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これが、メナストフ港町・・・ですの?


中に入るとまず先に空気が重く、また熱く、だが冷たいような息苦しさを受け、体全体が重く感じる。


今現在、降りやまぬ黒い灰が原因か、それとも町のすぐ目の前の海で微動だにせず、ただじっとこちらを睨みつける様に目をぎらつかせている【古獣の王】が原因か・・・。


レイラたちはひとまず【古獣の王】に見つからぬために近くの民家へ入り込む。


「な、なんなんですの・・・。息がすごく苦しいですわ・・・」

「それに体も動かしにくいですね・・・。」

「・・・静かに。」


フィリオラはそっと人差し指で自分の口を押え、2人に静かにするようジェスチャーを送る。

それを受け、首をかしげているとそっとある一画を指さした。


そこには壁に体を向けて静かに立ち尽くす獣人の後姿が目に入った。


ポタッ・・・ポタッ・・・


どこかで水が滴り落ちる音が聞こえる。

それに合わせて獣人はゆらゆらと微かに揺れている様にも見えた。


「あ、あの・・・」


とレイラが勝手に民家へ入ったことを謝罪するため、声を掛けようとしたところで再度フィリオラが再度制止する。


「な、なんで止めるんですの・・・?」

「・・・様子がおかしいわ。」


よく見ると小刻みに震えており、その獣人からは何かの液体が垂れているようで、体の下には小さな水たまりが出来ていた。


レイラはそっと黒妖刀を抜こうとしたが、今自分がいるところは家の中であり、この狭さだと十分に振り回せないと判断し、魔物の素材を剥ぎ取るための小型のナイフを抜いて構える。


足音を立てないよう、静かに獣人を避けて部屋を移動しようとした。


――ガタンッ!


「あっ!」


レイラの黒妖刀の鞘がテーブルの足にぶつかり、大きな音が鳴ってしまう。

その瞬間、獣人がビクッと反応し、ゆっくりと振り向いた。


「ひっ・・・!」

「なっ・・・!?」

「そんな・・・」


振り向いた獣人の顔は白目を剥いており、だらしなく開いた口からはよだれがだらだらと垂れており、顎は小刻みに震えている。


手足を不規則に動かし、体の震えがどんどん大きくなっていく。


「オオアオアアアアオアオアオアオアオアオアオアアアア」


ただただ呻くように叫びながらレイラたちに飛び掛かってくる。

レイラは体を捻って飛び掛かりを回避し、起き上がると急いで次の部屋へと駆け出した。


それに続くようにハルネとフィリオラも部屋に入り、すぐに扉を閉めるとバリケード代わりに横に置いてあったタンスをドア前に運び終えると同時にドアをドンドンと激しく叩き始める。


だが一息つく間もなく、部屋の隅にいた子供の獣人とその母親と思わしき獣人が先ほどの獣人と同じように白目を剥き、声にならない叫びを上げながら飛び掛かってくる。


子供はレイラに飛び掛かり、母親はフィリオラに飛び掛かった。

ハルネは急いでレイラから子供を引き剥がそうとしたが突然ドアが裂け、その隙間から無理やり手を伸ばしてきた獣人の手がハルネの首を掴む。


子供は顎を鳴らしながら必死にレイラに噛み付こうとしてきており、手に持っていたナイフで刺そうとするが、その年齢と背丈がジェシカと重なり、躊躇してしまった。


「は、離れ、なさい・・・ですの!」

「がぁっ・・・、ぐ・・・!」


ハルネの腰から鎖蛇が2体出現し、伸びてきた獣人の腕に噛み付くとそのまま引き千切った。


ゲホッゲホッと酷く咳き込みながら、何とか呼吸ができるようになったハルネはすぐさま子供を鎖蛇が噛み付くとそのままレイラから引き剥がし、容赦なく別の部屋に投げ飛ばす。


「はあっ!」


フィリオラに掴みかかっていた母親の獣人は、顕現させた竜尾が母親の首に巻き付けると先ほどハルネが子供を投げ飛ばした部屋へと放り投げる。


子供が体勢を立て直して部屋から出ようとして、そこに母親の獣人が吹き飛んできて子供とぶつかると2人が出てこれない様に急いでドアを閉め、椅子をドアノブに掛けて2人を部屋に閉じ込める。


2方向のドアが激しく叩かれ、ドアの耐久もどんどん減っていく。

レイラたちは急いでその家から逃げる様に窓をたたき割って外へと逃げ出した。


別の民家へ逃げ込もうとすると、その家での騒ぎに気付いた【狂獣人(マッド)】たちが次々と集まってきており、レイラたちの姿を見つけた【狂獣人】たちが全力疾走で迫ってきた。


「前にも同じような体験、していませんでしたこと!?」

「でも今回違う点はアイツら全員、眷属じゃないってところね!!」

「眷属であるならば、思う存分攻撃できますが、どうにも彼等はこの町の住民たちのようです・・・!」

「おかげで殺すことができないじゃないですの~!!」


そんな悲鳴を上げながらレイラたちは急いで民家の中へ逃げ込み、そのまま中を走り抜けて別のドアから外に出るとすぐに別の民家へと入っていく。


民家の中を経由して逃げる理由は、外に居る【古獣の王】に姿を捕捉されないようにするためだ。


まあ、今この騒ぎからして居場所は捕捉されている可能性は高いわけだが、そんなことを今気にするほどの余裕はレイラたちにはなかった。


だが次の民家へ逃げ込んだ時、中にいた3体の【狂獣人】らが飛び掛かってきたことでレイラたちの逃走劇はそこで止まることとなった。


飛び掛かってきた【狂獣人】を避けようとして足が縺れ、地面へと倒れ込む。


別の【狂獣人】が倒れているレイラへと襲い掛かろうとしたが、鎖蛇が伸びてきて地面に倒れているレイラの体に噛み付くとそのまま持ち上げる様に引っ張り込み、【狂獣人】は何もない地面へと頭から飛び込んだことで、頭があらぬ方向を向いてそのまま動かなくなった。


・・・かに思えたが、すぐさま体を起こし、首が曲がったままレイラたちへと向かってきた。

それを見てハルネは我慢できず、鎖斧を抜いて【狂獣人】の首を切り落とす。


「・・・そんなっ!?」


確かに首を切り落とした。

普通の生命であるならば死を迎えるはずの状態であるにも関わらず、首を失った体は何事もなかったかのようにハルネへと飛び掛かってきたのだ。


鎖蛇のおかげで体勢を整えることができたレイラは、ハルネに組み付いた【狂獣人】の背中にナイフを刺し、そのまま捻じった後、掴んだナイフの柄と服を掴んで引っ張るようにハルネから無理やり引き剥がす。


そのまま2体の【狂獣人】へと投げ飛ばし、3体揃って崩れ落ちた。


「死なない・・・?!」

「ハルネ、急いで逃げますわよ!」

「は、はい・・・!」


3体の【狂獣人】たちが起き上がろうと藻掻いているうちにその民家から出ると左右から無数の【狂獣人】たちがレイラたちを挟み込むようになだれ込んでくる。


「モタモタしすぎましたわ・・・!」

「完全に囲まれたわね・・・。」

「はあ・・・はあ・・・」


先ほどの出来事がハルネに堪えたらしく、珍しく息が上がっている様子だった。

出てきた民家にも【狂獣人】たちがなだれ込んできたため、完全に逃げ道がなくなった。


もはやこうなっては、とレイラは黒妖刀を抜き、ハルネは鎖斧を構え、フィリオラも竜翼を顕現させて戦闘態勢を取る。


「みんな、伏せてぇー!!」


上空で聞き慣れた声が聞こえ、その声と同時に周囲を眩い光が包み込み、レイラたちも思わず手をかざして光を遮る。


その光にあてられた【狂獣人】たちは大きくたじろぎ、体が硬直しているかのように動かなくなっていた。


それと同時に空からミミアンが降ってきて、手に持っていた石をかざすと足元に魔法陣が展開された。

その数秒後にその魔法陣はレイラたち全員を包み込むと光となって消えた。


その後、【狂獣人】たちがまた動き出し、体を不規則に震わせながらその場にとどまっていたが、別の所で悲鳴が上がり、その声に反応して【狂獣人】たちは駆け出していった。






光が晴れ、周囲の景色が見えるようになるとそこは大きな宮殿のような豪邸、噴水のある中庭にレイラたちは転移したようだ。


ミミアンが使ったであろう転移石は砕け散り、吹き抜ける風に乗ってミミアンの手の上で散っていった。


そしてミミアンはレイラに近づき、肩を掴むとレイラの体中をあちこち見回し、何もないと分かると次にフィリオラ、そしてハルネにも同じように行い、全員が無事であると分かると大きく安堵した。


「はあ~、よかったぁ・・・。怪我してないっぽい・・・!」

「ミミアン・・・」

「あ、話は後にしてまずは早く屋敷の中に入って!」


ミミアンにそう促されるようにレイラたちは屋敷の中へ入っていく。

そこには無数の怪我人と思われる獣人たちが色々なところで項垂れていた。


「これは・・・。」

「この人たちは、この町の生き残り。といってももうその数も少ないけどね・・・。」

「ミミアン、一体何があったんですの?これも【古獣の王】が原因なんですの??」

「・・・わからない。うちらが到着した頃にはもうこんな状況だったよ。王都タイレンペラーで見たあの【眷属の成れの果て】っぽかったけど、あいつ等は死ぬ。でも、あの狂った獣人たちは・・・【狂獣人】たちは、死なない。何をしても、死なないんだよ・・・。うちが切り裂いても、ルナフォートが破裂してバラバラになっても・・・奴らは蠢き、うちらを食べようと近づいてくる・・・。」

「・・・私が鎖斧で首を切り落としても動いていたという事は、そう言う事ですね。」


ハルネはついさっきの事を思い出し、思わず自信を抱きしめながら震える。


「死なない、なんて・・・。でもミミアンが使ったあれは?奴らに聞いているように見えましたわ。」

「聖なる光をぎゅ~って圧縮した【光玉】って言ってた。うちも詳しく知らない・・・。ただ、聖樹教会?っていうところからもらったんだって。でもその数はもう残り少ないし、なによりこれであいつらを倒すことはできないから・・・。とりあえず、うちのパパに会って。」

「無事ですの?」

「・・・わからない。」


そういったミミアンの表情は、笑顔を向けていたが、彼女がしていたいつもの明るい笑顔には見えなかった。


先ほどレイラたちの体に傷を負っていなかったかどうか、焦ったように確認していたことと何か理由があるのだろうか・・・。


ミミアンに連れられて階段を上がっていく。

その足取り一歩一歩がとても重く感じられた。


最上階まで上がり、廊下の奥にある扉を開く。


部屋に入るとそこには窓から外の様子を眺める・・・―――――左腕を失ったジャステス公爵の姿があった。



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