表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
189/517

オールドワン討伐戦 中編


「・・・あ、あれって・・・。」


空を飛びながら、白尾から振り撒かれる粉のような何かを吸い込み、ブラックサハギンたちの様子が変貌していく。


突然棒立ちになったかと思いきやそのまま自らに槍を突き立てて自殺したり、また別のブラックサハギンは仲間を襲いだしたりと、混乱状態に陥っている。


恐らく、幻鳥に見せられた幻惑の影響なのだろうが、一体何を見せられれば自ら命を絶ったり、仲間に襲い掛かるのだろうか。


だがここでわかることは、あの幻鳥が助けてくれたということだ。

一通り頭上を飛び回り、粉を振り撒いた後、ゆっくりとミミアンの前に舞い降りる。


確かに幻惑の暗森で助けたはずの幻鳥だった。


「な、んで・・・。」

「コレ、で、カりを、カエしタ。後はアナ、た、シだい。」

「・・・あんなの、借りなんかじゃない。ぜんっぜん違う・・・!でも、助けてくれてありがとう・・・。」

「・・・。」


幻鳥は静かにじっとミミアンを見つめ、そっと手の甲に顔を近づけ、口づけするかのようにくちばしが触れる。


するとミミアンの額に幻鳥を模った【服従の証(エンブレム)】が刻まれ、幻鳥の額にフォートリア公爵家の紋章が浮かび上がった。


「こ、これって・・・。え、どうして・・・?」

「これデ、ダイジょうぶ。・・・マタね。」


だがミミアンの問いに幻鳥は明確な答えを示せず、さよならを告げると再度飛び上がり、幻惑の暗森の方面へと飛び去って行った。


ただ、胸が満たされたような温かな気持ちだけがミミアンを優しく包み込んでいた。


「・・・これが魔物との繋がり。レイラがやっていた【服従(テイム)】・・・。字面がなんか嫌だから、服従よりも【(クレスト)】って呼ぼ!えへへ・・・。まるで王子様のキスみたいに手の甲に・・・えへへ、えへへへ・・・っとと、こんなところで惚けてる場合じゃない。急いでここから離れなくっちゃ!」


気が付けば、体中に負っていた痛みが消えていた。

どうやら飛び去るついでに傷を癒してくれたようだ。


幻鳥がもたらした影響は凄まじく、ブラックサハギンらはほぼ壊滅状態に自ら自滅していく。

それによって、フォートリア公爵軍は大いに優勢となる。


・・・が、死死にぞこなっているブラックサハギンへ止めを刺しに行こうとした兵士が、未だに雪の様に白い粉が降りしきる区域へと足を踏み入れた途端、兵士は突如として動きが止まる。


「・・・・。」

「・・・おい、どうした?」

「・・・・。」

「なぜ反応しない?返事をするんだ!」

「・・・、救済を。」

「は?突然何を・・・、っ?!何をしている!やめろ!」


仲間の兵士が必死に叫ぶ。

だが仲間の声は届かず、その区域に踏み入った兵士は自らの首を引き裂いてそのまま絶命した。


そしてそれは彼だけではない。

その区域に入った幾人かの兵士全員が同じような行動を取り、その内の一人は狂気に塗れた瞳を浮かべ、突如として仲間へと襲い掛かった。


「何を、する・・・!どうして、攻撃、してくるんだ・・・!」

「・・・死ぬべきなのだ。死ぬべきなのだ、しぬべきなのだ、シヌベキナノダ!ギャハハハハハハハハ!!」

「一体何を、言っている・・・!正気に、戻れ・・・!」

「シヌシヌシネシネシヌシヌシネシネシ」


狂気に侵された仲間の頭に剣が突き立てられ、そのまま白目を剥いて死んだ。


「お前たち、この先から決して中に入るな!兵士の1人が、幻鳥の存在を確認している!おそらくこの雪の様に振っている白い粉は幻惑を見せる【幻鱗粉】の可能性が高い。それも非常に厄介な幻惑を見せるヤツなのだろう!この鱗粉を吸い込まぬよう、一時前線を下げる!」


ジャステス公爵が兵士らに注意喚起し、公爵軍全体を後方へ下げていく。


だがそんな中、鱗粉(ゆき)が降りしきる色褪せた世界から、一人の白い獣がゆっくりと歩いて公爵軍の方へ向かってきた。


四足歩行でゆっくりと歩いてきて、鱗粉が降っていない所まで抜けてくると兵士たちは警戒したが、兵士たちからかなり離れた所でブルブルと激しく身震いをし、体についていた白い鱗粉は全て落とすと中からは黒い狼が姿を現した。


兵士たちはその狼の正体に気付き、

「ま、まさか・・・ミミアンお嬢様・・・!?」

と信じられない様なものを見る目で叫ぶ。


「馬鹿な・・・、あの中を歩いてきたというのか?」

「幻鳥の鱗粉の影響を受けているはずなのに、なんともなさそうだぞ・・・?」

「さすが【イカれた狂犬】と恐れられるミミアンお嬢様だ・・・!気が狂うとされている幻鳥の鱗粉をもろともしねえとは・・・!」

「そもそも元からイカれていたが故に効き目がなかった・・・ぐふっ!?」


と一人の兵士がそんなことを口走ろうとした瞬間、ミミアンの強烈な蹴りが飛んできて吹き飛んでいく。


「ったくもー、みんなったら言いたい放題言っちゃって!それで、他に何かうちに言いたい事はある?!」

「「「ありません!!」」」


兵士らが怯えた表情を浮かべながら背筋をピンと張り、ミミアンへ敬礼する。

そこへ心配そうな表情を浮かべながら公爵夫妻がミミアンの元へやってきた。


「おお、我が娘!無事であったか!だが、あの中からやってきたにしてはなんともなさそうだが・・・。」

「ミミちゃあん、大丈夫かしらぁ~?変なものが見えてたりぃ~、可笑しな気分になったりぃ~、していないのかしらぁ~?」

「パパ、それにママ!うちなら大丈夫!それにこれはね、うちと【(クレスト)】を結んでくれた幻鳥がうちを助けるためにやってくれたことなんよ~!すごいっしょ!」

「ほう、幻鳥と【服従の証】を結んだのか!」

「ちょっとパパ!その言い方はあまり好きじゃない!【絆】って呼んで!」

「う、うむ・・・。すまぬ。」

「あらぁ~、可愛い言い方じゃないのぉ~。私ぃ~、その表現、とっても好きよぉ~。」

「ママなら気に入ってくれると思ってた!」


そう言いながら、ユティス公爵夫人へと抱き着く。

よしよし~と頭を優しく撫でながら、ミミアンを優しく受け止めた。


それで、幻鳥との経緯を話す。


「ふむ、そんなことが・・・。」

「そう・・・。あの幻鳥の背中にはそのような背景があったのね・・・。」


普段は独特な喋り方をしていたユティスではあったが、この時ばかりは雰囲気だけじゃなく、口調までもが真剣なものに変わっていた。


が、すぐさまいつもの調子に戻る。


「ミミちゃあん~、その【絆】、大事にするのよぉ~?」

「・・・もちろん!」

「ミミアン、あなた戻っていたのね。」

「レイラ!」


といつの間にか姿を現したレイラが無事に戻ってきたミミアンの姿を見て安堵していた。

ミミアンもレイラの声を聴いて無事であると分かり、彼女に抱き着こうとするが・・・


「・・・くっさ!?」

「・・・。」


レイラの全身はヤツの体液まみれなようで、真っ黒に染まった体液まみれだった。

また彼女から漂う臭いは腐臭に近く、ミミアンは思わず鼻をつまんでしまう。


「ちょ、ちょっとレイラ・・・。」


とミミアンが何かを言おうとした時、首元に当てられている黒妖刀の刃に気が付き、頬から冷や汗が流れる。


「なあに?」


満面の笑みを浮かべてミミアンへ聞き返した。


「ナ、ナンデモナイヨ!」

「そう、よかったですわっ」


首にあてていた刃を引っ込め、慣れた手つきで鞘に納める。


「・・・暫くはブラックサハギンらは大丈夫そうですわね。」

「となると問題はあっちだよねぇ・・・。」

「ジェシカ・・・、それにレスウィードも・・・。」


海の方を見てみる。

先ほどまでオールドワンとレスウィードらが激しく争い合っていたが、今は海の中に潜っているようで水中での戦闘を繰り広げているのだろうか。


水中となると、加勢出来ない故にただ見守っていることしかできない。


こういう時、あの人ならば水中に居るオールドワンを無理やりに転移で地上に持ってこさせたり、それこそ急所を狙って転移で分離させ、直接急所を叩くなんてことも出来たりしているんですわね・・・。


・・・そもそもブラックリリーで直接急所を突き刺して攻撃なんてこともできるから、あの人の戦い方は本当に異次元過ぎですわ。


なんてヨスミならばどういうった行動をとるか、色々と思考を巡らせて思いを馳せていた。


すると突然海面から大きな水柱が上がり、よく見るとオールドワンが海上に打ち上げられている様子が見える。


直後、海から上がる圧縮された水線がオールドワンを捉え、空中にいたオールドワンを性格に捕えたかに思えたが、突如として背中から大きなコウモリのような翼が生えるとそれを羽ばたかせ、ギリギリのところで躱すと同時に両手に魔力の塊を幾つも生成し、それを海面へ投擲し続ける。


次々と水面に触れると同時に大きな魔力爆発を起こし、大きな水柱があがる。


幸いなことにその攻撃全て、レスウィードには当たっていないようで、オールドワンが狙っていた場所からはすでに遠く離れた場所に移動していたようで、少し離れた場所からレスウィードの上半身が海面から姿を現した。


レスウィードの頭上には未だにジェシカは健在のようで、様々な水魔法を行使して父であるレスウィードを支援している様だった。


上空で羽ばたきながら、レスウィードの姿を確認すると両手をかざし、そのまま動きが停止する。

今までとは全く違う行動に、一体何をしてくるのかわからず、どう対応すればいいか戸惑っている中、一番真っ先に動いたのはジェシカだった。


レスウィード全体を包み込むほどの強力な水の結界を張ると同時に、オールドワンの手元に向けて水魔法の初級クラスである<水弾(ウォーターバレット)>を放つ。


きっとオールドワンの行動を阻止したいのだろう。


レスウィードも娘のジェシカの行動に習い、ジェシカよりも数倍の大きさを持つ<水弾>を作り出すと、回転を加え、そのままオールドワンへと放つ。


これはさすがに効いたようで、大きく体勢を崩す。


直後、オールドワンのかざした手から黒い塊が電気のようなものを帯電させながらレスウィードのすぐ近くの海面へ落ちる。


直後、周囲の海を黒く染めていき、轟音が鳴り響きながら周囲に電撃を放ち、それは次第に大きくなっていく。


そしてある程度の大きさに達すると突然消失し、黒く染まった海面のエリアが作られた。

ソレはグツグツと泡立つように蠢いており、次の瞬間、ブラックサハギンが黒い海面から出現していく。


無数に生み出されていくブラックサハギン。

その様子を見て、レスウィードはその黒く染まった海面を包み込むように水の結界を作り出し、それを持ち上げる。


ジェシカは光魔法である<浄化>を発動させると、黒く染まった部分がゆっくりと消えていく。

だが、その速度からして全てを消し去るまで何時間と掛かってしまうようだ。


レスウィードたちはその【黒い海】をなんとかしようとしている中、それを狙ってオールドワンは上空から魔力の塊をレスウィードへ向けて投擲し、それは見事に直撃した。


大きな悲鳴を上げながら体が大きくうねり、ジェシカも堪らず魔法を中断させて振り落とされないように角に必死にしがみ付く。


だが持ち上げていた【黒い海】を海に落とさぬように必死に耐える。

その間に結界で包み込まれた【黒い海】は絶えずブラックサハギンを生み出し続けている。


もしこれが海面へ落としてしまえば、【黒い海】は更に範囲を広げ、ブラックサハギンは数を無数に増やし続けるだろう。


それだけはなんとしても避けねばならなかった。


「・・・ミミアン、行きますわよ。明らかに劣勢ですわ。」

「え、でもうちらが出来る事ってあまりなくない?」

「ええ。海面でオールドワンとレスウィードらが戦っているならばわたくしたちは何もできませんわ。でも今、オールドワンは空を飛んでいますわ。」

「・・・そっか!海上戦じゃなく、空中戦ならうちにだってやりようがあるってことね!」

「そういうことですわ!行きますわよ・・・、ルルぅー!ミラぁー!!」


空へ向けて2体の名前を大きく叫ぶ。

少しすると、遠くの方からレイラの元へ高速飛行で飛んでくる存在があった。


レイラはミミアンを連れて空高く跳躍すると、高速飛行でやってきたルーフェルースの背中へと着地した。


「ママぁ~、なんかあそこにすごく嫌な存在が飛んでる~!」

「そうよ、ルル。あのデカブツは絶対に滅ぼさなくてはならないわたくしたちの天敵ですわ。さあ、あいつの元にいきなさい!」

「わかった~!なら私も全力で戦う~!!」

「ぴぃー!」


するとルーフェルースの周囲に竜巻が発生し、さらにミラが自らの魔力を竜巻に纏わせると輝きだし、帯電するようになる。


こちらの存在に気付いたオールドワンだったが、その頃にはすでにすぐ目の前まで距離を詰めており、その魔素竜巻はオールドワンの片翼もろとも胴体を貫いた―――――。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ