切実な願い
シロちゃん → ママ
「私の邪魔を、させない・・・!ここから、出ていけぇ・・・!!」
黒い球体に張り付いている魔喰蟲以外の全ての魔喰蟲が一斉にヨスミの方を向く。
次の瞬間、数千という毒針がヨスミに向けて飛んでくる。
だがそれを連続した転移で全て躱し、その一部の軌道を転移で変え、反撃していく。
次々に毒針を受けて体がはじけ飛ぶ魔喰蟲だが、微々たるものだった。
その時、上空から白桃色の炎が魔喰蟲たちを焼いていく。
「くっ・・・、小賢しい・・・!!」
『あなたの好きにはさせないわ!』
「お願いだから、私の、邪魔を、しないで・・・!!」
ヨスミから上空を飛ぶフィリオラへ標的を変え、毒針を飛ばす。
白桃炎をやめ、勢いよく羽ばたき、突風を起こして毒針を吹き飛ばしていく。
だがさすがに飛んでいく毒針の数が多いため、突風を抜けた毒針がフィリオラの横をすり抜けていく。
突風から拡散型の白桃炎を吐き、飛んでくる毒針を焼き尽くして防いではいるが、それでも全てを防ぎきれないほど、毒針の数が多い。
『ほんとに数だけは多いんだから・・・!!・・・って、あれ?急に数が減った・・・?』
気が付くと、半数以上の毒針がこっちに飛んでくることはなく、逆に魔喰蟲自身の方に飛んでいき、自滅していた。
こんな奇妙な事ができることは・・・
『助かったわ、ヨスミ!』
「フィリオラのその美しい身体に傷が付くなんて、決して許されないからな!」
『・・・なんか、素直に喜べないんだけど。』
「大丈夫、その白い桃色の龍鱗、甲殻には決して傷1つつけさせない・・・、僕が全力で守るよ。」
『カッコいいセリフなのに、言葉の裏を知っているせいか、全然キュンってこないわね・・・。』
ヨスミは飛んでくる毒針を返すことに集中し、さらに魔喰蟲たちの上に木々を転移し、落下させて押し潰していく。
その上からフィリオラによる白桃炎の炎上で更なるダメ―ジと攻撃範囲の広がりによって、魔喰蟲の殲滅速度に拍車をかけていき、ほぼ全てを討伐した。
「やめて・・・!私の、邪魔を、しないで・・・!お願いだから、やめてぇえ・・・!!!」
ローブの人物が悲痛めいた叫びをあげ、それが衝撃波となり、超音波となってヨスミとフィリオラを襲う。
耳から激痛が走り、フィリオラは飛行が維持できなくなり、そのまま地面へ墜落してしまった。
だが、落下地点に木々が密集していたおかげで大した傷も負うことはなかった。
その後、すぐにローブの人物はその場から離れ、ヨスミの元へ一気に詰め寄る。
ヨスミの首を掴もうとするが、目の前で姿を消すと同時に自分の真上に樹木が現れ、押し潰されようとするが、
「なめる、なあ・・・!!」
両手を合わせ、黒いエネルギーを溜めると上空に放ち、落下してくる樹木を粉々に吹き飛ばした。
すぐさま別方向から白桃焔花が放たれ、間髪入れずに黒い魔法障壁を展開してなんとか防ぐが、白桃焔花に押し負け、障壁で防ぎながらも樹木を倒しながら大きく後退していく。
「なぜ・・・、私の、邪魔を、するの・・・!!」
「それは君が、真実を語らないからだ。今だハクアたん!」
『まかせてなのー!』
「・・・!?」
突然真上から聞こえてきた声の方を向くと、そこにヨスミ・・・の背から顔を覗かせた幼竜の口が光り輝き、まっすぐに伸びた白銀の光線が放たれ、黒い魔法障壁を貫通してローブの人物へ届き、腹部を消滅させながら吹き飛ばす。
「くぅ・・・!!な、なぜ・・・障壁、を・・・?」
大きく体勢が崩れ、そこに容赦なく白桃焔花が放たれ、白桃色の炎に包まれながらそのまま大きく吹き飛んでいき、黒い球体へ叩き付けられ、地面へと倒れ込んだ。
「かはっ・・・。・・・わ、たしは、負け、られない・・・のに・・・!」
「あ~、よくやったハクアたん!さすがだねぇ~!」
『んふふ~!』きゃっきゃっ
ハクアたんのブレスはかなりの高威力なものだったな・・・。
下手すれば、フィリオラのブレスよりもかなり強いぞ。
あの圧縮された炎は物理を持ち、魔法障壁は魔力を防ぐが物理は防げないため、いとも簡単に黒い障壁を打ち破った・・・といったところだろう。
「さて、色々と話を聞かせてもらうよ。どうしてあの封印を解こうとしたのか。」
「・・・・・・・。」
「君が解こうとしていたあの球体の内側にいるモノがなんなのか、知っているのかな?」
「・・・・・・・。」
「僕は詳しくは聞かされてはいないけど、とてもやばいモノだと聞いたんだ。それこそ、その封印を解いてしまった場合、周囲は大災厄に見舞われてしまうほど。」
「・・・・・・・。」
「・・・沈黙は肯定と受け取るが、それでもいいのかな?」
「・・・・・・・私は、ただ、助けたかった。」
長い沈黙の痕に、ようやっと出てきた言葉がそれだった。
救いたかった。一体何を?家族を人質として取られており、飢鬼虎を開放しないと殺されてしまうとか・・・?
それにしたって、その言葉の真意がわからない。
「誰を、助けたかったんだ?」
「わたし、の・・・かぞ、くを・・・。」
「家族ってことは、両親や兄弟か?」
「ちがう・・・、わたし、の・・・かぞくは、あの子・・・ママ・・・だけ・・・。」
そういえばここの村の昔話を聞いたとき、白虎ととても親しかった少女についての話があったな。
でも、その話では少女は飢饉で死んだと。そもそも数百年前の話であり、飢饉で生き残ったとしてもさすがに寿命で亡くなっているはず・・・。
だけど、この子が使っていた攻撃スキルは禍々しいもの、つまり闇系の魔術を使いこなしているということは・・・。
「君は・・・、白虎とは一番親しかった少女。その亡霊か何かかな?」
「・・・・!」
大きく反応を示したか様子からして、あながち間違いではなさそうだ。
怨念精霊。ただの亡霊じゃなさそうだ。
「そうか。でも解き放つことは、あの白虎がその身を賭して守ったこの村に大きな災いをもたらすことになるけど・・・。」
「だから・・・わたし、が・・・ここに、いるの・・・。わたしが、ママ、の・・・かわり、に・・・あのつらいのや、くるしいの、を・・・受けるの・・・。」
・・・そういうことか。
この子は、死んだとに幽霊になってからも、ずっと白虎のことを見守ってきていたんだ。
白虎が背負い続けてきたその苦しみを、何百年もずっと・・・。
「ずっと・・・、辛そうに、しているの・・・。ずっと、苦しそう、にしてるの・・・。ずっと、ずっと・・・泣いているの・・・。だから、わたしが、助けるの・・・!!」
「それは無理よ。」
人型になったフィリオラが、ヨスミたちの元へ近づいていく。
「なん、で・・・!」
「それはね。あの子の魂と完全に融合してしまっているの。だから、あの子が引き受けている災厄を引き剥がすことは出来ないし、無理やり引き剥がしたらあの子が想像を絶する痛みに一生苦しみながら消滅することになるわ。」
「そん、な・・・。」
「私も、あの子を助けようと何度も試みたわ。でも・・・ダメだった。ダメだったのよ・・・。」
その頬には一筋の涙が流れていた。
何百年もずっと、白虎を何度も封印しながら助けようとしていたのか。
「そんな・・・そんなぁ・・・」
ピキッ・・・
ん?今の音は・・・。
黒い球体の方を見ると、一部、小さなヒビが入っているのが見えた。
そして、そこから紫色の霧がほんの少し漏れていた。
「なあ、フィリオラ。そしてお嬢ちゃん。非常にまずい状況かもしれん。」
「・・・え?」
「な、に・・・?」
近くにあった木の破片を無理やりにひび割れている部分へ転移でねじ込み、穴を無理やり塞ぐことができたが、ほんの少しだけ漏れてしまった霧は徐々に虎のような姿を形取っていった。
「まずいわ・・・!!」
「・・・だよな。」
「なんて・・、おぞま、しいの・・・!?」
そして実体を持たぬ禍鬼虎としてその場に顕現した。