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あまりにも、犠牲が多すぎですわ・・・。


「一体何が起きている!」

「私にもわかりません・・・!ただ、医務室の方で1体の【狂獣人】が突然出てきて薬を貰いに来た怪我人に襲い掛かり、そこから一気に爆発するかのように広がっていったようです・・・!我々が気づいた時には2階は全滅、また重傷者ばかりの3階もあっという間に奴らに襲われ、すでに我々の手に負えない状況に・・・。急いで生き残った者らを4階にあげ、バリケードを急務で用意し、ルナフォート様とカゲロウ様、そして騎士であるベラドンナ卿が必死に押さえていますが、いつまで持つかわかりません・・・!」


ジャステス公爵は思わず声を荒げてしまうが、兵士はすごく焦った様子で報告を続ける。

だが悪いイベントはなぜか、別の悪いイベントを呼び寄せ、連鎖する。


「ほ、報告します・・・!!」

「今度はなんだ・・・!?」

「突然、【狂獣人】らの大群が押し寄せ、正門が飲まれました・・・!」

「なに?!正門を担当していた者たちは何をしていた・・・!?」

「わかりません・・・!突然、正門が爆破され、それにより兵士らは爆発に呑まれて死亡。その後、爆発の音に引き寄せられたのか、町中の【狂獣人】が集まってきたようで、それはあっという間に・・・!」


それを受け、ジャステス公爵は窓の外から屋敷内の様子を見る。


騎士たちが結界を張り、兵士らが【狂獣人】たちを槍で貫き、奴らの進行を防衛していたが次の瞬間には結界は破壊され、次々と騎士たちは【狂獣人】たちに群がられている様子が目に入った。


それを見ても、兵士たちは決して臆することなく必死に耐えていたが、突如1階の玄関の扉が開け放たれ、中から【狂獣人】たちが飛び出してくると、兵士たちの背後から次々と襲い掛かっていく。


その後の展開はもう見るまでもなく、その場にいた騎士と兵士たちは全員【狂獣人】たちによって嬲られ、喰い漁られ、無残にも死んでいった。


ジャステス公爵はそっとカーテンで窓を覆い隠し、その右手には拳が握られていた。


「・・・今残っている者たちはどれぐらいだ?」

「我々兵士はここにいる2名を含めると計4名。騎士は1名。そしてメイドが1名に加えてルナフォート様とその従者であるカゲロウ様、計8名です・・・!」

「・・・パパ、どうしよう?このままじゃ・・・」


ミミアンが不安そうな表情を浮かべ、ジャステス公爵へと問いかける。


「・・・この拠点を放棄し、脱出する。」

「ではどこへ逃げるんですか・・・?!」

「向かうは一つ。【古獣の王】の体内だ。」

「た、体内・・・!?死にに行くということですか!?」


兵士が驚きのあまり声を上げた。


「いや、死にに行くわけではない。この一連の騒動を引き起こした元凶が ”ヤツ” の体内にいるという情報を掴んだ。生き残った者たちで体内に入り、元凶を討つ。これ以外に我らが生き残る術はない。」

「・・・その元凶って奴を倒せば、【狂獣人】たちも消え、我々は助かるという事ですね・・・!」

「恐らくな。さあ、この事を他の者たちに共有するのだ。急げ!」

「はっ!!」


そうして兵士2名はジャステス公爵に敬礼をすると、急いだ様子で部屋を出ていった。

彼等が出ていったのを確認し、フィリオラはジャステス公爵に問いかける。


「元凶を討てば、この騒動は終わりを迎える保証はないわ。」

「ああ・・・。だが今の我らにはそれに縋る他、希望はない。希望が無くなってしまった時こそ、真に絶望へと落ちてしまう。絶望に染まった者は、ただ死を待つだけの存在へと成り果てるだろう・・・。それだけは避けねばならぬ。」

「でもどうやってここから脱出するんですの?すでに2~3階は奴らで溢れ、1階からは外に居る【狂獣人】たちがなだれ込んできますわ。もしそうなれば、わたくしたちは袋小路に追い詰められた鼠と同じですわよ。」

「・・・これを使う。」


そういって机の引き出しから取り出したのは、兵士たちに持たせていた転移石だった。


「・・・この転移石はここの魔法陣と繋がっているんじゃないんですの?」

「いや、この転移石だけは違う。」

「じゃあ一体どこに・・・」

「あの港の倉庫だ。」


そういって、ジャステス公爵が視線を向けた方向は【古獣の王】のすぐ目の前にある大きな倉庫だった。


「もしこの拠点を放棄せざるを得ない状況に備え、その逃走先を臨時に作っていたのだが、まさかこんなにも早く使うことになろうとは・・・。今すぐ生き残った者たちをこの部屋に来るよう伝えてくれ。」

「わかりましたわ。」

「私はこの部屋に結界を張っておくわ。」

「お手伝いします、フィリオラ様。」

「わ、私もお手伝いするのです・・・!」


レイラは急いで部屋を出ると、すぐそこでルナフォートとカゲロウが騎士と共に階段に張ったバリケードから手を伸ばしてくる【狂獣人】たちを攻撃している姿が見えた。


周りの兵士たちもバリケードが壊れないように必死に抑え込んでいたが、その内の1人が【狂獣人】の伸ばした手に捕まれそうになるも、レイラの<神速>で瞬時に駆けつけ、掴まれそうになっている兵士を寸での所でバリケードから引き剥がした。


それと同時にベラドンナ卿のレイピアによる強烈な刺突を受け、すぐに引っ込む。


「大丈夫ですの?」

「あ、ありがとうございます・・・!」

「あなたも、咄嗟のフォロー感謝致しますわ。」

「それはよかったです。確かあなたはレイラ嬢でしたね、ここには如何様に?」

「公爵閣下からの命令よ。この拠点から逃げる準備が出来ましたわ。だから全員、今すぐ執務室へ集まるように、とのことですわ。」

「・・・わかった。カゲロウ、行くわよ。」

「かしこまりました。ではアレネモ様、行きましょう。」


ルナフォートはカゲロウとメイドを連れ、急いで執務室へと向かっていった。

続いてベラドンナ卿や兵士たちも移動しようしたその時、突如としてバリケードが大きく動き、今にも崩れようとした。


兵士たちは再度、急いでバリケードを抑え、ベラドンナ卿も急いで加わることでなんとか難を逃れていたが明らかに今ここで兵士たちを連れていけばバリケードは簡単に突破されてしまう。


「・・・私は行けません。ここを離れてしまえば奴らは一気にここになだれ込んできます。そうすれば、逃げるどころではないでしょう。」

「ならば、ベラドンナ卿・・・あなただけでも行ってください!」

「ここは僕たちで抑えておきますから、どうかあなただけでも・・・!」

「それはできません。あなた達を見捨てて私だけ逃げるなど、我がアルトリアス家の騎士道精神に反します。ですからどうか我々のことは気にせず、あなた方だけで向かってください。」


彼女はバリケードを必死に抑える兵士たちと共に運命を共にするつもりだった。

そんな覚悟が彼女の気品あるオーラに強くにじみ出ているように感じられる。


「ダメです、ベラドンナ卿!お願いです、どうか我々に変わって行ってください!

「この事変を引き起こした元凶を倒すべく、1人でも多くの戦力を公爵閣下は欲しているのです!」

「僕たちは、こんなことでしか役に立てない新兵たちなんですから・・・!」

「そんなことはない!あなた達は立派に戦ってくれた。熟練の兵士らが怯え、逃げ惑うようなこんな状況の中でも、あなた達は臆せず、民のために強い意思を見せてくれました。そんなあなた達を見捨てることは・・・」

「お願い、します・・・。ベラドンナ卿・・・。」

「僕たちの事を想ってくれるなら、僕たちのために、その力を公爵閣下のために奮ってください・・・!」

「あなた達・・・。」


とここでバリケードの一部が破損し、伸びてきた腕がベラドンナ卿の鎧を掴もうとしてくるが、咄嗟に兵士の1人が身を挺してベラドンナ卿を突き飛ばした。


ベラドンナ卿は咄嗟に突き飛ばされ、急いで体勢を立て直そうと体を起こすが、そこにはベラドンナ卿の代わりに【狂獣人】に捕まれ、そのまま引き寄せられるとバリケードの隙間から無理やり顔を出した【狂獣人】に首を食いちぎられていた。


「あ、ああ・・・っ!?そんな・・・!!」


その光景を見て、ベラドンナ卿は大きくたじろいだ。

そんな彼女に、兵士たちは必死に叫ぶ。


「い、って・・・ください、ベラドンナ卿・・・!!」

「ベラドンナ卿と共に叩けて、光栄でした・・・!!」

「フォートリア公爵家、万歳・・・!アルトリアス男爵家、万歳・・・!!」

「・・・ごめんなさい、みなさん。あなた達の勇姿は決して忘れません・・・!」


そういってベラドンナ卿は背を向け、執務室へと駆け出していった。

残された兵士たちの口元は安心したかのように笑みを浮かべていた。


「あなた達の活躍、決して忘れさせませんわ。・・・ありがとう、そしてごめんなさい。」

「いいえ、これが私たちの最期の役目ですから・・・」

「我が国の民のために、この身を持って盾になること・・・!」

「どうか、この悪夢を終わらせてください・・・。」

「・・・必ず。」


そういってレイラは執務室へ駆け出した。

部屋の中に入るとすでに魔法陣は展開しており、ジャステス公爵が握っていた転移石は光り出している。


部屋に入ろうとした瞬間、向こうの廊下で大きな物音が響き、チラッと視線を向けると、バリケードが完全に破壊され、次々と兵士たちに襲い掛かる【狂獣人】たちの姿が見えた。


だが兵士たちはその身をもって、【狂獣人】たちを拘束し、執務室の方へと行かせないように必死に抑えていた。


それを見届け、レイラは魔法陣の中へと駆け出した。

中に入ると同時にその光はピークに達し、部屋全体を光で包み込む。


その転移石によって完全に移動する時まで、【狂獣人】たちは執務室に姿を現すことはなかった。

自らの体を差し出してでも、【狂獣人】たちを行かせないように進行を防ぎきった兵士たちの活躍はまさに英雄さながらであった―――――。



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