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【堕落した混血】戦 前半


「・・・<神速・居合>!」


刹那、全ての時間が止まる。

次の瞬間、飛び掛かってきたサハギンたちの首だけが斬り落とされ、力無く地面へと落下していく。


その間、僅か0.1秒にも満たず、レイラが刀を抜いた姿を視れた者はその場に誰一人としていなかった。


レイラは今回、なるべく<王眼>の使用を控え、<神速>を行使して次々とサハギンたちの首を落としていく。


その直後に起きる一瞬の隙をつくかのようにサハギン達が飛び掛かってくるが、それをカバーするかのようにフィリオラの竜尾がしならせ、それを抜けてきたサハギンらは竜の巨腕から繰り出される拳に文字通り、吹き飛ばされ霧散する。


「あーもう、汚いったらありゃしないわ、・・・ねっ!!」


と両翼を羽ばたかせ、強風によってサハギンたちを吹き飛ばしていく。


「あなた達に慈悲はありません!」


強風に吹かれ、身動きが出来なくなっている彼等を狙い、地面から鋭い水棘が突き出て次々とサハギンたちを串刺しにしていく。


直後、串刺しとなったサハギンの体中から無数の水棘が突き出て全身が貫かれた。


そして突き刺した水棘は奴らの体液が混じり、透き通る水の色から赤い色が混じっていき、それは禍々しいものへと変貌し、その光景を見たサハギンたちは恐怖で思わず立ちすくんでしまう。


「戦いに来てるくせに、怖いからって止まってる暇なんてないってーの!!」


獣の如く、黒曜爪を振り回しながら戦場を駆け巡り、空間ごとサハギンを切り裂いていく。

ミミアンを狙おうとサハギンたちも移動するが、何故かサハギンたちの体が次々と切り刻まれていく。


中にはそのまま胴体が真っ二つに裂かれた個体もいた。

よく見ると目の前の空間に小さな揺らぎが見え、それにそっと触れた指が切り落とされた。


そして彼らは気づく。


自分らを取り囲むように、この空間の揺らぎが存在していることに。

そして自らの周囲にも幾つか空間の揺らぎがあることに気付き、迂闊に動けばその空間の揺らぎに切り刻まれてしまう。


だが周囲はその事にまだ気づいていないようで、突然体中が切り刻まれるという怪奇現象にパニックに陥り、暴れる様に動きまくる仲間たちに押され、そのカラクリに気付いたサハギンは大きく前のめりに点灯し、その空間の揺らぎは首元に触れ、そのまま首が切り落とされた。


「惜しかったね~。」


と言わんばかりに舌を出して挑発するミミアンの表情が絶命する寸前の、サハギンの瞳に映された。


「これで暫くは身動きできないっしょ。」

「ミミアン様!」


とそこにジェシカが焦った表情で呼びかけていた。


「どうし・・・がはっ!?」


その声に返事をしようとした時、突然全身を駆け巡る殺気に気が付くと同時に腹部に今までにないほどの強烈な衝撃が走り、そのまま遠くへ吹き飛ばされる。


「ミミアン!」


フィリオラは上空に飛び上がり、海の方へ吹き飛んでいくミミアンの体を何とか受け止める。

怪我の様子を確認するが、黒曜毛を貫通して腹部辺りが若干抉れたような打撃痕があった。


「ミミアン、大丈夫?!」

「え、えへへ・・・良い、一撃・・・じゃん・・・」

「冗談言ってる場合?!さすがにこの傷は笑えないわよ・・・!」

「だ、だよねぇ・・・。うちも、げほっ・・・かなりきっつい・・・。」


マゾヒストのミミアンであっても、この傷に余裕はないらしい。

必死に笑顔を作ろうとしているが、痛みの方が勝っているようだ。


「ごめん、お母様!ミミアンを連れて一端離れるわ!」

「フィーちゃん!!」


フィリオラはミミアンを抱えながらレイラへ状況を伝えようとするが、レイラは血相を変えてフィリオラの名を叫ぶ。


直後、フィリオラ目掛けて飛んでくる三又槍の存在に気付き、それを弾こうと翼で払おうとするがその瞬間、全身を巡る悪寒にすぐさま回避行動に移る。


だが、防御体勢から回避行動に移る一瞬の間に隙が生まれ、フィリオラの竜尾に三又槍が突き刺さる。


「い”っ!?」


その三又槍はどうやら水で作られたようで、突き刺さった直後にそのまま水に戻る。

続けざまに第2波が飛んできて、竜尾に激痛が走りながらもそれを物ともせずに空中で宙返りを行って三又槍の投擲を回避した。


レイラは急いでフィリオラを狙う存在へ<神速>を持って距離を詰めるとそのまま抜刀して斬ろうとしたが、黒妖刀が奴の体に届く寸前、奴の三又槍に防がれる。


「防がれた・・・?!」


瞬時に三又槍を足場にするかのように蹴り飛ばし、奴から距離を置く。

地面を滑りながら奴との距離が離れ、再度黒妖刀を構えて奴と対峙する。


「・・・リザードマン?いや、あれは・・・」


そこにはサハギンの2倍の大きさを持ち、全身がより筋肉質でガタイが良く、全身が魚鱗に覆われており、長い尾を何度も地面を叩きながら、ドラゴンのような頭、だがその瞳は魚の瞳を宿していた。


その存在はレイラにとって初めてのはずではあったが、ソイツの存在はどこか見覚えがあった。


「・・・まさか!あの時、地下で見た聖母の魚卵の中に居た魔物?!でも確かにジェシカが全てを破壊したはずですのに・・・」

「おそらく、私の後に生み出されたのでしょう。いわば、―――――私の弟って所ですか。」


そこへジェシカが辛そうな顔を浮かべながらレイラの横にやってきた。


「【堕落した混血(タツノオトシゴ)】・・・。私がまだ小さいころ、奴らの元で育てられていた時に一度だけ聞いたことがあります。サハギンとドラゴンの血の割合が多い混血児。少しばかり母の血も入っているはずですけどその大半は私がもらいましたから、見た目の影響はほとんどありません。なぜヤツラは母に固執していたのかは分かりませんが、少なくともあれを生み出そうとして、そしてあれが成功例でしょうね。」

「【堕落した混血】・・・・。明らかにサハギンとは比べ物にならないですわ。ヤバい匂いしかしませんわよ・・・!」

「私の中に流れるレスウィードお父様の血を、殆どアイツに持っていかれたからでしょうね。色濃くドラゴンの影響が一番強く出ているせいです。本当は、私が受け継ぐべきものだったのに・・・。」


ジェシカは憎しみを浮かべた瞳を奴に向け、杖を構える。

レイラもそれに習い、黒妖刀を構え直して【堕落した混血】を見据える。


「わかっているかと思いますが、おそらくヤツは途轍もなく強いです。ミミアン様に気付かれずに傍まで近寄り、深手を負わせるほどの実力の持ち主です。絶対に油断はしないでください。」

「御忠告、痛み入りますわ。ジェシカも、無理だけはしないでくださいまし!」


【堕落した混血】は両手に三又槍を生成し、それを握ると

「オオオオォォォォォォオオオオ!!!」

と低く唸り声を上げた。


それは衝撃波を発生させ、その唸り声を聞いてしまったレイラとジェシカは身動きが出来なかった。


すぐさまヤツは両手に握っていた三又槍を投擲し、それは正確にレイラとジェシカを狙って飛んでいく。


なんとか体の硬直が解けた頃には、投擲された三又槍はすぐ目の前まで来ており、ジェシカを掴むと

「<神速>!!」

ジェシカを連れたまま発動し、その場から跳躍してギリギリ三又槍の投擲を回避した。


だが、奴はまるでレイラが<神速>で回避するとわかっているかのようにすでに別の行動に移っており、レイラは控えていた<王眼>を発動させ、奴の先を見る。


「・・・!!」


その先の未来で見た奴の行動は全て、レイラの移動の先を狙って三又槍を投擲しながら一気に近づき、避けた後の硬直を狙って、その拳を叩きつけるというものだった。


そしてそれに共通して、全ての未来でレイラとジェシカはその攻撃を受けるというものだった。


「回避、できない・・・!?」


何をどう回避しても、奴はそれを呼んで攻撃を当ててくる・・・。


どうすればいい?

どうすれば、奴の攻撃を回避できる・・・?


・・・いや、違いますわね。

回避できないなら・・・


「受け流せばいいのですわぁ!!」


と回避した先でジェシカを放り投げ、直後に奴の三又槍が飛んできた。


だがその三又槍を鞘で受け流し、直後に飛んでくる奴の拳は黒妖刀を構えて攻撃の軌道を逸らす。

それに合わせてヤツの体を斬ろうとしたが、その拳があまりにも重く、受け流すだけで精いっぱいだった。


「ぐうぅ・・・!!」

「させません!」

「・・・!?」


突き飛ばされたであろうジェシカはすでに体勢を整えていたようで、その杖は光り、すでに魔法を唱え終えていた。


「<水の鞭(ウォーターウィップ!)>!」


奴の周囲に6本の太い水の鞭が現れ、そのままヤツへ向けて振り下ろされる。

だがヤツは三又槍を生み出し、それをもって次々と水の鞭を防いでは切り落としていく。


全ての水の鞭を切り落とした時、レイラの姿はそこにいなかった。


周囲を見渡すと黒妖刀を振り下ろす彼女の姿がそこにあった。

それを三又槍を構えて防ごうとしたが、そのまま三又槍ごと体を斬られた。


「ォオオ・・・!!」


斬られた体から血が宙を舞い、レイラに降りかかる。

レイラは続けざまに黒妖刀を横に構え、そのまま腹部を斬りつけようとするが、レイラの足元が揺らぎ始め、攻撃を中断させて跳躍し、奴と距離を取る。


刹那、先ほどまでいたレイラの場所には無数の三又槍が突き出してきた。

そして跳躍しているレイラに向けて、2つに分断された三又槍は2つの短い三又槍となってそれを投擲する。


飛んできた2つの槍を斬り払おうとするが、先ほどフィリオラが翼で防御せず、回避行動に移ったことが思い出され、レイラは空中に居たため回避行動がとれず、やむなく受け流そうと黒妖刀を構えた。


1本目は何とか受け流すことはできたが、その衝撃はあまりにも重く、2本目を受け流そうと黒妖刀を構えようにも腕が痺れていたために間に合わず、うまく受け流せなかった三又槍はレイラの脇腹を抉るようにかすめていった。


「ぐうぅっ・・・!!」

「レイラ様!!」


その衝撃で体勢が崩れてしまい、地面へ衝突しようとしたがジェシカが水魔法によって水球を発生し、その中へレイラは吹き飛ばされ、衝突を回避する。


「げほっげほっ・・・」


水球から出てきたレイラは脇腹を抑えながらなんとか立ち上がる。

だが休む暇を与えるつもりはないのか、ヤツはすでに次の行動に移っており、その拳はレイラの顔面まで迫っていた。


「<白聖焔花(フィリオラブレス)>!!」


だがそこに奴の死角から伸びてくる白い光線が拳を振るおうとした奴の腕に直撃し、炎に包まれると同時に焼け落ちた。


片腕が無くなり、体勢を崩した【堕落した混血】はレイラの横を通り過ぎ、そのまま転がるように地面を抉っていく。


「さっきの・・・おかえしっ!!」


そこへ追撃と言わんばかりに、ミミアンが黒曜爪を振りかざして空間ごと奴を切り裂こうとするが、【堕落した混血】は転がりながら体勢を立て直し、そのままの勢いで跳躍して空中で宙返りを見せ、ミミアンの攻撃をギリギリ交わしながら、ミミアンへ強烈な蹴りを繰り出した。


だが今回はきちんと防御態勢を取って防ぐが、蹴られた勢いは強く、そのまま地面に叩きつけられた。

【堕落した混血】はそのまま空中で回転しながら華麗に地面へ着地する。


「ミミアン、大丈夫ですの・・・?!げほっげほっ・・・」

「うちは大丈夫・・・、でもあんたの方がやばいっての・・・!」

「2人とも、ご無事ですか!<癒しの水>!」


ジェシカが急いで駆け寄ってくると、2人の傷口に回復効果のある水球が包み込み、じわじわと傷口を回復させていく。


その間、フィリオラが変わって奴の相手をしているが、ほぼ互角のように感じられた。

だが先ほど負った傷もあり、ほんの少しではあるがフィリオラが押されているようにも見える。


「明確な弱点が見つからないですわ・・・。このままじゃジリ貧ですわよ・・・。」

「まるでうちらの動きが見えているみたいでほんっとうにキモイ・・・!!」

「王眼・・・ほどじゃないですわね。魚は海の中に流れる海流を読んで移動していると聞いたことがありますの。おそらく、その要領でわたくしたちの体の動きを読んで次の行動を予測しているのですわ・・・。」

「でたらめじゃんそんなの・・・。でもどうすれば・・・あ、リオラっち!」


とそこにフィリオラが吹き飛ばされてきた。

どうやら奴の攻撃を防いだためにそのまま吹き飛ばされたようで、奴の攻撃を防いだであろうフィリオラの腕が折れていた。


「フィーちゃん!」

「しくったわ・・・ぐっ・・・」

「ああ、そんな・・・<癒しの水>!」


折れた腕を緑色の水球が包み込み、傷を癒していく。


「まずい、奴がこっちにくる・・・!」

「・・・わたくしが時間を稼ぎますわ、そのうちにお逃げなさい!」

「な、なに言ってるの、レイラ!そんなこと絶対に許さないから!」

「そうしなければ、わたくしたちは全滅ですわよ!」

「だからといって親友1人を犠牲にして生き延びるくらいなら、うちはみんなと一緒に立ち向かって死ぬことを選ぶから!!」

「ミミアン・・・」

「そうです、誰かを独り犠牲にするやり方は好きではありません!友達は見捨てないと聞いたことがあります。ならば、やることは一つです!」

「ジェシカも・・・」

「そういうこと、よ・・・お母様。」

「フィーちゃんまで・・・。」


皆は覚悟を決め、【堕落した混血】へと向き直る。

奴は急に態度が変わった彼女たちの様子に首を傾げ、両手に三又槍を作り出すとそれを持って一気に駆け出した。


重々しい足音がどんどん近づいてくる。


その2槍による双撃が繰り出されようとした瞬間、

「ワオオオオォォォォオオオオオン!!!」

どこからか狼の遠吠えが聞こえた。


「よくぞ言った、我が娘よ!!」


直後、レイラたちを飛び越える様にジャステス公爵が跳躍し、そのまま【堕落した混血】の顔面を殴り飛ばした―――――。



~ 今回現れたモンスター ~


魔物:堕落した混血(タツノオトシゴ)

脅威度:ランク不明

生態:全長は約2.5mほどの巨体を持つドラゴンとサハギン、それとわずかに仙狐の獣人、3つの混血の魔物。

ドラゴンの持つ高い身体能力、サハギンの持つ水の流れを読む瞳、そして仙狐の持つ高い魔力操作が合わさっており、また【ドラゴンマナ】をその身に宿していることもあって、それを仙狐の高い魔力操作によって自由自在に操ることができるために非常に厄介である。

体全体はドラゴン、手足は水かきが生えており、体全体は魚鱗に包まれている。

背ヒレ、尾ヒレを生やし、角の代わりにサンゴ礁のような物が生えている。

またその口と瞳はサハギンのままで、厚い唇の中は牙が2重に生えている。

見た目も悍ましいが、その鳴き声も醜く、聞いた相手を一瞬怯ませるほどだそうだ。


・・・それ以上の情報はなく、生存している個体も情報を提供してくれた冒険者が倒した個体以外は見たことはないため、この情報事態に信憑性があるか疑わしい。

そもそもドラゴンとサハギンの混血というだけでも怪しいのに、そこに更に仙狐の血も混ざっているなんてありえるのだろうか?

確かに奴らの繁殖方法は悍ましい物があるが、仙狐の獣人とドラゴンの間に子が生まれること自体聞いたことがない。

だが、彼女が持ってきた【堕落した混血】という亡骸は確かに今まで見たことがない新種の魔物ではあったし、その話もそうでなければ説明が付かない部分もある。

・・・だが、それならば他の個体も生存してくれていれば、我々としても調査ができただろう・・・。

こんなにも貴重な魔物はこの個体が最後だということが、とても残念でならない。

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