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ワオキズの村にわたくしたちは戻ってきたのですわ


その後、レイラたちは荷台に乗せられている木箱へ隠れるとガヴェルド王子らと軍の兵士たちの目を盗みながら、王都タイレンペラーを出ることにした。


ルナフォートは一角牛に荷台を引かせながら、宿屋から出て行くとすぐに動きが止まる。

どうやら兵士らに止められて話を聞いているようだ。


するとそこに聞き覚えのある声があった。

彼女とルナフォートは何かを話していたが向こうはどうやらお怒りの様子だったのか、声を荒げていた。


「・・・この声はグレース様ですね。ガヴェルド王子と共に王都タイレンペラー奪還のために戦ったそうです。今は結界の見回りをしているそうですよ。」


そう説明するハルネ。

どうやら町の情報収集する際に、グレースの事も色々と探ってくれていたそうだ。


グレースというのは雪猫という種類の獣人で以前、ムルンコールから脱した後、獣帝国の本島へ向かう際に海賊らに追われていた大商人の娘で、最初は【血濡れた狂牙】なんて異名で恐れられていたガヴェルド王子との婚約から逃げようとしていた。


だが本島でガヴェルド王子と直に会い、そこで彼に纏わりつく黒い噂は全て偽りであったことが判明し、自身もまたその噂で彼の事を腫物を見るような目で見ていたことを悔い、また過去に一度ガヴェルド王子と出会っていたことを思い出し、彼との婚約を受け入れることにした。


それからはずっと行動を共にし、どんな時も傍で彼の事を渾身的に支え続けているそうだ。


「そう。」


興味なしといった感じに、レイラは簡単に受け流す。

そもそもガヴェルド王子とグレース嬢に対して、レイラとハルネ、フィリオラの3人はあまり良いイメージを持っていない。


というのも、ガヴェルド王子とグレース嬢の2人とは喧嘩別れのような感じでそのまま別れたのだ。

ただヨスミはその時気絶していたので、その2人には悪いイメージは持っていないが、だからといって良いイメージも持っていない。


所謂無関心という奴だ。


「グレース嬢となんかあった?」


明らかに不満たっぷりで受け流したレイラの返答に心配になり、ミミアンは声を掛ける。


「別に。ただ彼女らに関してはもう関わり合いたくないというだけですわ。」

「絶対何かあったじゃんそれ・・・。」

「ミミアンお嬢様、彼女らは私たちとの相性は悪かった、ただそれだけです。」

「本当に何があったの・・・!?」


なんて話している間に、荷台がガサゴソ漁られるような物音がし始める。

どうやら荷台に誰か隠れていないか確認しているようだ。


明らかに人が入れそうもない木箱には目もくれず、周囲に一緒に積まれてあった大樽の蓋を開けて、中を確認していく。


「ほら~、私の言った通りでしょ~?私はただ~、村で取れた特産品を運ぶだけよ~。荷台に積んだ荷物に~、隠れてる人なんて誰もいませんわ~」

「・・・そうやな。まだゲセドラ王子が率いとった残党兵がこういった荷台に隠れて逃げようしとる者らがいてな。それで荷物を確認するようにしとるんよ・・・、堪忍な。」


というグレースの申し訳なさそうな声がはっきりと聞こえた。

だが実際には残党兵ではなく、レイラたちが木箱の中に隠れている。


グレース嬢相手に嘘で見事に乗り切るルナフォートの演技力に、レイラは多少賞賛の意を示す。

そして一角牛の鳴き声が上がると同時にまた荷台は動き出し、村へ向かって移動し始めた。


それからは何事も・・・、いや、途中で大きく揺れたり、何かギャーギャーと喚き散らす動物のような声が聞こえると同時に何かがぶちまけられる音が聞こえる。


どうやら魔物たちに襲撃されているようだが、ルナフォートの能力であっという間に対処されたようだ。


そういったことが何度か置きながら、無事ワオキズの村に戻ってきた。

木箱の蓋が開けられ、いつも通りの糸目な笑みを浮かべた彼女が顔を覗かせてくる。


「みんな~、出るときは~、気を付けて出てきてね~。」


ただそれだけ言ってその場を離れていった。

何のことかと首をかしげていたが、レイラがまず先に梯子を上って木箱から顔を出した時、全てを察した。


荷台には魔物の内臓や肉片、血飛沫らが満面なく飛び散っており、所々に砕けた骨の破片が荷台に突き刺さっていた。


また漂う臭いが非常に酷く、思わず胃の中の物がせり上がりそうなほどまでに疼く。

一角牛は酷く怯えている様子で、一体何が起きたのか想像するに難くないことから、先ほどのルナフォートの言葉の意味を理解した。


「・・・ミミアン、あなたは鼻をハンカチかスカーフを巻いた方がいいですわ。」

「え?どうし・・・うっ!?おえええぇぇぇぇぇ・・・!!」


どうやら木箱を開けたことで臭いが中に入り込んでいるようだ。

その臭いがミミアンの鼻をかすめ、その悪臭に思わず吐き出してしまった。


その後、ミミアンは自らの鼻と口を包み込むように急いでハンカチをスカーフのように巻くと、レイラの次に全力で梯子を上って木箱から出てきた。


「無理無理無理無理ぃ!!!」


そう叫びながら急いで荷台から離れると、ルナフォートがドアを開けたその横を一瞬にして通り過ぎて中に入っていった。


その臭いはミミアンほどではないが、リヴィアメリアにもかなり来るものがあるようで思わず鼻と口を両手で塞いでしまった。


「一体何を倒したらこんな臭いを漂わせることになるの・・・。」


いつまでも動こうとしない彼女を見てハルネは鎖蛇を出して巻き付けると、そのまま持ち上げて木箱の外に出していく。


外の惨状を見たリヴィアメリアは思わず悲鳴を上げてしまっていた。

上の方ではレイラが上がってきたリヴィアメリアを抱きあげ、地面へと下ろす。


するとリヴィアメリアもそのまま駆け出し、ルナフォートが扉を空けたまま待機している姿を見て、あの家か!と急いで走っていき、中に入っていった。


フィリオラとハルネは多少顔が歪んでいたが、エレオノーラは何事もなく梯子を上って木箱の外に出る。


「この臭い、それにこの肉片と血の色は・・・、おそらく【腐肉喰らいの魔犬(スカベンジャードッグ)】ですね。腐肉や死体を好んで食べる魔物なので、自身の血の色や体も腐った臭いを漂わせるようになっております。」

「【腐肉喰らいの魔犬】・・・それなら納得ですわ。冒険者らが相手にしたくない魔物のトップに入るほど嫌われていることで有名ですもの。」

「そうなのですね・・・。」


レイラとハルネは過去に何回か相手にしたことがあり、この悪臭の酷さは知っていたが何度も嗅ぎたくないほどの悪臭であることは確かだった。


フィリオラは初めて嗅いだのか、その顔の歪みは更に一層ひどくなっている。

だがエレオノーラは何事もないかのように、リヴィアメリアが入っていった家へと向かって進んでいった。


「・・・まずは水浴びでこの臭いを落とすのが先ですわ。」

「それには同意です。」

「そうね・・・賛成だわ・・・。」


3人は鼻を抑えながら家の中へと入っていった。

その後、レイラたちは全員、水浴びに向かった事は言うまでもない・・・。






ワオキズの村から少し離れた位置に河が流れており、そこでレイラたちは水浴びをしていた。

あの戦いで負った傷痕はほとんど癒えており、火傷痕も完治しかかっていた。


「ぷっはー・・・。あ~、水浴びさいこ~・・・【腐喰らいの魔犬】とか最悪じゃん・・・」


水に体全体を沈め、顔だけを出しながら愚痴の様に話す。


「でもあの魔物って確か、腐肉や死体にしか興味がなかったはずよ。生きた生物を襲うようなことはしないはずなんだけど・・・。」

「多分、瘴気の臭いが染みついていたんでしょう。普通の人には体に染み込んだ臭いなんて洗っていても簡単に取れるようなものじゃないわ。聖なる祈りで清められたモノでしっかり浄化しないと取れないもの。後でフィリオラ様の<浄化の光炎>で浄化された方がいいかもね。」


そう言いながらくすりと笑うリヴィアメリア。

彼女は自由自在に河の中を泳ぎまわりながらエレオノーラと遊んでいる。


「その手段もあったわね。後で皆、<浄化の光炎>で焼いてあげるから安心して!」

「安心できる要素がひとっつもないんだけどっ!?」

「大丈夫よ、あの炎は熱くないですわ。・・・まあ、己の中に堕落した感情とかあったのならかなり苦しいみたいですの」

「うち、だめじゃんっ!?」

「自覚症状あったんですのね、あなた・・・。」


はあ・・・とため息をついた後、レイラは薬草を染み込ませた布で体を拭き終えると、服の傍に置いて立ち上がり、ゆっくりと水の中に入っていく。


足先から感じる心地よい冷たさ。

そのまま脹脛、太腿、腰、そして胸まで浸かると静かに体を水の中へと沈める。


水の中で足を曲げて両腕で抱くように小さく縮こまると目を瞑る。


脳裏に過っていくのはヨスミとの思い出。

妖精の女王が告げてくれた、「もうすぐで目を覚ます」という言葉を何度も繰り返し思い出しては思わず口がにやけてしまう。


どれほどこうして潜り続けていたのだろう。

どれほど時間が経っているのだろう。


周りの音が何も聞こえなくなり、次第と呼吸も苦しく感じ始める。


「ぷっはぁ・・・!」


水面から顔を出して新鮮な空気を肺に取り込む。

自然の中で作られた空気はとても澄んでおり、息をするだけでも心地よく感じられる。


「ちょっと、レイラ大丈夫?!」


そこへ心配そうにミミアンが声を掛けてきた。


「ふぅ・・・。ええ、問題ないですわ。」

「本当に?あんた、5分も潜っていたんだよ??」

「それぐらい、完璧な淑女たるもの出来て当然ですわ。」

「絶対おかしいって!レイラの目指す完璧な淑女の姿像!!絶対に人間じゃないってそれ!」


ミミアンは思わず突っ込んでしまうが、そんなのはお構いなしに優雅な笑みを向ける。

そんな2人のやり取りを見守っていたフィリオラはハルネへと声を掛けた。


「ねえ、ハルネ。度々お母様が口に出している【完璧な淑女】ってなんなの?」

「私にもわかりません。むしろ私も教えていただきたいですね。」

「ええ・・・・・・。」


ハルネも、レイラが目指す【完璧な淑女】はなんなのかは知り得ない情報だった。


「ただレイラお嬢様の母上であられるシャイネ公爵夫人がまさに【完璧な淑女】に近いと言われていたそうです。きっと、母の背を追いかける娘のようなものなんでしょう。」


そう呟き、レイラを温かく見つめるハルネの瞳にはそっと一筋の涙が頬を伝っていた。


「・・・それにしたって、明らかに人間やめてるのよね、その【完璧な淑女】って存在・・・。お母様は一体何を目指しているのかしら・・・。」


レイラとミミアンが楽しそうに話す姿を見て、フィリオラも釣られて笑みが浮かんだ。


「まっ、邪悪な存在になるわけじゃなさそうだし、別にいっか。お母様ぁー、私も混ぜてー!」


そう言いながらレイラたちに向かって水に飛び込むフィリオラ。

その瞬間、大きな波が起き、ハルネはそれに呑まれてずぶ濡れとなった―――――。



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