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我が子を送り出す時はいつだって辛いものですわ


「はあ!?うそ、待って。あの子がここにいるの?!」


と立ち上がってしまった思わずレイラに詰め寄ろうと、ハッと我に返って席に座る。


「ごめん、お母様・・・。」

「謝る必要なんてありませんわ。でもやはりあなたは知っていたのですわね。」

「・・・ええ。あの子はすごく優しい子のよ。そしてすごく臆病な子でもあるの。だから自分の住処にしている場所からは絶対に出ないはずなのになぜ・・・」

「わからないのです・・・。でも、皆さんが言う【古獣の王(ベヒモスメナス)】が目を覚ます少し前、突然【海濤揺らす白鯨(リヴィアメリア)】様が感じられなくなったのです・・・。でもすぐにまた【海濤揺らす白鯨】様の存在を感じ取れたのですが、その時にはこの王都タイレンペラーからなのです・・・。それからすぐに【古獣の王】が目を覚ましたと・・・。だから私はこの二つには関連性があるんじゃないかと思うのです・・・。」

「・・・ふむ。」


話を受け、ルナフォートは静かに考え込む。


「確かにそれは偶然ではなさそうね。一体どうやって竜王国にいるはずの守護竜がここにいるのか、恐らくゲセドラ王子の乗ってきた白い何かの仕業だと思うわ。あれは未知の存在だったもの・・・。その守護竜って存在が【古獣の王】を呼び寄せているのでしょう。」

「・・・もし二つの存在に繋がりがあるのだとしたらかなりまずいですわ・・・。きっと【古獣の王】は獣人らに慈悲を与えるのではなく、本物の死を与えるようになるはずですわ。わたくしだって、大事な身内が味方に裏切られて攫われたら、一切容赦は致しませんもの・・・。」

「・・・つまり、【古獣の王】に飲み込まれた獣人は輪廻の輪に行かず、無に還るというわけか。くそっ!そんな相手に殿下はその任を受け持ったということか・・・!」


堪らずルナフォートは机に拳を叩きつけてしまう。

響く打音にエレオノーラは思わずビクッと体を震わせた。


「あ、すまない・・・。」

「い、いえ・・・、大丈夫なのです。あはは・・・」


その時、レイラは席を立ち、エレオノーラの傍まで来ると彼女の手をそっと握る。


「え?レイラ様・・・?」

「気にしないでくださいまし。」


レイラの握ってくれた手から伝わる温もりはとても温かく、自然と恐怖で震える感情が落ち着いていった。


きっとエレオノーラは自身が無意識に感じていた感情をレイラに見透かされていたのだろう。

レイラも同じ経験を得ているからこそ、わかってくれたのだろう・・・。


「・・・ありがとうなのです。」


それから話が続き、世界地図はいつしか王都タイレンペラーを映す地図へと変わり、進入路や警備兵の巡廻通路などの説明をしながら、王城の構図を説明していく。


その中でどこから守護竜の存在を感じるか聞いてみた所、返ってきたことは「わからない」だった。


「でも確かにこの町に・・・あの城からは凄く近く感じて、でも遠くにも感じられるのです・・・。」

「なんとも言えないわね・・・。私が上空を飛んで空から町全体を見れればいいんだけど。」

「そんなことをしたら、あの白いヤツに撃墜されるわ・・・。仲間も何人か同じような事をして全員撃ち抜かれて殺されたもの。」

「そもそもゲセドラ王子が乗ってきた白い奴ってなに?」


いつかの火山の頂上で、レイラはゲセドラ王子を斬り伏せた。

かなりの深手を負わせ、死んでいてもおかしくはない傷を与えたはずだ。


いや、そもそもあの未来軸では彼を斬り殺すつもりで黒妖刀を振るった。

怒りに任せ、憎しみに任せ、振るわれた黒妖刀は確実にゲセドラ王子の心臓を斬った手応えさえあった。


隣国の王子を、密入国のような形で入ってきた姫が斬り殺したなんて、国際問題まっしぐらな行動を取ったわけで、レイラにとってもその覚悟を持ってゲセドラ王子を斬ったはずだ。


・・・なのに彼は生きて帰った。

白い何かに乗って、彼は帰ったというのだ。


「・・・そもそもゲセドラ王子は本当に生きているんですの?」

「え?」

「いきなり何を言う。あの日、確かに私たちは見た。白い球体のような何かに乗って狂気の笑みを浮かべながら仲間を、町の皆を殺しまわる奴の姿を・・・!!」


レイラは今でも覚えている。

あの心臓を斬った感覚を、手ごたえを、手に伝わった感覚を。


そしてこの場には信頼できる者しかいないこと、またここでの会話は外に漏れないこと。

レイラは意を決して、火山の頂上で起きたことを話すことにした。


「実は、ヨスミ様を助けに頂上へ向かった時、わたくしはゲセドラ王子を斬りましたの。」

「・・・え?」

「今もまだその時の感覚はこの手に残っておりますわ。肉や骨、そしてその先にある心臓を切り裂いた感覚・・・。ゲセドラ王子に負わせた傷は確実に死を与えたはずですわ。」

「なるほど、レイラお嬢様が向かわれた後に起きたことでしたか。頑なにその時の事を話そうとしなかった理由はそういうことだったんですね。」

「あー、隣国の王子を斬り殺しましたー!なんてことがあったら、戦争待ったなしだもんねー。」

「・・・だが確かにあれはゲセドラ王子だった。今でも鮮明に思い出すわ。」

「でもわたくしは確かにゲセドラ王子を斬り殺したはずですわ。」

「なら確認する方法はたった一つね。」


レイラとルナフォートは次第に意見がぶつかり合おうとした時、フィリオラがそれを制止するように声を上げる。


「ヴェリアドラ火山の頂上へ行って、死体があるかどうか確認する。」

「・・・でもどうやって?そんな時間なんてもうないわ。」

「私が行く。言い出しっぺだもの。」


そういってフィリオラは自分を差す。


「いや、先ほども行っただろう?今この町で空を飛べば、白いヤツに撃ち抜かれて・・・」

「あら、私を誰かお忘れで?このカラミアート大陸に棲む全てのドラゴンの母・・・今は代理母かしら?まあ、私はそんな簡単にやられるような古龍(おんな)じゃないわ。」

「しかし・・・。」

「ルナフォート、リオラっちはだいじょーぶ。だからお願い、リオラっち。無事に帰ってきて。」

「任せて。サクッと見てきて、すぐに帰ってくるから。あ、ついでに私を囮にしたらどう?上空を飛んで注意を引くからその間に皆は王城に潜り込んでよ。さすがに私ほどの存在を無視できないでしょ?」

「・・・合理的ではあるわ。竜母と呼ばれるあなたが囮役を引き受けてくれるのであれば、私たちは比較的安全に王城へと潜り込める。」

「かなり危険だってそれ・・・。リオラっちも無事じゃすまなくない・・??」

「平気よ。並大抵の武器じゃあ私の鱗は貫けないわ。」


そういって、フィリオラは席を立ちあがり、部屋を出ていこうとして止め、レイラの所に向かった。

レイラの前でしゃがみ、そっと手を握る。


よく見ると彼女の表情は毅然としていたが、フィリオラに伝わってきた感情ですごく不安がっているのがわかる。


「お母様。私なら大丈夫よ。だから安心して私を送り出してくれない?」

「・・・フィーちゃん。」

「もー、お母様。そんな泣きそうな顔しないでよ。」


とフィリオラは優しくレイラを抱きしめる。

レイラもそっとフィリオラを抱きしめ返し、しばらく2人の抱擁は続いた。


「・・・いいですこと、決して無理しないでくださいまし。それと、絶対に戻ってくるんですのよ?」

「これでも私、四皇龍の末っ子でもあるのよ?そんな簡単にやられたりしないわ。」

「でも・・・不安ですわ。あの人は眠りに付いて、あなたまでいなくなってしまったらって思ったら・・・」

「あーもう、お母様。心配しすぎよ。だから私を信じて送り出してくれないかしら?」

「・・・わかったのですわ。わたくしはフィーちゃんを信じます。だから・・・どうか気を付けて。」


レイラからその言葉を受け、抱きしめていたレイラをそっと離し、優しく微笑む。


だが握る手を離してくれない。

どうやら拠点を出るまでは握っていたいようだ。


言葉ではフィリオラを送り出すことにしたが、体は未だに不安がっている様だった。

そして階段を上がり、宿屋に戻ると何やら騒がしい。


「あら、どうしたの~?」


先ほどの鋭い口調は消え、いつものおっとり村長へと戻ったルナフォートは慌てた様子で動き回る1人の獣人を捕まえ、事情を聞く。


「あ、姐さん・・・!大変でさあ!ガヴェルド王子が突然、攻め込んできたんでさあ!」

「へぇ~・・・」


獣人の言葉を受けて簡単に受け流している様子を見せてはいたが、何やら周囲の様子がおかしい事に気が付く。


今いる宿屋の広さがどんどん広がっていった。

それに伴い、周囲の所々にヒビが入っていき、今にも破裂しそうな状況になっている。


「あ、姐さん!落ち着いてくだせぇえ!このままじゃ破裂しちまう!」

「あら~・・・。」


と広がっていた宿屋の空間はすぐさま元に戻った。

だが、ヒビが出来た所はそのままで、獣人らは急いでそのヒビに補強工事を行うが、そのヒビが消えることはなかった。


「ごめんなさいね~。確かにあの時、釘を刺したはずなのに~・・・。まさかそれを無視されるなんてね~・・・。」


恐らく、あの時立ち止まって話していた相手はガヴェルド王子率いる軍団兵らだったようだ。


そして今のルナフォートの話しぶりから察するに、町の外に今にも王都を奪還しようと攻め込む機会を伺っていたガヴェルド王子とその軍団兵が陣を張っており、そこにルナフォートが現れ、どうやらガヴェルド王子は彼女の事を知っていたようで軍に加わるよう交渉を持ちかけるが、それを拒否。


またルナフォート的には王都にはまだ攻めてほしくないから、しばらく待つように頼んでいた。

だがそれは叶わず、軍団兵らは攻め込んできたと。


下手すれば、フィリオラが注意を引こうと上空へ飛び立てば白いヤツだけでなく、ガヴェルド王子の軍団兵らにも狙われる可能性があるということになる。


危険が2倍となってしまい、レイラの握る手に力が入る。

それに気づいたフィリオラは同じくらい手を握り返すと振り返り、レイラの不安そうな瞳を見つめる。


「むしろ好機だと思わなくちゃ!お母様、私は必ず情報を持って帰ってくるから、むしろお母様の方こそ気を付けてね?返ってきたときにお母様が死んでたりしたらパパに顔向けできなくなっちゃう。」

「・・・それこそ問題ありませんわ。わたくしだって、こんなところで死ぬつもりなんてありませんもの。・・・また後で会いましょう、ですわ。」

「・・・ええ! それじゃみんな、お母様を御願いね!」


そういって、レイラは空高く飛び上がり、注意を引くためにわざと王城の方を飛んで行った。

直後、王城からは無数の白くて小さい球体状の何かが飛んでいき、光線をレイラに向けて放つ。


それをいとも簡単に交わしながら、白い球体らを引き付け、王都の外へ飛んでいく。


「・・・それじゃあ、行きますわっ!」


レイラたちはあの拠点で覚えた道なりを通り、王城へと繋がっているとされる下水道の入口前にすんなりと到着した―――――。



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