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一難去ってまた一難・・・正直ありえないですわ


「もしかして息苦しく感じるのも、体の倦怠感が強くて動かしにくいのも<堕落した聖域(ルシル)>が影響ってことですの?」

「間違いなく。」

「この黒い灰のようなものは・・・」

「死んだ魔素の塊みたいなもの。これのおかげで魔法の伝導率が悪くなるから、自身の魔力消費量が上がるってだけ。だからいつものように魔法を何度も使うとすぐに限界を迎えるから気を付けて。」


そういって、手の平に乗った黒い灰を握りつぶす。

開いた手の平には塵状になった灰が風に吹かれ、静かに霧散していく。


「【眷属】の気配に、メナスお兄様が反応して起きたことはわかった。でも肝心の【眷属】の気配がどこからも感じ取れなかった・・・。だけど、ここにきて確証したよ。まさか、メナスお兄様の魔力を利用してこんな結界みたいなもの作って隠れてただなんて・・・。」


メリアは強い恨みを持った瞳を【古獣の王】の内に居るであろう【眷属】に向けているように見える。


「とりあえず、【古獣の王(かれ)】の中に【眷属】がいることは確定したわ。この事をジャステス公爵様に報告して今後どうすればいいか話し合う必要がありますわ。」

「そうね。まさか話にだけ効いていた【眷属】なんて存在が関わっているとは思わなかったけど。少なくとも私たちの手に余るのは確かよ。メリアとエレオノーラもそれでいい?」


2人は頷き、レイラ一行は屋敷の中へと戻っていった。

2階に上がってきたところ、1人の獣人が走ってきたことに気が付くのが一瞬遅れ、意識した頃にはすでにぶつかる寸前であった。


「わっ!?」

「あっ・・・れ?」


だが、2人はぶつかることはなかった。


相手はすでにぶつかる気満々だったのだろうか、突然目の前にいたはずのレイラの姿が体一個分後方に移動していたために一人でに体勢を崩し、転倒した。


「お母様、大丈夫?」

「あれ・・・?えと、わたくし・・・」


フィリオラが心配そうに声を掛けてくるが、レイラ自身何が起きたのか理解できていない。

とそこにハルネが賞賛の言葉をレイラへ掛ける。


「さすがです、レイラお嬢様。ぶつかる寸前にご自身のスキルを咄嗟に行使して相手と接触するのを避けるとは。」

「お母様の反射神経すごいわ。私だったら絶対ぶつかってたもの。」

「・・・ええ、わたくしもそう思っていましたわ?」


終始レイラは自分の身に起きたことに理解が追い付かず、常にはてなマークが浮かんでそうな表情を浮かべていた。


そこへ別のメイドが転倒したままの獣人を見つけ、彼の元に駆け寄るとそっと手を差し伸ばす。


「大丈夫ですか?」

「え?あ、ああ・・・すまない・・・。」


そういって転倒した獣人は使用人の手を取り、立ち上がろうとしたが足元が一瞬もたれ、メイドの体に凭れ掛かる。


メイドは寄りかかってきた獣人をよろけながらもなんとか支え、倒れることはなかった。


「あの、本当に大丈夫なんですか?顔色がとても・・・」

「え?あ、ああ・・・お、俺なら大丈夫だから・・・。」


そういって彼はそのまま通り過ぎていき、別の部屋へと入っていった。


「なんですの?あの御方は・・・。」

「どうにも挙動不審にも見えたけど。」

「・・・あら、あなた手を怪我していますね。」

「え?あれ、何時の間に・・・」


よく見ると服の上からじんわりと血が滲み出ていた。


「あら、何時の間に・・・。さっき治療していた際に器具で切っちゃったのかしら・・・。教えていただき、有難うございます。」


メイドはとりあえず服の上から腕を強く圧迫するように押さえながら、ハルネに頭を下げてそのまま医務室へと走っていった。


するとそこへミミアンが部屋から廊下に出てきてレイラたちの姿を見つけると、急いで駆け寄ってきた。


「あ、みんな!・・・って、ええぇ!?なんでメリアっちとエレっちがここにいるの!?」

「あら、レイラ。それについて話すことがあるから合流してくださいまし。それよりもそんなに慌てた様子でどうしたんですの?」

「え?あ、そうだ!ねね、ここに具合の悪そうな患者さんこなかった?」

「そいつなら、あっちの部屋に入っていったけど。」


そういってフィリオラは先ほどぶつかりかけた獣人とメイドが入っていった医務室の方を指さした。


「その患者に何かあったの?」

「え?いや、なんだか具合が悪そうなのに、全然診断を受けてくれなくって。なかなかのお爺ちゃんなのもあって持病持ちみたいなんだけど・・・。」

「確かに足元もふら付いていたし、具合が悪そうに顔色も悪かったですわ・・・。」

「まあ大丈夫でしょ。そのおじいちゃんが入っていった医務室にさっきのメイドも入っていったし。自分の傷を治したらおじいちゃんの事見るでしょ。」

「え?怪我したって、誰が?」

「患者の後を追って出てきたメイドだけど。」

「・・・あの子、怪我なんてしてたっけ?」


なんて会話をしながら、気のせいだということにし、レイラたちはジャステス公爵が居る4階へ続く階段を上がっていった。


その頃、先ほど腕に傷を負ったメイドは傷の手当のために医務室へ訪れていた。

部屋の隅には先ほど自分が担当しようとして逃げてしまった患者が蹲るように座っていた。


「もー、メロムさん。こんなところにいたんですね。少しだけ待っててください。自分の腕の傷を治療してから改めて診させてもらいますからね~」

「・・・・・・・・・・」


彼女は腕の傷を見るために、袖を斬るための鋏を探して机辺りを探っていた。


「違う・・・俺は、違う・・・。そうじゃない、違うんだ・・・俺は・・・」


探す最中、メロムと呼んだ患者の近くまでやってきたとき、彼がぼそぼそと何かを呟いているのがわかった。


内容からは必死に何かを否定しているもの。

恐らく、ここに来る前にとても悲劇的な出来事を体験してしまったのだろう。


可哀そうに・・・。


きっと、家族か友人か、親しい誰かを置いてきてしまって、その事をずっと悔いているのね。

見た時は60歳前後ぐらいに見えたし、もし息子や孫とかが犠牲になってしまったのなら、私だって自分を責めてしまうわ・・・。


「・・・早く治療してあのおじいちゃんを治してあげな・・・きゃっ!?」


突然、後ろから強い力で掴まれ、そのまま地面に倒されてしまった。


いきなり何が起きたのかわからず、痛む頭を押さえ、状況の確認を行おうとすると上から肩を強く押さえられ、何かが彼女の上に覆いかぶさった。


よく見ると相手は先ほど隅で蹲っていたメロムだったが、目は血走り、口からは涎が垂れていた。

完全に狂気に呑まれているのが一目でわかるほど、今のメロムには正気など感じられない。


「ちょ、ちょっと・・・メロムさん・・・!?」

「俺は、悪くない・・・!違う、違うんだ・・・!へ、へへ・・・俺は、悪くねぇ・・・!!」

「わかり、ましたから・・・後で、きちんと話を・・・きゃっ!?」


とメロムはメイドを押し倒し、身動きできないように押さえつけた後、服の上から胸を鷲掴みにされる。


「ちょ、ちょっと・・・ど、どこを触って・・・!?」

「へへへ・・・俺のせいじゃ、ない・・・!!違う、へへ、俺じゃ、へへ・・・」

「まず、は・・・落ち着いて・・離れ、ああっ・・?!?」


メイドは体中を触られながらも、必死に傍に落ちていた羽根ペンを握りしめ、メロムの肩に強く指した。


刺された痛みで押さえつけていた力が緩み、そのまま彼の横腹に蹴りを喰らわせると大きく怯む。

その隙に何とかメロムの拘束から抜け出し、急いで上半身を起こして後退りしながら入り口近くの壁に背を付ける。


「いぃぃでぇぇぇええ・・・よぉおお・・・俺、じゃあないって・・・違うんだってぇえ・・・へへへへ・・・」

「お、落ち着いて・・・メロムさん・・・お願いだから・・・」


先ほど強く掴まれた胸が痛み、襲われた恐怖で体が震える。

メイドは片腕で胸を隠す様に抱き、腰に差していたナイフを抜いてそっと構える。


彼は肩に服の上から差した羽ペンを抜いた際、服に引っ掛かりそのままビリリッと大きく裂けてしまった。


だが破けた服の上から、メイドは体中に走る黒い紋様が目に入った・・・。






扉をノックし、部屋の中から

「入れ」

とジャステス公爵から返事が聞こえると、レイラはドアノブを回して部屋の中に入る。


「む、レイラ嬢らか。それに我が娘まで・・・。それに、見かけぬ者らもいるようだが。」

「ええ、今回そのことでジャステス公爵閣下にお話が合ってきましたの。紹介致しますわ。この子は【海濤揺らす白鯨(リヴィアメリア)】、竜王国を守護する存在で、【古獣の王】の妹君ですわ。」


そうしてレイラはリヴィアメリアをジャステス公爵に紹介する。


「【古獣の王】の・・・妹、だと?」

「初めまして。レイラ様のご紹介にあずかった、リヴィアメリアよ。」

「・・・まさかあのデカブツに妹がいたとは。」

「妹、と表現するのにも少し語弊があるんだけど。」

「ふむ。まあ、その辺りは別によい。レイラ嬢、そなたが今このタイミングでその者を我に紹介した理由は別にあるのだろう?」


察しが良い。


「・・・ええ。ジャステス公爵閣下、【眷属】という存在を知っているかしら?」


ジャステス公爵には言葉を選ばず、ただそのままの言葉を選んで伝える。

今は貴族風な言い回しで言葉を伝える余裕などないからだ。


「・・・いいや、聞いたことはない。だがここでその【眷属】なる存在の話をするのであれば、今回の異変の元凶はソイツなのか?」

「ええ。ソイツは【古獣の王】の体内に隠れているみたいですわ。」

「隠れている、か・・・。して、ソイツは強いのか?」

「戦ってみないとわからないですわ。」

「・・・ははっ、それもそうか。」


乾いた笑いがジャステス公爵の口から零れ、何かを考えこんだ後、ゆっくりと席を立つ。

その瞳には強い決意が宿っていた。


「・・・では、向かうとしよう。」

「え、パパも来るの?!その状態で・・・!?」

「当たり前だろう。相手の実力もわからない、そんな存在に挑むのだ。少しでも勝率を上げるために・・・ん?」


とここで、外の様子が騒がしい事に気が付く。


すると何かがこの部屋に向かって走ってくる足音が聞こえ、扉が勢いよく開かれた。

そこには焦った様子の兵士が立っており、何かよからぬことが起きたのだとすぐにわかる。


「何があった!?」

「ジャステス公爵閣下・・・!この拠点内で、【狂獣人】が現れました!今現在、ルナフォート様とカゲロウ様が対処していますが、すでに被害は甚大で生存者の4割は【狂獣人】らに変貌・・・!もはや拠点は再起不能・・・!」


それは、拠点崩壊を告げる絶望の宣告だった――――――。



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