結局、詰が甘かったのはわたくしですわ
ミミアンが急いで先帝の元へ駆けつけようとするが、それを阻むように小型ゴーレムの光線が飛んでくるため、迂闊に近づくことができない。
「おじいちゃん!!」
「来るでない・・・!」
先帝はそのまま鎖を鞭のように振り下ろし、本体であるゴーレムへと振り下ろすが、4つの小型ゴーレムが4方向に並び、そのまま正方形のバリアのような物を張ると、鎖はそれに弾かれてしまう。
その後、すぐさま反撃とばかりに別の小型ゴーレムによる光線が飛んでくるが、右拳に巻き付けた鎖を解いて掴むとそのまま回転させて即席の盾を作り、光線を弾いていく。
「ぬんっ!!」
もう一度本体へ左腕の鎖を持って鞭のように繰り出すとまたもや4つの小型ゴーレムが4方向へと並ぶが、鎖の鞭は突如軌道を変えて左側、上下に並んだ2つの小型ゴーレムに飛んでいき、上の小型ゴーレムは横に薙ぎ払われ、そのまま下側の小型ゴーレムは真っ二つに叩き割られた。
全身に電流が走ると同時に爆発を起こして砕け散っていく。
そのまま右腕側の鎖をしならせ、本体へと振り下ろす。
2つではバリアを張れず、すぐさま別の2機の小型ゴーレムがバリアを張ろうと出てくるがまたもや鞭の軌道が変わり、右側の小型ゴーレムへと飛んでいき、先ほどと同じように2つを切り裂くと爆発し、粉々に砕け散る。
そのままの勢いで小型ゴーレムの数を減らしていこうとするが、小型ゴーレムらはすぐさま別の編隊を組み、左右に4つずつ別れると1機ごとに一本のエネルギー刃が出現し、まるで獣の爪の様のような動きをしながら、先帝を引き裂くようにエネルギー刃を振り下ろす。
それを受け止めようとしたが、エネルギー刃が鎖に触れた時、鎖の方がエネルギー刃に負けてしまっているのか、そのまま鎖ごと切り裂かれそうになり、すぐさま回避行動を取ってエネルギー刃による爪の斬撃を避けようとするも、先ほど受けた光線の傷にほんの少しだけ体が動かなかった。
そのため、回避行動が一瞬遅れ、胴体を深く引き裂かれ、血飛沫が宙を舞った。
「ぐぬぅ・・・!」
続けざまにもう一度、エネルギー刃の爪撃が繰り出されようとするが、
「だめぇえーーー!!!」
と叫びながらミミアンが飛び出し、黒曜爪の斬撃で空間を引き裂き、無意識に引き裂いた空間を爪に引っ掛けるとそれを小型ゴーレムらへ向けて放った。
ミミアンの攻撃に巻き込まれまいと、今度は咄嗟に体を捻って躱し、飛ばされた空間斬撃は小型ゴーレムらのエネルギー刃とぶつかり合うと思ったが、いとも簡単に小型ゴーレムらの方が切り刻まれ、爆発していく。
とても小さな空間斬撃ではあったが、小型ゴーレムを切り刻むにはちょうどいい大きさだった。
編隊が崩れ、爪を維持できなくなった小型ゴーレムらは本体の方に戻り、周囲を回る。
「・・・あ、れ。今、うち・・・さっきのって、パパの・・・?」
「ええ、ジャステス公爵様がやるように、切り裂いた空間を自由自在に扱うコツを掴んだのですわ」
「いやいや、あれは咄嗟にというか、完全に無意識でやったからわからないって!」
「でもできましたわよね?なら、同じことをするだけですわ!」
「ちょっとレイラ、偶然に出来た技を脳内ですぐさまやり方を確立させて自由自在に扱えるようになるあんたと一緒にしないでよ!」
「あら、そんなもんじゃありませんの?淑女なら偶然、ましてや奇跡が起きて成功できたら、それはもう自分の技の様に扱えるようになりますわ。」
「それはレイラだけだってーの!って、それよりもおじいちゃん!」
ミミアンは急いで先帝の元へ行く。
先帝は膝を突きながら、肩で息をしているほど大きく消耗しているようだ。
「ぐ、ぬう・・・。アヤツめ。」
「しっかりして、おじいちゃん。」
だがそこに追い打ちをかける様に背後から失敗作の大群がなだれ込んできた。
すぐさま、ハルネの鎖蛇による【自動迎撃】が発動し、8頭の鎖蛇の口から高密度に圧縮された魔力の光線が放たれ、次々に失敗作らを攻撃していく。
その光線に当たった失敗作らは徐々に溶けていき、その大群相手にその処理速度からすると圧倒的に間に合わないことがわかる。
徐々にハルネの【自動迎撃】が押され始め、処理しきれずにどんどん失敗作が押してきている。
そこにエレオノーラも自らブレスを吐いて手伝うも、それでも奴らの数の方が圧倒的である
「・・・ダメです。どうやら私とエレオノーラ様の攻撃は通じているようですが、1体を倒すのにかなり時間がかかっているため、このままでは押し切られてしまいます!」
「がぁああああ・・・げほっげほっ」
「エレちゃん!」
長くブレスを吐き続けられず、エレオノーラは炎を吐きながら激しく咳き込む。
よく見るとエレオノーラの喉が少しばかり赤く爛れている。
リヴィアメリアは急いでエレオノーラの元に駆け寄り、治癒魔法を掛ける。
レイラとルナフォートは小型ゴーレムらを相手に少しずつ撃破しているが、縦横無尽に不規則な軌道で動き、常に死角からエネルギー刃で切り裂こうとしてくるために一瞬の油断も出来ず、急いで小型ゴーレムらをなんとかして失敗作らの掩護に向かいたいが、攻撃が中々当たらない。
「くっ、ちょこまかと・・・!私の攻撃が当たらない・・・!」
「このままじゃいけないですわ・・・!もはや押し渋る必要はありませんことね・・・!」
そういうと【王眼】を発動させ、それと同時に<神速>を持って次々と小型ゴーレムの軌道の先を読んで黒妖刀による斬撃を正確に当てていく。
1秒も経たずに一瞬にして7割の小型ゴーレムらを破壊することに成功したが、右目がじんわりと痛み出す。
「さすがにあの数相手に【王眼】で先を見るのは気持ちが悪いですわ・・・。」
「レイラ嬢、大丈夫??」
「ええ、ですけどかなり厳しいですの・・・。」
【王眼】は対象が多ければ多いほど、自分に掛かる負担は多く、2桁を超える相手に対して【王眼】を発動させると目が痛み出し、そのまま使い続けると頭痛まで伴うようになる。
今ここで痛みによる戦力ダウンはなるべく避けたいところではあったが、失敗作らがなだれ込んできたことでそんなことも言っていられなくなった。
そのため、【王眼】を斬らざるを得ない状況ではあったが、おかげで小型ゴーレムの数は残り4機となり、大きな攻撃は仕掛けてこないだろうとレイラは思った。
それがいけなかったのかもしれない。
レイラは急いでハルネたちの掩護へ向かおうとして背を向けた直後、小型ゴーレムは本体の魔石の前方で円を描くように急速回転し始め、エネルギーの輪が形成されていく。
「まずい・・・!ミミアン様ぁ!先帝殿下ぁ!!」
「え・・・?」
異変に気付き、レイラが振り向いたがその時にはすでに白いゴーレムの攻撃がすでに発射される段階だった。
「なっ!?そんな、まさか・・・!!」
「2人とも逃げてぇー!」
ルナフォートが叫ぶと次の瞬間、赤く輝く魔石から巨大な光線が放たれ、それが小型ゴーレムの作り出したエネルギーの輪を通り、より一層巨大化し、轟音を立ててミミアンを包み込む。
一瞬だった。
「ミミアァアアアン!!!」
レイラは精一杯叫んだ。
だがその声は奴が放った巨大光線の轟音にかき消され、その巨大光線はミミアンを包み込んだ後、そのまま真っすぐ真上に持ち上げられ、天高く昇った光線は雲を切り裂き、空が割れる。
轟音が徐々に小さくなり、本体が放った巨大光線も収束していき、真っ白に染まっていた視界が徐々に戻ってくる。
「ぐ、う・・・うぐっ・・・ぁぁ・・・!!」
近くで呻き声を上げながら必死に這いつくばってどこかへ必死に移動しようとするルナフォートの姿が見え、先ほど光に飲まれたミミアンの事を思い出し、彼女の安否確認を取ろうと先ほどまでミミアンがいた方を見る。
「・・・あっ」
そこにはミミアンを庇う様に抱きしめたまま真っ黒に焦げた先帝の姿があった。
ミミアンもかなりの大やけどを負ってはいたが、目の前で真っ黒に焼死した先帝の姿から目が離れずにいる。
「ミミアン・・・!!」
レイラは声を上げてミミアンに呼びかけるが、巨大光線の熱気に当てられ、喉が火傷してしまっているのかうまく声が出せず、全身に中程度のやけどを負っているためにうまく動くことさえできずにいる。
幸い、その巨大光線の影響を大きく受けたのはレイラとミミアン、そして先帝の3人だけだった。
他の仲間たちは熱気に当てられ、軽いやけどを負う程度で済んでいる。
「おぃい、やん・・・?」
「・・・・。」
「いぁ・・・おいいちゃん・・・!」
上手く呂律が回っていないようで、おじいちゃんとうまく言えていない。
だが、それでもミミアンは必死に先帝へ話しかける。
「おぇあい・・・へんぃしえ・・・!」
「・・・ぁ・・・ぅ・・・あ・・・・」
「おちいやん・・・・!!」
先帝は涙を流しながら必死に自分へ呼びかけるミミアンの姿を見て、言葉にならない声を口から零し、優しく微笑みを向けたまま、先帝は動かなくなった。
その瞬間、ミミアンは悟る。
目の前でミミアンを庇い、先帝は死んだことを。
体を動かす度に激痛が走りながらも、ミミアンは目の前で自分を庇い、死んだ先帝の体をそっと抱きしめる。
「・・・ぁぁぁああ・・・!!!」
もはやミミアンは冷静を欠いてしまった。
先帝が庇ってくれたこともあり、自身の黒曜毛である程度防げたものの、大火傷を負った事に変わりはない。
そんな状態でミミアンは先帝を離して跳躍し、白いゴーレムへ距離を縮める。
小型ゴーレムらが瀕死のミミアンへ止めを刺そうとエネルギー刃を出して突っ込んでくる。
がそんなのお構いなしにと避けるそぶりすら見せない。
自滅覚悟で突っ込むミミアンを止めようと<神速>を繰り出そうとするが、その一瞬の硬直を狙って失敗作の群れがレイラを襲う。
(うそっ・・・!?)
と後ろの方を見ると、失敗作らに今にも噛み付かれそうなハルネたちの姿があった。
(なん、で・・・、そんな・・・)
今の体力と怪我の様子からして<神速>で動くことができるのは1回。
それも片方を助ければもう片方を助けるために動くための体力がないがため、助けられるのは片方だけである。
ミミアンを救うべきか、ハルネたちの方を助けるべきか・・・。
今、レイラは究極の2択を迫られようとした時、
「待たせてごめん、お母様!!」
突如、部屋全体にフィリオラの声が響き渡り、床全体が一瞬にして白い炎が上がる。
失敗作らは苦しむように呻きながら後退りしていき、小型ゴーレムから展開していたエネルギー刃が消えていた。
レイラは一瞬にして判断してミミアンの方へと<神速>で移動し、空中でミミアンを受け止めるとそのまま白いゴーレムを強く蹴って距離を離した。
<神速>が切れると同時にミミアンを抱きしめたまま地面へ倒れ込む。
直後、魔石ごと本体を貫くフィリオラの竜尾が見え、レイラはそのまま意識を失った―――――。