仕方ないだろぉ~・・・、ドラゴン成分が足りないんだよぉ・・・。
「はああ!!」
剣で切り刻み、魔喰蟲の首を切り落とす。
だが、すぐさま別の魔喰蟲が何十匹となって襲い掛かってくる。
距離を取ろうと軽く後方へ飛ぶと背中に付いた無数の毒針を飛ばしてくる。
それを剣で撃ち落とし、投射物の合間を潜り抜けて躱しながら次々に魔喰蟲の急所を正確に切り落としていく。
だが、それでも数の暴力に打ち勝てず、死角から飛んでくる毒針を避けきれずに何針か突き刺さり、そのまま地面へと倒れ込んでしまう。
そのまま何十匹の魔喰蟲が群がり、冒険者の肉を喰らいつく。
そして、痛みと絶望を浮かべ絶命する。
「はあ、はあ・・・」
「ギルドマスター、無事ですか?」
どれほどの数の魔喰蟲を殺しただろうか。
10?50?100?
だが、そんな数なんて関係ない。
どんだけ殺しても、全然減ったようにも感じさせないほどの魔喰蟲の群れ。
ステウラン勢力の進軍で2000匹以上は何とか倒せて入ると思うが、それでも未だに中心地にたどり着くことさえできていない。
というより真面に進めてさえできていない。
「魔法による広範囲攻撃ができない今の状況はただただ数による物量攻撃が一番効くとはいえ、さすがにこれはな・・・。」
「ガーク、私ちょっと上空から焼き払うわ。私の吐息には魔力はないから、ある程度数を減らせると思うわ。まあ、それでも2~3割程度だとは思うけど・・・。」
「それでも頼む。」
フィリオラは頷いた後、姿を龍へと戻し、上空へ羽ばたいていく。
前方から少し奥、最前線で戦っている仲間に影響が及ばない場所を見定め、胸の奥から燃え上がる炎を溜め、まだ溜め、まだまだ溜めて、狙いを精確に定めると、
『<白聖焔花>』
フィリオラの口から一直線状に放たれた白桃色の炎が魔喰蟲で埋め尽くされた地面を焼き尽くす。
一切の魔力が込められていない焔は、魔喰蟲でも対処できず、一気にその数を減らしていく。
(本来なら魔力を込めないといけないんだけど、込めないようにしてから放たないといけないから連発できないのよね・・・。ん?)
ふと背中に違和感を感じ、首を持ち上げて背中を見てみると、ヨスミが背中の体毛に身を埋めていた。
『・・・え?ちょ、ちょっとヨスミ!?何してるのよ!?』
「仕方ないだろぉ~・・・、ドラゴン成分が足りないんだよぉ・・・。」
『状況を考えなさいよ!そんなことしてる暇も余裕もないでしょうが!』
「大丈夫だよ~。すう~、はあ~・・・、よし。」
そういって立ち上がると魔喰蟲の群れへと背中から飛び降りる。
『ちょ、ヨスミ!?』
飛び降りた際に、その場に位置を固定して”移動”し続け、ヨスミは目に映った巨岩を幾つか”移動”させ、魔喰蟲の上へと次々に落とす。
そして潰し終えたらまたその巨岩を別の場所に”移動”させて潰し、また”移動”させて潰す。
『え、魔法を使っているわけじゃないのよね・・・?』
「ああ。その辺りに転がっている巨岩を魔喰蟲の群れの上に落としまくってるだけだからね。」
『うわあ・・・・。』
うーん、もう少し広範囲に攻撃したいところだけど・・・
「・・・あ、そうだ。フィリオラ、下のみんなに少し後退するように伝えてもらってもいい?」
『え?ヨスミ、何をするつもり?』
「今のままじゃあさすがに埒が明かないから、一気に数を減らすだけ。ただその際にどれぐらいの影響を及ぼすか分からないから。」
『・・・絶対によからぬことをしでかすつもりよね。』
「否定はしない。」
『・・・わかったわ。あまり味方に迷惑をかけちゃだめよ』
「善処する。」
顔を引き付け、大きくため息をつくと羽ばたきながらその場を後にし、地上へと向かっていった。
ヨスミは一番大きな巨岩を3つ上空限界ぎりぎりのところに転移し、自らも上空限界ギリギリまで転移した。それを何度も何度も繰り返し、酸素が届くギリギリの所まで巨岩と共に転移した後、巨岩が落ちる挙動と落下軌道を計算し、着弾地点の正確な狙いを定めると自分だけ先に何度も下の方へ転移し、先に地上へと降りた。
『ヨスミー!避難させたけど、一体何をする気なの・・・?』
「魔力を含まない魔法をね。名づけるなら・・・、そう。竜星群ってところかな」
『竜星群って・・・、ヨスミ、あなた・・・え?』
と、ふと何か上の方から音が聞こえてきた。
音のなる方へ見ると、3つの強大な燃え上がる巨岩の影が目に映り、その直後、3つの巨岩が割れ、無数の大岩となり、まるで雨の様に無数の隕石が降り注いだ。
隕石が次々と魔喰蟲の群れに落ちていき、大地を砕き、大きな爆発を生じ、衝撃波で森や炎を一気に吹き飛ばし、さらなる被害を拡大させていった。
『・・・・・・・・・・・・・・・・・。』
あまりの惨状に、フィリオラは開いた口が塞がらなかった。
「想像以上の破壊力だな。」
『ば、ばかぁー!これはさすがにやりすぎよ!!』
「あ、やっぱり?みんなは大丈夫かな?」
『確認しなきゃ・・・。魔喰蟲のせいで防御魔法も張れない状況なんだから・・・ほら、いくわよ!』
「了解!」
そういって、フィリオラの背に乗る。
吃驚してこっちを見た後、はあ・・・とため息をついた後、味方たちの元へ飛んでいく。
「竜母様ぁぁぁぁあああ・・・あ、あれは一体なんなんですかぁああああ!?!?」
開口一番にガークの悲鳴に近い質問が人型になったフィリオラへ向けられる。
「・・・ガーク、味方の被害状況は?」
「銀聖騎士団のおかげで死者はなるべく抑えられてはいました。そしてあの災厄のような火魔法による被害は奇跡的に、奇跡的にありませんでした!・・・ただ正直、ワシはあの魔法で魔喰蟲の<魔喰い>が発動し、強化されてしまうんじゃとヒヤヒヤしましたがね。あの魔法は一体なんなんです・・・?」
「あれは私じゃないわ。ヨスミが発動させた魔法・・・、あれ魔法なの?」
「魔法・・・っていえば魔法だね。まあ簡単に説明すると、むっちゃ高い位置から岩を落としただけだよ。」
「むっちゃ高い位置から岩を落としただけって・・・。それであの破壊力はさすがに・・・」
「でもガーク、あれでもまだ全滅したわけじゃないわ。7~8割は削れたとは思うけど、それでもまだ異変が解決したわけじゃないわ。」
「・・・はあ~、そうだな。さあ、一気に押し上げるぞ!」
ガークはそう叫び、巨剣を携えて前線へと戻っていった。
それに続くように冒険者や自警団が後を追いかけて行った。
騎士団たちは負傷者たち救助し、守るような陣形を取りながら数名ほどガークたちの後に続いた。
「それじゃあ私たちも・・・」
「そうだね。魔喰蟲はガークたちに任せ、僕たちは中心部へ移動行こうか。」
「え?でもどうやって?」
「そりゃあもちろん♪フィリオラがドラゴン化して背中に乗せ」
フィリオラの尾による一撃がヨスミの頭にクリーンヒットし、地面へとめり込んだ。
「はあ。ほら、いくわよ。」
「・・・。」
フィリオラはヨスミの足を持つと、背中に両翼を宿し、そのまま一気に中心地の方へ向けて飛んでいった。
大地は大きくひび割れ、崩落し、森は荒れ、炎上していた。
これほどの威力とはな。
手間はかかるけど、広範囲攻撃には十分向いてるね。
「ほら、ヨスミ。もうすぐで付くわよ。」
「頭に血が上りそうだよ・・・。」
そう言い残し、ヨスミは少し先に視界に映った中心地の開けた方へと”移動”した。
その球体の中心地に見える虎のような何か。
そしてその上に浮かぶローブ姿の人物。
「して、あんたがこの騒動を起こした元凶で間違いないかな?」
「・・・・・・。」
「だんまりか。」
「・・・・・・邪魔を、しないで。」
てっきり喋らないものだと思っていたが・・・。
声がブレて聞こえるから、性別の判別がつかない。
判断材料が全然足りないからなんとも言えないが、あの言葉を聞く限り、何かしらの目的があってこの騒動を、異変を起こしているのだとはっきり理解できた。
「私の、邪魔は・・・させない・・・!!」