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騎士という存在は命が軽く、そして重い矛盾した生き物ですわ


「レイラ様」


ミミアンと離れ、準備を進めていると突然背後から声を掛けられ、後ろを振り向くとそこにはルナフォートの隣にいたカゲロウが立っていた。


「あら、あなたは確か・・・ルナフォートの隣にいた従者でしたかしら?」

「はい。私を覚えていてくださり、誠に感謝の極み。」

「別に感謝されるようなことではございませんですの。して、要件は何かしら?」


そういうと、カゲロウは腰から何かを取り出し、それをレイラへと渡す。

それは長い紙が丸められたような物で、それを糸で巻いて結んで留めていたものだった。


「これは・・・?」

「我が故郷に伝わる<闇魔法>が綴られた巻物で御座います。」


どうやらこれはカゲロウの故郷では本という一般的な書物は全て、こういった巻物が普及しているそうだ。


「あなたの故郷に伝わる<闇魔法>の・・・。でも一体どうしてわたくしに?」

「申し訳ございませんが、それを今あなた様にお答えできる資格を私には持ち合わせておりません。ただ、この巻物を授かった際に、この巻物自身が所有者を選ぶ。決してその選択を間違えるなと。」

「つまり、この巻物がわたくしを指示した、と?」

「・・・。」


カゲロウは何も答えず、何も反応せず。

ただじっとレイラの青い瞳を見つめていた。


そして、

「どうか、その巻物があなた様のお力にならんことを・・・。」

そう言い残し、忽然と目の前で黒いモヤに包まれながら姿ごと霧散して消えた。


ただ手に残された巻物をじっと見つめる。

だが今のレイラには、その巻物から何かを感じ取れるものは何もなかった。


とりあえずレイラはその巻物を自身の小さなマジックポーチへと入れ、準備を進めていった。


それから30分も経たずして、ジャステス公爵の書きしたためた文書が完成した。

それを持ってジャステス公爵が1階に降りてくると、すでに準備万端の様子を見せるレイラたち。


だがそこには3人の別の騎士たちがいた。

その兵士たちは全員退役間近の熟練騎士たちで、なによりもその全員がユティス公爵夫人と関係のある者たちばかりだった。


「公爵閣下。ぜひ、我々も行かせていただきたい!ユティス公爵夫人は、フォートリア公爵家に嫁ぐ以前より仕えさせていただいた・・・私たちの娘みたいな存在です。」

「ワシらの大事な娘さん、こんなところに来させたら、先に旅立った主様に、顔向けできないですじゃよ。」

「少しでも人数がおりゃあ、この作戦の成功率があがるしよぉ。ミミアンお嬢はワシらの娘が生んだ宝ぁ、お転婆な孫娘みたいなもんじゃけえ、絶対に守り通さにゃならんのよぉ。」

「お前たち・・・。この作戦は非常に大きな危険が伴う。もしかしたら死傷者が出るかもしれない、そんな任務だぞ?」


ジャステス公爵は3人の老騎士に脅す様に強く言うが、それを聞いて3人の老騎士は絶望に顔を曇らせず、逆に満面の笑顔を浮かべた。


「なーにを言うかと思えば!大将、死ぬのが怖くてこんなところで震えてる腰抜けなんて、ここにはいませんぜ。本当なら騎士たち全員がこの作戦に参加したいと希望出してきたんでさあ!」

「その中でワシら3人はもうすぐで退役間近ってこともあるし、未来ある若き兵士らをこんなところで無駄死にさせちゃ、老兵にとってこれ以上ない屈辱なんでさあ。」

「つまりワシらはアイツらの代表ってことでここに来たんですわ!」

「・・・それにワシらはもう長く生き過ぎたけえ、この作戦で死ぬにゃあワシらだけで十分じゃよ。」

「はっは!そりゃあちげぇねえ!」

「がーっはっはっはっ!」


すでに彼らの中で死を覚悟しているようだった。

そして、ひとしきり笑った後、深く頭を下げてくる。


「公爵閣下・・・。故にワシらは謝罪せにゃならんのです。俺らがもう少し勇気を持って心を震わせていれば、閣下にそのような大怪我をさせることもなかった。」

「老兵であるワシらが五体満足で、皆を率いる大将が片腕一本失くしても決して消えることのない、揺るぎない信念を持ってワシらを勇気づけてくれる・・・。それゆえに、その腕を見る度、ワシらは後悔してもしても仕方ないんでさあ・・・!!」

「だからどうか・・・!!閣下の腕を守れなかった分、どうかミミアンお嬢と、ユティス嬢をワシらに守らせてくだせぇ・・・!!」

「・・・。」


そういって3人の老騎士は再び、頭を深く下げる。


これ以上、ジャステス公爵は何も言い返すことができなかった。

何を言っても、彼等を説得できるようには思えなかった。


そして意を決したかのように彼らを見る。


「・・・ダルフ」

「は!」

「ジャクソン」

「へいっ!」

「モートウェル」

「おう!」

「・・・娘と、妻を、よろしく頼む。」


今度はジャステス公爵が3人の老騎士へ深く頭を下げた。

本来、公爵家が身分の低い者たちに頭を下げるなんてことは決してない。


だが彼は身分など関係なく、娘を溺愛する1人の父として、妻を愛する1人の男として、愛する二つを守ってくれると誓ってくれた3人の老騎士へと最大限の敬意を込めて頼み込んだ。


それを受けた3人の老騎士はそれぞれ剣を抜き、大きな盾を構えると空高く掲げ、叫ぶ。


「「「フォートリア公爵家に栄光あれ!!」」」


そんな光景を見ていたレイラたちはただじっと見ていることしかできなかった。

死を覚悟した3人の老騎士、兜のフェイスガードの隙間から見える彼らの瞳はより一層燃え上がっているように感じられた。


そこへミミアンが走っていく。

3人の老騎士たちに抱き着きながら涙を流す。


「みんな・・・!!」

「御嬢、そんな顔は似合わねえって。」

「いつも戦場でイカれたように暴れ狂う姿はどこにいったんです?ほら、そんな涙はお嬢にゃ、似合わないですって。」

「そうですじゃ。いつものように笑顔で楽しそうに任務に行きますじゃ。」

「・・・バカ、本当にバカばっかりなんだから!!絶対に、絶対にみんなで生きて帰るんだよ?誰一人欠けたりでもしたら許さないっしょ・・・!!!」

「こりゃあ、今まで受けてきた任務の中で最難関じゃねえか?」

「本当に御嬢はいっつも無茶難題を吹っ掛けてきやがるんですから。」

「ま、それが可愛いんじゃがな?」

「ちげぇねえ!」

「がーっはっはっはっ!」

「もー!笑い事じゃないってーの!うちは真剣なんだからぁー!!」


そんな4人のやり取りを見ていたレイラは3人の覚悟を直に受け、胸が熱くなるのを感じた。


「誰かを守るためなら、喜んで命を捧ぐ・・・。これが、獣帝国で重んじられている騎士道精神ですのね。」

「男の騎士ってみんな、そういうところばっかり。残される人の気も知れないで、助けるだけ助けて満足して死んでいく・・・。ほんと、馬鹿な生き物なんだから。」


そう言いながらルナフォートがレイラの隣にやってきた。

その彼女の瞳には怒りと悲しみ、寂しさが入り混じったような感情が感じられる。


恐らく、彼女の過去にも何かしら同じような経験があったのだろうか。


「男の騎士なんて、何時の時代も誇りと名誉のために喜んで命を捧げる生き物ですわ。だからこそ、その死に様は尊重しなければならないと聞きますわ。」

「死に方に尊重もくそもないわよ・・・。生きてさえいれば、それで十分。それだけで十分なの・・・。」

「・・・そうですわね。」

「はあ・・・ごめんなさい。それじゃ、そろそろ行きましょう。」

「・・・ええ。」


そうして、レイラたちは3人の老騎士たちと共に、裏門の方から出ることにした。

正面の方だと幾人かの【狂獣人】らの姿が見えており、接敵すれば面倒なことが起きることは火を見るよりも明らかだった。


「では参ります。汝、我らの姿を影の中に隠し、敵の目を欺かん・・・!<影法師>!」


カゲロウの<隠属性>の闇魔法、<影法師>は自分たちの存在は影となって地面に溶け込むもの。

また建物の影などに入ることで、完全に姿を視認できなくなったりするので基本は別の影に隠れながら移動することが基本となるようだ。


「では、行きます!」


目的地は、ユリアたちが待機しているであろうこの<メナストフ港町>の正門から180度の位置にある部分。


今現在、別の斥候役たちはその付近にいた【狂獣人】たちを集め、東側へと誘導するようにしているそうだ。


それゆえ、今現在手薄となっているはずの西側へと向かって影から影へ移動している。

だがそれでも全ての【狂獣人】たちを誘導できているわけもなく、家の中や路地裏などといったところにはまだまだ生者を探して漂う姿が見える。


彼等に気付かれないよう、慎重に進んでいき、危なくなった場合は<音送り>という別の場所で音を発生させる魔法を駆使し、何とか目的地までやってきたレイラたちだった。


「・・・ではここで<影法師>を解きます。」

「後は私とカゲロウでこの辺りで残っている【狂獣人】たちを集めながらここから引き剥がすわ。まあそれでも全てを連れていけるとは思っていないから、そこはお前たちと、レイラ様・・・、そしてフィリオラ様、ハルネ様、どうかミミアンお嬢様をよろしくお願いします。」

「任せてちょうだい!ですわ!」

「といっても、結界を張るぐらいしかできないけどね。」

「魔力で作った私の”鎖蛇”なら少しばかり無茶はできますね。」

「それをいう成れば、ワシらだっておるぞい?もしもの時はワシらが盾となって時間を稼ぎましょう!」

「ちげぇえねえ!」

「がーっはっはっはっ!」

「・・・はあ。絶対にさっきうちが言ったこと忘れてるよね。」


なんてやり取りをしながら、ルナフォートはカゲロウと顔を合わせ、頷きあうとその場から離れ、大きな声を出しながらそれぞれ2方向へと散開していく。


それに伴い、そこらかしこから【狂獣人】たちの呻き声のような叫びが上がり、どんどん遠ざかっていくのがわかる。


「・・・それじゃあ、結界をわたくしとミミアン、ハルネの3人で攻撃しますわ。フィーちゃん、そしてダルフ様、ジャクソン様、モートウェル様の4人はどうか周囲を見張っていてくださいまし!奴らが現れたら決して接近戦で戦おうとせずフィーちゃんは結界を、3人はその大楯を使って奴らを防いでくださいまし!」

「了解したわ!」

「うむ!」

「まかせときぃ!」

「やってやるかのう!」

「それじゃあ、行きますわ!!」


それぞれ方針が決まり、任務が始まった―――――。



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