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これが最後の作戦ですわ


「お母様・・・!!」

「・・・ん、おはよう。」

「おはようじゃないわよ!」


なんとも呑気な返事に、心配しているフィリオラはつい声を荒げてしまった。

だがそんなのお構いなしにフィリオラの頬に手を添え、伝う涙を拭う。


ゆっくり体を起こし、辺りを見回す。

白い炎が周囲に焚かれ、燃え盛る失敗作らは酷くもがき苦しんでいる。


帝王の間の外では白い炎を怖がって近寄ろうともせず、ただじっとこちらの睨んでいた。

フィリオラに現在の状況と、ゲセドラの死体に関しての進展はどうだったのか問うてみる。


「それが、ゲセドラ王子の死体はなかったのよ・・・。ただ、すごい量の血痕がどこかに伸びてて、跡を辿って言ったら小さな洞穴のような入口の中に続いてたわ。そんで中に入ってみたらそこには古代遺跡の跡地が残ってて、その一画にあの白いゴーレムが配置されていた後が合ったわ。どうやって起動させたのかはわからないけど、あの白いゴーレムを起動させてここまで来たことだけは確か。」

「・・・そうですの。」


その時、どこからか声が聞こえる。



――ダシテ・・・


――ココカラ・・・



その声の方を見ると、そこには小型ゴーレムが小刻みに震えているのが見える。


「ねえ、フィーちゃん。この声は聞こえる?」

「・・・お母様、まさか聞こえているの?あの小さい奴らに閉じ込められた妖精たちの声が・・・。」

「・・・防ぐってそういう意味だったの。」


小型ゴーレムに攻撃命令が出ているはずだが、必死にその命令を拒否している。

一体どういった原理であの中に妖精たちが閉じ込められているのかはわからなかったが、少なくともフィリオラは知っていそうだ。


「あの子たちを助けたら、あの悪趣味な兵器について教えてくださいまし。」

「お母様、一体どこでそんな情報を。」

「いいですわね?」

「・・・うん。」

「よし、良い子ですわ。」


そういってフィリオラの頭を撫でた後、右目を閉じて意識を集中する。

全身を巡る、非常に体に馴染む魔力が右目に集まっていく。


王眼、翼の無い竜の背にまるで妖精の羽根が現れ、新たなる魔眼【幻想眼(タイタニア)】が開眼する。


その目で白いゴーレムの本体を見ると、突如動かなくなり、ガタガタと揺れ始めるとゆっくりと崩壊していく。


小型ゴーレムはレイラの方へと寄ってきて、フィリオラが一瞬警戒するがそれを制すると小型ゴーレムはレイラの周りをまわり出し、そして一つ一つにレイラが触れて行くと嬉しそうに飛び回り、今まで見せた青白いエネルギー刃ではなく、赤と黒、そして紫や白といった幻想的な色合いをしたエネルギー刃を出現させ、本体へ次々と突撃していく。


突然、小型ゴーレムたちの制御が聞かなくなった本体は成すすべなく、次々と突き刺さってきた小型ゴーレムのエネルギー刃にやられ、そのまま大きな爆発を起こして砕け散った。


本体へ突き刺さった小型ゴーレムも連鎖するかのように爆発していき、レイラの【幻想眼】には中から妖精たちの魂が天へと昇っていく様子が見られる。


ふと、その爆発の中から何かが地面へと落ちたのが見え、レイラはそれが何なのか確かめに向かう。

そして、それは今までずっと探していたゲセドラ王子殿下だった。


だが・・・


「なるほど、なんとか【竜狩りの自律兵器(ゴーレム)】を起動でき、命令をインプットしようとしたところで限界を迎え、倒れた衝撃で中途半端な命令を受けたこいつが暴れまわっていたわけね・・・。」


そう言いながら、フィリオラがやってきた。

だがそれでも幾つかの謎が残る。


ゲセドラ王子は一体どこで【竜狩りの自律兵器】の起動のやり方を知っていたのだろうか。

また彼は一体、何の命令をインプットしようとしていたのだろうか・・・。


先帝を倒し、民を虐殺し、竜王国に居たリヴィアメリアを攫い、その生き血を死体へ投与し、何かと合わせて生み出した【貪り歩く者】とは違う、歪な失敗作たち。


彼女の血と、一体何を掛け合わせて、何を作ろうとしていたのか・・・。


「わたくしたちが本当に知りたかった真実は、深淵の中に・・・ですわ。」

「本来、このゴーレムは古代の人間たちが生み出した叡智の結晶の1つよあの怪物とそれに侵された穢れた人間たちを倒すために作られたはずなのに・・・。あそこでもだえ苦しんでいる奴らはどう見ても、穢れた人間たちに近い存在よ。・・・もう、わけわからない事ばかり。」

「・・・今は考える事よりも、ミミアンたちを何とかしますわよ。」


そういってその場を後にし、ミミアンたちの方へと駆け出していく。

フィリオラはじっとゲセドラの方を睨み、その後レイラの後を追いかけていった。


酷い火傷痕がありつつも、3か月もあれば皮膚は元通りになるレベルだ。

まあ、それまではかなり苦しい期間が待ち受けていることは確かではあるが・・・、彼女のマゾヒストな部分にかけよう。


ルナフォートも、左半身に大きな火傷を負ってはいたものの、すでに自分で簡易的な治療を施していたようで、大怪我ではあるものの、未だにこちらを睨む失敗作らが入ってこれない様に入口の空間を膨張させて崩壊させていた。


ハルネとエレオノーラ、リヴィアメリアも軽い火傷痕があるぐらいで、大きな怪我は負っていなかったようだ。


そして・・・


「先帝陛下・・・。」


入口を塞ぎ終えたであろうルナフォートが眉間にしわを寄せ、必死に感情を抑えながら先帝の前までやってくると、深く頭を下げる。


今回の戦いで、先帝はミミアンを庇って焼死。

仲間たちにも火傷による被害が甚大であり、一度拠点に戻って態勢を整えるべきである。


レイラも先帝の前までやってくると、ルナフォートに習い、先帝に対してカーテシ―を決めた。


「・・・ありがとう、レイラ嬢。」

「いいえ、わたくしがあそこで油断なんてしなければきっと違う結果になっていたかもしれませんわ。」

「いいや、これぐらいで済んだんだ、レイラ嬢。レイラ嬢があそこで小型ゴーレムの数を一気に減らしてくれなければ、奴が放った攻撃は2倍以上の威力を出していたはず・・・。放たれた光に包まれたのは先帝陛下だけじゃなく、この場にいた全員が光に飲まれ、焼け死んでいたでしょう。だからレイラ嬢は謝るのではなく、誇るべきだ。・・・たとえ己が納得できなくても、ね。ありがとう、助けてくれて・・・。」


そういってルナフォートはレイラ嬢にも深く頭を下げる。

やり場のない気持ちがレイラの心に湧き上がり、ルナフォートはそんなレイラの方に手を置いて視線を合わせ、静かに頷くとミミアンの方へと向かい、優しく抱き上げる。


ハルネはエレオノーラとリヴィアメリアを鎖蛇で巻き付けて持ち上げ、レイラたちの元へとやってきた。


「レイラお嬢様、これからどう致しましょう・・・?」


すでに彼女らがやるべきことは終わったのだ。

白いゴーレムを倒し、ゲセドラ王子を倒した。


本来ならばこれで終わりでよかったはずなのだ。


だが問題は、ゲセドラ王子とゴーレムが生み出したあいつ等にある。

あの時、妖精の女王は奴らを”眷属”だと言っていた。


眷属ということは親玉がどこかにいるはず。

だが、その親玉というのはレイラが思っている中で、一番当てはめたくもない存在であることは確かだ。


そしてその眷属らの数はゆうに3桁を超えている。

先帝は、奴らにまともな攻撃は通じないといっていた。


だが妖精の女王の加護により、レイラは奴らに対して有効打となる力を手に入れた。

かといって今この状態で奴らを相手にするのは危険であることは確かだ。


下水道にいる奴らの存在もあり、いつ奴らが下水道の外に出て町へ繰り出すかわからない。

故に、レイラが出した結論は・・・


「フィーちゃん、この王城を【浄化の光炎(フィリオラバニッシュ)】で包むことは可能ですの?」

「ええ。少しばかり時間は掛かるけどね。」

「ルナフォート、あなたのその力があればこの王城を沈めることはできる?」

「問題ない。」

「ハルネ、あなたはエレオノーラとリヴィアメリア。そしてわたくしの大事な親友を連れて先に城から退避してくださいまし。」

「・・・かしこまりました。レイラお嬢様は?」

「わたくしは、奴らが外に出ないように王城の周りを結界で覆いますわ。」

「・・・つまり蒸し焼きってところか。」


ルナフォートが妙な例えを出してきたが、あながち間違いではない。

王城全体を薪代わりにし、浄化の光炎という炎で燃え上がらせ、そのまま崩壊させながら結界内に閉じ込めた逃げ場のない奴らを全て焼き尽くす。


「なら私がフィリオラ様のお隣で守っています・・・!」


鎖蛇に巻かれながら、リヴィアメリアは声を上げる。



「さっき、フィリオラ様はこの王城全体を【浄化の光炎】で包むのに時間が掛かるって言ってた。もしその時に襲われたりでもしたら危ない・・・。だからその間、私の技でフィリオラ様を守る結界を張り続けます。」

「ありがとうですわ、メリア様。それじゃあ、フィーちゃんのことを宜しくお願いしますですの。では、最後の作戦、開始ですわ!!」


そういって、各メンバーはレイラの指示通り、それぞれ別れて動き始めた。

リヴィアメリアを下ろし、空きが出来たので先帝の遺体を回収して、崩れた壁から外に出るとそのまま王城の外へ向かって全力で移動を開始した。


ルナフォートは王城を沈めるために下水道へ向かい、【空間拡張】によって地下を沈没させていく。


レイラも王城の間を出て、周囲に己の魔力で編み出した魔力障壁の魔法陣を張っていく。

これを6カ所、均等な感覚で魔法陣を敷かねばならない。


そしてフィリオラとリヴィアメリアの2人だけが残された。


「それじゃあ、よろしくね。メリアちゃん!」

「・・・はい!」


そうして、フィリオラは自身の魔力を一気に練り上げ、王城全体を包み込む巨大な魔法陣を編み出していく。


その間、ルナフォートが次々と下水道を沈没させているようで、所彼処から轟音と共に王城が陥没していく。


やがて王城の間にも振動が伝わってくるようになり、そのせいでせっかくルナフォートが塞いだ入口の瓦礫が崩れ、外で待機していた眷属たちが無理やり中に入ってこようともがき始めた。


「大いなる海よ、どうか私にかの者を守る盾を与えよ・・・!<青き竜の竜鱗(シー・ルド!)>」


自身を中心に、周囲に渦巻く水の障壁(バリア)が張られ、それと同時に入口が轟音と共に瓦礫が消し飛び、次々と眷属らが中になだれ込んでくる。


一部は延焼し続けている白い炎に焼かれてもだえ苦しんだりしていたがその物量は凄まじく、一部の奴らは自身が白い炎で燃えながらリヴィアメリアの張った障壁までたどり着くと、壊そうとして攻撃を仕掛けてくる。


ドンドンと攻撃され続けるもびくともせず、逆に渦巻く水の水圧に押し潰されるかのように細切れになったりしていた。


高密度に圧縮された水が渦巻くように蠢いているため、バリアと言ってはいるがその実態は触れた相手を切り刻む攻撃魔法でもあった。


次々と眷属から攻撃を防ぎつつ、反撃に奴らを切り刻んでいるが・・・


――ピキッ・・・


(うそ・・・?!)


その物量はあまりにも重く、少しずつではあるがリヴィアメリアの結界が押され始めていく。


(まだ・・・まだぁ・・・!!)


気を取り直して、更に自身の魔力を注ぎ込み、障壁維持に尽力を注ぐ。


――ピキッピキッ・・・


だがそれでも、障壁にヒビが入っていくのを止めることができない。


(後ちょっとなの・・・後、ちょっとなのに・・・!!まるで、私の障壁が腐っていくみたいにボロボロに・・・、だめ・・・この数相手だと・・・)


フィリオラの額にも冷や汗が流れていることがわかり、フィリオラも全力で魔力を練り上げているのだ。

ここで踏ん張らねば、自分を守って身を犠牲にしてくれたポートさんに・・・。


だが無情にも結界の一部に穴が開き、そこから眷属の腕が入り込むとリヴィアメリアへと延びる。


(そんな・・・!?)


リヴィアメリアはその手に捕まれ、バリアが解かれると思った次の瞬間、その腕はぴたりと止まり、そのまま何かに引っ張られるように引っ込んでいった。


(・・・え?)


それと同時に奴らに埋もれて結界の外の状況がわからなくなっていたが、何やら剣撃が振るわれる音が聞こえている。


外で、誰かが戦っている。


バリアに張り付いていた奴らの勢いも徐々に弱まっていく。

急いでバリアを張り直し、空いていた穴も修復する。


そして次第に張り付いていた一部の眷属たちが離れ、外で戦う何者かの元へと向かっていく。


「・・・包み、込んだ・・・!!!いくわよぉ・・・<浄化の光炎(フィリオラバニッシュ)>!!」


ついにフィリオラは王城全体を魔法陣が展開すると、轟音と共に天にも昇る光の炎の渦が王城を包み込んだ。


それに合わせる様にレイラの張った魔法障壁が展開していく。


「今のうちに、脱出するわよ・・・!お母様の張った障壁に私たちも閉じ込められる前に・・・!」

「はい!」


フィリオラは周囲に白桃色の火炎放射を放ち、張り付いていた眷属らは酷く怯え、延焼しながら離れていく。


そしてできた少しの隙間に、フィリオラはリヴィアメリアを抱いて抜け出すとそのまま彼女を抱えて王城の間の外へ飛びだし、翼を顕現させて空高く飛び上がる。


その時、リヴィアメリアは見えた。


「・・・さようならっス。」


ボロボロになった剣を握り、笑顔を向けるポートの姿を。

そしてリヴィアメリアは彼の存在に気付いたと同時に王城は炎の渦に飲まれ、レイラの張ったバリアが王城を包み込むと、大きな轟音と共に王城は崩壊していった―――――。

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