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誰だって、人の愛に飢えているのですわ


・・・あれ?

ここは一体、どこなのかしら・・・?


レイラは立ち上がり、周囲を見渡す。


何もない、ただの草原。

向こうには陽が傾いており、夕焼けが差し込み始める。


とりあえず、進んでみるのですわ。

ここでずっと立ち止まっていても仕方ありませんし・・・。


そう自分に言い聞かせ、レイラは何もない草原を歩いていく。

どれほど歩いていったのだろうか。


1分?10分?それとも1時間?

時間の感覚さえ麻痺してくるような、この不思議な空間にただただ戸惑っていた。


わたくしは先ほどまであの白くて大きなゴーレムや【貪り歩く者】?失敗作?のような奴らにも背後から襲われて・・・それで、ハルネや皆が抑えてて・・・あれ、でも白ゴーレムの本体が強烈な光線を・・・あ、ミミアン・・・・!!


どんどん記憶がフラッシュバックしていく。


こんなところに居る場合ではないですわ・・・!

早く、早くミミアンが無事かどうか・・・!



「あの子ならだいじょーぶ。」



ふと背後から声が聞こえ、振り向くがそこには見慣れぬ少女が立っていた。


黒い長髪に暗い茶色の瞳、背はレイラよりも多少低く、だが胸は小さ・・・


「ん???」


・・・素晴らしい価値のある胸を持っている。

妖精のような、可愛い刺繍の入ったワンピースを着ており、その独特の雰囲気からただモノではないと感じながらも、その笑顔はとてもかわいらしい。


突如、どこかに向けて威圧を向ける彼女に一瞬困惑するもまたいつものような天使の笑顔をレイラへ向ける。



「ねね、少し話さない?」


――ごめんなさい、わたくしは今そんなことをしている暇なんてありませんの・・・。


「それって、お友達たちが心配ってこと?」


――・・・ええ。わたくしの親友が目の前で大きな攻撃に晒されてしまって・・・。でも、彼女のお爺様が庇ってくれたおかげで死ぬことはなかったんですの。でも後ろで戦ってくれていた仲間たちも凄く危険な目に・・・


「それならだいじょーぶだよっ」



そう言いながら天使のような笑みを浮かべる。

一体何が彼女にそう言わせるのだろうか。


そもそもあの戦いを見ていたのだろうか?

一体どこで?そんな気配もしなかった。


だが、なぜだろうか。

少女に向けられる笑みを見ると、どうしてこんなにも心が満たされる気持ちになるのだろうか。



「それはね、よーせいさんたちがだいじょーぶだよって慰めてくれてるからなんだっ!」


――・・・よーせいさん?



妖精ってことかしら?

でも周囲にはそんな存在は感じられない。


だが少女は、何もない空間を見ては誰かと楽しそうに話をしている。



「うんっ!私のだいすきなお友だちなんだ!それよりもー!お姉ちゃんのことが知りたいな!」


――わたくし?わたくしは・・・そうですわね。レイラって言いますの。


「レイラお姉ちゃん!?そっか、あなたがレイラお姉ちゃん!」



名前を聞いた少女は今まで以上に嬉しそうに飛び跳ねていた。

そしてそのまま一気にレイラの所まで走ってくると彼女の手を優しく握る。


レイラの手の感触をしっかりと味わう様に触り、手の温度を感じる様に自分の頬にレイラの手を当てる。



「レイラお姉ちゃんって、すごくあったかいんだね~」


――そう?これでもわたくし、冷たい淑女だなんて異名があるんですのよ?


「えぇー?うっそだぁー!こんなに手があったかい人が冷たいだなんて違うもん!」


――・・・うふふ、ありがとうですわ。あなたの手こそ・・・あれ?



ふとここで気づく。

彼女から伝わってくる手の温度、感触、そういったものが一切ないということに。


まるで何もない、虚しさだけが感じられる少女の手に、ふと思い出したことがあった。


妖精の女王は自らの心が空虚であるが故、優しさを求めて妖精という種族を作った。

だが、女王は心の温かさを知らないが故に、妖精は誰かに悪戯をする。


誰かに悪戯をして、許してもらえることが心の温かさだと思った女王は、自ら作り出した妖精を通じることで誰かと触れ合うことができるが故に、心を求めて悪戯の規模が大きくなっていく。


子供を攫い、覚めぬ幸せの夢に誘ったり、大切な物を隠してしまったり。

そしてついには魂の半分を別の生物の物と取り換えてしまう妖精まで出てきてしまった。


もちろん、誰かに親切にする妖精も存在し、その子らは精霊という名で呼ばれるようになった。

だが女王の空虚を満たすような心の温かさに、未だ触れることはなかった・・・。


驚いていたことに気付いたのか、少女は困ったような、でも優しい笑みを浮かべる。



――あなた・・・


「えへへ。こうして誰かに触れるのは2回目・・・。やっぱり、あったかいなあ・・・。」


――2回目・・・?確かあなた様は誰かに触れることができないと・・・


「うん。前はね、そうだったの。でも、随分と昔に一人の女の子がね、ぎゅ~ってしてくれたんだ。どこから来たのかわからない子で、迷い込んだ感じの人間の女の子。すっごく絶望した顔で、見ていられなかったから、よーせいたちにお願いして悪戯をしてもらったの。」



絶望している相手に悪戯を仕掛ける妖精の怖さに、若干引いてしまった。

だがそんな様子は顔には一切出さず、静かに少女の話を聞き続ける。



「そしたらね、私たちの姿を見た途端、今までに見たことのない笑顔を向けてね、真っ先にこう言ってくれたの。 ”私と、お友達になろう!” って。びっくりしたよー。会ってすぐにそんなことを言う子は何人か見たことはあるけど、私たちの悪戯を受けてもずっと笑顔を向けてくれて、ぎゅ~っとよーせいちゃんを抱きしめてくれた子なんて初めてだったんだ。気が付いたら、よーせいちゃんたち全員とお友達になっちゃんたんだよ??」


――妖精全員とお友達、ですの・・・??



その時、ヨスミとの会話が脳裏に過る。

妖精をどこまでも愛し続けた妹の存在。



「でも最初はその子、私に会った時、すっごく怯えてたの。最初はあんなにも可愛い笑顔を向けてくれたのに。理由を聞いたらびっくり!本当なら妖精ちゃんたちや私に触れてはいけないって。私はすっごく汚れた体で、そんな資格はないって言うんだ。だから私ね、妖精さんに触るのにそんなのないよ!綺麗だよって言ったらボロボロと泣き始めてさらに驚いちゃった!そこからは本当、あっという間だったんだ。」


――汚れた、体・・・。



話を聞いてどんどん、ヨスミの妹である可能性が疑心から確信に変わった。



「確かその子の名前は、タツナガ・・・」


――アイナ。


「・・・あれ?その子を知ってるの?!」



名前を言った途端、目を輝かせる少女の反応を見て確信した。

彼女の死後、ここに迷い込んだのは恐らくヨスミの妹”アイナ”だろう。



――見たことはありませんわ。でも、名前とその子がわたくしの一番大事な人の妹だってことだけですの


「ならよかったね、私が今あなたの前に晒している姿がアイナちゃんだよっ!」



そう言いながらぐるりと回る。

その時、レイナは気づいてしまった。


汚れた体、最初は自分と同じような傷だらけの体なのかと思っていたが、少女が見せてくれたアイナの容姿は傷1つない綺麗な天使そのものだった。


そして汚れた体はとある言葉の比喩であることがわかった。

ヨスミがあんなにも怒りや憎しみに満ちた瞳を宿した原因も・・・。


どこまでも人間に対して非道になれる彼の片鱗の一部が垣間見えた気がした。



――アイナちゃんは?


「わかんないの。ある日突然、あの子は自分の体を私にくれて突然いなくなったの。妖精ちゃんを通じてずぅ~っと探し続けても見つからないの。でもある日、あの子の匂いがしたから妖精を向かわせてみたら、あの子と同じ匂いのする男の子がいてね。その内あの子に会える気がしてここからず~っと見てたんだ。私、あの子以外の人間ってこうして直接触れないと区別がつかないから、偶に見失ったりしてたんだけど、今はあの子のお兄ちゃんである "ヨスミ" って子の傍に一番近いレイラお姉ちゃんがわかるようになったから見失わずに済むんだよ!」


――あの、ヨスミのことをずっと見ていたのならあの人は・・・!!


「それもだいじょーぶ!暫く迷っていたみたいだったけど、妖精が正しい帰り道を教えてあげてるからもうすぐで帰ってくるよ!」



その言葉を聞いたレイラは思わず泣き崩れた。



「わわっ!な、なんで泣くの?!私、ひどいこと言っちゃったの?ごめんね?私、何が酷い事なのかまだわからないの!」


――戻って、くるんですのね・・・?あの人が・・・


「え?あ、そうだよ。人間の感覚で言えば・・・えーと、何日っていえばいいかな?多分30日ぐらいだと思う!随分のんびりと帰り道を教えているみたいだから。」



30日・・・、つまり後一か月ほど。

後、一か月ほどでヨスミ様が目を覚ます可能性がある・・・。


本当に、またあの人に・・・。



「・・・誰かを思う気持ちってすっごくあったかいんだね。アイナちゃんが私たちを思う気持ちも温かかったけど、お兄ちゃんを思う気持ちがすっごくあったかかったの。それでレイラお姉ちゃんもお兄ちゃんを思う気持ちが同じようにあったかく感じられる・・・。すっごく幸せ者だね、ヨスミ。」


――当たり前ですわ・・・。わたくしがこんなにも心動かされたんですもの。一緒に幸せにならなきゃダメですわ。


「・・・私もいつか会えるかな?」


――逆に連れてきますわよ。ここまでの道のりもなんとなく理解できましたし。


「え?うそ、道がわかるの?!」


――淑女たるもの、これぐらいできなくて完璧な淑女(パーフェクトレディ)とは呼べませんわ。


「最近の淑女?ってすごいんだね~・・・。でもまあいいや、レイラお姉ちゃんには今後死んでもらったらあの子に会うのが難しくなりそうだから、私から加護を上げるね。」


――え?わたくしに、ですの?


「うん。これを授けるのは今までの中で3人目。女王の加護なんて滅多にもらえるモノじゃないんだから、大事にしてよね!」チュッ



そういって少女はレイラの額に口づけをする。

その瞬間、レイラの体全身に巡る魔力の性質が一気に変わった感じが伝わる。



「あ、オーちゃんの目もある!それなら・・・!」チュッ



そういって右目にも口づけをすると、王眼の紋様に妖精の翼を模した模様が付け加えられた。



――これって・・・


「これでレイラお姉ちゃんはアイツの眷属たちにも攻撃が通用するようになったはずだよ!それにあの悪趣味な兵器の攻撃も防いでくれるはずだから!大事に使ってね。そして、死んだりなんかしちゃだめだよ?」



そういうと、周囲がどんどん真っ白に染まっていく。

時間が来たのだと分かり、レイラは彼女をそっと抱きしめた。


突然抱きしめられたことに吃驚しながらも少女はそれを受け入れ、レイラを優しく抱きしめる。



「・・・あったかいな。」


――今度はヨスミ様と一緒に、遊びに来ますね。そしてアイナちゃんも見つけて、3人で・・・


「・・・うんっ!」



その言葉を最後に、全てが真っ白に染まり、どこからか声が聞こえてくる。


「お母様・・・――――!」


あの子が呼んでいますわ・・・。

ああ、そんな悲しそうな声で呼ばないでくださいまし・・・。


「起きて、お母様・・・――――!!」


ほら、今起きますわ・・・。


その声に導かれ、レイラは重い瞼を開く。

そこには涙を流しながら必死に呼びかけるフィリオラの顔があった。


優しく彼女の頬を伝う涙を拭い、微笑みながら呟く。


「おはよう、フィーちゃん――――――。」



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