのように目を強く瞑る。

これから行われるであろう残酷な運命から目を背けるかのように。


『さあ、お前たちを養分にしたらもう一度魂をあ』


突然奴の不愉快極まりない声が消えた。

いきなりぶつ切りされたかのように奴が喋っている最中に消え、何が起きたのか恐る恐る目を開けるとそこには誰もいなかった。


先ほどまで自分たちを取り込もうと伸びてきた黒いスライムの触手が、奴の痕跡そのものが消え失せていた。


その瞬間、今まで気を張っていたフィリオラの意識が暗転した。






『つめて【器】、を・・・作るぅ・・・?』


・・・ここはどこだぁ?

私はさっきまでデカい獣の体内に居たはずなんだがぁ・・・、ここは明らかに違う場所だぞぉ?


【眷属】は突然変わった風景に周囲を見渡しながら、状況を確認しようと移動する。


海の上でもない、どこかの町にいるわけでもない。

かといって私が知っている場所ですらないわけだが、一体ここはどこなのだろうか?


天は暗く、地はゴツゴツとしている。

全体が仄暗く、周囲も良く見えないし、生物の生気なんかも感じ取れもしない。


『・・・ん?これは、竜滅花・・・?なぜこんな場所に咲いている?竜滅島にのみ咲いているはずの花がなぜ・・・?』


辺り一面に咲き誇る竜滅花が広がっていた。

その中を歩き続けると、突然目の前に仄かに光る白く美しい棒のような何かが目の前に突き刺さった?


いや、突き刺さったという表現はちょっと違う。

急に現れたと言った方がいいだろう。


だがその棒は地面に突き刺さっているということだけは確かだ。


上から落ちてきたわけではない。

どこかからとんできたわけでもない。


突然目の前に現れたのだ。

私の行く道を塞ぐかのように。


『なんなんだぁ・・・?』


とその棒に触れた瞬間、その日初めて強烈な ”痛み” をその心臓で感じた。

余りの痛さに心臓が鼓動するのを一瞬忘れてしまうほど、その痛みはあまりにも激烈だった。


『はあ・・・はあ・・・な、なんなんだ本当にぃ・・・!?』


その棒から離れようと後退するも何かに当たり、また信じがたいほどの痛みに襲われる。


『ひぎぅ!?』


慌てて振り返るとそこには2本目の白い棒が地面に突き刺さっていた。


『さっきまでなかったのにぃ・・・!?』


前と後ろに突然現れた白い棒。

それを避けるように右の方へと移動しようとするも、そこにも突然白い棒が姿を現した。


【眷属】は慌てて反対側の方へと逃げようとするが、そこにも白い棒が突き刺さっている。

気が付けば、徐々に【眷属】を取り囲むように白い棒が次々と姿を現していく。


急いでそこから逃げようとした【眷属】だったが時すでに遅く、隙間なく埋めるように白い棒が【眷属】を完全に取り囲んでいた。


まるで牢屋に閉じ込められたかのように錯覚し、そこから跳躍しようと上を見た時、()()と目が合った。


『・・・人間?』


かつて腐るほど見てきた脆弱な下等生物である人間の顔。

だがその顔は歪な笑みを浮かべている。


――あなたはだぁれ?


突然口を開き、【眷属】へ問いただしてきたその顔を無視してそこから脱出しようとしたが体が動かない。


仄かに光る棒によって照らし出され、竜滅花に埋め尽くされた地面に感じるゴツゴツした何かの正体に気付いた瞬間、今まで忘れられた感情が【眷属】の内に湧き上がったのを感じた。


『・・・なんだぁ?この夥しい死体の数はぁ・・・?』


地面には無数の屍が転がっており、その死体の腕々が伸びてきて【眷属】を掴んでいたのだ。


『は、離せぇ・・・!?』


次々と伸びてくる手を触手で切り落としながらなんとか逃れようとするも、白い棒に囲われているため逃げ場などなく、切り落としても切り落としても無尽蔵に伸びてくるがために振り払うことができない。


――アイツが俺たちに玩具を送ってくれたみたいだぞぉ?


ふと気が付けば、先ほど見えていた人間の顔とは別の顔が隣に姿を現していた。

そして棒の微かな光によって照らし出された天を見上げ、燻っていた感情が一気に爆発する。


『ひやぁぁぁあああああ!?!?』


天井一面、びっしりと埋め尽くす人間たちの虚無の顔。

その目は黒く塗りつぶされているかのように真っ黒で、瞳はなくただ真っ黒な虚無がそこにあった。


自分自身も、人間の頭蓋骨で作った仮面の破片を使い、疑似的に顔を作っていたがそれとは訳が違う。

その瞳に映し出されるのはただの無であり、その奥から感じられるのは怒りと憎しみ、そして退屈だった。


――それってつまり、こいつは俺たちが自由に使ってもいいってことだよなぁ?

――最近暇だったんだよな。アイツはずっと眠ったままだし、俺たちも外の景色は見られないし。

――何やら面倒なことになってるみたいだけどさぁ、つまりこいつが原因って事でいいのかぁ?

――つまりこいつのせいで俺たちが退屈になってるってことだよなぁ?なら存分に楽しませてもらおうじゃねえか。


一体こいつらは何を言っているんだぁ?


それにアイツって誰だぁ?

こいつらを纏めているやつってことなのか?この数を?この憎悪全てを?


冗談じゃない・・・!

早く、早く逃げなければ・・・!!


『うわぁぁぁぁあああ!!』


【眷属】は手あたり次第、触手から<黒い光線>を放ち、天を埋め尽くす人間の顔、地で蠢く骸へ無差別に攻撃していく。


だがそれは全く意味を成さないと理解することになるのは案外早かった。


<黒い光線>を受けた顔はまるで霧が晴れたかのように霧散するが、そこへ別の顔がすぐに出現する。

地の骸たちも砕けたり、焼かれたりするもすぐさま別の手が【眷属】の体を掴む。


竜滅花の花畑からゆっくりと地の骸たちが盛り上がっていき、天に居る無数の顔たちもゆっくりと落ちていく。


『来るな来るなぁ・・・!!』


この時にはすでに【眷属】は恐怖に支配され、自我を失っていた。

ドンドンと盛り上がっていく地の骸、ゆっくりと沈んでくる天の顔々。


その内の1つ、非常に大きな顔がどんどんと迫ってきた。


――それじゃあ暫くは私の目になってもらおうかなぁ?


そう呟くと、盛り上がってきた地の骸は気づけば人間の手の形となっており、【眷属】の体を人差し指と親指でつまむような形で持ち上げられていた。


最初こそ心臓を覆っていた白い破片は次々とヒビが入っていき、どんどん摘まむ指に力が込められていく。


『ぐがぁ・・・!?が・・・あっ』


そしてついにはそのままプチッと押し潰されてしまった。

黒い液体が弾け、白い破片は粉々に砕け散る。


ゆっくりと押し潰してしまった指を開くと、ねばぁ~っと糸を引くように黒い液体がねばりついていた。


――あっ!潰したぁー!

――うわっ、きったねぇ!

――あらまぁ、ごめんなさい。まさかここまで柔らかいものだっただなんて・・・。

――まあこんな気持ち悪いの目に入れてたらきっと後悔することになってたぜ?

――あ~あ、せっかくの暇つぶしがこんなにも簡単に壊れるなんて。


目に入れられず残念がる者、子供の様に駄々をこね始める者、潰して正解だったと肯定する者、こんなものを目に入れようとした者にドン引きしている者、もともと無関心だった者など、反応は様々だった。


――せっかくこいつの体を奪い取るチャンスだったのに・・・。

――でももうヨスミは起きるわ。そしたらまた色々と考えましょう?ヨスミのいる世界にはまだまだ利用できそうな未知な物がいっぱいあるんだもの。

――そうだね。殺された恨みでとり憑いたはずが、まさかこんな異世界に来ることになるなんて思わなかったよ!

――そうねぇ・・・。もうしばらくは様子を見ましょう?


天の顔はまた空高く上がっていき、手の形をした地の骸は地面へと沈んでいく。

天の顔は次々と暗闇へ消えていき、最後に残った女性の顔はぼそりと呟く。



さあ、目を覚ましなさい、我らに被虐な死を与えた殺人鬼・・・、


竜永 (マッドサイ)夜澄(エンティスト)―――――。

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