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そこにあるは静寂・・・でもそれはおかしいですわ


光が晴れるとそこは薄暗い部屋の中心に居り、周囲には船の積み荷らしき木箱が積み上げられてあった。

どうやら無事、あの拠点から逃げることができたようだ。


だがその分、あそこでの生き残りは全員【狂獣人】として飲まれ、全滅したことを考えると非常に胸が苦しい思いにさせられる。


特にミミアンは、メイドたちと共に2階と3階のお手伝いをしていたこともあり、患者たちや兵士らと交流があったが故にショックはかなりのものだろう。


事実、ミミアンの表情は少し曇っているように見えた。


「・・・みな、いるな。」


ジャステス公爵が周囲を見渡し、転移で逸れた者がいないかどうか確認する。


「これからどうするんですの?」

「奴はもう目と鼻の先にいる。どうにかして注意を引き、奴の口を開かせたら全員で中に飛び込む。」

「なんともイカれた作戦ね。自ら猛獣の口に飛び込むなんて。しかもそこが唯一安全である可能性があるってだけ、しかもそれしか選択肢もないわけだから本当にどうしもうないわ。メリア、あなたはどう思う?」

「わからない。メナスお兄様の体内に自ら入る人なんて初めて見たから。」

「・・・そうよね。とりあえず、私がアイツを攻撃して無理やり口を開かせるから、その間に飛び込んで。」

「ダメですわ!」


そう提案するフィリオラだったが、そんなことは出来ないとレイラが声を上げる。


「それだとフィーちゃんが入る余裕がないですわ。あなたまで犠牲になるんですの・・・?」

「犠牲になるなるつもりなんて一切ないわ。ただアイツに本気で攻撃して口を開かせることができるのは私しかいないわ。」

「だからって・・・」

「私がメナスお兄様と話をしてみます。」


そう言ってきたのはメリアだった。


「私が本来の姿に戻り、メナスお兄様に呼びかけてみる。この姿じゃ無理だけど、いつもの姿ならきっとわかるはず。それにもし気付かなかったら思いっきりどつけばいいし。」

「さすが妹・・・。」

「エレちゃんは私の傍に居て。そすれば、私も頑張れるから・・・。」

「メリア様・・・!!」


そういってメリアとエレオノーラはお互いを抱きしめ合った。

そんな彼女らの百合百合しい雰囲気にフィリオラは手を払いながら甘い空気を散らしていく。


「それじゃあメリア、あなたに任せたわよ。」

「ではリヴィアメリア殿が【古獣の王】の口を開かせたとき、我々は奴の口の中に飛び込み、体内にいる【眷属】とやらを倒す。」

「でもパパ、その腕だと・・・」

「なあに、奴にとってこれぐらいがちょうどいいハンデとなるさ。」


そういって右腕を見せながら、軽く肩を回す。


だが左腕を無理やり切断した際に、体力も大きく消耗しているはずだが、それを物ともしない様子に、さすが公爵としか言いようがなかった。


「後は【狂獣人】たちの問題ですわね・・・。おそらく・・・というよりも確実にメリアちゃんがお兄様と喧嘩している最中、【狂獣人】たちの群れがやってきますわ。」

「閣下、ここは私とカゲロウにお任せください。私の<拡張>する能力とカゲロウの<影潜>の能力でなんとか足止めします。」

「ふむ・・・、だがそうするとお前たち、奴が口を開いた際には合流するのが難しくなるかもしれないが。」

「大丈夫です。その時は無理やりにでも私がルナフォート様を口の中に放り込ませていただきますので。」

「ほう、それは頼もしい。」


と会話が進んでいると、何か大きな地響きが発生したようで、周囲の建物が大きく揺れ動いていた。

リヴィアメリアは急いで窓に駆け寄ると、【古獣の王】がゆっくりと後退している様子が見れた。


「・・・まさか、ここから逃げる気か?」

「メナスお兄様・・・!!」


そういってメリアはいても経っても居られず、倉庫の外に繋がる扉へと駆け出した。

その様子を見て、ジャステス公爵は右腕に付けた大きな黒曜爪の付いた手甲をしっかり締め直し、駆け出した。


「では行くぞ・・・!」


彼の掛け声に合わせ、メリアに続くようにジャステス公爵たちは倉庫を飛び出す。


先ほどすぐそこにいたはずの【古獣の王】は若干離れた位置にまで移動しており、桟橋を掛けていくメリアの後ろにはエレオノーラが続いており、メリアが海に飛び込むと突然、強い発光と共に巨大な細長い首が海面から現れる。


「メリア様ぁ~!」

『エレちゃん、背中に乗って!』


そういってエレオノーラは海面からゆっくり浮上してきた【海濤揺らす白鯨(リヴィアメリア)】の背に乗ると、そのまま翼に見立てた胸ヒレで海面を鉤ながら、離れていく【古獣の王】を追いかける。


そして【海濤揺らす白鯨】の口から水と魔素が混じり合った強烈な光線を放ち、それは【古獣の王】の胴体に直撃した。


「ゴオオオォォォオオオオ・・・!!」


大きな呻き声と共に【古獣の王】はバランスを崩し、海面へと倒れる。

【海濤揺らす白鯨】はそのまま一気に距離を詰め、その細長い体を使って【古獣の王】に巻き付いて身動きできないようにすると、そのまま【古獣の王】の顔と【海濤揺らす白鯨】の顔が見合うような形を取る。


『メナスお兄様・・・!私の声がわかりますか・・・!?』

「ゴォォォオオオ・・・!!」


【海濤揺らす白鯨】は【古獣の王】に必死に呼びかけるも反応はなく、むしろ怒りを買ったようで【海濤揺らす白鯨】へ噛み付こうと奴の巨大な口が開きた。


だがそれは意味がないとわかり、今度は奴の口から生えている湾曲した巨大な4本の牙を【海濤揺らす白鯨】へ突き刺そうと藻掻くが、すぐさま【海濤揺らす白鯨】は【古獣の王】の口周りを締め上げる様に体で巻き付ける。


そして再度、今度はさっきよりもかなりの至近距離まで顔を近づけ、【古獣の王】と【海濤揺らす白鯨】の瞳がしっかりと交えさせる。


『メナスお兄様・・・!!』

「ゴォオ・・ォォオオ・・・」


だがそれでも【古獣の王】は錯乱しているようで、視線は合っているはずなのに、実際には合っていない様な感覚にさせられる。


【海濤揺らす白鯨】は何かを言い渋っているかのような仕草を見せ、そして観念したかのように目を瞑り、力の限り【古獣の王】へ呼びかけた。


『お願いだから、目を覚まして・・・!メナスおにいたま・・・!!』

「・・・え?」

「メナス・・・」

「おにい・・・」

「たま・・・??」


レイラやハルネ、フィリオラとミミアンが自らの耳を疑ったかのようにメリアが叫んだ言葉の一部を復唱する。


彼女は顔を真っ赤にしてとてつもないほど恥ずかしそうにしていたが、【古獣の王】の動きはぴたりと止まった。


先ほどまで錯乱していた【古獣の王】の瞳に光が戻り、今度こそ自らの自我を取り戻したかのように【海濤揺らす白鯨】の瞳を真っすぐ見る。


『・・・お、おお・・・その愛らしい声は、リヴィアメリア。愛すべきたった一人の妹君ではないか・・・!』

『メナスお兄様のばか・・・!!』

『なんだ、先ほどのように言ってはくれないのか?あ、ああ・・・なんだか意識がまた・・・』

『い、いい加減にしてよ!メナスおにいたま・・・!!』

『うむ、わかった。」

「あ、あの・・・初めましてなのです!」

『む・・・?小さき友よ。お主は誰なのだ?そして・・・ここは一体?』


自らの体を使って【古獣の王】を縛り上げていたが、彼が話しやすいように巻き付けていた口元を解き、エレオノーラが【海濤揺らす白鯨】に変わって今までの状況を簡単に説明する。


それを受け、【古獣の王】は怒りと悲しみに満ちた感情が渦巻く。


『それはすまなかった・・・。まさか、【眷属】が我が体の内に隠れているとは・・・。』

「無理もないのです。寝込みを襲われたようなものなのです・・・!」

『だからメナスおにいたま、あの子たちをおにいたまの体内へ案内してあげて。』

『うむ、わかっ・・・ヌォオオ・・・!?』


【古獣の王】が最後まで言い切る前、突然苦しむように暴れ出した。


自我を取り戻した事で油断したこともあり、【古獣の王】を拘束していた体が緩まってしまっていたこともあり、【古獣の王】は【海濤揺らす白鯨】の胴体に噛み付こうとするが、寸での所でエレオノーラが咄嗟に障壁を張ることはでき、その間になんとか体から離れて難を逃れた。


だがエレオノーラが張ったバリアはいとも簡単に食い破られ、そのまま【古獣の王】の4本の牙が【海濤揺らす白鯨】の胴体を掠り、彼女は痛みで大きく悲鳴を上げた。


『め、メナスお兄様・・・!?』

『グぬウゥ・・・うウゥ・・・!?』

「だ、だめなのです・・・!今近づいたら危険なのです・・・!」

『・・・ごめんなさい、メナスお兄様。どうか私を許して・・・!!』


そして【海濤揺らす白鯨】はもう一度、口から強烈な<吐息(ブレス)>を放ち、【古獣の王】は避けることはせずそのまま直撃し、大きく怯んだ。


その後、尾ヒレで【古獣の王】の顔面にビンタの如く、強烈な打撃を繰り出した。

これも避ける動作をせず、直撃するとそのまま大きく吹き飛ばされ、港の陸地に乗り上げる。


「グヌぅぅウゥ・・・!!」


【古獣の王】はすぐさま体勢を立て直そうと巨大な足で大地に立ち、ゆっくりと体を持ち上げる。

だがそこへ【海濤揺らす白鯨】の追い打ちと言わんばかりに巨大な水の槍が4本生成され、その4本全てが【古獣の王】へ向けて放たれる。


最初こそ、その攻撃を叩き落とそうと行動しようとした瞬間、体が硬直すると同時に巨大な水の槍は全て【古獣の王】に直撃すると大きく怯み、それに畳みかけるかのようにエレオノーラの放った<火魔法>である<火炎球(フレイムブラスト)>に、【海濤揺らす白鯨】が自らの魔力も込めることでその威力は何倍にも跳ね上がり、20倍もの大きさに膨れ上がった巨大な<火炎球(フレイムブラスト)>は【古獣の王】に直撃し、非常に強力な爆発が発生し、燃え上がる炎は奴の体を包み込むと一気に燃え上がる。


「グオおぉぉォオオおおお・・・!!??」


全身を炎に包まれ、苦しむような呻き声が響き渡る。

そして【海濤揺らす白鯨】は海面の水を集め、大きな水の球体を作り出すとそれを【古獣の王】へ向けて放った。


強烈な水圧に体の所々が押し潰され、4本あった牙は1本が見事にへし折られた。

体中は熱され、そこへ巨大な海水をぶつけられたことで、大規模の水蒸気爆発が発生した。


凄い轟音が町全体に響き渡り、周囲の建物がその爆風で吹き飛ばされていく。

立ち込める水蒸気の中から、【古獣の王】は力尽きたかのようにその場に座り込むようにして崩れ落ちた。


そして【海濤揺らす白鯨】は戦闘不能と化した【古獣の王】の上顎を持って、力いっぱい込めて持ち上げ、口を開いた。


『さあ・・・今の、うちに・・・!』

「メリア殿、君のお兄さんは大丈夫なのか?」

『はい・・・!ただ、気絶している、だけですので・・・!』

「・・・わかった。後は我々に任せてくれ!皆、行くぞっ!」


そう言ってジャステス公爵は【海濤揺らす白鯨】が無理やり開かせている【古獣の王】の口の中へと入っていった。


その後に続くようにベラドンナ卿が続いていく。


「さあ、わたくしたちも後に・・・ルナフォート様?どうしたんですの」

「・・・おかしい。」


だがルナフォートは町の方を見ながらぽつりとそう呟く。


そしてレイラは気づいた。


先ほどから大きな轟音と爆発で、完全に【古獣の王】と【海濤揺らす白鯨】は目立ってしまった。

だからこそ、今のこの状態は違和感でしかないのだ。


「・・・なぜ、【狂獣人】たちが誰一人として来ないんですの??」


レイラの口から零れ落ちる疑問に答えるのは、ただの静寂だけだった―――――。



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