彼女の瞳に映るもの、ですわ
「なぜこんなところに・・・。」
なんて思っていると、白い球体の小型ゴーレムの群れが近づいてくる音が聞こえ、レイラたちは急いでその場から離れることにした。
隠れ拠点で見た王城の構図はすでに頭の中に叩き込んであるので、迷うことなくずいずいと進んでいく。
それはルナフォートよりも詳しいようにも感じられ、彼女も呆気に取られていた。
(あんな短い時間で、複雑な構造の王城内部を全部把握したってことなの・・・?)
(完璧な淑女として、これくらい朝飯前ですわ!)
(この人、直接脳内に・・・!?)
そんなやり取りをしながら、迷路のような廊下内を進んでいくと、突然鎖蛇が現れ、先を進むレイラを制止させる。
「レイラお嬢様、この先に奴らの反応があります。」
「やつら?あの小型ゴーレムですの?」
「・・・いいえ。地下の【貪り歩く者】です」
「な、なんでここに・・・もうここまで登ってきたの??」
ミミアンは地下での出来事を思い出し、一気に顔を青ざめる。
「わかりません。ですがこの子たちが教えてくれました。数は多くはないですが・・・」
「攻撃受けたらやばいんでしょ・・・?!そんな相手が1人でもかなり面倒なのにさ・・・」
「かといって後ろからは小型ゴーレムらが来ているはず・・・完全に挟まれているわ。」
「な、なら私がブレスで焼き尽くして・・・」
「だめですわ。奴ら、それでも無理やり行動してきますわ。エレオノーラが危険になってしまいますわよ・・・。」
レイラは必死に考える。
【貪り歩く者】ら相手になら無理やり強行突破することも可能ではあるが、リスクは高い。
かといって、小型ゴーレムらを相手にしていたら絶え間なく来る小型ゴーレムの援軍、そして時間をかけていたらその内【貪り歩く者】らにも気づかれ、背後から襲撃される可能性がある。
もはや、リスクどうこう言っている場合ではない・・・、ということか?
「・・・仕方ないですわ、【貪り歩く者】らを」
とここで、少し離れた所に置かれた絵画がズれ、中から一人の兵士が顔を覗かせる。
そしてレイラたちの姿を見かけた途端、両手を振って合図を出す。
「み、みなさぁん・・・!こっちです・・・!」
なるべく大声にならぬよう、必死に声を抑えながら叫ぶ彼の姿を見てレイラは目線を配ると全員はそのつもりのようだ。
レイラたちは一気に駆け出し、彼が手招く絵画の元へ行き、人一人が通れそうな通路がそこにあった。
急いで中に入っていき、全員が入ったのを確認すると兵士は絵画を閉じて絵画の裏に描かれた魔法陣に魔力を送ると絵画に描かれた人物の目が光り、そこはただの絵画が置かれた行き止まりとなった。
兵士は一息つき、振り返る。
「ふぅ・・・皆さん、無事っスか?」
「ええ、あなたのおかげで。本当に感謝致しますわ。」
「あなた、兵士ね?・・・」
「はい、といっても新兵っスけどね・・・ぐっ」
といって、片腕を抑えながらその場に崩れ落ちた。
「ちょっと、あなた・・・!」
ルナフォートが急いで彼に駆け寄り、傷を確認する。
そして急いで傷を確認してみるが、傷を見た途端にルナフォートの眉が一瞬反応し、だがすぐさま傷の手当てを施す。
「ありがとうっス・・・。自分、傷の手当とか苦手っスから・・・。あ、良かったら奥に一人見てもらいたい子がいるんス。」
「奥に?」
と兵士はなんとか立ち上がり、レイラたちを案内する。
薄暗い洞窟のような通路を進んだ先には扉が一枚あり、その隙間から微かに光がこぼれ出ていた。
兵士がノックをすると中から綺麗な女性の声で、
「澄み渡る・・・」
と聞こえ、兵士はそれに
「・・・冬の星空」
と答えた。
するとカチりと音が鳴り、中から青色の髪をした小さな少女が扉を開けて兵士へと駆け寄る。
「ポートさん!大丈夫?!」
「自分は平気っスよ・・・!」
「でも・・・」
「それに、ほら・・・皆さんを連れてきたっスよ。」
と兵士が少女にレイラたちを紹介する。
「えっと、その子は・・・獣人、には見えないですわね。」
「そうなんスよ・・・。この子は獣人じゃないんス・・・。ある日、どこからかゲセドラ王子殿下が連れてきたんス・・・。」
「・・・ってことはあなた、ゲセドラ王子の配下!?」
とルナフォートはすぐさま離れて攻撃態勢を取るが、咄嗟に少女が間に入って兵士を庇う様に手を広げ、ルナフォートを睨む。
「この人に、手出しはさせない・・・!」
その時、彼女の瞳が金色の竜眼に変わる。
その瞬間、エレオノーラが駆け出すと少女に抱き着いた。
「さ、探したなのですぅ~・・・!!」
「え?え?あ、うそ・・・エレちゃん・・・!?」
「そうなのですぅ~、メリア様ぁ~!」
「「「えええ~~~!?!?」」」
それからその秘密の部屋でメリアがなぜここにいるのか話を伺っていた。
「エレちゃんが突然いなくなって・・・。私、すごく寂しくなったから、頑張って島の外に少しずつ外に出て行ってね、探しに行ったの。でもある日、空から白い何かが突然やってきたと思ったら光に包まれてここにいたの・・・。」
「おそらく、あの小型ゴーレムの仕業ですわ。まさか転送機能が搭載されているなんて思いませんでしたの。」
「それでメリア様。ここで一体何を・・・」
「・・・・。」
とここでメリアは恐怖に染まった表情を見せる。
それを見ていた兵士が彼女の代わりに説明を続けた。
「ここにその子を連れてきた殿下は、毎日のように彼女の血をナイフで切って採取していったんス・・・。自分は新兵だったこともあって、この子の見張り役を任されて・・・。」
「でもあなたがここにいるってことは・・・。」
「・・・助けてくれたの。」
「あなた・・・。」
苦笑いしながらも、片腕の苦痛に顔を歪め、その度にメリアは兵士の手を握ると治癒魔法を掛ける。
「最初はとても辛そうにしている表情が見るに堪えなくて・・・だから話しかけることにしたんス。まあ先輩たちの目を盗んでっスけどね・・・。それから毎日のように話していたらどんどん元気になってくれて・・・。でも・・・、聞いてしまったんス。次には血だけじゃなく、心臓を使うって・・・。」
「だからあなたは自分の身が危険になろうとも、この子を助けてくれたんですのね。」
「えへへ・・・。まあ、ただその子が自分の妹と姿が重なって・・・」
「そう、妹がいらっしゃったのね。」
「だから自分、我慢できなくなってその子を連れだして逃げ出したんス・・・。まさか、殿下は実験体の失敗作を解放するとは思わなかったっスけど・・・」
「・・・あなた、あれの正体を知っているの?」
ルナフォートは彼が握るゲセドラ王子サイドの情報の一部に反応し、それを聞き出そうとしてみる。
「こんな新兵相手に警戒しなくても大丈夫っスよ・・・。もう自分は・・・ゲホッゲホッ」
「ポートさん・・・!!」
メリアは急いで治癒魔法を掛ける。
だが、傷が癒える様子はなく、むしろ悪化しているようにさえ見える。
「そんな・・・どうして治らないの・・・!」
「・・・もう、大丈夫っスよ。おかげで調子が良くなったッスから。」
「絶対嘘だよ・・・!だって・・・だって・・・」
「メリア様・・・。」
そういってエレオノーラはメリアの方を抱く。
困ったような笑みを浮かべた後、ポートはルナフォートの方を見る。
「申し訳ないっスけど、言うほど情報は持ってないんス・・・。ただ、先輩方は ”適合できなかった失敗作” だって言ってたっス。一体何と適合できなかったのかは知らないっスけど・・・、少なくとも死体相手に実験を行う時点で真面なじゃないってことだけは確かっスよ。・・・だってそれに、少なくともあの子の血が使われているはずっスから・・・まともであるはずがないんス・・・げほっ」
そう言いながら激しく咳き込むポート。
今にも泣きそうな表情を浮かべながら、ポートに抱き着く。
そんなメリアを見て微笑みながら、優しく頭を撫でる。
まるでその光景は、傷つく兄を見て嘆く妹を、優しくあやしているような、そんな悲しくも美しい光景だった。
「それでどーする?まさかこうもあっさりとメリアっちと出会うことができたけど。」
「ゲセドラ王子と白い奴を潰す。これしかないわ。でもただ一つ、気がかりがあるの。あの死体の中に先帝様の姿がなかったのよ。もしかしたら・・・」
「どこかに監禁されている可能性があるということ、ですわ。となると、メインクエストはゲセドラ王子と白いヤツをどうにかする、サブクエストは先帝様の生存確認ってなりますの。」
「ああ、先帝様なら離れの塔、その天辺に投獄されてるっス・・・。」
彼が示した方向を頼りに、レイラは構図を思い出して照らし合わせていく。
その後、道なりを想定し、ルートが完成した。
「・・・できましたわ。」
「え、何ができたの?」
「その離れの塔までのルートですわ。ポート様が示した方向と、拠点で見た王城のマップを脳内で照らし合わせれば簡単ですわ。」
「・・・普通はそんなこと、出来る人なんていないわよ。ほんと、ミミアン様、あなたの友人は何者なんですか・・・」
「自慢の親友!それ以外ないっしょ!」
どや顔で決めるミミアンを横に、一同はとりあえず出発しようと立ち上がる。
ポートは先頭に立って通路を進み、絵画の後ろにある魔法陣に手を当てると魔力をそっと流し込む。
すると絵画はゆっくりとずれていき、入口兼出口が開く。
ポートは廊下に出て周囲を見渡し、何もない事を確認するとレイラたちに合図を出す。
そして今度はレイラが先頭に立って離れの塔へと進んでいく。
何事もなく順調に、見晴らしのいい開放廊下に繋がる入口前までやってきた。
その通路の先はポートが示した離れの塔があり、その中に入るための扉が見える。
「あそこが目的の場所ですの・・・。ただ、ここの通路は見晴らしが良すぎますわ・・・。監視の目がないなんてこと絶対にないですわ。わたくしなら<神速>で誰にも気づかれることなく行けますけど・・・」
「とりあえず、私が行くわ。何かあったら掩護を御願い。」
そういってルナフォートが入口をくぐり、慎重に開放廊下を進んでいく。
シーンと静まり返っており、逆にそれが異常に思えてならない。
そしてルナフォートは何事もなく扉の所までたどり着く。
「みんな、大丈夫よ。」
そう合図を送り、全員慎重に進んでいく。
途中、最後尾を歩いていたポートが咳き込み、足が止まる。
「ポート、大丈夫・・・?!」
「大丈夫っスよ、さあ行きましょ・・・ッ!?ダメっス!!!」
と突然ポートはメリアを突き飛ばす。
だがメリアが見た光景は、焦りと微笑みを浮かべたポート、そして彼が上から大量に降ってきた【貪り歩く者】らが降ってきて、それに飲まれた瞬間だった―――――。