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いつまでも帰ってこない迷子の公爵様をお迎えに行くのですわ


暗闇に支配されている部屋、レイラは窓を開けると月光の光が差し込み、部屋の中は仄かに明るく照らされる。


「・・・ただいまですわ、あなた。」


お風呂を終えて出てきたレイラは、濡れたままネグリジュを付けているのか副は肌に密着し、胸の乳輪が微かに透けて見えている。


妖艶な雰囲気を漂わせるも、それを見せたい相手は未だに眠り姫、改め眠り王子であるが故にレイラの心は満たされぬままだった。


窓辺から裸足で静かに歩きながら、ヨスミが眠るベッドへとやってきた。

その傍ではハクアが彼を守るように体を丸めて眠っている。


誰かの気配を感じて目を覚ましたハクアは、レイラと目線が合うと大きく欠伸をして体を起こし、ヒョイっとベッドから降りると尻尾をディアネスが眠るベッドに伸ばし、静かに眠ったままの彼女を持ち上げ、開け放たれた窓から共にベランダへと出ていった。


これはもはや日課のようなものである。

ハクアはレイラの涙が誰にもバレない様に部屋全体に防音と結界魔法を掛けるとそのまま屋根に上り、月夜を眺めながらディアネスと共に眠りに付く。


【完璧な淑女】たるもの、人前で弱さを見せるべからず。常に毅然とした態度で余裕を見せ、己を優雅に見せるべし。


そのため、レイラの弱さを知る者はハクアとハルネ、そして眠り王子の2人と1体だけである。


レイラはヨスミに掛けられた布団を捲り、中に潜り込むとそのままヨスミの腕に抱き着きながら彼の横顔を眺める。


そしてレイラはいつものようにヨスミの手に自分の指を絡めながら胸に抱き寄せ、今回の旅で起きたことをそっと語る。


時には嬉しそうに、時には嫌そうに、楽しそうに、悲しそうに、喜びながら、泣きながら。


そうしていると部屋に差し込んでいた月光はいつしか朝日に変わっており、レイラはまた今日も眠れない夜を過ごし、準備のためにベッドから起き上がろうとする。


だがヨスミと繋ぐ手がレイラを離したくないと言わんばかりに手が離れてくれない。

レイラは堪らず嬉しくなり、再度ベッドに横になり、今度は何も話さずただじっと手のぬくもりを体全体で感じていた。






「あら、ユリア様。それにジェシカ様も。」


ユリアとジェシカは最近2人で行動するようになっているようで、常に一緒だった。

まるで仲の良い本当の姉妹のように、2人の中には確かな絆が結ばれているのだろう。


「ねえ、レイラお姉様は?もうお昼になるけど・・・」

「やっぱりお婆様は今日も・・・?」

「・・・はい。」


あの日帰ってきてから、レイラはヨスミの部屋に閉じこもるようになってしまった。

部屋の扉を開けようにも、ハクアの張った結界のせいで扉を開けることができない。


一度、ハクアに結界を開けるようお願いしたことがあったが、

「今はだめなの~。」

とだけいって、結界を解こうとはしなかった。


ただもし何かあったときのために、ハルネは一日中ドアの前で待機するようになった。

幸い、ご飯の際には顔をひょこっと出してハルネにお願いするようになったので、餓死する心配はなくなった。


それから1週間が過ぎた頃、何時まで経っても帰ってこないジャステス公爵を心配したユティス公爵夫人が居ても経っても居られなくなり、屋敷を出て港町へ向かう勢いだったため、代わりにレイラたちがジャステス公爵を迎えに行くことにした。


「それじゃぁ~、あの人を御願いねぇ~。」

「はーい、ママ。パパのことは任せてよ!」


そういって、ミミアンはユティス公爵夫人とハグを交わし、レイラたちの元へと向かう。

今回、ただ迎えにいくということだけなので気分転換にと、ディアネスも連れていくことにした。


「あぅ~!!」

「ディアネス様、とても嬉しそうですね。よほどお母様と旅が出来るのが嬉しいような。」

「そうですわね・・・。今までは危険が伴うものばかりだったからいつも留守番させて寂しい思いをさせてしまっていたんですの・・・。ほら、ディア。わたくしたちと一緒にい~っぱい楽しみましょう!」

「あいー!ママ、ありあとー!」

「あ~ん、可愛いですわ!愛しいですわぁ!」


そんなやり取りを眺めていたユリアがそっと隣に居るユトシスへ耳打ちする。


「今回、私たちも付いてきちゃったけど、いいのかな?」

「問題ないでしょう。今回の旅は未だに帰ってこないジャステス公爵をお迎えに向かうだけのものです。それに道中はメイド長のラナフォートの姉であられるルナフォートが傍に居りますから。」

「確かルナフォート様って、【百獣の王牙】なんでしょ!?わぁ~、すごいです~・・・!」


ジェシカは目を輝かせながら窓の外、後ろの方でミミアンたちが乗る馬車を操るルナフォートを憧れの目で見る。

その視線に気づいたのか、ルナフォートはそっと手を振って対応してくれた。


それを受け、きゃー!と歓声を上げるジェシカに思わず苦笑するユリアとユトシス。


今回の旅は、レイラとディアネスにハルネ、フィリオラとミミアン、ユリアとジェシカ、ユトシスにルナフォートの9人メンバーだった。


本当はベヒモスメナスの様子が見たいとリヴィアメリアも行こうとしていたんだが、出発する当日に体調を崩してしまったので後からユティス公爵夫人と共に行くことになった。


馬車は2つ。

ハルネが操縦する馬車にはレイラとディアネス、ユリアとジェシカ、そしてユトシスの5名が乗っており、その後ろに続くルナフォートが操る馬車にはミミアンとフィリオラの2名だけが座っていた。


あれからジェシカはフォートリア公爵家の方々、そしてユリアとユトシスの協力もあって外での知識もある程度学んできたおかげで、以前の様に片っ端から質問攻めするようなことはなくなった。


「今回はどれぐらいで到着するんですの?」

「このペースでいけば・・・大体3~4日ほどで到着するかと。」

「そう、ならのんびりできる時間はありますわね。」

「明日辺りにはレイラお姉様たちが戦った【炎を喰らう者(エヴラドニグス)】っていうドラゴンが棲んでいた<ヴェリアドラ火山>が見えてくるのよね・・・。そのドラゴンって、強かったの?」

「そうですわね・・・。」

「あぅ?」


何か考え込むように目を伏せるレイラを見て、ディアネスは不安そうにレイラの頬に手を当てる。


「たいよーう”?」

「あら、ごめんなさいですわ。わたくしなら大丈夫。エヴラドニグスは確かに強かったですわね。ただ、その時に取ったヨスミ様の行動の方が印象強くて・・・」

「・・・まさか、ヨスミお兄様ったらエヴラドニグスを懐柔しようとでもしたの?」

「ええ、あの人らしいでしょ?」

「お爺様・・・本当に何者なんですか・・・!?」

「そうね。野営するまでその時の話でも致しましょうか。あの人はね、エヴラドニグスと対峙した時、開幕一番に”僕と友達になってくれー!”って叫んだのですわ。それがもう本当にあの人らしくって・・・」

「・・・さすがヨスミお兄様。」

「あの人らしいですね・・・。」

「本当にお爺様って何者なのぉ・・・!?」


レイラたちの乗る馬車は何やら盛り上がっているようで、後ろに続く馬車に乗ったミミアンたちにもその楽しさが伝わってくる。


「何やら楽しそうねー、あっち。」

「なんかエヴラドニグスについて話してるみたい?ねね、リオラっちも居たんでしょ?その時の話を聞かせてよ~」

「あ~・・・あの子ね。正直あの子と戦っていた時よりも、あの子に対して全力で触れ合おうとしたヨスミの印象しかないわよ?」

「・・・ヨスミって人、あの誰しもが恐怖に震えあがるエヴラドニグス相手に本当に何してんの!?」

「そうよね?その反応が普通よね??は~、よかったわ。あの時の私の反応は間違ってなかったことに安心した。」


本気で安堵しているフィリオラを見て、ミミアンの中でヨスミという人物像がどんどんおかしくなっていく。


「まあ・・・同じドラゴンである私からすると、すごく嬉しい気持ちが高いわ。何の偏見も持たず、ただ純粋に私たちを愛してくれて、信じてくれて、味方になってくれるあの人の存在がどれほど尊いか。」

「絶対的な味方ほどありがたい存在はない。確かにうちもそう思う。思うよ?でも限度ってもんがあると思うんだよ・・・」

「・・・それはそうね。」

「ねえ、リオラっちから見てヨスミって人はどんな人なの?」

「私から見て?」


そういって少し考えこむ様子を見せるフィリオラ。


「良かったらヨスミって人と初めて出会ってから今までの事、教えてよ。」


そう言われ、フィリオラは昔を懐かしむように笑みが零れ、今までの事を思い返しながら一つ一つ離していく。


「そうね。目的地まではまだ先だし、暇つぶしがてらにでも話そうかしらね。まあ、この話を聞いてからヨスミが目を覚ました時に絶対偏見な目で見ることになるわよ?」

「・・・なるべく偏見のない目で見る様にするっ」

「ふふっ、ヨスミは本当に良い人だからね。初めて会ったのは私がいつものようにヴェルウッドの森を巡回していた時ね。あの日、冒険者たちが2組ほどやってきて、盗賊団討伐の依頼と、ゴブリン退治の依頼のために来ていたの。だから念のために私が空から偵察していたんだけど・・・・・・。」


そしてフィリオラは野営のために停止するまで、ミミアンにこれまでの事をまるで本にある物語を詠うように語る。


美しい声で語るフィリオラの語り部に、ミミアンはとても心地よい気持ちに浸っていた。

そして気が付けば陽は傾き、空は茜色に染まっていた。


馬車は停止し、その近くで大きな焚火を起こし、それぞれ寝床の準備をする。

ユトシスは少し離れた所にテントを張って、自身の寝床を用意する。


ハルネとフィリオラは近くに流れる川へ水を汲みに行き、ルナフォートは狩りへ、ユトシスはユリアとジェシカ2人と共に夕食の準備をしつつ、ミミアンは自身の嗅覚を持って馬車の上に登って周囲の警戒、レイラは馬車の中でディアネスをあやしていた。


いつものようにマジックバックから食卓用の椅子とテーブルを出し、調理された夕食がずらりと並ぶ。


そして皆は夕食の席に着き、それぞれ談笑しながら食事の席に着いた―――――。



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