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その後の進展の報告


それから食事会は恙なく進み、一同は食卓に並べられた料理を全て平らげる。

その後、レイラは運ばれてきたデザートを美味しそうに食べるユリアとジェシカを愛おしそうに眺める。


自分の分には一切手を付けず、皿の上にある2つのケーキをそれぞれユリアとジェシカの皿に移す。


「ほら、2人とも。よかったらわたくしの分までお食べなさいですわ」

「え、いいのですか?!」

「レイラお姉様、ありがとうですの!」


ああ・・・、本当に可愛いですわ。

まるで小動物の様に、ほっぺをいっぱいに詰めこんで幸せそうな表情を浮かべている・・・。


可愛い妹、そして孫娘。

我が子はわたくしの胸の中で美味しそうにミルクを飲んでいる・・・。


後は、わたくしの傍に愛しい人・・・彼が傍に居てくれたら。


「それにしても、ジェシカとユリアは随分と仲が良くなったんですのね。」

「はい!あ、お婆様!この後、ユリアお姉様と一緒に眠ってもいいですか?」

「ユリア、お姉様?」

「はい!あれからジェシカと話し合ってお互いを姉妹として支え合おうということにしたんですの!それで1歳上の私がお姉ちゃんというこになりました!ですの!」

「ヴァレンタイン公爵家の家系図がどんどんややこしい事になっていきそうね・・・。」

「わたくしにはどうでもいいことですわ。この2人がそれで満足しているなら、姉であり、祖母であるわたくしは2人を応援しますわ。」

「ありがとうございます、お婆様・・・!」

「レイラお姉様、ありがとうですの!」


ジェシカとユリアはレイラに抱き着いた後、食堂を出ていった。


それを見送り、扉が閉じられたと同時に先ほどまでほっこり笑顔を浮かべていたレイラからは笑みが消え、真剣な眼差しをユトシスの方へと向ける。


その態度の変わり様に、周囲の雰囲気は重圧がかかっているようにさえ感じられる。

そんな中、レイラはその重圧を漂わせながら、静かに口を開く。


「・・・それで、ユトシス皇子殿下。なぜ、あなたがここにいるのか、説明してもらってもよろしいかしら?」

「ああ、もちろんだよ。そのために僕はこうしてユリアと共に来たんだ。」


そういうと、ユトシスは懐から一通の封がされた手紙のような物を取り出し、それをレイラへと直接渡した。


訝し気な表情を浮かべ、受け取った手紙をペーパーナイフで封を斬り、中に入れられてある紙を取り出してそれを広げ、その紙に書かれている内容を目線で追う。


その途中から、レイラの瞳には涙が浮かび、頬を伝う。


「・・・そう、お母様を救い出せたのですわね。」

「はい。レイラ嬢から届けられた書類を読んですぐ行動に移され、僅か1週間でシャイネ公爵夫人の居場所を突き止め、圧倒的力を持って公爵夫人を救出されました。・・・ただ、それに伴い、ダーウィンヘルド皇国から2つの町が消し飛ぶことになりましたが、まあ自業自得と言えるでしょう。」

「あんたの国の町が2つ消えてその反応は少し軽すぎない?」


フィリオラはついユトシスへ突っ込んでしまった。


「・・・そうかな。でもあの時・・・、グスタフ公爵の怒る狂う様を見て、私は我らの国があなた方に何をやらかしたのかを思い知らされたんだ。それに、私はその救出作戦に参加させてもらい、改めてダーウィンヘルド皇国の深淵に触れてしまった・・・。今の僕が自国に対してそんな風に感じられるのならきっと・・・そのせいかもしれないね。」

「・・・ほんと、あの炎に焼かれてどこまでいい子ちゃんになったのよ。」

「ほんとですよ・・・。あの炎に焼かれていなければ、こんなにも胸が苦しくなることはなかったんですから。」

「後悔してる?」

「いいえ、全然。」


フィリオラの問いに間を置かず、即答するユトシスの姿にふっと笑みがこぼれた。


「ならよかった。ま、その苦悩こそが真人間として一生付き合っていく不治の病みたいなものよ。いわば【正しき道を歩く人間の証】といっても過言ではないわ。だからユトシス、その苦悩を胸に抱き続け、死ぬその瞬間まで悩み続けなさい。その悩む心があれば、人間はいつだって道を踏み外すことはないんだから。」

「・・・肝に銘じておきます。」


そう言い残してフィリオラはレイラの傍にやってきて、頭をそっと背中を撫でると食堂を後にした。


「それじゃ、我らも出るとするよ。込み入った話だろうし、そういったことは友であるアイツとその番から聞きたいしな。」

「そうねぇ~。それじゃあ~、またねぇ~。」


そういってフォートリア公爵夫妻も後に続くように食堂から出ていく。

ミミアンは席を立ちあがるとレイラの隣に座り、レイラの手を優しく握りながら背中を摩る。


「うちは傍にいるからね。いちおー、あの人の代わりだと思ってさ。」

「・・・ありがと、ミミアン。」

「レイラ嬢、あと一つあなたに渡す者があります。」


そういうと、映像を記録できると言われているクリスタルをレイラにそっと机の上に置いて魔力を流し込む。


するとクリスタルが光りだすと何かを投影し始めた。

それはグスタフ公爵へと変わり、身なりを整えている様子が見られる。


『・・・我が娘、レイラよ。この映像は我がもし死んだ――――』


と最後まで言い切る前に突如として映像が乱れ始める。

いきなり不穏な始まり方に、レイラは冷や汗が止まらなかった。


「・・・へ?え、死んだ・・?ど、どういうこと・・・ですの?は?」

「お、落ち着いてくださいレイラ嬢!」

「あんな始まり方を見せられて落ち着けと?!」

「さらっととんでもないもんを見せられたらこうなるって・・・。」


と先ほどまで乱れていた映像が突如として直り、そこにはなぜか顔面がボロクソに殴られた後のグスタフ公爵の姿があった。


「お、お父様ぁ・・・!?!?」


先ほどの不穏な始まり方といい、次に姿を見せたら明らかに傷だらけの姿といい、レイラの心情はもはや落ち着くなんてことはできないようだ。


『・・・我が娘よ、その、この姿は気にするではない。ただ、先ほどの始まり方を見られ、怒られた結果が今の我の姿なのだ。』

「お父様・・・ぁ?え、怒られたって・・・。あのお父様を怒ることができる相手なんて一人しか・・・ま、まさか・・・!」


とここでレイラの期待に応えるかのように、グスタフ公爵とはまた違う別の人物が姿を現す。

赤色の短髪、整った顔立ち、だが両目は火であぶられたような火傷痕があり、ずっと瞼を閉じている。


過去の姿にはもう少しスタイルは良い方で、スタイルは抜群という記憶があったのだが、今の母はやせ細ったかのように細く見受けられる。


だがその状態であっても、グスタフ公爵があそこまでボコボコにされているという事から彼女の実力派健在なのだろう。


『やっほー、レイラちゃん!映像越しに会うのってなんだか不思議な気分ね。きちんと視れているのかしら?』


凄い明るい口調でレイラへと語り掛けるシャイネ公爵夫人の姿を見て、思わず声が震える。


「お、おかあ・・・おかあさま・・・」

『もー、本当に参ったわ。まさかあんのクソ皇帝ったら私を封じ込めるためだけにあんなの作るなんて思わなかったんだ~。だから私もつい油断してね?レイラちゃんだけをあそこから逃がすだけで精いっぱいだったんだよ~。でも、まさか逃がした先でもっとひどい目にあわされているとは思わなかった・・・。』


とここで先ほどまで明るい口調で喋っていたシャイネの様子が変わり、言葉がつっかえ始め、肩を震わすようになった。


『それを、知ったのが本当についさっき、なんだ・・・。ずっと、ずっとレイラちゃんだけは逃がした先で私がいた所よりももっと待遇が良いはずだって・・・。そして、きっとあの人が助けにって・・・。で、でもまさか、ろ、6年も・・・6・・・6、年も・・・ひ、酷い・・・状況に・・・!!!う、うう、ごめんなさい、レイラちゃん・・・。ごめん、本当にごめんなさい・・・きっと私の事、恨んでるよね・・・。あなたを、逃がすだけで・・・安心しちゃって・・・何も、できなかった・・・何もしようとしなかった、私を・・・ごめんなさい・・・ごめ・・・ん・・・』

『シャイネ・・・!!』


とそこでシャイネは気を失ってしまった。

グスタフ公爵が慌てた様子で彼女を支え、そのまま抱き上げる。


『・・・すまない、レイラよ。本当はこんなはずではなかった。もっと明るい感じで、お前を不安にさせぬようにと話し合っていたんだがな。シャイネも助けたばかりでまだ情緒が不安定なようだ・・・。お前たちが帰ってくるまでには落ち着きを取り戻していると思うから、どうか我らのことは心配せず、己の果たすべき使命を我が息子と共に話してこい。・・・帰ってきたら、土産話を持ってどうかシャイネに聞かせてあげてほしい。もちろん、我も共にな。お前たちの息災を、武運長久を祈っている。』


そう言いながらシャイネを抱えたまま、背を向けてどこかに歩き去っていき、映像もそこで途切れる。


「お母様・・・。わたくしは、恨んでなんかおりません・・・。わたくしの方こそ、あの時、亡くなられたものとばかり・・・。だからわたくしは探そうともしませんでしたわ・・・。ずっと、諦めていた・・・。だから謝るのはわたくしの方なのに・・・。お母様は、ずっとわたくしのことを思って・・・うう・・・。」


とクリスタルを胸に抱くように蹲る。

そんなレイラを宥める様に、ミミアンは優しく背中をさすりながらずっと手を握りしめていた。


「本当はレイラも、レイラのお母様も、どっちも謝る必要なんてないんだよ。お互いに必要な言葉は”ごめんなさい”じゃなくって、”会いたかった”だと思うよ。だから次にお母様と会うことがあったら、謝らないで、きちんと本心を言葉にしよっ、ね?」

「・・・うん・・・。」


そういって、ミミアンへと抱き着き、彼女の胸元で静かに涙を流した。


そんなレイラの背中を優しく摩りながら、

「だいじょーぶ。だいじょーぶだよ・・・」

と安心させるように宥め続けた。


数十分ほど時間を費やし、ようやく落ち着いたレイラはハンカチで涙を拭いながらユトシスへとある質問を投げかける。


「・・・ユトシス、1つ聞きますわ。」

「はい、なんですか?」

「・・・町を2つ消滅させたのはお母様ですわね?」

「・・・え??」


とミミアンは思わず聞き返してしまった。


「待って、レイラのお母様が町を消したって?嘘でしょ?さっきの映像を見る限りじゃ、そんな真似できそうな雰囲気を一切感じなかったんだけどっ!?」

「・・・はい、シャイネ公爵夫人の手に寄って、町が2つ消え去りました。一つはシャイネ公爵夫人をずっと監禁し続けていたオグールの町を。そしてもう一つは、レイラ嬢を奴隷として買い、そのような体に変えてしまった貴族が治めるウィンデルの町、この2つです。ウィンデルの町に至ってはそれはもう徹底的に・・。」

「マジ!?」

「・・・マジです。」


とミミアンの言葉に、同じ言葉を用いて返すユトシス。

その表情はどこか怯えているように青ざめていた。


「町の住民たちの避難は?」

「グスタフ公爵が前もってある程度は退避させておりました。きっと、そうなることを危惧してのことだったんでしょう。ただ、一部の住民たちには何も知らせていなかったので、おそらくグルであったかと・・・。避難させた住民たちはヴァレンタイン公国に受け入れておりますのでその辺りはご心配なく。」

「・・・ならいいですわ。」

「一体どうやって町2つを、あの華奢な細身の体でぶっ壊したの・・・」


ミミアンは理解できず、逆にレイラの握る手に力が入ってしまい、様子がおかしい事に気付いたレイラが逆にミミアンを宥めることになった―――――。



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