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わたくしはただ、走り去っていく姿を見送る事しかできませんですわ


「<ライトニングブラスト>!!」

「<ウォーターストーム>!」


ユリアは天より雷雲を生み出し、その雷雲にジェシカが操る暴風雨を合わせる。

雷雲と暴風雨が混ざり、それは巨大な竜巻が地上に根を下ろした。


「「<ディザスタートルネード>!!」」


いつの間にか完成させていた合体技を見せつけ、野盗たちの目の前には雷が縦横無尽に走り回る巨大な竜巻が迫り、次々に野盗や野犬が吸い込まれていく。


周囲を次々と吸い込みながら地形を破壊しつつ、ランダムな軌道ではあるものの敵陣のど真ん中に向かって進軍していく。


「な、なんてもんぶっぱなしやがったんだよあのガキどもああああああああああああ!!」

「たかが煽っただけでここまで仕返しするか普通あああああああああああああああああ!!」

「ちっぱいだのちびっこだの言っただけじゃねえかあああああああああああああああああ!!」

「わうううううううううううううううううううん!?」


野盗がアジトにしていた廃墟と化した砦跡地は2人が放った<災厄の竜巻>に呑まれ、崩壊していき、後に残されたのは抉れた大地という見るも無残な姿だった。






事が起こったのは数時間前、<ヴェリアドラ火山>のトンネルを抜けた先、あと1日ほどで目的地である<メナストフ港町>に着くというところで脇道から突如、野盗たちが姿を現して馬車を無理やり停止させ、少し離れた位置にある砦跡地から続々と野犬を引き攣れた野盗と化した獣人たちが姿を現した。


突然止まった馬車に中に乗っていたレイラたちは異変を感じ、小窓を開けてそっとハルネに声を掛ける。


「ハルネ、急に止まって一体どうしたんですの?」

「野党です。何十匹かの野犬も引き連れております。数は50人以上・・・かなりの規模かと。」


と、突然ハルネの真横に小斧が飛んできて馬車の屋根に突き刺さる。


「おうおう、そこの人間の女ぁ!なあに、ひそひそと話してやがる!」

「さっさと中にいるお仲間さんも全員出てきた方がいいぞぉ?」


次々と槍や弓を構えた野盗らが姿を現し、その矢先は自身らの頭に狙いを定めていることが分かった。

レイラは大きくため息を吐いた後、ディアに防御魔法を掛けると扉を開けて馬車の外に出てきた。


レイラを見て、”ヒュ~”と茶化すような言葉が野盗らの方から飛んできた。


その後、ユリアが出てきた後、ユリアの手を繋いでジェシカが出てきたとき、

「うっわ、なんだあのガキ・・・!?」

と化け物を見るような目線を向けてくる。


その言葉に思わず怯みそうになるが、ユリアがより強く手を握ってくれたことでなんとか心を乱すことはなかった。


「あのガキ、俺らで楽しもうにも・・・なんだあの鱗?あんな化け物抱く気すら起きねえよ!」

「なんならバラバラにして闇市にでも売っちまった方がいいんじゃねえですかい?」

「それか気になる部分は全部剥がしちまえば気になる部分もなくなるし、そこさえ目ぇ瞑れば楽しめっだろ?」

「あのクズどもぉ・・・!!」


あまりにも下品な会話に思わず切れそうになっているユリアをジェシカは必死に収めようとしていた。

その後、ミミアンがいつもとは違い、物静かな感じで馬車から降りてくると周囲の野盗たちは歓喜の声を上げるが、普段のミミアンからは見れない強烈な眼光を飛ばした瞬間、騒いでいた野盗らは一瞬にして押し黙った。


「てめぇらの馬車と荷物はぜぇんぶ俺たちがもらう!」

「抵抗はよした方がいいぜぇ?この数相手に敵うと思ってんのか?」

「あら、無抵抗で馬車と荷物はお譲りするので、わたくしたちは見逃していただけませんこと?」

「見逃すぅ?ぎゃーっははは!!なーにを言ってやがる!お前らも俺たちにとって大事な”荷物”なの!」

「商品価値を下げたくねえからよぉ、あまり暴れずにいてくれるならそれなりに良い待遇を約束するぞお?まあ、お前たちも気持ちよくなれるかどうかは知らんがなあ!」

「まあそこのガキどもは初めての快楽で病みつきになっちまうかもしれんぞ??」

「あのちっぱい共に快楽なんてもん、楽しめると思ってんのか?」

「あー、ガキどものちっぱいで楽しめる奴ぁ雄じゃねえよ!雄なら・・・うっひょお・・・あの女ぐらいの大きさでねぇとなあ!ちっぱいなんざ食うに値しねえカスもどーぜんだ!」


この中で胸のサイズが大きい部類のハルネとフィリオラを嫌らしい愛で見つめながら野盗らは一斉に笑い出す。


明らかに話が通じない事に、本日二度目の深いため息がレイラの口から吐き出された。


「やれやれ、本当に下品な御方たちだ。」

「ぎゃーっははは・・・は・・・は?」


突然背後から現れたユトシスはリーダーらしき人物の心臓を剣で貫いていた。


「いつの、ま・・・に・・・」

「て、てめぇえ!!がはっ!?」


剣を抜きざまに、流れる様に獣人の首を切り落としながら血を払い、そっと鞘に納める。

その動き一つ一つに貴族としての気品らしさが込められており、一切の無駄な動きはなく、それら全てが一つの所作法であった。


「これはこれは、ご挨拶が申し遅れました。私はダーウィンヘルド皇国の第一皇子であるユトシス・ヴァーラ・ダーウィンヘルド。今よりお前らにはかの麗しきお嬢様らを侮辱した罪、死を持って償っていただく。」


高貴なる気品溢れる華麗な動作で野盗らに挨拶をすると、上空から光の矢が突然降り注ぎ、次々と弓と矢を構えていた野盗らの頭と心臓を明確に貫いていく。


「ええい!犬どもを放て!商品価値などどうでもいい!殺して内蔵」


と最後まで叫ぶこともなく、野盗の首はレイラの放った<神速・斬>によって切り落とされた。


「レイラ嬢、ここは私に任せて馬車の中へ。この先はディア様にとって教育的に悪影響を及ぼす可能性があります。」

「・・・なら、ここは任せるわ。ありがとうですの、ユトシス皇子殿下。」

「もちろんです。レディを守るはいつだって紳士の役目ですから。」


レイラはディアネスの目を隠しながら馬車の中へと戻っていく。


「ミミアン、ここはユトシス皇子に任せて私たちも・・・」

「ガルルルルル・・・!!」


ミミアンの様子が明らかにおかしい。


どうやら野盗らが仲間たちを下品に貶していたことが気に喰わなかったらしく、特にジェシカの事を化け物打のなんだのと口に出してからは彼女から溢れる殺気の量は倍に膨れ上がっていた。


そんな彼女を見て、フィリオラはすでに手遅れであることを悟った。


「あー・・・。ほーらミミアン、いってこーい!」

「ヴァウ、ヴァウ!!」


殺意満々なミミアンは、フィリオラの号令を受けて獣走行で一気に駆け出すと野盗らのど真ん中に単騎で突っ込むと同時に野盗らから次々に悲鳴が上がっていく。


そんなミミアンの様子を、剣で野盗の首を華麗に切り落としながら見守っていたユトシス。


「あの方がジェシカを思って怒るなら、私は・・・。」


そういってユリアの方を見る。

彼女らも馬車の中に戻らず、ジェシカと一緒に何やら魔力を練り上げている様子が見れる。


その時、ふとユリアと目線が合ってしまった。


ユトシスはそれを優しい笑顔とを向け、剣先に差した野党の生首を差し出しながら反応すると、ユリアは咄嗟に顔を赤らめて魔力を練ることに集中し始める。


そんな彼女を見てつい笑ってしまったユトシスは剣先に差していた生首を一瞬に塵へと変える。


「・・・はあ、本当にユリアは可愛らしい。そんな彼女を貶したお前たちは、死よりも恐ろしいモノがあると教えてやろう・・・。死こそが自らを救済するものだと思うほどにな・・・!!」


ユトシスは剣を軽く振ると、一瞬にして広範囲の野盗らの首が次々と消し飛んでいく。


一体どんな原理でそのような芸当を成しているのか、野盗らには理解できず、ただただ恐怖だけが心を支配し、逃げ出そうとするがその時にはすでに足は切り落とされ、這いつくばって逃げようにも、今度は腕が切り落とされている。


どうにかしてもがきながら逃げ出そうとするも、徐々に胴体が切り刻まれていき、絶命していく。


そんな野盗の姿を見せられ、恐怖に駆られた者らから逃げ出そうとするも、次に目にしたのはひとりでに逃げる自分の体だった。


頭を失った体は一定距離走った後、虚しく力尽きてその場に膝から崩れ落ちて死んでいった。


「行くよ、ジェシカ・・・!あいつらに私たちのすごさを見せつけるよ・・・!」

「はい、ユリアお姉様・・・!」


そして小さな2人の魔女が唱えた魔法は、野盗らにとって”災厄”となってこの地に君臨することになった。






あれから数時間が経ち、生き残った野盗らは完膚なきまでにボッコボコに打ちのめされ、両手両足を縄で縛られていた。


そこに落ち着きを取り戻した【イカれた狂k


「あん?」


・・・ミミアンはその内の一人に近づくとそっとしゃがみ込み、そいつの目をじっと覗き込む。


「ヒッ・・・!?」

「あんたらさ、どこの野盗グループなん?こんな大規模な野盗団なんて聞いたことがないし。」

「お、俺らはその・・・う、噂を聞いたんスよ・・・。」

「ああ・・・。今、<メナストフ港町>は襲撃し放題だって・・・。だから各地に居た奴らが集まってきて・・・港町を一気に襲撃し、支配しちまおうって・・・」


そう話す野盗、ガタガタと震わせながら決して目を逸らさずに返事を返す。

どうやら嘘をついている様子はないようだ。


「あの町にはうちのパパ・・・ジャステス公爵とその兵がいるはずだけど?」

「ええ、知ってるけど、でもそのジャステス公爵って奴は酷い怪我を負って動けないって話・・・ひいぃぃい!?!?!」


ジャステス公爵の身に起きた出来事。

この野盗は確かに、ジャステス公爵が大きな傷を負って動けない状態だと言っていた。


だがそんな情報も一切知らないし、もしそうだったとしてもそういった文面が綴られた手紙を送って状況を伝えてくるはず。


・・・いや、そもそも<メナストフ港町>からの情報は一切ない。


「・・・そんな話、うちに届いていない。そんなの嘘・・・!」

「う、嘘なんかじゃねえよ・・・!だって、襲撃の成功率を上げるために<メナストフ港町>を孤立させようと、商団とか手紙を届ける配達人とか片っ端から襲ってその荷物を強奪・・・」


と最後まで言い切る前にミミアンの黒曜爪によって引き裂かれ、死を迎えた。

急いで奴らが強奪したであろう物資の中から手紙を探そうとするが、すでにユリアたちの放った<災厄の竜巻>によって全てが消し飛んでしまっていた。


ミミアンは胸騒ぎを感じ、そこへ様子がおかしいと感じたレイラがディアネスを抱いたままやってきた。


「ミミアン、どうしたんですの?突然捕虜にした野盗を殺すなんて・・・」

「パパが危険な状態だって・・・!」

「・・・どういうことですの。そういった情報ならすぐに・・・、まさか。」


レイラは最後まで言い切らず、状況を察してしまった。

そしてミミアンが崩れ落ちている跡地を見て全てを理解し、ハルネの元へ走っていくと何かを受け取ってからミミアンの元へと帰ってきた。


ミミアンへ先ほどハルネから受け取った何かを差し出す。


「こ、これは・・・?」

「スタミナ回復ポーションですわ。これを飲めば半日近くはぶっ続けて全力疾走できるほどの代物ですの。ミミアン、今すぐあなただけでも<メナストフ港町>へ向かうんですの!」

「え・・・?」

「わたくしたちは後からすぐに行きますから、今はあなただけでも!!」


レイラの焦りが混じった怒鳴り声に我に返り、ミミアンは差し出されたポーションをグイっと飲み干すと、体中に湧き上がる活力を感じ始める。


「・・・レイラ、ありがとう!すぐに来てよね!」

「もちろんですわ。急いで!さあ、早く!!」


その掛け声と同時にミミアンは全力で駆け出す。


陽は落ちかけており、もうすぐで夕暮れ時となる。

そしてすぐに夜が訪れ、周囲には暗闇が支配する世界に変わる事だろう。


魔物たちが活発化する時間帯であり、1人で行動するととても危険な時間帯であることは確かだ。

だが、そんなの些細な問題に過ぎなかった。


今は一刻も早く、<メナストフ港町>へ・・・。


「パパ・・・、パパ・・・!!お願い、無事でいて・・・!」


ミミアンはただそう願いながら、夜の世界に姿を消した―――――。



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